外産種飼育に何度かチャレンジされ、長期飼育や累代繁殖などの経験をある程度お持ちの方から多く寄せられる質問をまとめたコーナーです。回答に関しては、ザリの世界に1年以上浸っている方を想定しておりますので、ザリ飼育用語などはそれなりに御存知であることを前提に、解説なしで使わせていただく場合があります。どうぞ御了承下さい。

最終更新日 平成21年5月28日



ザリガニに関する質問




飼育に関する質問








両性具有個体はオス? メス?


 具体的な事例報告は、実際に養殖が行われているアメザリ、ヤビー、レッドクロウ、マロンなどに限られていますが、それらの種で見る限り、生殖活動時に機能するのは「オス」の面だけだとされています。
 様々な個体で、毎年のように交配を続けていると、たまに、こんな個体が登場して、面食らうことがありますが、「両性具有個体」とは、その名の通り、オスとメスの両方(つまり、オスの生殖突起とメスの産卵口の両方)を持った個体のことで、孵化後チビたちをしばらく育て、いざ性別ごとに選別しようとする段になって気づくことが多いものです。一般的にこうした個体は、繁殖上の障害(近親交配による血統弱化など)によって起こる、一種の奇形であるとされますので、「珍しい!」と喜んでばかりはいられないかも知れません。事実、これらの個体は、繁殖に用いてもうまく行かないことが多く、佐倉でのケースも、ほとんどが失敗に終わっています(成功した数少ないケースでも、機能はすべてオス側のみでした)。飼育する上で、特に弱いなどといった報告はありませんが、やはり何らかのトラブルを持った個体ではありましょうから、多少気は使ってやった方がよいかも知れません。脱皮時などの危険性は、健常個体と比較すると、当然ながら高いと考えて然るべきです。東南アジアなどで大規模養殖などがなされている種の場合、今後もこうした個体が入ってくる可能性はあろうかと思いますが、繁殖に使えない危険性があり、なおかつ弱化の一兆候であることを考えれば、こうした現象を「価値」として考えるのは少々厳しいものがあるでしょう。



稚ザリの成長スピードに差が出始めているが。


 これは、それ以前に他の生き物の繁殖を経験され、ザリガニの繁殖に初めてチャレンジされた方が多く持たれる疑問ですが、ザリガニの場合で見る限り「非常に一般的な現象」であり、それ自体に特に大きな問題はないだろうと思われます。
 ザリガニは、種やメス個体の大きさによっても大きく違ってきますが、1回の繁殖で数十個から数百個の卵を産みます。大きなメスになると千個以上生む種も少なくありません。仮にそれだけ生んだとしても、当然ながら、自然下において無事に成体まで成長するのは数匹が精一杯であり、ある意味、この産卵数は「そういった自然淘汰を見込んだもの」であると考えるのが、生物学上一般的なものです。もちろん、これは「外敵からの捕食」を意味したものですが、ザリガニの場合は当然共食いをしますから、そこまで見込んだ数であると考えても、決して誤りではありません。
 ザリガニに限らず、どの生き物でも多少の成長差は出るものですが、ザリガニの場合は特に顕著で、孵化後数カ月が経過した時点で、それこそ「親子かと見まがうほど」の差が出るケースも見られます。確かに、この原因には「餌が充分に行き渡らない」ということが考えられますから、完全単独飼育にすることで、多少なりとも解消はできる・・・とされていますが、実際に単独飼育をしてみても、個体によってどうしてもスピードに差が出てしまいますから、これは、本質的な個体の資質による要因も少なからず影響しているのではないかというのが現在までの見解です。累代繁殖を続ける場合には、この部分をよく見極めておくことが大切だといえましょう。
 なお、累代繁殖のための選り抜きをする場合、この成長スピード差がすべてか・・・というと、必ずしもそうはいえない部分があります。普通、累代繁殖には、必ずそれなりの目的があるもので、その目的に合致した個体を選り抜くことが最も大切だといえましょう。一部に「第一成長個体群」であることを、ある種の「価値」とする考え方があるようですが、最も早い成長を見せる「第一成長個体群」の個体が万能か・・・というと、決してそうではないのです。詳しい内容につきましては割愛しますが、万能どころか、とんでもない落とし穴があることも付け加えておきます。



フーセン個体は血統上の障害?


