ただ、黙するのみ
〜 戦いを終えた静寂の中で 〜



(高崎第二機関区にて)


 新製、配置、充当、検査、充当、転属、充当、検査、充当・・・。一見華々しく思えるカマの生涯も、よく考えれば、実に地味で、実に黙々としたものです。本当に美しく、そしてキラキラした華々しい時期はごく僅かで、あとはひたすら働き、汚れ、そしてくたびれ果てて朽ち行く宿命なのかも知れません。
 くる日もくる日も、上州の厳しいからっ風に痛めつけられ、そして冬になれば越後の豪雪に立ち向かいながら、毎朝毎晩、三国峠の急峻な坂道に挑み続ける・・・。上越口のゴハチたちは、そんな過酷な環境の中を何十年も駆け抜けてきたのでありました。「次代のエース」として、鳴り物入りでデビューした新鋭のEF64-1000は、そんな峠道も楽々と乗り越え、颯爽と駆け抜けて行きます。そして、そんなルーキーたちを迎えた上越路に、ゴハチたち老雄の存在し続ける意味も価値もなくなりました。
 颯爽と運用に充当されるルーキーたちとは裏腹に、老兵は1機、また1機と運用を外れて行きます。あるカマは機関区脇の電留線へ、そしてあるカマは駅はずれの側線へと追いやられ、ただひっそりと、死出の旅路を待つのが常でありました。そして、何度もカマを検査し、ピカピカにして送り出した大宮工場には、色褪せてくたびれ果てたカマたちが、そんな場所から次々と連れてこられ、そして、二度と帰って来ることのない解体線へと押し込まれて行くのでした。
 北へ、南へと、多くのカマたちが出撃して行った昼下がりの高崎二区・・・。その静まり返った区内の、そのまた外れの電留線に、ひっそりと佇む疲れ果てたゴハチの姿がありました。数多くの優等列車を牽き、戦後のつらく、厳しい時代に、数多くの夢や希望を乗せて颯爽と駆け抜けたその勇者は、もはや何も語ることなく、ただただ黙って、最後の旅路を待っています。次にここを動く時は、廃回の時・・・。どうすることもできない時代の流れの中で、役目を終えた美しきカマたちは、静かに、しかし気高く、自らの運命を見つめているのでありました。もし、ブームの訪れがもう少し早ければ、絶対に1輌は残されていたであろう「上越型」・・・。SGの美しさとはひと味違う、渋い電暖灯の魅力と、固定式のスカートにデカいタイフォンカバー、そして、表情をキリッと引き締めるヒサシとデフロスタ・・・。限りなくボーイッシュで、限りなくスマートな美女だったからこそ、あまりに惜しい全機解体でありました。

 


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