その2 淡水エビは弱酸性飼育なのに・・・
〜pHの問題〜
まず、どの種のマニュアルでも出てくる「pH」ですが、この場合、種によっても多少異なるだろうと思われます。ただ、基本的には中性〜弱アルカリ性に設定しておくべきで、ヤビーの場合、現地養殖場文献でも「6.8を下回らないように」という記述が見られます。マロンでも、通常基準値は7.0〜8.5とされており、やはりこのラインが、一つの目安となりましょう。
ところが、ここで一つの問題点が出てきます。これは、このホームページ開設以降、御来室の方々より、幾度となくお尋ねのメールをいただいた内容なのですが、「観賞用淡水エビ(ヤマトヌマエビ・ビーシュリンプ・クリスタルレッドなど)を飼育する場合、弱酸性水使用が一般的なのに、どうして同じグループの生き物であるはずのザリガニでは、逆の水質を指示するのか?」という問題・・・。これについては、以前、一部のショップに、かなり強硬な「ザリガニ弱酸性水飼育説」もあったため、余計混乱してしまった・・・という部分もあり、「アクアライフ」誌に記事を書かせていただいた段階で、最も多くの御批判を頂戴した部分でもあります。
淡水エビについては、お恥ずかしながら私自身、全く知識を持ち合わせておりませんので、こうした種のキーパーさんがそうおっしゃるのであれば、やはり「弱酸性水での飼育」が望ましいのでしょうし、それ自体を批判するつもりはございません。棲息域の水質が、きっとそうなのかも知れませんし・・・。
少し前のことになりますが、こうした種の飼育に詳しい方から、なぜ弱酸性水なのかという点についてお話を伺ったことがありました。すると、「弱アルカリだと、どうしてもアンモニアが発生してしまい、個体に強烈なダメージを与えてしまうから」だ・・・とのこと。なるほど、弱酸性であれば、猛毒のアンモニアも、比較的無害なアンモニウムイオンの状態で維持できますから、淡水エビがアンモニアに対して弱いのであれば、これは極めて当然な見解だ・・・ということになりましょう。基本的な体のつくりは、ザリもエビも変わりませんから、もしかすると、ザリガニにも当てはまる問題かも知れません。
ところが、前述の通り、実際の養殖文献を見ると、出てくる警告は、圧倒的に「低pH」に関するものばかり・・・。ある文献では「6.8を下回る水でも、ヤビーは生きて行くことができる。しかし、その場合、新陳代謝及び呼吸速度の低下が発生し、結果として成長速度に影響を及ぼす」としています。さらに、「そうした水であった場合、1000平方メートルの池ごとに、石灰 40kg を投入する」という指示まで出されています。このような情報を見れば、やはり「ザリは、中性〜弱アルカリで飼育すべき」だということになりましょう。アンモニアの問題については、確かに毒性が強いこともあって、ザリにとっても障害はあると思いますし、それによると思われる事例は、いくらでも聞いています。しかし、少なくともザリの場合ですと「だから弱酸性でないと・・・」にはならないといえましょう。
事実、佐倉でも様々な実験を行いましたが、pH6を切る環境でも、ザリは死ぬことなく生きていました。しかし、今から思えば、脱皮後の甲殻硬化にかなり時間がかかりましたし、1+でありながら、繁殖に全然使えないなど、成長スピードの面でも問題はありました。
どういう障害を主眼に水質を設定するかは、キーパー個々で見解が分かれて当然だろうと思います。ですから、極端にアンモニアや亜硝酸などを嫌うキーパーであれば、中性〜弱アルカリ性に設定すべき・・・という見解には、とても賛成できないことでありましょう。しかし、少なくとも私の調べた範囲内ですと、ザリの亜硝酸障害に対する耐性は、一般的熱帯魚のそれよりも強く、また、低pHへの警告が少なくない、さらには、関東ローム層の影響により、かなり高pHである佐倉の水で飼育してみた範囲で、特に障害がなかった・・・という3つの根拠によって、中性〜弱アルカリ性に設定すべき・・・という結論に至った次第です。
最も基本となるpH一つですら、キーパー総意としての結論が出せないくらいですから、如何にザリの飼育レベルが他ジャンルのそれと比較して遅れているかということを、身にしみて痛感させられるものですね。今後も、地道な研究と検証は必要不可欠であるようです。