Route-3  脱皮前の準備(1)


 それでは、いよいよ脱皮に向けた具体的な内容に入って行きたいと思います。今回は、基本的に時間の流れに沿った形で項目を作りましたので、いくつかの内容は重複するかも知れませんが、そうしたものにつきましては「それだけ大切なことなんだ」ということで、どうぞ御了解下さい。なお、これから先、しばらくの項目は、一応「ルートイン脱皮」を想定して話を進めることにし、イレギュラー脱皮につきましては、別の項目建てとさせていただきます。



 脱皮というのは、季節・時期に合わせて、ザリが勝手にやってくれるものです。ですから、理由の如何を問わず「無理矢理脱皮させる」ということは好ましくありません。強制脱皮も、(後項で改めて取り上げますが)基本的には「やむを得ず取る策」であり、もし、自分の飼育個体でそういう状況が発生したとすれば、その成功を自慢する以前に、そこまでしなければならないほど個体を追いつめた技術のなさを恥じるべきでしょう。ちょっとトゲのある言い回しかとは思いますが、少なくともザリからすれば、脱皮というものは、それだけ大変なものなのです。
 脱皮については、最初にも触れました通り、確かに「ザリが勝手にやるもの」です。しかし、それはあくまでも自然の環境下にある場合・・・ということであり、水槽という閉鎖的かつ高密度環境下では、そうしたザリの意思通りにコトが進まないケースがあるのです。これを、キーパー内では「脱皮を我慢する」といい、脱皮失敗の大きな要因の一つであるとされています。こうしたトラブルは、同じ水槽内に自分よりも強いザリまたは魚などがいたり、充分な脱皮スペースがなかったりする時に発生しやすいもので、いわゆる「隙間」が見え始めたまま数週間経過した後、脱皮しないまま死んでしまうケースがほとんどです。学術上の裏付けは全くありませんが、種でいうとマロン、性別でいうとメス個体に発生事例が多く出ていることを考えますと、テリトリー意識が強く、どちらかといえば神経質な種や、比較的弱い立場にいる個体などに発生しやすいであろうことは推察できます。
 神経質な種類かどうか、弱い個体であるかどうかということを一切考えなくても、脱皮というのは、ザリにとって最も危険な瞬間の一つなのです。こうしたトラブルを防ぐためには、やはり個体にとって「脱皮しやすい」環境を作ってやることが、唯一にして最高の方法であることは間違いありません。この時に考えるべきポイントは、「脅威を感じる外敵がなく、脱皮に支障がないゆったりした環境」だということです。まず「脅威を感じる外敵がなく」という点ですが、やはりこれは、単独飼育をさせるに越したことはございません。確かにキーパー側からしますと、水槽不足という理由から、1つの水槽をセパレーターで仕切ることで、脱皮に対応させるやり方をとるケースは日常的に用いられるものです。しかし、個体サイドからすれば、仕切りの向こう側に他個体がいれば、結局同じ緊張感が持続されることになりますから、大半の種では問題ないものの、一部の神経質な種については、効果をなさない場合があります。事実、一部のマロン・キーパーの間では、輸入開始当初より、「セパレーター分けでは、どうしても我慢してしまう傾向が高い」と唱える人もいるくらいですから、そうした種を飼育する場合、注意をしておくべきでしょう。いずれにせよ、単独飼育できるのであれば、それに越したことはないわけです。
 この場合、「脱皮する個体を残すか、脱皮する個体だけを取り出すか?」という点については、キーパーそれぞれで意見の分かれるところです。脱皮する個体を残す形であれば、残りの個体を収容する大きめの水槽を必要とする反面、その個体に対する負担が少なくて済みます。脱皮する個体だけを取り出すのであれば、用意する水槽はさほど大きなものでなくても大丈夫ですが、環境が完全に変わってしまうことで、余計なストレスを与えてしまう危険性もあります(これを用いて、脱皮を促進させる・・・という考え方もありますが)。個人的な見解とすれば「脱皮を直前に控えている状態であれば、個体への負担を考慮して、他個体を取り出す方法を採用し、ある程度時間を掛けて行うのであれば、脱皮させる個体だけを取り出す方法を採用する」というのが妥当ではないかと思います。
 次に、「脱皮に支障がないゆったりした環境」という点についてですが、一度でも脱皮のシーンを御覧になられた方ならおわかりの通り、脱皮の時、ザリは、予想以上に広いスペースを必要とするものです。具体的にいうと「個体が横倒しになり、なおかつ頭胸甲と腹節の間から抜け出して、身動きがとれるまでの間、自分の身体を置いておけるだけの平坦なスペース」ということになります。ですから、全長の1.5〜2倍程度の直径を有する、障害物のない平坦なスペースが必要・・・ということになりましょう。脱皮が終わりますと、甲殻がある程度固まるまでの間、ザリは物陰に身を隠したがるのが普通ですから、水槽に必要な要素は「充分な平坦スペースと、個体が身を隠せるシェルター的なもの」だけだということになります。従って、水槽は、できるだけシンプルな構成とし、脱皮の邪魔になる余計なレイアウトは施さないように心掛ける必要があります。また、脱皮直後の個体は、思うように動けないこともあってか、塩ビ管系のシェルターには入りたがらない個体もいるようです。ですから、シェルターは、塩ビ管などよりも流木などの方が好都合かも知れません。
 こうしたセッティングをしてやれば、ザリにとってもかなりいい環境になるはずですが、当然のこととして、水槽は、できるだけ静かな場所に置き、むやみやたらに覗いたり、蛍光灯をつけたり消したりしないような配慮が必要です。



Route-3の最終目標

第1点 個体が脱皮しやすい環境を早めに作っておこう
第2点 できることなら、単独飼育で脱皮に臨ませよう