学芸員のひとり言(その8)
ホンモノの証!”承認タグ”を考える(その1)


 価値の有無を持つものすべてに対し、常につきまとうもの1つが、「本物か? 偽物か?」という問題です。子どもたちの頭上を飾ってきた野球帽の場合は、いったいどうなのでしょうか? 今回は、その”証”の1つである「承認タグ」について触れてみましょう。

  


 市販されている帽子をヒョイと裏返し、中を見てみると、スベリ(帽子の腰の裏側で、着帽者の頭部に直接接する部分に帯状の生地)の部分に、サイズや材質などを表記したタグの他に、だいたい横幅5cmくらいの、球団名または球団ロゴが描かれたタグが縫いつけられていることがあります。こうしたものを、コレクター内では「承認タグ」といい、こうしたタグがついた帽子を「タグ付き帽」と呼んでいます。上の写真は、左から大洋の承認タグ・南海の承認タグで、右が大洋の承認シールです。タグではなくシールの場合でも、とにかくこうしたものが装着されている帽子は、一括して「タグ付き帽」という範疇に入ります(タグではなくシールが貼られていることもありますが、シールについては少々意味合いが異なりますので、別の項目で改めて取り上げさせていただくこととします)。
 これらのタグは、その帽子が作られ、販売されるにあたり、事前にその球団の承認を受けていることを意味しているもので、そういう意味でタグ付き帽は「球団のお墨付きを得て製造・販売している帽子」だということになりましょう。帽子をコレクションする場合でも、同じデザインであれば、一般的にはタグ付き帽の方が高い評価を得るのが普通です。タグなし帽も、昭和50年代半ばころまでは数多く存在していたのですが、その後急激に減り、街中の帽子屋さんなどで売られていた製品には、すべての球団の帽子に承認タグがつけられるようになりました。たぶん、これらの時期のいずれかに、球団側と帽子業界との間で、著作権・商標権などに関する何らかの取り決めがあったであろうことは想像に難くありません。
 そういう意味で、軽く見られやすいタグなし帽ですが、「タグなし帽=粗悪品か?」というと、一概にそうとも言い切れません。昭和40年代後半から昭和50年代前半ごろは、同じデザイン・同じ業者のものでもタグ付き帽とタグなし帽が混在していた時期なのですが、この時期の帽子には、デザインの再現度を含めた帽子の完成度で、タグ付き帽を上回っているタグなし帽は、実に数多く存在していたからです。反面、球団側も、実際にその商品をチェックすることなく、ただただ「商標権の支払いを確認した」くらいのつもりでタグの縫いつけを許可していたのではないか・・・?と思うくらい、ビックリするほど粗悪なタグ付き帽も存在するのです。そこまではないにせよ、当時の球団は、デザインや色などの細かい部分まではチェックしていなかった可能性が充分にあり、それが「粗悪なタグ付き帽」の生まれる背景にあったかも知れません。

  


 ひと口に「承認タグ」といわれるものですが、様々な帽子を見てみますと、タグもまた多種多彩です。同じデザインの帽子でも、製造する帽子メーカーが違うと、タグのデザインが全く異なってしまうことも少なくありません。上の写真3枚は、同じ「近鉄バファローズ」3色アーチ帽のものですが、メーカーによって、タグ自体のデザインが全然異なることがわかります(左から中央帽子製タグ・日輪帽子製タグ・田口帽子製タグの順)。「俺は、この帽子メーカーのタグがいい!」なんて言い出しますと、もう「オタク道」一直線(苦笑)なのですが、これは裏を返すと「球団は”承認”を与えるだけで、少なくともこの当時は、こうしたタグのデザインまでは口を出していなかった」ということが窺い知れますよね。

  


 また、上の左と中央の写真をご覧になって下さい。これは、同じ「オリックスブレーブス」の帽子なのですが、同じメーカー(クロスキャップ製)で、同じデザインの帽子であるにも関わらず、球団旗と同じデザインのものと、そうでないものとがあり、これまた全く違う感じがします。オリックスが”ブレーブス”を名乗っていたのは、1989年と1990年のたった2年間のみで、この間も帽子に関してはデザインの変更がまったく行なわれていませんから、こうした点からも、”球団承認”ということで商標その他は管理されながらも、タグ自体のデザインに関しては、さほど厳しくチェックされていなかったことがわかります。
 ただ、右側の写真についてですが、これは、同じ帽子メーカーの付けるタグでも、帽子自体のデザインが変わると、それに合わせてタグも変わる・・・という典型的な例です。ペットマーク(キャラクター)の変化、球団ロゴの変化、字体の変化・・・など、こうした部分に関しては、帽子メーカーも意外と細かく反応していたのかも知れませんね。

 いずれにせよ、大切なのは「いい帽子であること」です。コレクターからすれば「当時のデザインに忠実な帽子」こそが一番なのですから、承認タグの有無ばかりに気を取られる必要はないように思います。当時の帽子屋さんからすれば、タグ付き帽もタグなし帽も関係ないわけで、古い帽子屋さんなどに行きますと、同じ在庫ストックから、タグ付き帽とタグなし帽が一緒の袋で出てくることも、よくある話ですから・・・。



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