トッキュデンシャ
〜 上越線の183系 〜



(上越線 水上-湯檜曽・鹿野沢踏切にて)


今のファンがどうかは知りませんが、昔の「カマ屋」は、一般的に電車を軽く見るのが常でありました。客レと貨レこそが「スジ」であり「味もそっけもない電車や気動車などにカメラを向けること自体、恥ずかしいことである」・・・というような信念(というより、ほとんど独りよがりの「思い込み」)に支配されていたのです。ましてや特急電車なんて、ターミナルに行けば、いつでも停まっているものですから、ホームを走り回るガキどもが騒ぎ、安いカメラで写す対象・・・。わざわざ時間を調べ、大切な自分のカメラで撮影するなんて、とんでもないことでありました。せっかく上越路に入っても、最後の「こだま型」といわれた181系ですら、他の仲間がいる前では、シャッターを切ることをためらうほどだったのです。ですから、当時181系を淘汰するために続々と投入されていた新183系を写すなど、絶対に考えられないことでありました。実際、私自身、1枚も撮った記憶がなかったのです。
奥から出てきたネガをさり気なく見直してみると、古豪のカマたちに混じって、得体の知れない電車の写真が一枚・・・。よく見てみると、183系の「とき」ではありませんか! 鹿野沢の踏切付近で撮ったらしいこのショット。一体、どうして撮ったのだろう? とりあえず現像に出し、帰ってきたプリントを眺めてみると、手前のワイヤーとハシゴが目障りな以外は、そこそこ、形になっています。山の構図を引き出すために、わざと縦位置にしたのでしょうか? うっすらと雪化粧をした尾根と、赤茶けた線路脇のコントラストがいい感じです。
当時、この場所で上りスジを撮るときは、たいてい、踏切を渡った先の左脇にある空き地から、編成自体をサイド気味に捕らえるのが常道でした。こんなところまで出掛けてきて、わざわざ「お面」を撮っても仕方なかったからです。きっと、帰り際かなんかに、たまたまフィルムが一枚余ったので、振り返りがてら撮ったのかも知れませんし、こんな感じで撮れないだろうかというようなテストショットだったのかも知れません。でなければ、こんな編成の写真を撮るはずもないですし、それくらい、変な思い込みに満ちた、偏屈なカマ屋だったわけです。
時代が下り、今や、183系自体が稀少価値へとなりつつあるそうです。183系のスジ1本を撮るためだけに、一日を費やすというファンも、もしかしたらいるかも知れません。踏切が鳴りさえすれば姿を見せていたような、そんなトッキュウデンシャも、やはり、時代の流れは止めることができなかったようです。

 


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