Rookie's Power
〜 上越線のEF64-1000 〜



(上越線 水上-湯檜曽・鹿野沢踏切付近にて)


 峠の老雄・EF16の引退は、ファンにとって「1つの時代の終わり」を意味しました。旅客列車ならEF58、貨物列車ならEF15を従え、勇猛果敢に山道へと挑むEF16の姿は、あまりにも絵になりすぎていたのです。そしてEF64-1000の登場は、この老雄だけでなく、後に続くEF58やEF15までも過去のものへと葬って行きました。山道の景色が、ガラリと一変したのです。客レも貨レも、みんな同じ顔になりました。
「三国峠も、もう終わったよ・・・」
多くのファンが、この山道から去って行きました。
 そんな冬、どうしても気になって訪れてみると、あのブドウ色たちの「巣」には、メカニカルなブルーのボディーたちが集い、キラキラした体躯を休めていました。不思議なもので、スカートに付着した雪すらも新鮮に感じるものです。「水」の区札が、こんなにも綺麗に見えるなんて・・・。低屋根、左右・前後非対称、そして山男特有の賑やかなスカート周り・・・。確かに、老雄の姿には何事にも代え難い素晴らしいものがありました。でも、このルーキーだって、決して捨てたものではないのではなかろうか・・・? ふと、そんな想いが脳裏をよぎったのです。
 その日、下りの定期貨レの前に、臨時の車専貨が1本入っていました。幸運なことに、短い時間で2本立て続けに入ってくるのです。貨物列車全盛だった、往年の上越路を彷彿とさせるダイヤに心躍らせながら、いつも通り鹿野沢の踏切に立ってみました。出区してきたEF16を見送り、いつもドキドキしながら待った、あの場所でした。1両のEF64-1000が、軽やかなモーター音を唸らせて出区してくると、老雄とは全く違う汽笛を残して、駅方面へと消えて行きます。遥か彼方から聞こえる短い汽笛の連呼・・・。きっと、連結作業が完了したのでしょう。発車まで、あと3分・・・。
 ふと、違う方向から汽笛が聞こえました。びっくりして顔を上げると、早くも次のスジのための補機が出区してきていたのです。おぉ! これはいい感じかも・・・。そう思った瞬間、踏切の警報機が鳴り始めました。車専貨の出発です。
 向こうから聞こえる長い汽笛、そして、ガチャガチャガチャーンという、貨レ独特の発車音・・・。側線で待機するEF64-1000の横を、めいっぱいにパワーを上げた2輌のEF64-1000が通過して行きます。軽やかなモーター音2つの後を、ジョイント音だけで粛々とついて行く自動車専用貨車たち・・・。老雄とはひと味もふた味も違う、カッコいい風景が、そこにはありました。
 踏切の警報機が鳴りやむと、側線にいたEF64-1000が、再び短い汽笛を残して、駅方面に消えて行きます。再び訪れる、静寂な時間・・・。

「なかなか、カッコいいじゃんよぉ・・・。ヨシ、しばらくコイツを追っかけてみっか・・・。」

 新型機と聞くだけで、とにかく不快になり、目障りにしか思えなかった自分の心が、ちょっとだけ変わった瞬間でありました。

 


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