Route-1  いつ、脱皮する?


 ザリガニの脱皮をクリアさせるためには、何といっても「個体が、いつ脱皮するか?」ということを知っておかねばなりません。毎回、脱皮した後になってから大慌てになるようでは、いつまで経っても失敗は減らないからです。



 ザリガニの脱皮には、大きく2種類があると考えられます。1つは、我々キーパーが「ルートイン」または「レギュラー」と称する定期的なもの、そしてもう1つは、同じく「イレギュラー」と称される突発的なものです。ルートインの脱皮は、主としてザリガニが成長して行くために必要なもので、成体で、春と秋の年2回、稚ザリ(生後1年目)の場合は、年間9〜15回程度行われるのが普通です。これは、必ずしもこの回数と決まっているわけではなく、老成個体になりますと、脱皮頻度が年1回未満になったり、稚ザリの場合も、ヘタをすれば月2〜3回のペースで脱皮をこなして行くことも珍しくありません。ですから、稚ザリの場合は、(高密度で飼育されていることを考えても)後に述べるイレギュラー脱皮と、半ば渾然一体となった状態で行われていると考えてよいでしょう。
 話を成体に戻し、ルートイン脱皮の場合、(種によって違いはありますが)脱皮時期は決まっているのが普通です。大半の種が春と秋、またはそのいずれかであり、越冬の前後に行われる・・・と考えれば、ほぼ間違いありません。特に、アメリカザリガニやフロリダ・ブルーなどのキャンバリダエ科諸種は、繁殖フォームを揃えるためにも、かなり忠実にこの流れを守っています。いずれにせよ、こうしたシーズンには、飼育している個体が続々と脱皮作業に入って行きますから、キーパーは、まず飼育個体の脱皮シーズンを知り、その上で、そうした時期に入る前に、必要な準備を済ませておく方がベターなのです。
 一方、イレギュラー脱皮は、その大半が「欠損あるいは不都合箇所の修復」「環境の激変」の2点に集約されます。ザリガニは、人間などと違って、体表面を硬い甲殻で覆っています。ですから、これに不都合が出ますと、かなり大きなダメージを受けてしまいます。また、観察した限りでは、不都合箇所を部分的に補修する能力も、さほど強力であるとは思えません。従って、こうした状況が発生した際には、圧倒的な確率で「丸ごと交換」、すなわち脱皮でもってクリアしようとするのが普通です。
 不都合は、いつ発生するかわかりません。個体同士の喧嘩が起こって甲殻に傷ができれば、真冬だろうと危険な状態になりますし、脱皮に全く縁のないはずの真夏でも、水質の悪化でバーンスポットなどが発生すれば、早めの脱皮が望まれることになるからです。ですから、個体を飼育している場合、日々の観察を怠らないようにするだけではなく、問題が発生した時には迅速に対処できるような準備をしておくべきでしょう。
 さて、イレギュラー脱皮には、明らかに「キーパーによる人災」としか言えない原因があります。それが「環境の激変」。何のケアもしないで、突然全く違う水質・水温の水槽にぶち込んだり、水換えが面倒だということで、理由もなく一気に全換水するなどといったケースです。普通の熱帯魚などですと、pHショックを起こしたり、白点病などを引き起こしたりしますが、ザリの場合は、これを脱皮でクリアさせようとする傾向があります。また、水温の急激な上昇や下降を季節の変化と勘違いしてしまうこともあるようです。強制脱皮は、これらの現象を逆手にとって編み出されたテクなのですが、脱皮を1回することによる危険性を考えれば、理由なく脱皮させるなど以ての外ですし、強制脱皮自体、よほどのケースでない限り、用いるべき方法ではないのです。特にキャンバリダエ科諸種の場合、こうした形で脱皮させてしまうと、その後の繁殖計画が大きく狂ってしまうものですし、キーパーにとっても、個体にとっても、こうした脱皮だけは極力避けるようにしなければなりません。
 最近でこそ少なくなりましたが、数年前までは「この個体、こんなに大きいのに、よく脱皮してくれるんです」というのを自慢げに話すショップが何軒かありました。もちろん、全然脱皮しないのも困りものなのですが、そうした脱皮が、仮にキーパーまたはショップの人間の「無知」によって引き起こされているのだとすれば、少なくともその個体にとっては相当苦しく、身を削る思いで脱皮を繰り返していたわけですから、とても自慢どころの話ではありません。そういう意味で「淡々とルートイン脱皮だけが繰り返される」という状態こそが、キーパーにとっても個体にとっても、最も望ましい姿なのだといえましょう。



Route-1の最終目標

第1点  自分の飼育している個体の脱皮時期を知っておこう 
第2点  万が一に備え、いつでも対応できる準備はしておこう