 何らかの目的に沿ってザリガニの繁殖を行なう場合、常に血統の面ばかりが重視される傾向があったため、最近再び出回るようになったフーセン個体についても「血統上の問題、または交配方法のミスなどによって発生する」というような主旨の説明がなされる場合があるようですが、この現象は、あくまでもキーパーやブリーダーの育成ミスによって発生する問題であり、弱化など、血統上の要因によって発生するものではないと言えます。同じ障害であることには違いありませんし、脱皮不全の多発や繁殖障害など、症状的に酷似している部分もありますが、連続的近親交配などによって発生しやすい稚ザリの「溶け」やツノ個体の発生、そして脱皮不全の多発や繁殖障害などとは全く性質の異なる現象だということを御理解下さい。従って、一部の国内繁殖ヤビーに見られるような「パンパンに膨らんだ個体で、掛け合わせたらすぐに奇形個体が出た」などという事例も、「膨らんでしまっている」「奇形が出た」という各々の症状は、全く別の要因によって発生しているのだと考えるべきでしょう。
 交配方法や血統などとは一切関係なく、孵化した稚ザリたちは、しばらく経つと徐々に成長格差が見られるようになってきますが、この段階で「絶対にフーセン個体になってしまう」ことを宿命づけられている個体は、本来、1匹もいませんし、いてはならないことです。育ち始めた稚ザリのうち、最も早く大きくなってくるグループを、便宜上「第一成長個体群」と称していますが、いいペースで育っていることをいいことに、高温・高栄養などの環境でさらに成長速度を上げて育てきったり、無駄な強制脱皮や次々と収容する水槽を変えるなど、飼育環境を変えてしまうことで、一種の「オーバーペース」状態になるのが、フーセン個体の発生する基本的なシステムなのです。また、育成するキーパーが意識してそういうことをしなくても、無意識のうちに水槽内でそういう条件が揃ってしまえば、特に第一成長個体群の個体の場合、膨らんでしまう可能性が高い・・・ということになりましょう。従って、血統上全く問題のない個体同士から採れた仔であっても、育成をミスすればフーセン個体は簡単に出てきてしまいますし、かなり濃いインブリーディングであっても、育成の段階でこういう細かい配慮をしておけば、フーセン個体が出てこないということになります。ザリ事典でも触れてあります通り、元々フーセン個体は、ヤビーだけでなく、アメザリの一部特別色個体にも見られた現象ですが、昨今の国産ヤビーで、こうした現象が多発しているのは、ブリーダーが育成の段階で、そうした部分までの配慮をしていないか、あるいは「育成期の環境に対する意図的な注意を払わないと、こういう個体が出てしまう可能性がある」ということを知らずに育成しているかのいずれかであるケースであろうと思われます。
 ちなみに、ヤビーにせよアメザリ特別色個体にせよ、高品質な個体を安定して生産しているプロ・ブリーダーの方々や、場数を踏んで経験値的に繁殖技術を体得しているベテラン・キーパーの場合、こうした膨れを防ぐため、意図的に一定期間の低温環境を設定したり、無加温での越冬を経験させるなどの工夫をしていることが多いようです。プロ・ブリーダーの間では、ザリの育成だけに限らず、こういう作業自体のことを「さらし」または「寒ざらし」などと称するそうですが、育成の段階からこういう部分にしっかり配慮し、キチッと寒ざらしをしている個体であれば、少なくとも余計に膨らんだ個体をつかまされる危険性は低くなりましょうし、プロの方々も含め、孵化後の一定期間、あえて多少高めの水温に設定して、微妙な時期を乗り切らせてしまう方法(高温クリア)は古くから知られていますが、それはあくまでも一時的なことであり、そのまま育てきってしまうことは、逆にマイナス面が多い部分もあることを、私たちキーパーは、しっかりと理解しておかねばなりません。
フーセン個体は、脱皮前後における突然の自切や自殺、環境が変化した後の疲弊・拒食による斃死などが起こりやすく、また、適切な対処・改善方法、抜本的な治療方法などもないため、キーパーとしても非常に困ってしまうのですが、こうした事例が特に青系ヤビーに多く見られるのは、高温設定で青体色を揚げる手段をとる場合が多い・・・という環境的背景によるものです。
なお、一部に「寸詰まり体型=フーセン個体の特徴」という説があり、その結果「ウチの個体は特有の寸詰まり体型をしていますが、フーセン個体みたいな障害は出ていません。安心していいのでしょうか?」という御質問なども多く寄せられております。確かに、事例数から見ても理論的に見ても、そうした体型の個体にそういう事例が多いのは間違いありませんが、一般的にその個体がフーセンであるかどうかについては、全般的な体型によって特定するのではなく、脱皮格差の出やすい部分と出にくい部分との差によって見極めるのが普通です(実際、アメザリとヤビーとでは、膨らみ方やチェックポイントが全く異なります)。ザリ界においても、随分長いこと使われていない言葉であったため、飼育歴の浅いキーパーやブリーダーの中には、完全に意味を取り違えている方もいらっしゃるようですが、「膨らむ」というのは、特定の体型を指す言葉ではなく、症状を指す言葉であり、「フーセン個体」とは、そういう症状を起こす危険性の高い個体を指すということを知っておく必要があります。



