「キマワシ」という贅沢
〜 東海道本線のEF58 〜
(東京にて)
何につけても「効率至上」の現代、鉄道の世界でも客車列車の存在は極めて稀なものとなり、今や「カマが牽く客車列車」というのは、ただそれだけでも充分に価値があるものとなりました。そんな価値ある客車列車で、最近、本当に多く目にするのが、客車の前後にカマを連結して運転する「プッシュプル」です。
プッシュプルといえば、主として峠運用など見られる後補機連結形態で、その昔、一般的な平地でこうした運転がなされることは、非常に珍しいことでありました。実際、昔の写真やネガをひっくり返しても、ほとんどお目にかかれません。そうした「珍列車」が頻繁に見られることは、ある意味、とても羨ましいことなのかなぁ・・・と、本屋で鉄道雑誌を立ち読みしながらボンヤリ思ったりもします。
「でも、なぜこんなにプッシュプルが多いんだろう・・・?」
ふと、そんなことを考えていた時、気がついたことがありました。そう! これは、そうしなければいけない切実な理由があったのだ・・・ということです。
旅客列車の主体が客車から電車に変わったことで、1つ、不要になった作業があります。それが「機回し」。
ターミナル駅などで列車の運転方向が変わる際、牽引してきた機関車を一度引き上げ、客車の反対側へ送り込み、そして連結する・・・というあの作業です。推進回送運転が定番だった上野駅みたいなケースもなくはありませんが、その昔、多くの駅で、日常的にこうした作業が行われ、こうした光景を目にすることができました。東京駅などは「11番線」というホームのない番線があり、多くのカマ屋たちは、これを「機回し線」と呼びました。
毎週末のお楽しみ、東京駅14:00発の踊り子51号は、品川区の14系ハザを東京区のカマが牽いて行きます。臨スジのためカマはEF58とEF65PFの共通運用でしたから、何が入るかは行ってみないとわからない部分もありましたが、今日は、最後の可変式スカート装着機である124号機がやってきてくれました。
回送を牽いてきたカマは、いつものように神田方へ引き上げられ、ゴロゴロと11番線を通り抜けて、ハザの横浜方へと連結されます。珍しい都会の大雪の中、心持ち自らのスカートを誇らしげに、誰にも邪魔されない11番線をゆっくりと通り抜けて行きます。単機で形式写真っぽい構図になるとはいえ、たいていは構内誘導職員が旗を持って写り込むことは避けられませんし、機関士も窓から大きく顔を出しての安全確認走行ですから、いわゆる「綺麗な形式写真」には程遠い絵になってしまいます。そういう理由からか、多くのファンたちは、この光景を眺めるだけで、カメラを構えることはありませんでした。当日も、せっかくの雪景色にスカート装備機ということで、いつもなら撮らない1枚を、パチリ・・・という感じだったのだろうと思います。
時代は流れても、カマさえ残っていれば、それなりに形式写真は撮ることができます。しかし、機関士も誘導員も一緒に写り込んだ、この「作業」は、ほとんど過去の遺物となってしまいました。
「機回し」・・・当時は、この作業がそう遠くない将来、ものすごい贅沢なシーンになるなんて、思ってもいなかったのです。
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