明日へ噴け! 三本目のバズーカよ!
コーリー・ポール外野手(西武ライオンズ)



いただいた日:平成13年6月17日
いただいた場所:西武第二球場

 さて、辻コーチのコーナーでも触れました通り、ひょんなことから、思いも掛けず所沢へとやって来たパパなのでございますが、「西武対ヤクルト」という、一軍ではほとんど見られない対戦カードを、こうやってノンビリと楽しむのも、実にいいものです。一度でも西武第二球場へ足を運ばれた方ならおわかりの通り、周りの景色もよく、涼やかな森風が吹き抜ける中で繰り広げられる、明日のスターたちの溌剌としたプレーは、いつも観戦する一軍の試合とは違う楽しさがあるといえましょう。故障や不振で調整中の一軍選手たちも、ここなら間近に見ることができます。
「Dスケ、たまにはイースタンもいいもんだぁ・・・」
「そうッスね。それにしても、この調子なら、大成もそろそろ上でしょう!」
「ホントだな!」
そんな二人の視線の先には、一軍復帰を目指して調整に余念のない高木大成選手がおりました。確かに、スイングはシャープで、動きもよく、他の若手選手とは明らかに違う「凄さ」があります。Dスケくんのいう通り、故障が癒え、ゲーム勘さえ戻れば、すぐにでも向こうの屋根の下でプレーすることになるのでしょう。
「復帰間近の最終調整・・・か」
パパは、そんなことを考えながら、ふと視線を一塁ブルペン横へと移しました。そこには、一人黙々とストレッチや短ダッシュを繰り返す、ポール選手の姿がありました。「凄さ」は、高木選手と何ら変わりません。いや、むしろ、繰り出される打球のシャープさは、この球場にいるどの選手にもかなわないものがありました。一生懸命さだって全然変わりません。唯一、違うのは、彼が「ガイジン」であるということ・・・。今日はDHでの出場ということで、守備の時間になると、ああしてストレッチや短ダッシュを繰り返しているのです。
 試合中はいつも笑顔で、時折、若い選手と一緒になって意味不明な英語のヤジを飛ばしては、大ウケしたりしています。白い歯をキラッと光らせて、周りの選手たちとふざけたりもしています。どれもこれもが、れっきとした「西武ライオンズの一員」であることを証明しています。そして、彼のレベルが一軍級であることは、イースタンでの打率や本塁打数が何より物語っていると言えましょう。でも・・・。
 彼は、この球場で、ただ一人だけ、他の選手にない「もう一人の敵」と戦い続けなければなりません。それは、外国人選手枠・・・。自分の力ではどうしようもない、それこそ、走り込んでも素振りをしても、ストレッチを繰り返して自らの体をいじめ抜いても、どうしようもない「敵」なのです。
「それが、お前の役割なんだ。リザーブ役だって、男の立派な仕事だよ・・・」
 こう言うのは、とても簡単なことです。そして、その言葉こそが、この世界での「正解」なのかも知れません。しかし、もしも自分が、自分の生きる世界でそんな役割を担わされたとしたら、果たして彼のように、黙々とストレッチを続け、そして、笑顔でチームメイトと接し、見えない明日に向かって、全力でプレーし続けることができるでしょうか? パパは、自分自身に問いかけ、そして、決してYesとは言いきれない自分がいることを、よくわかっていました。
 試合途中、ふと思い立って、試合を見ながら球場の周りをのんびり散歩していた時、調整のために落ちてきていた、ある主力選手が、ベンチ裏でタバコをくゆらせながら、スタッフと談笑している姿を目にしました。技術も実績も、申し分ない一流選手です。ちょっと目の色を変えれば、たちまちドームのお立ち台に立てるような選手なのです。でも、残念ながらその姿には、気迫も緊張感も感じられませんでした。そして、彼がくゆらせるタバコの煙の向こうに広がるグラウンドの隅で、一心不乱にトレーニングを続けるポール選手の姿が見えた時、パパは、何ともいえず、いたたまれない気持ちになりました。日本人であることが、ちょっと恥ずかしくなりました。
 彼は、「日本人でない」という、ただそれだけのことなのです。気合いも、情熱も、何ら変わらないのです。同じ感情を持ち、同じ血が流れているのです。なのに報われない熱意、そして努力・・・。「それが彼の仕事だ・・・」という言葉、パパは絶対に使いたくありませんでした。人間の心なんて、そんな簡単な言葉で割り切れてしまうような、単純なものではないはずなのです。
 試合は延長戦に入り、ライオンズは、若手選手のサヨナラホームランで勝ちを収めました。ベンチから飛び出して来て、大騒ぎをしながら選手を迎える二軍選手の輪の中で、彼はやっぱり、大きな目と白い歯をいっぱいに輝かせて、はしゃいでいました。そして試合後、彼は球場の入口で、満面の笑顔をたたえながら、少年(と、オジサン野球少年2人)が差し出すボールやカードに、1つ1つ丁寧に、そして大きなサインをし、最後の最後まで、それらしい「暗い影」を見せることなく、笑顔でクラブハウスへと消えて行きました。

「ポールは、やっぱ上がれないかなぁ・・・」
帰りの西武電車の中で、パパは、ふとDスケくんに問いかけました。
「無理でしょうねぇ。何てったって上にいるのは、ツインバズーカ・・・ッスからねぇ」
「そうだよなぁ。どう考えても無理だよなぁ・・・」
パパたちが乗っている電車内で揺れる吊り広告のあちこちに、「ツインバズーカ」という文字が躍り、カブレラ、マクレーン両選手の雄姿が舞っていました。両選手をあしらったキャラクター商品も、デカデカと宣伝されていました。パパは、別にこれらの選手が嫌いなのではありません。カブレラ選手に至っては、今や「パ・リーグの主砲」ですし、遠い日本の地で、精一杯活躍しているのですから、西武を応援するかどうかということとは別に、いいプレー、いい試合を見せて欲しいと思っています。でも、パパには、さっきのストレッチやダッシュを繰り返すポール選手の姿が、どうにも目に焼き付いて離れませんでした。満面の笑顔が、いつまでもパパの頭の中で輝いておりました。
「あの笑顔が、本当に輝く日が来て欲しいなぁ・・・」
 電車は、3本目のバズーカに想いを馳せる、一人のオジサン野球少年を乗せて、池袋への道をひた走っていました。




この日、いただいたサイン(パパ・ライオンズ分)
ポール外野手・鈴木監督・西岡コーチ・竹下投手・トモキ投手
猪爪投手・福井投手・大塚外野手



もどる