「ペア売り」は、活用すべき?


 最近でこそかなり少なくなりましたが、フロリダ・ブルーやアメザリ変色個体の一部など、メスなどが完全にプロテクトされてしまって入手できず、ずいぶんと悩まされた時期がありましたが、最近は多少の構成比格差こそあれ、どの種もメスの入手は可能となってきています。1匹売りだけでなく、実際に「繁殖」を目指すキーパーにとって、ショップの「ペア売り」は、非常に魅力的なものだと言えましょう。特に、パラスタシダエ科など、初心者キーパーにとってオス・メスの見分けが難しいグループなどは、ショップ側ですでに見極めてくれるわけですから、非常に楽であるとも言えます。
 さて、この「ペア売り」についてですが、グッピーやディスカスでよく見られる「ペア」単位のケース、そしてアロワナなどでよく使われる「仮想ペア」などのケースを、ザリにも応用させたものであると考えられます。ザリガニの場合ですと、入荷の少ないマイナー種やイレギュラー輸入種などに多く見られます。また、ヤビーやレッドクロウなどでも、こうした売り方をしているショップがあるようです。
 ただ、これが、グッピーやディスカスでのそれのように、即繁殖へと持ち込むことができる「完全なペア」になり得るかというと、正直、疑問を感じる点も少なくありません。その理由として、まず、第一に挙げられるのが血統の問題。グッピーやディスカスなどにおいて、こうした「ペア売り」が成り立つ背景には、きちんとした血統管理による調整があります。もちろん、オスとメスとの2匹売りを「ペア売り」と称するいい加減なショップもゼロではありませんが、根底にしっかりした血統管理なくして、これは成り立たないわけで、グッピーなどの場合は、やはりこうした部分がしっかりと管理できているからこそ、ペア売りというものが充分に機能しているのであろうと思われます。
 となると、国内における血統管理がゼロに近いザリガニの場合はどうなるか・・・。結果は、申すまでもないことでしょう。ザリガニにおける「ペア売り」の大半は、単に「入荷した個体をオス、メスに分けて、1匹ずつ組んで販売するもの」だといっても過言ではありません。同腹の兄弟であるかどうかすら配慮されないケースがほとんどです。さらに、一部のショップでは、何の計画性もなく殖やしてしまったアマチュア・ブリーダーの稚ザリを買い取って、そのままオス、メスに分けてペア売りしているケースがあります。「買ってきたペアで仔を採ったら、孵化後どんどん溶けてしまった」「簡単だというヤビーの繁殖が全くできない」というケースは、往々にしてこういうペア組みが原因であったりもするのです。
 次に、実際の繁殖を考えた際の現実性を挙げねばなりません。養殖文献などをある程度読み込んで行くと、随所に見受けられるのですが、ザリガニの場合、基本的に1:複数繁殖体制が望ましいとされ、特にマロンなどですと、1:1では厳しい場合があります(養殖文献で望ましいとされているオス:メス比は1:3〜5程度)。互いに何度も繁殖を繰り返したヤビーやレッドクロウなどならば、1:1でも難なく行ける場合がありますが、そういった種であっても、初めて組ませる場合は、互いに相応の「選択」をさせるパターンが一般的ですから、そういう意味で、最初から1:1で構成するには、多少の危険を伴う可能性があるといえます。
 同じ観賞用生物でも、鳥類のキジやクジャクなどの場合は、最初から「3羽つがい」と称して、オス1・メス2の販売形式が一般化しており、本来ならば、ザリについても、そうした方式の方がよいのではないかと思われます。現状の「ペア売り」についても、キーパー側が様々な問題点や注意点を理解し、メス数を始めとした組み方を充分に調整できることを前提に活用することが望ましいと考えます。どうしても無理である場合を除けば、基本的には「1匹買い」が無難だといえましょう。



