音のおくりもの
〜 信越本線のEF62 〜



(上野駅にて)


風景には、必ず「音」という大切なスパイスがついているものです。台所の風景には包丁の音、空港の風景には飛行機のエンジン音、夜更けの風景には犬の遠吠え・・・みたいな感じに。駅には駅の、もっといえば駅には駅ごとに、独特の「音」というものがあることでしょう。
東京の北の玄関、上野駅には、二つの音があります。ひっきりなしに発着する国電と発車ベル、そして電車が発着するたびに聞こえる雑踏・・・という音は、高架ホームの音。夜の地平ホームであれは、夜行列車の電源車エンジン音とスーツケースの音。様々な性格が入り交じるターミナル駅だからこそ、歌にまで歌われるのでありましょう。
そんな上野の高架ホームに、聞き慣れない音が聞こえてきます。ちょっと甲高いブロア音と、これまた賑やかなエンジン音。信越路の主であるEF62と、波動輸送の勇者である12系客車が、団臨スジでやってきたのでありました。牽引機を選ばぬ電力自主供給を実現した新型客車は、波動輸送の絶対条件です。しかも、電源車を必要としない分散エンジンの12系客車は、長大編成から数輌のミニ編成まで、どんな形でも対応できました。これほど便利で、そしてよく使われた客車もなかったのです。
ちょっとくぐもった独特のブロア音と、ちょっとうるさいエンジン音が、「そこに、いつもとは違う列車が停まっているよ!」ということを周囲に教えています。いつもと違う「音」が、行き交う雑踏のせわしい音の中で、自己主張をしているかのように・・・。
せっかくだから編成写真でも撮っておこうか・・・と、反対ホームからカメラを構えていると、そんな不思議な「音」に気づいたのか、初老の男性がカマに近づいて来ました。前から見たり、横から覗いたり、ひとしきり、その「音源」を観察しています。私たちファンにとっては当たり前の音でも、普通の方からすれば、やはり「珍しい」音なのかも知れません。ブロア音が高鳴るくらいですが、発車も間近・・・。信越の主は、短い汽笛を残すと、これまた賑やかな12系を引き連れて、鴬谷方面へと消えて行きました。男性は、そんな編成の姿を見送ると、反対側に停まっていた115系電車の中へと消えて行きました。上野駅には、また、いつもの「音」だけが残りました。

 


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