横面一本っ!
〜 EF65 1062号機(新鶴見機関区) 〜



(東北本線 田端-大宮 にて)

今は何と呼ぶか分かりませんが、私が現役のカマ屋だったころ、車輌の正面を「お面」といい、駅のホームから、そこに停まっている車輌の正面を縦構えで撮影することを「面撮り」と言っていました。この撮り方は、いわゆる「鉄道少年」の典型的な撮影方法で、なおかつ一過言持つカマ屋たちからすると、最も軽蔑すべき撮影方法でもありました。駅撮りするなら、せめて反対ホームから車輪や側面も含めて全体を撮るのが「基本」であり、だいたいにおいてホームでカメラを縦構えすること自体、恥ずかしいことでありました。今となってはどうでもいいことなのですが、そういうヘンな価値観が、ファンを覆っていた時期でもあったのです。
ただ、面撮りは面撮りで、それなりに魅力もありました。駅撮りでは没個性の出来でも、特に走行時、アウトカーブの入口から、編成をバックにピタッと正面で止めると、独特の迫力ある写真になったのです。もちろん、アウトカーブのショットといっても、編成が途中で切れるようでは、これまた当時の価値基準からすれば「減点対象」になりますので、10輌に満たない程度の団臨や荷レなどでなければ、普通のカーブ上ですと編成を入れきった面撮りはできません。貨物のような長大編成ともなりますと、S字カーブなどで編成の長さ自体をごまかすか、障害物の少ない複々線クラスの線路構成で、なおかつそれなりのストレート区間を持ったカーブの進入口付近でないと、すべての条件を揃えることができないのです。結局、撮れる条件を満たす場所をロケハンする手間にめげてしまい、「普通の編成写真でいいじゃん!」という結論に落ち着くのがいつものことでありました。
例によって会社が休みの平日、「たまにはロクヨン1000でも拝みに行こう」と、ふらりと家を出ると、えっちらおっちら、千葉を飛び出しモセの大カーブに向かいます。
オンタイムでロクヨン1000の上り専貨を撮り終えると、今日の任務も終了。今から田端操に急げば、塩尻ロクヨンのコンテナも撮れるし、王子で降りれば、北王子支線のDE10ワム専も狙える。でも、ま、いいか・・・。特別でも何でもないスジをたった1本撮るだけで任務終了なんて、なんて贅沢な1日の使い方なのでしょう。あれもこれもと欲張らないのが、セミリタイヤ組の特権なのかも知れません。
カメラをしまい、てくてくと線路際を歩きます。せっかくなので、わざとのんびりと、全身の力を抜いて歩きます。その時、ふと、あと数分でもう1本、下りコンテナがここを通過することに気づきました。その時、ちょうど大カーブの進入口近くに立っていたのです。
「せっかくだから、もう1本撮ってから帰ろう。しかも、この場所なら、横位置で面撮りができるぞ。よぉし、久しぶりにバシッと編成入れて面撮りやってみっか・・・」
しまったカメラを再度取り出し、さっそく構図作りに入ります。四隅の切り取りとシャッター切りの位置決め・・・。時間がない分、ファインダーを覗きながら、テキパキと決めて行きます。こうした時間も、また至福のひと時・・・。
ひと通り決めるべきことを決めると、あとは、のんびりと線路の彼方を眺めます。近くで鳴る警報機の音。カメラを構えて待つと、隣の線路に京浜東北線・・・。また鳴る警報機、今度は反対側から沼南新宿ライン・・・。さすが、東京の大動脈です。そんなこんなで、何回かめの警報機が鳴った時、はるか彼方に、2つの明るいライトの光が見えてきました。「ヨシ!」 カメラを構え、ファインダーを覗いて四隅を確認し、そのままカマが切り位置までやってくるのを待ちます。「カシャッ!」
カメラを下ろし、視線を上げると、目の前を新鶴見のPFが重いコンテナを引き連れてゴトゴトと通過して行きます。編成の長さを表現するために必要だったコンテナの量もバッチリ! 今の言葉でいう「満コキ」状態・・・。フーッと、長い息を吐き、また、カメラをしまいます。連写全盛のデジカメ世代では考えられない、1/500秒への勝負と執念・・・。そんな短い時間のために費やすジリジリとした準備時間と緊張・・・。面撮りは、そんな昔の銀塩写真世代の醍醐味をもう一度思い出させてくれる、実に楽しい撮り方でもありました。

 


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