近親交配、何代ぐらいまで大丈夫?


 順調な累代繁殖を続ける上で、近親交配が好ましくないことは当たり前のことです。しかし、輸入が不定期であったり、プライベート便で今後の輸入が見込めない場合などのように、否応なく近親交配を続けなければならないケースも出てきましょう。
 この場合、種類や個体の状態、今までの血統状況によっても大きな変化は出てきますが、ヤビーやレッドクロウなどのケースで見た場合は、純粋な兄弟個体同士の交配を続けますと、2代目(1回交配)までは何とか行けても、おおむね3代目(2回交配)くらいから少しずつそれらしい影響が出始め、5代目くらいで目を覆う結果になる場合が多いようです。上の項目でも触れましたように、最初のペアがすでに兄弟であった場合などは、いきなり最初の繁殖からつまづくこともあります。
 主な現象としては、最も一般的なのが落卵と孵化不全。交尾が完全に確認できているにも関わらず、まるで無精卵であるかのような落ち方をし、1週間程度で卵は壊滅します。孵化までたどり着けても、独り歩きを始めた途端に次々と溶けてしまったり、まるで「窒息死」したかのように、ごろごろと死体が出てきます。また、無事に成体になったとしても、脱皮不全や甲殻不硬化といったトラブルが発生しやすく、突然神経系統がおかしくなったかのような行動(横たわったりひっくり返ったりしてもがく・・・など)を始め、1ヶ月程度で弊死することもあります。ツノ個体が出始めるころには、血統的にかなりヤバい状態であるといっていいでしょう。
 対策としては、血統維持のために必要な個体数を確保することが一番ですが、それが無理な場合は、一般的熱帯魚のケースと同じく、最初の繁殖において複数血統を設け、交差させながら濃化を食い止めるなどという努力は必要でしょう。



「夏種」と「冬種」どう違う?


