ザリガニ飼育では、もはや「常識」となりつつあるローテーション投餌ですが、その組み方や与え方になると、意外と面倒に思われる方が多いようです。個体の寿命やコンディションに大きく影響してくるだけではなく、1人1人のキーパーの「創意工夫」が大きく活かされるこの場面! しっかりとマスターして、最高のザリガニを育て上げてみませんか?


「ローテーション投餌」とは・・・

 まず、今回のテーマである「ローテーション投餌」の基本からご説明しましょう。この投餌方法は、JCC結成間もないころ、拒食と空腹によるトラブルを解決するために、当時のメンバーが導入し、機関誌や情報交換などを通じて徐々に浸透していった方法で、「状況に応じて選定した複数種の餌を一定間隔で順繰りに与えて行く」という投餌方法です。これにより、一定の食欲を確保しながら栄養面のバランスを保ち、キーパーの狙いに沿った栄養分を供給できる状況を作り出すことができます。ザリガニの場合、自然下でも極めて広い食性を示しているほか、現在の観賞魚飼料では、単一ですべての栄養素を供給できる餌が存在していないため、現在では多くのキーパーがこの方法で給餌を行ない、適切な栄養供給体制を実現させています。
 選定する餌種や餌の投入順序、投餌間隔などにつきましては、個体の種類や大きさ、餌別の反応などといった個体ごとの特性や、飼育状況や季節的な状況などといった個体を取り囲む環境の特性に応じ、キーパーが独自に決めて行くのが普通です。従って、組み方や規模について「これなら万全」「こうでなくてはいけない」という黄金律はなく、むしろ、個体に対する観察眼と、キーパーとしての経験蓄積が要求されます。時期によっては、繁殖や脱皮の成否にも大きく影響してきますので、すべての種、すべての個体に対して通用する「完成形」は存在しない・・・と考えてよいでしょう。



組み方の「基本」

 前項でも御説明しました通り、ローテーション投餌に「完成形」はなく、状況に応じた多彩な組み方が必要となってきますが、そうした組み立てができるようになるために、まずは「基本ローテーション」を作れるようにしてみましょう。
 右の表を御覧下さい。これは、ローテーション投餌の基本的な動きを図で示したものです。横の直線は時間の流れを表し、縦軸にA、B、C、D・・・と打たれているのが投餌のタイミングを示します。AとB、またはCとDなどの間を「投餌間隔」といいます。今回は、5種類の餌でローテーションを組むことを前提に考えますが、もちろん、これは増やしてもいいですし、減らしても構いません。また「セット」といって、1組5種類、2組5種類というように、複数のセットを組んで交互に与えることもできます。これは、各々の状況に応じて、自由にセットして下さい。それでは、先に進めましょう。
 人間でもそうですが、ザリガニにも「好き嫌い」はあります。一般的に「嗜好性の高さ」とか「反応度合い」とかいわれますが、栄養の状況には関係なく、すぐ飛びつく餌と、なかなか食べようとしない餌がある・・・ということです。個体によっても大きく違ってきますが、一般的には、植物質の餌よりも動物質の餌、乾燥飼料よりも生餌の方が高い反応を示すことが多いようです。
 また、好き嫌いと健康とがあまり関係しないのと同じように、個体に供給したい餌と、喜んで食べてくれる餌とは、必ずしも一致しないのが普通です。「焼肉は好きだけど、トマトはちょっと・・・」というのと同じですね! ローテーション投餌では、この部分を上手に組み合わせることがポイントなのです。
 再び表を御覧下さい。時間軸の下に、オレンジ色の横向き台形が描かれているはずです。これは、個体の食欲を示したものです。常に空腹状態である自然下とは異なり、飼育水槽下では、かなりふんだんに餌を摂取することが可能です。そのため、餌を続けて与えられていると、餌質に関わらず、食欲(反応)は徐々に落ちてくるのが普通です。A、B、C、D・・・と進むに従って、反応も鈍くなってくるわけです。余談ですが、これが限りなくゼロに近づき、いつもならすぐ飛びつく餌に対しても反応を示さなくなることを「飽き」または「拒食」と呼び、ザリガニ飼育においては、最も避けなければならない状態の一つです。初心者キーパーなどの場合、往々にして陥る事例のひとつですので、充分注意して下さい。また、これと関連して、初心者キーパーの陥りやすいポイントの1つに「餌の反応に関する強弱を、過食状態の環境下で推し量ってしまう」というケースがあります。キーパーの間で一定の評価が出ている餌に対して「この餌は、なかなか食べなくてさぁ・・・」という声をよく耳にしますが、ザリガニの場合「食べないものはない」といっても過言ではないほど、広い食性を持っています。従って、極端な言い方をすれば、少なくとも観賞魚用飼料の類であれば「食べない」餌などありません(裏を返して悪知恵を働かせますと、適当な沈降性飼料を「ザリガニの餌」として売り出すこともできちゃうわけです。地道に餌開発を続けた我々からすれば、笑うに笑えないことですが・・・苦笑)。確かに、個体差があるというのも事実ですが、日ごろからふんだんに餌を与え過ぎているからこそ、そっぽを向く餌というものも出てくるわけで、初心者とベテランとで、餌に対する反応の評価が分かれてくるのは、大半がこうした環境の違いによるものです。
 さて、話を戻しましょう。この表から考えると、A、B、C、D・・・という順番は、個体から見た場合「食欲のある順」と捉えることもできます。Aなどの場合、まさに「空腹」の状態ですから、それこそ「投げ込まれたものは何でも食べる」状態です。となると、A、B、C、D・・・という順番は、まさに「反応の悪い順」ということになりましょう。AやBでは植物質の調整配合飼料を組み入れ、C、D・・・と進む段階で、徐々に動物質飼料や生餌などを組み込んでやるのが一般的です。この観点でよく知られている餌を並べてみますと、A(生野菜類など)、B(ひかりクレスト・プレコ)、C(CF Star)、D(CF Star Premium、ひかりクレスト・キャットなど)、E(クリル、CF Star SuperPremiumなど)・・・みたいな感じになりましょうか? キーパーの間では、AやBの位置で使われる餌を「頭(あたま)」、DやEの位置で使われる餌を「仕上げ」と呼び、タイプ分けしています。「ザリガに餌図鑑に出てくる餌はもちろんですが、実際に使われている餌が、どの位置に属するのか、しっかりと性質を把握しておくことが大切だといえましょう。餌質だけでなく、個体の反応によって位置が変わる場合もありますので、そうした見極めはしっかりとしておきたいものです。



