心を込める・・・ということ
田口 昌徳捕手(日本ハムファイターズ)
いただいた日:平成13年11月18日
いただいた場所:鎌ヶ谷・ファイターズタウン
ちょっと悲しいことですが、パパには「偏頭痛」という持病があります。この病気、なかなか他人様には理解していただきにくいものですが、痛み出したら最後、本人がどう思おうと、どう勇気づけようとも痛いもので、寝ていても起きていても痛いのでございます。だから、横になっていても痛い時には痛いし、起きていても痛くない時には痛くない・・・。「わかってくれ」っていう方が、難しいんですけどね・・・(苦笑)。
今年のファイターズ・ファン・フェスタは、そんな偏頭痛が猛威を振るっている真っ最中の時期と重なってしまいました。その日も、真白い天井を眺めながら明け方までさんざん痛みに苦しみ、一眠りを越えてみると、少しだけ、頭がスッキリしています。「これなら、気晴らしに行けるかも知れない」・・・パパは、おそるおそる周りを見回し、扉を開けて外へ出ました。
電車を乗り継ぎ、市川大野の駅に着いたころ、時計は11時を回っていました。人波はピークをとうに過ぎていたようで、無料送迎バスの車内も閑散としています。「ま、いいや。今日は連れもいないから、痛くなったら帰ればいいし・・・。」 気楽な気分からでしょうか? 頭痛も出てきません。バスは、3人のファンと静かな空気を乗せて、ファイターズ・タウンへと快調に走りました。
久しぶりのファイターズ・タウンでしたが、予想通り、ファンでごった返しておりました。いくら今年度ダントツ最下位だったとはいえ、お目当ての選手と間近で触れ合える、数少ないチャンスなのです。セ・リーグの人気球団と違い、本当に間近・・・でです。「人気がない証拠」という声がヒガミにしか聞こえないくらい、楽しい一日なのです。
ステージでは、恒例のトークショーの真っ最中でありました。このフェスタに一度でも来たことのある人間であれば、10人中8人は真っ先に名前を挙げるだろう人気企画です。それもこれも、ひとえにガンちゃんの軽妙なトークとウィットに富んだ「名司会」によるものでしょう。一緒に笑い、拍手しているだけで「ああ、来てよかったなぁ・・・」と思わせてくれるから不思議です。「ファンに見せ、そして魅せる」という意味で、ガンちゃんこそ、本当の「プロ」なのかも知れませんし、その魅力を惜しげもなく使いきれる球団も「プロ」なのだと思いました。
「そういえば、去年はここで、片岡選手に感動してたよなぁ・・・」 あれこれと開催されているイベントを覗いた後、パパは、ふとそんなことを思い出しながら、球場脇の坂道を上って行きました。坂上にある寮と、坂下の会場とを行き来するため、開催時間中、多くの選手がここに姿を現します。そして、これまた昨年と同じく、何人もの選手がファンに捕まり、サインや写真撮影に応じています。こんなところで自然発生的に「サイン会」が始まってしまうのも、このフェスタの大きな特徴なのですが、パパだけでなく、多くのファンにとって、それは大きな「楽しみ」なのでありました。
次のイベントに出るため、警備員に遮られたり、さり気なくファンを交わして走り去る1軍選手もいなくはありませんでしたが、自分の出番が終われば、たいていの選手は、にこやかに応じてくれました。パパも、その流れに漏れず、次々とサインをゲットして行きます。頭痛も、影を潜めていました。
何人か目のサインを終えた時、パパは、ふと気づきました。「あれ? 田口さん、まだいるぞ? 確か、お昼前も、ここでサインしていたウィンドブレーカー姿の田口さんの写真を、俺は撮っていたハズだ・・・」
たいていの選手は、自分の役割が終わると、寮に姿を消しました。中には、終了時間前に帰ってしまうベテラン選手もいました。田口選手は、最後の出番がチャリティーオークション。これが終われば、もう帰ってもいいはずなのです。サインの列を若手選手に譲り、次々と引き上げて行くベテラン選手の中で、田口選手は、にこやかにサインを続けていました。そして、パパは、あることに気づいたのです。
「OK! 来年も応援してよ! まだまだこれから!」
「まだまだ頑張るからね! 応援頼むな!」
「田口が正捕手だからさ! まだまだ頑張るよ、俺は!」
「ファイターズ、頼むぜ! 田口も応援頼むよ!」
そう! 田口選手は、自分がサインするファン全員に、ひと言ひと言、一生懸命語りかけていたのです。
「そうだった。考えてみれば、去年もケロが、田口さんに頭なでてもらったっけ・・・。ケロ、にこにこしてたもんなぁ・・・」
パパは、他の選手のサイン行列に並ぶのをやめて、しばらく遠巻きにその様子を眺めておりました。単なる偶然かも知れない・・・と思ったからです。しかし、やっぱり田口選手は、1人1人に声を掛け、笑顔でサインを続けていました。イベント終了時刻から40分以上が過ぎ、心配して球団職員の方が声を掛けに来た時も「大丈夫ッス。これ終わらせたら、上がりますから・・・」と答え、他の選手のよう終わらせることなく、サインを続けていました。田口選手と向かい合うファンからは、時々大きな笑い声が起こります。にこにこしたやりとりが、何度も何度も、本当に何度も何度も繰り返されます。パパも、なんだかとても嬉しくなりました。
「ファンとの触れ合い」を大切にする日本ハムのファン・フェスタは、12球団の中でも、最もファンにとって嬉しい企画だと思いますし、「選手にサインしてもらえる」ということだけでも、充分嬉しいことです。でも、もしそんな選手から「応援してな! 頼むね!」なんて言ってもらえたら、ファンは一体、どんな気持ちになるでしょうか・・・。
ファイターズでは、今年、実松というキラキラした若手キャッチャーが脚光を浴びました。そして、今年度は不調だったものの、正捕手といえば、やっぱり野口の名前を挙げるファンが最も多いことでしょう。田口と言えば、野口に正捕手の座を追われ、実松に背後まで忍び寄られた二番手捕手というイメージが・・・。
でも、少なくとも今日、サインしてもらったファンにとって、ファイターズの正捕手は、やっぱり田口・・・。絶対田口・・・。ドームで声を枯らしながら応援したいキャッチャーは、野口でも実松でもなく、31番・田口昌徳・・・なのでありましょう。決して「人気球団」ではないかも知れませんが、誰もが応援したくなるような優しく嬉しい、そして、ファンのハートをしっかりつかめる「本物のプロ捕手」こそ、ファイターズの本塁を守るのに相応しいのかも知れません。そりゃあそうです! だって、田口選手がファンにしているのは、サインだけじゃないですもの。笑顔と、喜びと、満足感と・・・。とにかく、そんな「心」がいっぱいこもったインクが、次々とファンの差し出す色紙に、帽子に、カードに染み込まれて行くのですもの・・・。
「心を込める」とは、どんなことなのか・・・? 簡単なようで、実はとても難しいことを、フェスティバル会場に夕日が差し込むころ、背番号31が、本当にさり気なくパパの前に見せてくれていました。パパは、心のこもったサインを持って最終バスに飛び乗り、帰途につきました。ふと気がついたら、今日までの頭痛を半分以上、鎌ヶ谷の空の下に忘れてきていました。全快も、もうすぐです。
この日、いただいたサイン
阿久根内野手・木元内野手・生駒投手・高橋憲投手・井場投手
金村投手・厚沢投手・清水投手・立石投手・田口捕手・藤島外野手
石本外野手・田中聡内野手・佐々木投手・山地内野手・駒井捕手・神島投手
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