 一般的に「夏種」「冬種」というのは、ザリガニを繁殖(抱卵)時期によって分類した考え方です。夏種が「春先に産卵して夏ごろまでに孵化が完了する」もので、有名どころではアメザリ、ヤビー、レッドクロウなど。冬種が「秋口ごろから徐々に産卵を始め、ひと冬越した翌春に孵化する」もので、同じくウチダやクーナック、そしてマーレーあたりということになりましょうか。ニチザリの場合、産卵こそ初春ですが、秋に交接を終えていることを考えると「冬種である」ということになるのかも知れません。
 交尾(交接)から産卵を経て抱卵、孵化へと至る道筋は、基本的に両者とも変わりませんし、飼育においても、最低ラインさえ維持していれば、大きな違いはないといえます。
 しかし、実際に繁殖させる場合、一般的には、冬種の方が難しいとされます。それは、冬期の一定期間、(特に水温の面で)水質及び溶存酸素量を維持させる必要があるためで、これが必要以上に上下してしまうと、卵にとっては非常に大きなダメージとなります。よくウチダなどで、「順調に抱卵していたのに、3月に入った途端に次々と落卵してしまった」などというケースを耳にしますが、大半はこうした原因によるものだろうと考えられます。
 もちろん、水槽飼育下においては、こうした「冬種」グループでも、春から夏ごろに掛けて産卵から孵化に至ってしまうケースがあり、充分な見極めが難しい部分もありますが、その後の成長やその後の繁殖までをトータルに考えるのであれば、やはり、ある程度こうした季節の流れに沿った繁殖計画を立ててやるのがベストであるといえましょう。持ち腹個体を孵化まで漕ぎ着けさせたものの、結局稚ザリが育ちきれなかった・・・というケースは、単に「環境が変わってしまったから」という理由だけではなく、こうした細かい差異が微妙に影響を及ぼしている可能性も考えられるからです。



白個体と青個体(赤個体)を交配すると、どんな色の個体が生まれる?


 ここでは、白個体が「餌によって作られた個体ではない」ということを前提に話を進めます。
 アメザリの白個体を交配に用いる場合、相手が白個体でなければ、青個体だろうと赤個体だろうと、最初に生まれてくる仔は、基本的にすべて「赤」となります。まれに、色合いの薄い(オレンジ?)個体や薄青の個体なども生まれますが、絵の具の調合みたいな形での期待はできないと考えてよいでしょう。
 その後の動きについては、メンデルの法則通りの数値で遺伝するという説と、そうでないという説があるようですが、佐倉ザリガニ研究所としては、後者を支持します。「メンデルの法則通り」というのと「メンデルの法則っぽい」というのは全く似て非なるものであり、「メンデルの法則通り」というからには、それに則した数値データが必要だからです。「メンデル通りだよ!」という説を唱える方の場合も、改めて内容を細かく聞いてみますと、大半は「2回目で白が半分より少ない数で出てるから」とか「4分の1くらい」など、極めて曖昧なものですし、数値上でこれを証明したデータは、未だかつて一編も発表されていないのが実情です。
 それでも、ほぼメンデルの法則通りであれば、私たちは研究者ではないのですから、わざわざここまで厳格さを追求する必要はないのですが、1代目でいきなり白が出たり、混ぜたら最後、何代かけても青が戻らなかったり・・・実際にメンデルの法則からは程遠いとしか思えない事例も現実には存在しているのです。こうした実情から考えると、「メンデルの法則に沿って発現する」と断言するには、かなり無理がありましょう。「メンデルの法則っぽい推移を見せることもある」という程度までが限界ではないでしょうか? ザリガニの体色は、様々な条件が複雑に絡み合って初めて発現していると思われますので、ひと口に「青」「白」「赤」といっても、その中身は様々な事例があると思われます。そういうことを考えれば、すべてをメンデルの法則で片付けようとすること自体、無理があるのかも知れません。
確かに白個体の場合、一旦通常色個体と交配した上で、再び別の白個体との掛け戻し交配を進めて行きますと、白い仔が再び出てくることは確かめられています。白個体は、青個体やその他の特別色個体と比較すると、再現性が強いのではないかと思われる部分はありましょう。また、オレンジやベタ赤などについては、白個体や青個体の掛け戻し作業中に出てくる場合もあり、そうして産まれた個体を販売しているケースもありますが、通常色個体の繁殖過程で出てきた同色個体と比べると、2、3代目での色褪せや通常色戻りが多いようだ・・・という報告も相応数寄せられています。「固定度合いが低い」とまで言い切るのは飛躍し過ぎですが、少なくとも白個体と同じイメージで捉えると厳しい部分はありましょう。
 なお、白個体メスを通常色個体のオスと掛け合わせた場合、そのメス個体自身の体色に変化が出ることがあります。水色っぽい斑点が出てきたり、胸脚部分が薄いピンクに染まったりなどといったケースで、これがどういう理由によるものかは、わかっていません。そのまま飼育を続け、数回脱皮すると、また元の白色に戻りますが、非常に興味深い変化のひとつだといえます。



