
学芸員のひとり言(その11)
数で勝負だ! 駄菓子屋バッジ
帽子屋さんで、新しい帽子を買った時にしか手に入れることのできない「帽子バッジ」は、子どもたちにとって「欲しくても、そう簡単には手に入れられない高嶺の花」でしたが、反面、駄菓子屋で簡単に入手できたプラスチック・バッジは、子どもたちにとって、恰好の「コレクション」でありました。
サイズ的には帽子屋バッジとほとんど変わらないものでしたが、子どもたちにとって、何といっても嬉しいのが「手頃な値段で集められる」ということでしょう。時期やメーカー、そして「くじか単品売りか?」によっても違いましょうが、だいたい1個10円〜30円程度で手に入れることができたのです。これなら、「おつかいのお駄賃に1個ゲット」が可能なワケです。単純に考えても12種類はあるわけですから、子ども心をくすぐらないはずはありません。単品売りの場合は、間仕切りのついたケースにバッジが収められており、それを外から見ながら「おばちゃん、巨人と阪神のバッジを1個ずつちょうだい!」と声を掛けて売ってもらうのですが、イマイチ、心躍らせるスリルがありません。子どもたちにとって圧倒的な支持を得ていたのは、むしろ「野球くじ」の方でありました。


これは、偶然にも駄菓子屋さんの倉庫で、売られずに眠っていたものです。上の写真を見て「うわぁ、懐かしいなぁ」と思った方もいらっしゃるのではないでしょうか? こうした「野球くじ」でエキサイトした経験をお持ちでない方のために、一応、簡単に御説明させていただきますと、まず、上の方に1個ずつ収まっているのが、いわゆる「当たりバッジ」(写真下段左側、南海ホークスのもの)、そして、下の箱にまとめてガサッと入っているのが「ハズレバッジ」(写真下段右側、太平洋クラブライオンズのもの)でした。御覧いただきますとおわかりの通り、「当たり」はたいてい金またはカラーのコーティングがされ、巨人や阪神、阪急などといった人気球団に加え、長嶋や王などといった人気選手のバッジもありました。デザインも(ハズレのものよりは)凝っていて、鮮やかな色づかいが子ども心をくすぐります。
もちろん、これで熱くなれば、まさに「思うツボ」でありまして、たいていは、その下の「ハズレ」ばかりが出てきました。こちらの方は、色もせいぜい1色で、黒や緑、あるいは黄色などといったプラスチックで型作られた上に、金色のアクセントが入るくらい・・・。デザイン的にも、チームロゴがあればいい方で、帽子の形にエンブレムがデザインされただけのものや、ひどいのになると、単に「巨人」「南海」などと書かれているだけのショボいものもありました。また、版権や肖像権などもうるさく言われなかった時代ですので、デザインも大らかというか、いい加減というか・・・。Bafalos、Houksなどという、本当に「子どもだまし」としか言いようのないいい加減なスペルのバッジもありました。ま、付ける子どもは、英語なんて読めませんから、怒るどころか、誰も気づきませんでしたけど・・・(笑)。上の写真でもわかりますが、南海の「鷹マーク」など、およそ鷹ではないですものね!

さて、それでは2つの駄菓子屋バッジを見てみましょう。これは、上で紹介したものとは別メーカーのバッジで、たまたま紛失せずに保管されていたものです。阪急ブレーブスと太平洋クラブライオンズのバッジですが、手前の阪急が「当たり」、奥の太平洋が「ハズレ」になります。デザインも違えば、質感も違う・・・。誰がどう考えても、阪急の方が欲しくなってしまうわけです。ゲットしたバッジは、自分の帽子にどんどんと付けて行きますが、こうした当たりバッジは、帽子屋バッジと同じ「目立つところ」に付けられました。だんだん数が増えてくると嬉しいもので、中には10個、20個と、それこそ重さで帽子が型くずれするくらいまでジャラジャラ付けている少年もいました。カード同様、友だち同士で、盛んにトレードされたことは、言うまでもありません。
ロッテや日本ハム、ヤクルトや太平洋などといった人気の高くないチームは、当たりの中に入っていないこともよくありましたし、同じ当たりなら、誰でも巨人や阪神の方を選びました。こんなバッジも「懐かし玩具」の1つとして高値取引されるようになった昨今、巨人や阪神などといった、当時の「当たり」よりも、されもが見向きもしなかった太平洋の「ハズレ」バッジの方が高値で取引されるのは、何とも皮肉なものです。
やはり、生産数の違いからなのでしょうか? 最近では、まず手に入らなくなった帽子バッジと比較して、こうした駄菓子屋バッジの方は、コレクターズ・ショップなどに行きますと、それなりに目にする機会も多いようです。あのころの「ドキドキ」を思い出してくれる、恰好の一品なのかも知れませんね。
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