学芸員のひとり言(その3)
センチ帽かサイズ帽か?


 およそ古いデザインの帽子を探し求めているコレクターさんになりますと、「そのデザインさえ見つかれば、サイズなどどうでもいい」そうで、応対する帽子屋さんも、思わず苦笑してしまうことが多いようです(もっとも、そうしたコレクターさんは、帽子にとって命であるはずの「かぶる」という動作をしないわけですから、当たり前といえば、当たり前ですが・・・)。ただ、やはり帽子は「かぶるもの」。そこで、野球帽の「サイズ」について見てみましょう。

 現在、市販の野球帽は、すべてS・M・L・O(またはXL)という、サイズ形式で扱われています(コレクター内では、これを「サイズ帽」といいます)。これは、帽子屋さんの無用な在庫を減らすためで、帽子の後ろにアジャスターがついており、かぶる時にここで微調整をすればピッタリになるシステムです。
 ところが、すべての野球帽がそうだったかといえば、決してそうではなく、昭和50年代前半ごろまでは、ほとんどが「53センチ・55センチ・57センチ」というようなセンチ単位で作られていました(コレクター内では、これを「センチ帽」といいます)。左側のヤクルト帽子の写真がそれにあたりますが、こうした形ですと、後ろにサイズ調整用のアジャスターが付いていないだけ、帽子の作りがしっかりしており、より選手仕様に近い「本物志向」である印象が強いため、多くのコレクターさんは、同一のデザインであれば、センチ帽の方に、より高い評価を与えているようです。

 ただ、この「センチ帽」というもの、サイズ帽のところでも触れました通り、帽子屋さんからしますと、同じデザインの帽子をサイズごとに複数ずつ在庫する必要があり、12球団分となりますと、その数は膨大なものとなってしまいます。さらに、帽子自体が売れにくくなるに従い、そうした「過剰在庫」は、帽子屋さんにとって大きな負担になってしまいます。以前は、多くのスポーツ店で買うことができた野球帽も、こうした背景があって、現在ではほとんどのお店で扱われなくなってしまいました。帽子業界でも、こうした問題をクリアするために、その主流を「サイズ帽」に変えて行くことは、ごく当然の流れだったわけです。
 ちなみに、選手仕様の帽子については、あくまでも「機能本位」で作られますので、現在も、すべての球団で「センチ帽」が採用されています(ま、当然のことですけど・・・笑)。

 さて、せっかくの機会ですので、「アジャスター」についても少し見てみましょう。

  

 3つの写真を御覧いただきたいのですが、これら3点は、アジャスターの部分を拡大して撮影したものです。帽子の後ろに取り付けられているアジャスターは、野球帽の場合、そのほとんどがプラスチック製で、サイズに合わせて止めることができるスライド式のもの(左側の写真)が採用されています。中には、こうした部分にまで、球団ロゴなどといった細かいデザインを施してある凝った帽子(中央の写真)もあり、ファンから見れば、心憎い気配りだといえましょう。
 一方、近年(平成に入ってから)新たな主流となりつつあるのが、パッチ式のアジャスター(左側の写真)です。生産コストが安い上に、調整も楽ですから、作る方も使う方もメリットはあるのですが、何度も付け外しを繰り返したり、無理な扱いや乱暴な扱いをしますと、パッチ山がすり減ってしまい、使いものにならなくなる危険性があります。見た目にも安っぽいので、これを嫌うコレクターさんも少なくありません。



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