Route-2(補遺)

脱皮のサインを知る


「Route-2  脱皮の流れ」の最終目標において「脱皮のサインを見落とさないよう、日ごろの観察をしっかりしよう」という内容を掲げましたが、毎年、脱皮シーズンになると、決まって「ちゃんと観察しているのに、サインを見極められないまま脱皮されてしまった」「隙間っていうけど、どれくらい開いたら脱皮の前兆なのか判断がつかない」「どこの部分を注意して見ておけばいいのかわからない」というメールが寄せられます。何度か脱皮をクリアさせ、見極めに慣れてしまえば、実に大したことのないポイントなのですが、確かに「隙間」と言われても、最初はその微妙な見分けに戸惑うことがあるかも知れません。そこで、実際に画像を使って、こうした部分を見てみることにしましょう。





 個体は常に動き回っていますので、完全に同じ位置からの写真はなかなか撮れず、多少大きさや姿勢が違うのはお許しいただきたいのですが、全く同じ個体(ヤビー成体)について、頭胸甲と腹節部の隙間を時期に合わせて撮影してみました。隙間のでき方は、個体ごとの格差もかなり大きいものですし、小さい個体ですと見づらい部分もありますので、あくまでも1つの参考事例ということでごらんいただきたいのですが、左から脱皮間期、脱皮1週間前、脱皮前日(厳密には脱皮約16時間前)の順で撮影したものです。左端では全く見られない隙間が、中央では少し見えるようになり、右端ではかなりハッキリしています。左端くらいまでなれば、よほど観察をしていない人でもない限り、多少なりとも異常に気づくはずですが、逆に、この段階ともなりますと、時期としてはかなり切迫していますから、ここで気づいて慌てて環境を変えたり、他の個体を取り出すために個体を追い回したりしてストレスを与えてしまうのは、かえって危険である可能性もあるといえましょう。やはり、中央の写真くらいの段階で「あれ?」ということに気づき、左端のような状態になるころには、すべての準備を済ませて「あとは静かに待つばかり」・・・という感じにしておきたいものです。
 さて、Route-2の記事中にもあります通り、頭胸甲と腹節部の間は、腹部を思い通りに動かすために、「隙間」とまでは呼ばないまでも、多少余裕のある作りになっているものです。ですから、個体が多少丸まり気味の姿勢になると、脱皮とは全然関係ない時期でも「隙間のようなもの」ができているように見える場合があります。また、反り気味の姿勢だったり、いわゆる「バンザイ」ポーズを取っている時などは、そうした隙間も見えなくなってしまうことがあります。そういう意味では、あくまでも個体の基本的な姿勢の段階で判断する必要があるといってよいでしょう。



 ・・・ということで、2枚目の写真は、その「基本姿勢」と「観察位置」について見ていただくために用意した写真です(上の個体とは異なるヤビーですが、脱皮5日前の様子を写したものです)。一般的に、隙間の有無は真横からチェックするものだと思われがちですが、経験を積んだキーパーの多くは、逆に真横からでは、個体によってハッキリと見づらい場合があることも心得ており、たいていは個体が反対側を向いた時、まさにこの写真のような位置になった時に、後ろ正面から個体と並行の視線でチェックを行うのが普通です。これだと、上の矢印部にあるように、頭胸甲部と腹節部との間にできる上下の隙間までチェックすることができるからで、真横からではわかりづらい隙間も、写真のようにバッチリ見分けることができます。キーパーは「隙間というものは、常に前後の形で開くものである」という固定概念を持ちがちですが、こういうチェック方法をマスターすることで、こうした固定概念が意外と脆いものであることを実感できると同時に、より確実かつ早期の発見・確認ができるようになることでしょう。
 一方、隙間ということでチェックするのは、何も上部の隙間だけではありません。下の矢印が指している場所をご覧下さい。個体によっては、パッと見た感じでは変化がなくても、頭胸甲部脇と腹節部側面の部分にハッキリと違いが出てくるものがいます。また、ここの部分が少しずつ露出し始めてから、徐々に上部の隙間ができてくるケースも少なくなく、むしろこの部分の異変が最重要視するキーパーもかなりいます。いずれの場合にしても、個体の姿勢が反らず、丸まらず・・・の、これくらいの個体姿勢の時に、この写真のようなポジションからの視線で隙間のでき具合をチェックする習慣をつけて行けば、「サインを見落とす」というケースは劇的に減少してくるはずですので、ぜひ、参考にして下さい。
 なお、脱皮が近づいたことを示すサインとして、Route-2の記事中では、もう1つ「体色の変化」を挙げました。これは、隙間の形成と同じく、非常に大きなポイントではあるものの、あいにく「こうなれば絶対間違いない」という明確な変化状態はないのが実情です。これは、それぞれの個体の体色(明暗や清濁などを含む)が、様々な要因によって発現しているからで、色が濁る個体もいればクリアになる個体もいるし、濃くなる個体もいれば薄くなる個体もいます。そして、残念ながら全く変化しない個体もいるのです。よく「青がきつくなり、クリアになれば脱皮が近い」などと断言する方もいらっしゃるようですが、その通りになった場合もあれば、その逆になった場合もあるのが実情で、こうした変化を絶対的なものとしてしまうのは、かなり危険であるといえましょう。外殻が軟らかくなるのは、生物学的に充分説明できることですが、体色については、100%同じ原因で発生するとは言い切れない部分があります。「ザリガニは、脱皮が近づくと、体色が以前と違ってくる個体もいる」・・・という程度で認識しておくのがよいのかも知れません。