Route-6 脱皮直前の注意点
脱皮も直前になってくると、頭胸甲と腹節部の隙間がハッキリとしてくるだけでなく、食欲の実質的なストップ、動作の鈍化、さらには体色の変化など、かなり明確な兆候が見られるようになります。ある程度の経験を積めば、これが脱皮直前のシグナルであることなど簡単に見極められますが、経験の浅いキーパーの方ですと、病気などと勘違いして、個体や水槽にあれこれ手を加えてしまい、かえって脱皮を失敗させてしまう場合もあります。直前期、私たちキーパーは、どういう点に気をつけるべきなのでしょうか?
すべての個体に当てはまることではありませんが、脱皮についての話を多くのキーパーにうかがいますと、「脱皮前の数日間はかなり活発に動き回り、前日あたりから一気に動きが鈍る」というコメントをする人が少なからずいるものです。もちろん、これは、あくまでも「そのキーパーが観察した範囲」で・・・ということですので、学術的な説得力を伴うものではありませんが、このことは「キーパー共通の認識」といってもよいくらい、多くの人がそう語っているのが興味深いところです。
こうなりますと、この現象が脱皮直前を意味することを知っているかどうかを問わず、キーパーは、ついつい世話を焼きたくなるもので、特に脱皮直前であることがわかっている場合などはなおさらなのですが、これは、かえって個体によくない影響を及ぼす方が多いといわれているのです。
繰り返しになりますが、脱皮は、ザリガニにとって非常に大切であり、かつ危険なものです。従って、少しでも安全であり、かつ安心できる環境で脱皮しようとするのは自然の成り行きです。ザリガニも、自分の脱皮が近づくと、そうした場所を一生懸命に探し回っているはずですし、逆に、そうした場所にメボシをつけたからこそ、脱皮への最終カウントダウンに入るのかも知れません。となれば、まさに「目前」となった段階で、あれこれとレイアウトをいじったりした場合、どうなることが想定できるでしょうか?
これまた学術的な裏付けのない話で恐縮なのですが、「脱皮直前の様子だったので、脱皮しやすいように塩ビ管などを取り出したら、それから半月くらい脱皮しなかった」とか「広場を作ったら、脱皮しないまま死んでしまった」という事例が、実は毎シーズン、かなり多く報告されています。全く逆のケースで、「セッティングを変えようと考えていたが、忙しくて手を加えられないでいるうちに、気がついたら脱皮していた」という事例もよく聞きますが、これと同じくらいの頻度で耳にする・・・といっても過言ではありません。こうした事例は、ザリを飼育し始めて1〜2年が経過し、それなりの「コツ」と「観察眼」をつかんできたキーパーに、多く見られるのも特徴です。
これらの事例から類推しますと、やはり、直前期のレイアウト変更が、個体に脱皮を我慢させる何らかのストレス要因となった・・・と考えるのが最も妥当でありましょう。ザリにとっては、かえって「放っておいてくれ」た方がよかった・・・ということになるのです。
確かに、少しでもいい環境を準備したいというキーパーの気持ちは悪いことではありませんし、そのために積極的な策を講じて行くことは、とても大切なことです。それに、塩ビ管の無駄な放置が脱皮の障害になることに気づいたり、脱皮後に甲殻病などを起こさないよう、底砂を清潔に保っておくべきことに気づくことは、キーパーにとっては、立派な「成長の証」であるに違いありません。しかし、それがかえって個体にストレスを与えてしまうようでは、本末転倒もいいところです。もちろん「広い脱皮スペースを確保する」「底砂を清潔にしておく」ことなどは、脱皮を成功させるために大切なことです。しかし、それはあくまでも「事前の段階で完了している」という前提に立ってのことであり、直前になってからドタバタと手を加え、個体に悪影響を及ぼすのなら、むしろ何もしない方がよい・・・ということになりましょう。
この時期、一番大切なことは「とにかく、静かな環境を用意してやる」ということです。脱皮が終わるまでは、エアーを少し絞り目にする・・・というキーパーもいるくらいですが、いずれにせよ、無闇に手を突っ込んだり、蛍光灯をつけて無用な観察をしたり・・・ということも、避けた方がいいことは、申し上げるまでもありません。よほどのベテラン・キーパー以外は、「気が付いたら脱いでたよ・・・」くらいのスタンスで臨む方が、結果的には高い成功率をおさめられると思います。
Route-6の最終目標
第1点 直前期は、少々の不備に気づいてもセッティングを変えない
第2点 脱皮を我慢するすべての要素を排除し、余計な観察も控えよう