学芸員のひとり言(その7)
駄菓子屋バッジ野球クジ・大解剖!
帽子屋さんで、新しい帽子を買った時にしか手に入れることのできない「帽子屋バッジ」は、子どもたちにとって「欲しくても、そう簡単には手に入れられない高嶺の花」でしたが、反面、駄菓子屋で簡単に入手できた球団バッジは、子どもたちにとって、恰好の「コレクション」でありました。ここまで踏み込んでくると、果たして野球帽のサイトとして適切な調査対象に含まれるのかどうか、少々怪しくもなってしまう(苦笑)のですが、野球帽を飾るツールとしては必要不可欠の存在でもあった駄菓子屋バッジですから、ここは臆することなく斬り込んで行くことにしましょう。
この駄菓子屋バッジ。そのサイズ的には帽子屋バッジとほとんど変わらないものでしたが、子どもたちにとって、何といっても嬉しいのが「手頃な値段で集められるものだった」ということでしょう。時期やメーカー、そして「クジで引き当てるか単品売りのものを買うか?」によっても違いましょうが、どれもだいたい1個10円〜30円程度で手に入れることができたのです。これならば、「おつかいのお駄賃に1個ゲット」が可能なワケですね。
球団数は当時も今と同じ12球団! そう考えれば、単純に考えても同じものが12種類はあるワケですから、子供心をくすぐらないはずはありません。単品売りの場合は、間仕切りのついたケースにバッジが球団ごとに収められており、それを外から見ながら「おばちゃん、巨人と阪神のバッジを1個ずつちょうだい!」と声を掛けて売ってもらうのです。でも、この買い方の場合、好きな球団のものだけを効率的に集められるという利点はありましたが、イマイチ、心躍らせるスリルがありませんでした。当時の子どもたちにとって圧倒的な支持を得ていたのは、むしろ右の写真のような「野球クジ」や、お菓子のおまけの方でありました。今回は、実際にそのころ売られていたクジを解剖して、当時を思い出してみたいと思います。
当時、駄菓子屋の店先で子どもたちをエキサイトさせていた”クジ”には、いろいろな種類のものがありました。その中でも「袋クジ」(中の見えない袋を1つ引いて当てるクジ)と並んで人気の高かったのが、この「番号合わせクジ」です。お金を払って小さいクジを引かせてもらい、そこに書いてある番号の商品をもらえる・・・というもの。これは、偶然にも駄菓子屋さんの倉庫で、売られずに眠っていたものです。
写真を見て「うわぁ、懐かしいなぁ」と思った方もいらっしゃるのではないでしょうか? まず、上の方に1個ずつ収まっているのが、いわゆる「アタリ」のバッジ、そして、下の箱にまとめてガサッと入っているのが「ハズレ」のバッジでした。ご覧いただきますとおわかりの通り、「アタリ」はたいてい金またはカラーのコーティングがされ、巨人や阪神、阪急などといった人気球団に加え、長嶋や王などといった人気選手のバッジもありました。デザインも(ハズレのものよりは)凝っていて、鮮やかな色づかいが子供心をくすぐります。
もちろん、これで熱くなれば、まさに「思うツボ」でありまして、中には、おこづかいの続く限り2回、3回とクジを引く豪快な子どももいましたが、たいていは、その下の「ハズレ」ばかりが出てきました。こちらの方は、色もせいぜい1色で、黒や緑、あるいは黄色などといったプラスチックで型作られた上に、金色のアクセントが入るくらい・・・。デザイン的にも、チームロゴがあればいい方で、帽子の形にエンブレムがデザインされただけのものや、ひどいのになると、単に「巨人」「南海」などと書かれているだけのショボいものもありました。
それでは、さっそく箱の中身を取り出してみましょう。子どもたちがドキドキしながら引いた数字合わせクジの横に、景品のバッジを並べてみることにしました。1段目の左2つが、いわゆる”大アタリ”のデカいバッジ、右の2つが”アタリ”の色つきバッジです。2段目の色つきヘルメットが、あえていえば”小アタリ”といったところでしょうか? ここまでが、いわゆる”金属バッジ”ですね。
ただ、80本あるくじの中で、ここまでの番号が出る確率は1/2! 限られたこづかいでそう何度も引けるワケがありません。ほとんどが、下2段の”ハズレ”を手にすることになりました(苦笑)。3段目の5つが、番号でいえば41番から60番までの”小ハズレ”。最下段の5つが61番から80番までの”大ハズレ”バッジです。”小ハズレ”の方は多少大きく、デザインも凝っていますが、プラスチック製バッジであることには変わりありません。ホント、心からガッカリさせられる瞬間でした。
ハズレが出てしまうのは本当に残念でしたが、唯一の救いは「その番号が書かれている箱の中から自分の好きなものを選べる」ということ・・・。
巨人ファンなら巨人のバッジを、阪神ファンなら阪神のバッジを・・・ということで、それぞれが好きなものを選べるのです。当然、不人気の球団バッジばかりが残ってしまうので、私の子ども時代にも、駄菓子屋さんによっては「自分で選ぶのは禁止」などという、子どもたちからすれば悪魔のようなローカル・ルールを設けているお店もありました。だいたいにおいて、そんな理不尽なルールを強要するようなお店は、元からあまりフレンドリーな駄菓子屋さんではないのでしょうが、当然、子どもたちの評判はすこぶる悪く、瞬く間にそのお店では誰もクジを引かないようになった・・・という(苦笑)。そうなれば、これまた当然の成り行きで、結局そのお店は私が中学校に上がる前ごろにお店を閉めてしまいました。ホンの小さなことかも知れませんが、子どもたちの心をナメてかかると、結局は損をするのかも知れませんね。
今となっては販売もされていませんし、そのメーカー自体も存在していないところが多いので、調べようも確かめようもありませんが、こうした現象を知ってか知らずか、メーカーによっては、ハズレ番号のバッジにあえて巨人や阪神などといった人気球団のバッジ封入比率を高めているケースがあったようです(過去、同じようなクジ箱を何度か見ましたが、確かに巨人と阪神しか入っていないものが存在していました)。
せっかくですので、同じ阪神の”アタリ”を見てみましょう。
クジの外箱を見てみると、さり気なく「30×80付」と印刷されているので、多分このクジは1回30円で売られていたはずですが、同じ30円でも、上のハズレバッジとは雲泥の差(苦笑)ですよね。
ただ、アタリの場合は、基本的にその番号のところにあるバッジしか貰えませんので、バッジ自体が豪華な反面、好きな球団を選べない・・・という問題は存在していました。当然、関東であれば巨人、関西であれば阪神に人気が集中するでしょうから、当たった番号に入っていたバッジがそうでないチームだった場合は、ちょっとガッカリすることもあったのです。そういう時は、そのチームを好きな友だちとの間で”トレード協議”が始まることもありました。これはバッジのみならず、カルビーのプロ野球や仮面ライダーのカードでも同じこと・・・。そういう駆け引きの楽しさまで含めて、こうしたクジには様々な”ドキドキ”と”知恵比べ”があったのです。もしかしたら、こうした様々な活動の中から、子どもたちは”社会性”を育んでいたのかも知れませんね。
やはり、生産数の違いからなのでしょうか? 最近では、まず手に入らなくなった帽子屋バッジと比較して、こうした駄菓子屋バッジの方は、コレクターズ・ショップなどに行きますと、それなりに目にする機会も多いようです。また、ネットオークションなどで入手する方法もあるでしょうから、便利な世の中になりましたよね。いずれにせよ、こうした球団バッジは、あのころの「ドキドキ」を思い出してくれる、恰好の一品なのかも知れません。
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