最高の笑顔を見せて・・・
〜 田端機関区のEF65PF 〜



(田端機関区にて)


 さて、タバソー(田端操=前項を参照のこと)に集うマニアたちは、足を運ぶようになってから最初の数回こそ、目の前に停まっているカマを一生懸命撮影するのですが、見慣れるというか飽きるというか、回を重ねるにつれ、目の前のカマにカメラを向けなくなることが大半でした。それでも、珍しいカマや「並び」があればカメラを向けることもありましたが、どちらかといえば「撮りに来る」というよりも「喋りに寄る」という感じでしょうか? 今の若いファンからすれば「よだれモン」のカマたちが居並ぶ姿をボーッと眺めながら、取り留めもない話をしたり、スジ情報などの交換をしたり・・・と、そんな感じでありました。
 その日も、例によって三々五々タバソーに集ったファンたちは、ああだこうだとつまらぬ話に花を咲かせていました。休翌日でウヤが多かったせいでしょうか? 心なしかEF65PFの姿が多くみられます。昨今では廃車が始まったPFも、当時のファンからすれば、完全なOut of 眼中・・・。そこに何輌たまっていようと、どう並ぼうと、関係ないことでありました。
たまに出てくる話題ですら、
「こないだのサロンに入ったのPFだったんだぜ!」
「うそぉ〜、アホくさぁ〜。行かなくてよかったぁ!」
「向こうのゴハチ並び撮りてぇんだけど、手前のPF邪魔だよなぁ」
という程度が関の山・・・。ファンにとって、彼らはカマであって「カマ」でなく、悲しいかな「カス」であり「カベ」でしかなかったのです。

 道路を挟んでタバソーの反対側にある田端機関区の、そのまた端っこに、洗浄機が装備された側線がありました。今日は1輌のPFが入っています。洗浄機を出てきたPFは、サイドステップのある付近に停まると、静かにパンタを下げました。
 機関士が去ってしばらくしてから姿を現したのは、バケツとブラシを手にした機関区員・・・。トシのころは初老でしょうか? 今にも口笛を吹き出すのではないかとさえ思えるほど、にこやかに、そして爽やかにブラシをかけて行きます。時折、勢いよく浴びせられるバケツの水は、くすんでいたカマの色をどんどん鮮やかにし、太陽の光を、よりいっそうまぶしく映し出します。
 当たり前のカマの、当たり前の光景でありました。いつもなら、気に掛けることすらないはずでした。でも、ふとその時、なぜだか自分自身わからず、無性にカメラを構えたくなったのです。もちろん、周りのファン友だちに、今さら「PFの写真を撮る」んだなんて、恥ずかしくて言い出せるはずもなく、話を続けながら何気ない表情で銀箱からカメラを取り出すと、まるでファインダー調整でもしているかのような素振りを見せて1枚、パチリ・・・。「あ、間違えてシャッター切っちゃった!」みたいな顔をして見せながら、何気なくカメラを銀箱に戻すと、また話題に参加する・・・。こうやって、こんな1シーンがフィルムに刻まれたのでした。
 何年もたった後、「もし、こいつに機関車トーマスみたいな顔があったら、きっと笑っているに違いない。満面の笑みをたたえながら、ブラシをかけているオッチャン機関区員のことを見つめているに違いない」・・・と、そんなことを思わせてくれる1枚が、こうして残っています。パンタも上がっておらず、下回りも見えておらず、機関車写真としては最低の部類に入る1枚かも知れません。しかし、こうして見ると、どちらかといえば無表情なPFの、これ以上にない「いい顔」が刻み込まれた、素晴らしい1枚ではないか・・・と、思えてならないのです。

 


もどる