無個性という「悲劇」
〜 「ゴハチブーム」に殺された悲運のカマ 〜
(品川にて)
昭和59年2月のダイヤ改正で、東海道筋のEF58にも大きな影響が及び、それまでの名物列車であった品川-新鶴見間のゴハチ重連単回、単2033レも、相方であった宮原区のカマがつかない、ただの「単回」となりました。当然、注目度もグッと落ち、昼過ぎの品川駅に集まるカマ屋たちの数も、ずいぶん少なくなっていたのです。ただでさえ、スチームを噴かないEG機ばかりの宇都宮カマは、カマ屋からすれば魅力半分。お召し予備機だった172号機も、よくよく見れば白Hゴムの無粋なカマでしたし、唯一のツララ切り装備機であった89号機は、すでに運用を外れ「解体待ち」の状態でした。
当時、宇都宮のカマたちも、次々と働く場所を失いつつありました。状態の善し悪しに関係なく、検切れと同時に運用を離脱し、廃車されて行くカマが続出する中、話題の中心は、常に「このカマ、次の全検、入れるのだろうか?」ばかりだったのです。
そんな中、宇都宮ゴハチの最後の全検入りが109号機になった・・・という情報が入りました。水切り黒Hゴムにデフロスタ装備、何の特徴もない、ごくごくフツーの宇都宮顔・・・。比較的元気で運用抜けも少なく、その姿はコンスタントに見ることができました。臨スジや荷レの先頭に立って現れても、別に悲しくもなければ嬉しくもない、ごくごくフツーの宇ガマ・・・。カマ屋の間で「トーキュー」と呼ばれたこのカマが、まともに話題として取り上げられるのも、「最後の全検機」という理由あればこその話でした。
宮原ガマが消えて、すっかり寂しくなった昼休みの2033レ。今日は、いつも通りの宇ガマが、のんびりと出発を待っています。辛うじて生き延びることが決まり、誰もが「このカマが、宇都宮最後のゴハチになるのだろう」と思いながら眺める中を、のんびり、ひっそりと出発して行きます。
それからしばらく経って、カマ屋の輪の中に飛び込んで来たのは「パック電撃復活!全検入り」という情報でした。ツララ切り装備という「個性」が、89号機を死の淵から救い出したのです。ブームあればこその、大復活劇・・・。
多くのゴハチファンが両手を叩いて大喜びする中、1輌のゴハチが、ひっそりと大宮工場へと送られて行きました。無個性ゆえの悲劇、ブームゆえの悲劇・・・。「パック」よりも遥かに状態の良かったはずの「トーキュー」は、もしかするとゴハチを愛する多くのファンに、息の根を止められてしまったのかも知れません。
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