学芸員のひとり言(その10)
Check it! 承認シール(その1)


 その帽子が、球団の承認をキチンと受けた上で販売されていることを示すものとして「承認タグ」と「承認シール」があることは前項までにも触れてきましたが、同じ”承認を示すもの”でありながら、なぜ2種類も存在したのか? そして、なぜタグの方は徐々に消えて行ってしまったのか? こうした理由やこれらの違いについては、どうもイマイチ突き詰めきれない状況が続いていました。ただ、いろいろと取材を進めて行く中で、こうした理由が少しずつ浮かび上がってきました。そこで今回は、まず「承認シールとは何ぞや」という部分を含め、こうした理由や流れについて考えを深めて行くことにしましょう。

 買ってきた帽子を見てみると、ツバやツバ裏などに、左の写真のような1円玉を少し小さくしたくらいのシールが貼られていることがあります。それを「承認シール」と呼びます。これは、前項でも説明しました通り、承認タグ同様、その帽子が球団の承認を受けて販売されている、つまり、帽子メーカーから球団に対してきちんと許可を受け、ロイヤリティーが支払われていることを証明するものです。
 球団やメーカーによってもまちまちですが、こうしたシールが帽子に貼られるようになったのは、実際に集めた帽子で見る限り、1970年代半ばになってからで、少なくとも80年代までのものに関しては、タグだけであったりシールだけであったり、あるいは両方付けられていたり・・・と様々でありました。また、デザインに関しても、(その細かいバリエーションに関しては後述しますが)同じ球団でも実に様々であり、シンプルなものから凝ったものまで多彩なものがありました。

 さて、同じ”球団の許可を得たもの”であることを示す承認タグと承認シールですが、一時期であるにせよ、なぜこの2つが並立していたのでしょうか? このことは、ファンの間でも様々な意見があり、一定していませんでした。でも、当時の帽子メーカーの方や流通関係の方などにいろいろお尋ねし、そうした取材をしてくる中で、その理由が徐々に見えてきたのです。
 その”証拠”とでもいえるのが、左の阪急のシールです。よくご覧下さい。ハッキリと”証紙”と書かれているのが見えますでしょうか? そう!承認シールとは、その帽子が球団の許可を得ていることを、
球団側が証明したものなのです。つまり、シールに関しては、球団側が発行し、帽子メーカーがそれを受け取って貼り付けていたものだったんですね。

 一方、それに対して承認タグの方は、この帽子が正式に球団の許可を得て作られたものであることを
帽子メーカー側が自ら宣言したものであるといえます。承認シールが球団側の制作であるのに対し、承認タグの方は各帽子メーカーが自ら作ったものだったんですね。確かに、承認タグの方には圧倒的な確率でそれを製造した帽子メーカーの表記が入っていますし、帽子メーカーごとにタグのデザインが異なる場合があることにも納得行く説明ができます。そして、このように考えれば、80年代の一時期、左の写真のように同じ帽子にタグとシールが一緒に貼られていた・・・という状況も充分に説明がつきますよね。

      

 上の写真をご覧下さい。左から順に大洋、ヤクルト、中日の承認シールです。大洋のシールに関しては、このデザインでもわかる通り緑+オレンジ帽子に貼られていたものですから、少なくともこうしたシールが1970年代にはすでに登場していた(1970年代には球団の中にも商標権をキチンと管理する風潮が出始めていた)ことを意味します。また、ヤクルトのシールも70年代のものですが、シール自体も早い段階から銀紙で作られたものがあったことを意味しています。さらに、右端の中日のものは「60周年」のロゴが入っていますが、球団側も、ある程度まではこうしたシールのデザインにも気を配っていたことが読み取れますね。

   

 続いて上の2枚はロッテと巨人のものですが、よく見てみると”証紙”の前にAだのCだのと記号が付されています。特にロッテの方は80年代初頭のものですが、球団によっては、かなり早い段階からこのように商標管理を厳格に行ない、その商品または価格帯などによって、貼らせる証紙の種類を変えていたことが理解できますね。

      

 承認シールというと”円形”が相場・・・と思いがちですが、意外や意外、そうでない形のものも少なからず存在しています。1つ前に挙げた巨人のシールも四角(斜め使い)ですが、ここでは円形でないシールを幾つか選んでみました。左側から千葉ロッテ、ロッテ、横浜のシールです。円形以外で最も多いのは、マリーンズのシールのような長方形のもので、次いでオリオンズのような正方形のシールが存在しています。また、横浜のシールは同じ長方形でも縦長の構図で、こうしたデザインも珍しいですね。球団側が作成するという点では変わらないものの、こうしたデザインや形状の部分に関してまでは、球団間での取り決めや付け合わせなどはないのでしょう。
 

 最後に、90年代のオリックスのシールを取り上げてみました。
 形状的に見て長方形という点では珍しくないものの、ある意味”こんなテキトーなものでホントにイイの?”と思ってしまうくらいシンプルなデザインです。証紙自体は帽子以外にも様々なグッズに貼られているものですが、少なくても帽子に関しては、90年代以降、街の帽子屋さんでプロ野球の帽子が徐々に取り扱われなくなるようになり、帽子の生産から販売までを一気に球団自身が行なわざるを得ない状況へと移って行きました。そうした過程の中において、帽子に対する、このような証紙の”必然性”も、もしかしたら徐々に薄れてきてしまったのかも知れません。



 このような形で、野球帽の販売量が減少し始めた90年代以降、承認シールも大きくその数を減らして行きます。ただ、事実上そのまま消えて行ってしまった承認タグと比べて、承認シールの方は21世紀に入って意外な復活を遂げることになりますが、この部分に関しては、また改めて取り上げることにしましょう。



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