闘魂継承
山本 功児監督(千葉ロッテマリーンズ)



いただいた日:平成15年10月12日
いただいた場所:千葉マリンスタジアム

 平成15年度パ・リーグ公式戦最終試合。内野自由席無料開放ということもあったのか、マリンスタジアムは多くの観客で賑わっていました。パパとケロは前週の西武戦に引き続いて2週連続の「マリン詣で」。少しずつ野球観戦の面白さらしきものを知り始めて来たケロは、ここのところ、黒ユニに身を固めてすっかりマリーンズ・ファンになっているようです。
「お前は試合が変わるたびに応援するチームが変わる。一貫性がないんだよ!」
「今はもうマリーンズファンだよ!」
「昨日、一番好きな選手は片岡だって言ってたろ? タイガースじゃねぇか!」
「それはサイン貰ったからだよ! 今はマリーンズファンだってば!」
ケロの「変わり身」をさんざん責めたてながら、パパも自分の少年時代を思い浮かべていました。長嶋茂雄の地元で育ち、巨人以外に球団はないとまで思った小学校低学年時代。谷津遊園で大宮選手と菅野選手のサインを貰い、いっぺんでファイターズが好きになった高学年時代。後楽園球場にファイターズを応援しに行ったつもりが、雷に打たれたかのように惚れ込んでしまった、運命の南海ホークスとの出会い・・・。昭和63年秋、川崎球場で涙の別れを告げたホークスは、今や日本一を争うような強豪チームになり、パパは、昔の鷹の思い出を胸にあたためながら、ひっそりと地元チームを見守る・・・。ケロの「変わり身」など決して責められないパパの歴史が、そこにはありました。
 試合は、往年の南海を背負った名クローザー、金城投手のフォームを思い起こさせる渡辺俊介の熱投と、目の覚めるような連打爆発で、2週続けてのマリーンズ圧勝! 最終戦ということで、終了後にサインボールの投げ入れがあるとのこと・・・。パパもケロも、一気にヒートアップします。ネット際に進もうとするケロ、投げる距離を考えて、スタンド中列に陣取るパパ・・・。
「前の方へ行こうよ!」
「よく考えろよ! ネットを越えてボールが来るんだから、前に行っても意味ねぇだろ!」
「前の方がいっぱい来るよ!」
「うるせぇ! 勝手にしろ!」
それぞれの選手が思い思いの方向にサインボールを投げ入れます。観客の大歓声・・・。結局、パパは奪い合いすらできず、選手たちはベンチに戻って行きました。往々にして「大人の知恵」なんて、こんなものです。反面、前列から戻ってきたケロの手には、しっかりと赤いボールが・・・。
「監督だよ。監督のサインだよ。投げてくれたのキャッチしたんだ!」 してやったりの表情が溢れています。まさに「熱意の勝利」。チクショー! パパは完敗でありました。

 翌日のスポーツ紙を読むと、この日、ロッテベンチの中では、色々なことがあったようでした。山本監督が、セレモニーで最後の挨拶をしなかったこと、そして、選手からの胴上げを断ったこと・・・。外野スタンドの「山本コール」に応えて出てきた監督が、観客の声援に合掌で応えた意味が、こうした記事を読んで、やっとわかった気がしました。
様々な思惑が交錯する野球界の中で、山本監督の中にも複雑な想いがあったことでしょう。でも、グラウンド上では、最後の最後まで、一生懸命ファンの声援に応えてくれたその姿は、現役時代と全く変わらない「気づかいの人」そのままなのでありました。「完全燃焼」とは言いがたい監督生活だったかも知れません。しかし、その「熱い想い」は、少なくとも、満面の笑みと気合いでネット際に駆け寄った1人の小学生には、確実に受け継がれたはずです。
 ケロは、連接バスで幕張本郷駅に着き、京成電車に乗ろうとしてもボールを手放そうとしませんでした。パパに怒られて、渋々カバンにしまいましたが、帰宅すると、すぐに出して自慢していました。「山本ロッテ」の歴史は、今も我が家のサイドボードの中に輝き続けています。



この日、いただいたサイン
山本功児監督


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