「間隔決め」と「飛ばし」

 ローテーション投餌は、ただ単に「餌を与える順番を決めればよい」というわけではありません。それと同等、またはそれ以上に大切なのが「間隔決め」と呼ばれるものです。ザリガニの場合、爬行性という特性から、残餌の発生による水質・底床の悪化は、致命的なトラブルを起こす大きな原因となります。その点から考えれば、キーパーは、どんな餌でも残さず食べさせられるかどうか・・・ということが大きな課題であり、空腹による喧嘩や共食いなどを起こさない範囲で、上手に腹を空かせ、上手に食べさせるという技量が要求されます。この「間隔決め」こそが、キーパーの「腕」を測る1つの目安であるといわれるのも、こうした理由があるからです。
 ただ、この見極め方ですが、実のところ「ここをこうして測定せよ」という公式のようなものは存在しません。同じ大きさの個体でも反応は千差万別ですし、それこそ「何度も何度も失敗しながら勘ドコロをつかんで行く」しかないのが実情です。稚ザリになればなるほど間隔は短く、育つに従って間隔を広げてゆくのが普通で、一般的には、稚ザリで毎日、1+くらいまでは1日おき、成体で2〜3日おき、老成個体で5〜7日おきといわれていますが、一晩でもあければ喧嘩を始める個体もいれば、一週間近くあけてやってちょうどよい個体もいます。また、個体の状況だけでなく、季節によっても間隔には変化が出てくるものです。まずは投餌時の反応を見ながら、現在飼育している個体の「頃合い」を見つけるようにしましょう。
 そしてもう1つ、ローテーションの最後に、ある種の「リセット」的な役割で組み込むのが、「飛ばし」と呼ばれる餌抜きです。表でいうFが、それにあたります。給餌を1回休むことで、個体に空腹感を与え、反応を再び高めさせることができるわけです。これも、個体によって異なりますが、通常、間隔を1.5から2倍に開けるようにします。当然、他の段階よりもトラブルが起こるリスクは上がりますので、それなりの注意は必要でしょう。
 間隔決めにしても飛ばしにしても、綿密に「何日」と決めなければならないわけではありません。規則正しく与えることに全力を注ぐのはナンセンスであり、むしろ、個体の動きに合わせ、柔軟に対処する方が大切です。いい加減・・・ではなく「良い加減」でなくてはなりません。



特殊な餌の組み入れ

 最後に、状況に応じたイレギュラーな餌組みについて御説明をしておきましょう。ハンバーグや冷凍赤ムシなどや、季節に応じた特殊な餌(繁殖促進、脱皮準備、越冬前後の食わせ期などに与える餌)を用いる場合など、様々な理由で従来のローテーションを崩さざるを得ない場合があります。特に、こういう性質の餌の場合、その大半が、いわゆる「ヘビー系」の動物質飼料で、どちらかというと水を傷めやすく、他の餌に対する嗜好性を一気に下げてしまうものが多いようです。何気ない給餌で、一気にローテーションを狂わせてしまう場合もありますから、注意が必要です。
 一般的にこういう餌を与える場合、タイミングとしては「仕上げ」の段階で・・・ということになりましょう。どうしても途中で与える必要がある場合は、その後を1つ飛ばすようにします。この際、複数飼育などですと、摂餌できない個体が出た場合、事実上2回飛ばしになってしまいますので、充分な観察が必要です。
 また、こういうタイプの餌の場合、あえて換水前日に与えるという方法もあります。多少食い散らかしが出そうな性質の餌でも、思い切って与えることができますから、投餌計画と換水計画を上手にリンクさせることで、投餌バリエーションを広げることが可能です。換水は、こういうタイミング以外にも、投餌とリンクさせて個体をコントロールすることが可能です。たとえば、強めに換水をかけることによって、餌に対する反応を多少なりとも戻す個体がいますので、こうしたアクセントを上手に使うのも1つの方法です(もちろん、強めの換水によって個体にストレスを与えたり、無駄な脱皮を促したりするマイナス点もありますので、むやみにこの手段を使うのは決して望ましくありません)。




 ザリガニ飼育では、もはや「常識」となりつつあるローテーション投餌ですが、その組み方や与え方になると、意外と面倒に思われる方が多いようです。個体の寿命やコンディションに大きく影響してくるだけではなく、1人1人のキーパーの「創意工夫」が大きく活かされるこの場面! しっかりとマスターして、最高のザリガニを育て上げてみませんか?