「オンナ」に会いたい
〜 青梅線のEF15 〜



(奥多摩にて)


その昔、「鉄道」という趣味は男の特権でした。「特権」といえば聞こえがいいのですが、結局、女性には見向きもされない、というよりも理解されようのない、悲しいほど男臭い趣味の世界でありました。今では「ヲタ」の世界にも女性の進出が目覚ましいようですが、本当に99.9%女性の匂いがしない世界だったのです。当然、女性に関係する話題や言葉など出てこようはずがありません。
そんな中、たった1つだけ、女性を感じさせる言葉がありました。それは「スカート」・・・。そう、排雪器(スノープロウ)のことです。寒地仕様車輌や積雪地域に所属する車輌には、たいてい、この「スカート」が装備されていました。

「あのカマ、スカートはいてたっけ・・・?」
「こないだの全検出てきたら、参ったよ、スカート脱いでやんの!」

移動の電車内、つい、うっかりカマ屋同士でこんな話をしていて、隣に座っていた一般の女性乗客から、もの凄い嫌悪の目で睨めつけられたことも、ありましたっけ・・・(苦笑)。

ただ、同じカマでも、この「スカート」の有無は、見てくれを大きく左右する重要な要素の1つでありました。特に、(これは今でも変わらないかも知れませんが)機関車も徐々に古くなり、少しずつ置き換え廃車が始まるようになってくると、様々な細かい形態バリエーションが増えてくるもので、そういう中での「スカート装備」は、それだけで充分に魅力となる価値だったのです。
青梅線の石灰輸送、特に、拝島より先の区間は、軸重の関係から、長年、ED16の独壇場でした。あらゆる新型機の波も、拝島でガッチリ止まっていたのです。ところが、路線整備によってこうした制約が取り除かれると、もはや、ED16どころか、旧型電機自体の必然性にも黄信号が灯っていたのです。時代は、その緩やかな順番を待つことなく、一気に新型機、EF64へと滑り込んでいきました。
「立川のEF15も、そう長く持たないみたいだ。そういえば、あそこには2輌ぐらい、オンナがいたよな? 137と198号機だっけ?」
そうなると、むさ苦しい男どもは、目の色を変えてその「オンナ」を追い回します。それでなくても、自区発着運用が大半である立川区ですから、新鶴見や高崎二区のカマと違って、運用の先読みがしづらいのです。のんびりと悠長に構えている時間など、残っているはずがありません。土曜、日曜と、時間がとれるごとに、ダイヤとにらめっこをしながら、オンナ好きのカマ屋たちによる青梅線詣でが続きます。無駄な時間を積み重ね、EF64ばかりが刻まれた、無駄なフィルムが机の上に積み重なります。遠くから見えたライトが1灯! 「やった!EF15!」 しかし、199号機・・・。ウ〜ン
そんな溜め息と執念の果てに、ギリギリで目の前に現れてくれたのが、137号機だったのです。スカートだけでなく、デフロスタにホイッスルカバーもしっかり装備した完全寒地仕様機・・・。嬉しくないはずがありません。カメラを構える手にも、力がこもります。

そんな「オンナ待ち」のカマ屋たちの満足そうな表情を知ってか知らずか、ちょっと腰高の美しい「老婆」は、空っぽのホキたちを整然と従えながら、体中を軋ませ、最後の坂道を上がって行きました。

 


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