黄昏の元特急機
〜 東海道本線のEF65P 〜
(東海道本線 根府川-真鶴)
有名な幹線には、それぞれに「名所」と呼ばれる撮影地があり、面白いスジでも入る日になりますと、そこには朝早くから「三脚の林」ができあがります。もちろん、その場所がそこまで人気を集めるのは、それだけいい構図で撮ることができ、狙い通りの写真が撮れるからに違いありませんが、反面、雑誌やネット上でも見飽きるほど取り上げられることもあり、できあがった写真には、苦労の割にどうしても没個性の感じが出てしまうことも否定できません。珍しいスジだからこそ、あえてその場所を外して撮影場所を考える・・・というファンが意外と多いのも、ある意味、そういう虚しさを嫌う意識があることを如実に物語っているはずです。
そんな名所も、特別のスジが全く入らない、ありふれた平日ともなりますと、カメラを構える人の姿もほとんど見受けられなくなります。東海道本線の「超名所」である根府川の橋梁も、そんな日はひっそりとした自分だけの時間を送ることができました。広い大海原に向かい、南に開けたこの斜面は、冬でも殊のほか暖かく、ダイヤ片手に1人でのんびりとカメラを構えるには、うってつけのポイント・・・。団臨もなく、特別な臨貨もなく、土休日でもない日には、朝の上りブルトレを見送ると、あとは111系の上り下りの合間に、時折、定期貨物と荷物列車が姿を現す、それだけのことで時間が流れていきました。荷物はゴハチ、専貨はEF65か66、解貨はEF60か65・・・。定められたダイヤ通りに、予想通りのカマが行き来します。麗らかな陽射しにヌクヌクと暖められつつ、淡々とそうしたカマたちの姿をフィルムに刻み込んで行くのも、また楽し・・・。
ゴハチの荷物列車が賑やかな音を立てて通過し、何本かの普通電車が橋を渡っていった後、トンネルの向こうから姿を現したのは、何の変哲もないEF65Pの解結貨物。EF66に比べると、どことなく軽やかでもあり、寂しげでもありました。ブルトレ牽引機として、多くの列車を待避線に追いやりながら、我が物顔で往き来していたころの印象があまりに強いからでしょうか? 20系客車の美しい編成を従えて颯爽と駆け抜けるイメージには、ほど遠いうら悲しさが漂っていました。ちょうど真横から当たる陽射しに、車輪の1つ1つがしっかりと浮かび上がります。奪い取られたスカート回りに陽の光が当たっていないのは、カマにとって逆に嬉しいことかも知れません。確かに、いつも雑多な貨車ばかりを引き連れ、ゴロゴロと転がして行くEF60に比べれば、そこそこのスピードで、それなりに綺麗な編成を従えてはいます。しかし、どこかが足りない、どこかが違う・・・。
スジが通過してから何十分か後、再び111系が何本か通り抜けたその後に、ヘッドライトを煌々と輝かせ、EF66の長距離コンテナが駆け抜けて行きました。あまりに違う存在感と躍動感・・・。きっとあのスジは、このスジにどこかで追い付かれ、これ見よがしに追い抜かれて行くに違いない・・・と、溜め息混じりにダイヤを見返しますと、先行のスジには西湘で長停の横棒が刻み込まれておりました。
「横浜まですら先行させてもらえないのか・・・」
射し込む陽の光のせいか、どことなく赤っぽく感じられた根府川橋梁・・・。もう、夕方近いのかも知れません。
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