逆転したファンサービス
〜 田端操車場のEF80&EF64-1000 〜



(田端操車場にて)


「規則」というと、それ自体がある種の普遍性を持っている雰囲気に満ち満ちていますが、意外にも時代の流れには柔軟なようで、ちょっと目を離しているうちに、ビックリしてしまうくらい様変わりしてしまっていることもあるようです。
久しぶりに線路際に立ち、走り行く貨物列車を眺めて驚いたのが「消えた車掌車」「最後尾にくっつけられるヘンテコな赤い円盤」そして、真っ昼間から煌々と点灯されるカマのハイビームなのでありました。だいたい、きちんとしたテールランプが装備されている客レの最後尾にまで無造作に取り付けられる円盤の無粋さには、驚きを通り越して憤りほど感じさせるものです。ま、これも安全第一に考えられた素晴らしい規則ということで、仕方ないんでしょうけど・・・ね。

その昔、真っ昼間からカマが前照灯を灯すことなど、あり得ない話でした。出区前に区内で行なわれる仕業前点検の時に、区員を前に立たせて点検したりすることはありましたが、ライトはあくまでも「夜闇を切り裂く」ためのものだったのです。そんなカマたちを追い回す我々カマ屋にとって、昼間から点検以外でハイビームを点灯させるというのは、好意的な乗務員による、ちょっとしたファンサービス意外にはあり得なかったのです。

隅田川から引き出されてきた常磐線の貨物を牽くために、準備を整えていた古豪EF80が、重い身体を引きずりながら出区して行く時間です。別に何の変哲もないいつも通りのEF80・・・。肩に掛けたカメラを構えることもなく、ただぼんやりと眺めていると、踏切横に佇んでいるファンの姿を認めたのか、機関士さんが、突然ハイビームにしてくれました。「お! ハイビームか! せっかく気をつかってくれたんだし、んじゃ1枚撮っとくか・・・」 本来、予定がなかったカメラを構えて1枚、パチリ・・・。短い汽笛を鳴らし、ゴロゴロと通り抜けるカマの運転台に見える笑顔の機関士に軽く会釈をすると、操車場には、再び静寂の時間が戻ります。夕方の宇都宮ゴハチ入区までは、特に、何もすることがありません。

前照灯点灯が義務づけられた現在では、撮影するファンのために、ちょっとの間だけ消灯してくれるのが、機関士の「粋な計らい」なのだとか・・・。ネガに残された「今ならフツー」の1枚も、あのころは「特別な一瞬」だったのです。あの、当たり前のように田端で昼寝していたEF80も今はなく、隣にさり気なく写っている1001号機も、今となっちゃ茶色の特別機・・・。ファンサービスも、時代の流れに沿って変わって行くものなのかも知れません。

 


もどる