その4 ダイオキシンと鉄サビ

〜有害含有物質の問題〜



 ゴミ処理施設をめぐる有害ダイオキシンの問題は、今やニュースの「定番」です。市民運動の盛り上がりで、操業停止に追い込まれた地方自治体のゴミ処理施設もあるくらいですから、これに対する我々の抵抗感は、並々ならぬものがあることがわかります。
 では、なぜこんなにもダイオキシンは忌み嫌われるのでしょうか? その理由はいとも簡単。人間の健康を脅かす可能性を持つからです。大気中であれ食品の残存であれ、その状況は関係ありません。
 人間は、自らの意志を言葉を通じて伝え、また訴えることができます。でも、ザリガニの場合はどうか・・・? これまた簡単。不可能ですね! 苦しんだり嫌がったりといった行動はとります。でも、ザリの動き一つで、彼らの心中を察することができるためには、相応の「経験」が必要となりましょう。それをキーパーが見抜けなかった時、キーパーには、最悪の結果が訪れるのです。
 この章では、そんな「最悪の結果」を避けるために、事前の回避が可能な「有害物質」について考えてみましょう。

 まず、キーパー間で一般的に広く知られている有害物質として
「鉄サビ(酸化第二鉄)」成分があります。文献などでも、いくつか事例が出ていますが、水槽飼育でも徐々にコンディションを崩し、死んでしまうケースが多いようです。その他、井戸水には、様々な鉱物が溶け込んでおり、現地オーストラリアでも、鉄の他に、スズや硫黄など、多くの微量含有物に対して、対策がなされています。また、水槽などに時折使われる鉛などの金属類にも有害性があるとされますので、飼育水の重金属については、事前に除去しておいた方がよいでしょう。
 水の事前調整・・・という点では、何といっても「塩素中和」が有名ですが、この塩素について、ザリガニは少なくとも熱帯魚よりは幾分かの耐性があるようです(だからといって「絶対大丈夫」というわけでは、もちろんありませんし、実際は有毒です!)ので、むしろ、重金属類の除去に気を配った方がよいともいえます。特にマロンなど、多少水にうるさい種を飼育する場合などは、テトラ社の「アクアセイフ」などといった、重金属中和系の水質調整剤は必須であるといえましょう。季節によって塩素含有量が大きく上下する「河川取水系」水道水を使う場合には、塩素中和剤を併せて使うようにすれば、完璧です。
 次に、人工的な有害物質についてですが、何といっても問題なのが「消毒剤」「洗浄剤」系統でしょう。殺虫剤系統が有毒(猛毒)であることは、ザリガニに限らず、水棲生物全般を飼育する上での「鉄則」ですから、触れる必要すらないくらいですが、
ザリガニの場合、消毒・洗浄液でも簡単に死んでしまう場合が多いようです。
 オーストラリアで実際にあった話なのですが、ある養殖池の個体が一晩で全滅し、様々な原因究明をやったものの実らず、さんざん調査した結果わかったことが「隣の牧場で飼育していた羊の毛刈りをしていた作業員が、池の出水口の水で手を洗った・・・」ということだったそうです。で、調べてみたら、羊の毛刈り後には誰もが使う消毒洗剤が、実はザリガニにとって異常なくらい有害であった・・・とのこと。「羊の国オーストラリアならではの逸話」ということで片付けるには、あまりにも危険な話です。殺虫剤散布時に気をつける意外にも、部屋掃除洗剤やガラスの洗浄スプレーなどの際には、充分以上に気を配っておきましょう。

 最後に、これは「意外」に思われるかも知れませんが、実は「塩(塩化ナトリウム)」について文献を見ますと、そのほとんどが「有害物質」的な扱いをしています。我々が飼育をする際、個体のコンディションを上げるための手段として「海水混和」を行うことは、よくある話で、マロンやヤビー、レッドクロウなどでも、養殖場の一部では、こうした「海水(塩水)浴」をさせることはあるようです。しかし、それも恒常的な混和ではないようで、養殖文献を見ても、基本的には「含有率の少ない方が望ましい」とされます。ですから、我々レベルでの「海水混和」についても、「塩」というよりは「海水に含まれている何らかの物質」による効果と考えるべきですし、純粋な塩の投入が効果的であるかどうかについては、疑問が残ります。ちなみに、ヤビーのケースですと、混和率は4ppm以下が望ましいとされており、稚ザリについては、さらにそれ以下であるようにと述べられています。マロンやレッドクロウについては、若干強い耐性もあるようですが、それでも「少ない方がよい」とされていることは間違いなく、そういう意味でも、
むやみな塩分の供給は考えものだといえましょう。