学芸員のひとり言(その1)
球団マーク概論


 野球帽にとっては「命」といっても決して過言でない球団マーク。どんなに高級な帽子であっても、これが頭上に燦然と輝いていなければ、子どもたちにとってそれは「体育の授業でかぶるような、ただの紅白帽子」と変わらないのです。裏を返せば、自分の応援する球団のマークさえきちんと付いてさえいれば、多少の色味の違いや品質の違いなどは大したことではないのかも知れません。子どもたちにとってはそれほど大きな意味合いを持つ野球帽の球団マーク・・・。まずは、この部分から掘り下げて考えてみることにしましょう。

 当時の子どもたちがかぶっていた帽子の球団マークは、時代順に大きく分けて「布地ワッペン」「刺繍地ワッペン」「直刺繍」の3種類があります。一方、実際の野球選手が試合でかぶる帽子(選手仕様)については、資料などから推察しますと、かなり古い時期より刺繍であったようですが、市販帽子にこうした「刺繍バージョン」が出回り始めたのは、手元の帽子で確かめる限り、昭和40年代後半ごろ(1970年代前半ごろ)からのようです。それも、当初は刺繍地ワッペンを貼り付けてあるものがほとんどで、帽子の生地にダイレクトに刺繍(直刺繍)された帽子になりますと、すべての球団に揃ってくるのは、もう少し後になってから・・・と考えてよいでしょう。
 その後、布地・刺繍地ワッペン帽子の数は少しずつ減り始め、昭和50年代以降になりますと、直刺繍帽子が主流になり、ワッペン帽子はほとんど見られなくなりました。帽子自体は、現在でも各球団のものを入手できますが、球団の承認を得た現行のデザインの帽子は、すべて直刺繍帽子になっています。より選手仕様に近く、手間が掛かっていることもあってか、通常、同じデザインであれば、ワッペン帽子よりも刺繍帽子の方が高い値段で販売されています。では、これらの球団マーク、どういう部分が違うのでしょうか?

 
      

 それでは実際に、同じデザインの帽子を用いて、球団マークの違いを見比べてみることにしましょう。ここでは、ちょうどマークの過渡期に基本デザインが変わらなかった、南海ホークスの明緑NH帽子を用いて写真を載せてみました。左側より、布地ワッペン・刺繍地ワッペン・直刺繍の順で並べてあります。右端の直刺繍については、デザイン上ちょっと突っ込みたい部分もあります(苦笑)が、そうした部分は別項で改めて詳しく取り上げますね。
 コレクターの評価をみてみますと、より「高級感」があるためか、同じデザインであれば刺繍帽子の方を高く評価する傾向があるようです。なるほど、刺繍地ワッペンならばともかく、布地ワッペン帽子の方は、どうしても「子どもっぽい」印象が拭い切れません。マークが妙に大きく感じるのも、マイナスといえばマイナスでしょう。
 しかし、布地ワッペン帽子の場合、ワッペンは完全な「別建て」で作られている関係で、刺繍に比べて傷みやほつれが少なく、保存性が高いという利点があります。また、マークがハッキリと作られているため、室内に飾るには、極めて好都合です。さらに、状況に合わせた「交換」にも充分に対応できる強みがあります。私の部屋に飾ってある帽子たちも、「飾って眺める」という観点で、圧倒的に布地ワッペン帽子の方が多くなっています。同じワッペンでも、確かに見栄えだけで見れば刺繍地ワッペンに軍配が上がりますが、刺繍地ワッペンは、直刺繍よりも傷みが早いので、注意が必要です。
 当館では、原則として「1デザイン1点」の展示となっておりますので、全く同じデザインのものを収蔵していた場合であれば、より一般的な評価の高い「刺繍帽子」の方を展示させていただいておりますが、これらのことから考えてみますと、必ずしも「刺繍帽子の方がよく、ワッペン帽子は価値が低い」わけではないことを、ぜひともご理解いただきたいと考えてます。実際、”レトロ感”ではワッペン帽子の方が間違いなくいいワケですし、私たちが少年時代にかぶっていた帽子は、そのほとんどが「布地ワッペン帽子」だったのですから・・・。
 

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