「目の前」がすべて・・・?

 ショップに対する私たちの基本スタンスをある程度踏まえたところで、いよいよ具体的に、じっくりとお付き合いするショップ選びに入って行くわけですが、この段階で多くのみなさんが勘違いする1つのポイントについて触れておきたいと思います。

 よいショップ・・・として多くの方がまず最初に思い浮かべるのは、何といっても「品揃えがよい」ということではないかと思います。様々な種類のザリガニが、常時たくさん売られていて、じっくり眺めながら充分に上質な個体を選べる・・・っていうようなイメージですよね。
 しかし、非常に残念なことではありますが、そんなショップを見つけ出すのは極めて困難であるのが実情です。それでも第2次、第3次ザリガニブームのころには、それに近い雰囲気のショップもなくはありませんでしたが、それでも多少の「掻き集め」感は否めなかったですし、特にブームが終焉して以降は、仮に生体を取り扱うにしても「種類を集めること自体がひと仕事」になってしまっているのが現実です。
 それでも、ある程度コンスタントに出るものであったり、なおかつそれなりの利益が出るようなジャンルであればよいのでしょうが、ザリガニなんて所詮は1匹売って粗利ン百円・・・の世界ですから、ショップ側も様々なリスクを冒してまで取り扱い水槽を割り振ること自体、現実的でありませんし、買う側からしても「ちゃんといい個体を集めて、きちんと取り扱ってくれ」と願う方がおかしい話なのかも知れません。この部分が、同じマイナージャンルでも、プレコやアロワナなどと180度違う部分であるといえましょう。
 この点から考えますと、ショップを選ぶための「基本的な判断基準」が変わってくることがわかると思います。つまり、ショップの善し悪しを判断する基準として「その時、その場でザリガニを取り扱っているかどうか?」「今、その場で何種類の、何匹の個体を売っているか?」ということは、さほど重要な問題ではない・・・ということです。ブームのころであったり、あるいはメジャーな種類の生き物であったりした場合なら、その選び方も「アリ」でしょう。しかし、ザリガニは、そのいずれにも当てはまりません。仮に何種類かのザリガニがそれなりに売られていたとしても、品質的な部分で「?」がつく状態であれば、それは、売っていないのと同じことです。
 まず、ザリガニとは一切関係なく、売っている生体の基本的なコンディションを把握しましょう。熱帯魚すらまともに管理できていないショップに、ザリガニの調達や取り置きなど頼めるはずがありません。これは価格どうこう以前の問題ですね。
 生体全体の取り扱いが及第点に達していれば、今度は、ショップの全体的傾向を把握します。大手ショップやチェーン店以外の、特に個人経営的なショップの場合、オーナーの「好み」は取り扱い生物にも大きく反映してくるのが普通です。どちらかといえば水草系だったり小型美種系だったり、あるいは極端な専門系(たとえばアロワナ専門店、グッピー専門店・・・みたいな感じでしょうか?)だった場合には、向かないかも知れません。
 また、ある程度アクアリスト経験が長い方であれば、取り扱い魚種の傾向から、おおよその仕入れルートを見極めることができます。観賞魚業界では、普通、仕入れ元を客に知らせることはタブーであるという暗黙の掟がありますので、特別な関係でもない限り、ストレートに質問してもはぐらかされるのがオチですが、ショップにも得手不得手があるのと同じように、卸業者にも得手不得手があるものです。ショップによっては、これを見越して複数の仕入れルートを持つことも珍しくはありませんが、それでも、多かれ少なかれそうした影響は受けてしまいます。もし、ある程度自分自身に経験があったり、あるいはそうした経験を持った知人などがいる場合には、そういう部分で動きを見極めることもムダではありません。
 実際に、店員さんと様々な話をしてみるのもよいでしょう。それも、飼育方法や価格、仕入れの可否について聞くのではなく、あくまでザリガニに関する一般的な話題を振ってみるようにします。今、この場にいるかどうかとは関係なく、店員さんのザリガニに対する知識を問うのでもなく、ザリガニ全体に対する興味関心の度合いを窺い取ることが大切です。もちろん、話題はザリガニ以外のマイナー系魚種などでも構いません。これによって、常時取り扱い商品以外への対応・適応力や反応度合いが判断できます。これは、ザリガニを購入する上で非常に大きなポイントでもあります。
 先ほど「極端な専門系のショップは避ける」としましたが、この部分で唯一、判断に迷うのは、いわゆる「シュリンプ系専門ショップ」ではないかと思います。シュリンプもザリも同じ甲殻類ですから、逆にシュリンプ系であれば好都合・・・という考え方もなくはないといえましょう。
 しかし、これも残念ながら100%OK・・・とは言いがたい部分があります。確かに、エビもザリも同じ水棲甲殻類ですから、共通点も多く安心できるような気もしますね。ただ、種類によっては、たとえば哺乳類に例えた場合、生物学的に見てブタとクジラくらい離れた位置関係にある場合もあるのです。「ブタのことを知っている人は、クジラのことだって完璧に知っている」という考えに無理のあることは、もはや説明するまでもありません。ザリ系のキーパーがエビを飼育する時に往々としてつまらぬ固定概念からミスを起こすのと同じように、エビを専門とし、それなりの実績を持っているがゆえに、ザリガニに対してとんでもない誤解や勘違いをしたまま販売を続けてしまうというケースも、決して珍しくないのです。これらのことから考えれば、特にエビ系専門ショップの場合、より慎重に見極めてもよいといえるでしょう。
 ザリガニの購入は、普通の熱帯魚の購入とは全く異なるものです。いずれにしても、ショップ選びをする段階では、「目の前にあるもの」だけにとらわれないことが大切なのです。

このステップのまとめ

  • 「今、そこに数多く売っているかどうか?」は、さほど重要な条件ではない。
  • よい個体を入手するためには「種類を揃えられる力」よりも「よい品質の個体を仕入れられる力」が重要。
  • 常時取扱商品以外への適応能力が高いショップは、ザリガニ探しを任せるにも有利。
  • すべての「エビ専門店」が有利とは限らない。むしろ、エビ類を専門にするがゆえの落とし穴や大勘違いもあり注意が必要。