学芸員のひとり言(その9)
ホンモノの証!”承認タグ”を考える(その2)


 その帽子が、ある意味”ホンモノかどうか?”を確認するものの1つである承認タグですが、タグ自体にも様々な特徴やバリエーションがありますし、それぞれの時代によっても、その扱いは大きく変わってきています。ここでは、そうした部分を含めて、もう少しこのタグについて細かく考えてみることにしましょう。

 まず、タグの取り付けについてについてですが、実際に縫い付けられるのは、前項でも触れました通り帽子の内側にある”スベリ”の部分で、大半が左後ろ部分あたりに縫い付けられます。たいていがスベリの大きさ(高さ)に合わせてタグのサイズも決まりますが、一部を除いて、上部と下部がカッチリと縫われるケースはほとんどなく、たいていがこのように下部だけを縫い付ける形をとっています。
 このため、言うなれば”かぶる段階になるとペラペラと邪魔な存在”にもなりかねないワケで、子どもによっては、さっさと破り捨ててしまうこともありました。新品ではない中古の帽子が見つかった時など、すでにこのタグが破り取られている・・・なんてことも少なくありません。


 一般的なタグの体裁は、基本的に球団旗または球団ロゴに準ずるデザインとし、1980年代までの帽子に関しては、そこに「○○球団承認」という言葉と、その帽子を製造しているメーカー名を入れる形となっています。
 上の項目でも触れました通り、タグの縫い付け方については実にいろいろであり、球団ごと、帽子メーカーごと・・・というような括り方はできません。最も多いのが、下部1辺だけ縫い付けてあるケースですが、上下縫い付けてあるケースも見られますし、このタグのように下部と両横が縫い付けられているケースもあります。また、同じメーカーで作った同じ球団の帽子でも、その部分についてはまちまちであるといってよいでしょう。


 また、タグの大きさや向きなどについても、実にまちまちで統一性を感じられません。
 たとえば、同じ時期に同じ会社(レオール社)で作られた中日のタグですが、こちらはタグ自体が1回り小さいサイズである上、ご覧の通り縫い付け位置が逆になっています。このように、上部を下向きにして縫い付けてある帽子は非常に多く、こうした部分からも、球団から帽子メーカーに対してタグに関する細かい指示は出ていなかったことが推察されます。


 基本的には球団旗またはロゴに準ずるデザインのものが多いタグですが、必ずしもすべてそのようなワケではありません。
 なかには、まれに左の巨人帽子のように、まんま「必要なことだけ」を書いただけのようなタグも存在しています。もちろん、これも球団ごと、あるいは時期やメーカーごとに統一されたものではなく、たとえば同じ時期に同じメーカーで作られた巨人の帽子であっても、ちゃんとロゴが入ったものが存在していますから、要するに「これをどうデザインし、どういう形で縫い付けるか・・・?」という部分について、球団側からの細かい指示やチェックなどはなかったと考えるべきでしょう。

 それでは、ここでタグの”変わりダネ”を2つほど取り上げてみましょう。まずは、これ! ロッテオリオンズのタグです。
 ご覧いただいて「!」と思われましたか? そう! このタグは縫い付けられているものではなく、スベリの部分に最初から印刷されたものです。1980年代も半ばを過ぎると、こうした野球帽にタグが入るのも当たり前(プロ野球の帽子を製造するには、球団の承認を取り付けるのが当たり前)になってくるようになりましたから、効率化の一環として、最初からこういう形でタグを印刷する・・・という形になったのではないかと思われます。そして、裏を返せば、この「印刷タグ」の存在というものが、「タグは、それ自体が球団から発行されたものではない」ということを如実に物語っていることになりましょう。


 もう1つ。こちらは日本ハムの帽子です。
 ご覧いただいておわかりの通り、この帽子は、当時の子ども向けファンクラブであった「少年ファイターズ会」で会員向けに配布した帽子ですが、タグが名札兼用になっていて、タグ自体に名前が書けるようになっているのがおもしろいですよね。こうした帽子は、基本的に帽子屋で販売されるために製造されることはありませんし、こうした目的のためにロットで一括発注されたものでしょうから、タグもこのような特殊なものが付けられている場合もあるのです。


 そんな様々な特徴を持つ承認タグですが、さすがに1990年代に入ると、そのデザインも多少オシャレなものになってきます。
 基本的な表示内容は変わらないにしても、左のマリーンズ帽子のタグのように、表記が全部英語になると、それなりにカッコよく見えてしまうのが不思議・・・ですよね(笑)。ただ、このタグというもの、90年代に入ると、デザイン以外にも大きな変化を見せるようになります。


 まず、そうした変化の1つが、タグの小型化(簡素化)。従来のタグに比べて、サイズが全体的に小さくなってきたのみならず、製造元のメーカー名を表記しないものが出始め、90年代後半以降になると、一気にそれが主流となってきました。
 それを象徴するのが、左のダイエーホークスのタグです。とりあえずタグはついているものの、その大きさはサイズを表記したタグとほとんど変わらず、また、どこのメーカーが作ったものかはわかりません。実は、90年代に入り、こうした帽子の製造から流通までの全範囲に渡って、球団自身が管理する傾向が見られるようになりました。つまり「球団はロイヤリティーだけを受け取り、あとは帽子メーカーや帽子店に丸投げする」という従来の流れが、この時点で終わりを迎えていた・・・ということを意味するのです。街中にある帽子屋さんの店先から、少しずつ日本のプロ野球帽が減り始める時期でもあります。


 さらに21世紀に入ると、承認タグ自体が縫い付けられない帽子が出回るようになりました。左の写真は日本ハムのファン用帽子ですが、とりあえずタグらしいものは付いているものの、このように素材、サイズなどの表記と一緒くたにされたものとなっています。
 このことは「球団が商標の管理をやめ、1970年代のタグなし帽に戻った」というワケではありません。むしろ「野球帽については、製造から販売に至るまで、すべて球団自身が行なうようになった」ということです。街中の帽子屋さんからは日本のプロ野球帽が姿を消し、球場に併設されたショップや球団のオフィシャルネットショップなどでしか販売されなくなったことを意味します。日本のプロ野球帽は、1990年代以降、その売られ方も大きく変わってしまったワケですね。


 以上のような理由で、現在では、タグが付いていない帽子もかなり増えてきており、むしろそちらの方が主流ではないかと言っても過言ではありません。この楽天イーグルスの帽子も、一応、承認タグのようなものが付いていますが、よく見てみるとシールであってタグではなく、しかも著作権のCマークこそ付いているものの、表記は球団ロゴのみで、承認の”し”の字も書かれていなければ、製造メーカーに関する表記もありません。
 球団が主体になって一括製造し、球団の自ら決めたルートで流通させ、自ら管理するお店で販売する・・・。こうした流れが一般的なものとなった今、”承認タグ”という存在は、もはや必要のない存在となってしまったのでしょう。


 最後に、左の写真をご覧下さい。初代の千葉ロッテマリーズの帽子に付いていた承認タグですが、ここにはタグ自体に承認シールが貼られています。
 この「タグの上に承認シールが貼られている」という現象は決して珍しいものではなく、1980年代の帽子でも普通に見られることですが、なんでわざわざ「承認する目印が2つも必要」なのでしょうか? そして、どうしてタグだけが消えて行ってしまったのでしょうか? これについては、承認シールのコーナーで、改めてじっくりと掘り下げてみることにしましょう。



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