「強制脱皮」の回数は、どれくらいまで許される?


 最初に申し上げておきますが、この「強制脱皮」という言葉は、我々アクアリスト内で自然発生的に使われるようになった言葉であり、学術的に広く認められた言葉ではありません。欠損箇所の調子がよくなかったり、甲殻に異様なシミなどがあって、状態維持の上で心配される場合などに、意図的な環境変化を起こすことによって脱皮を促進させることを指す、便宜的な言葉であることを御理解下さい。学術面・養殖面で意図的な脱皮を促す時に用いられる方法は、個体の眼柄を摘出してしまうというもので、これが飼育という分野に応用できないことは、いうまでもないことですから・・・。
 さて、この「回数」ですが、成体の場合ですと、1回の脱皮に掛かるエネルギーは並大抵ではありませんので、年間1〜2回にとどめておくべきだと思います。それでなくとも年1〜2回はレギュラーの脱皮をしますから、それに2回を加えれば年間4回。これは非常につらいことになります。脱皮前後の個体のコンディションを見てもわかる通り、1回の脱皮が個体に掛ける負担は大きく、それを故意に連続させれば、結果は自ずと見えてきましょう。ですから、強制脱皮という手段は、あくまでも「最終的な選択肢」上にあるべきものだと思います。強制脱皮を決断させる最も大きな原因となっている甲殻の状態悪化などは、水質・水温などといった環境の維持で、充分に避けることができるからです。
 強制脱皮自体、個体にとっては決して望ましいことではないことは御理解いただけたことと思いますが、意図的なものならまだしも、無意識のうちに「強制脱皮させてしまっている」ような場合は、かなり重篤な障害を引き起こす場合があります。個体の体色を維持させるために通年高温で飼育したり、稚ザリを1年キッカリで繁殖可能サイズまで仕上げたり、繁殖後の水温・水質を稚ザリベースで推移させるなど、人間都合の飼育をする場合に多いようですが、これは個体にとって非常に危険であるばかりでなく、特に成長期でこうした状況を経験させてしまうと、成体になった後で突然死や脱皮ミス、さらには自殺などといった様々な障害が起こることがありますので、充分に気をつけなければなりません。「過ぎたるは猶及ばざるが如し」と申しますが、ザリガニの場合も「早く育てば育つほどいい」というわけでは決してありませんので、累代繁殖をしながら長く付き合いたいというのであれば、特に成育期の場合、個体へ掛かる負担やリスクまで充分に考慮した発育コントロールをして行くことが望ましいと思います。



濁水環境が望ましいとされるが、どうしたらよいか?


 アメザリやヤビーなどといった湖沼〜湿地帯棲息種などの場合、その棲息域自体の水が恒常的に濁っていたり、様々な要因によって透明度が低くなっていることも多く、一部の種の養殖文献の中には、ハッキリと「ある程度は濁水(透明度の低い水)の方がよい」と記述されているものが見受けられます。特に繁殖などのケースですと、親個体のストレスを軽減させるという意味で、濁水環境を推奨する養殖文献も少なくありません。マロンなどの場合、濁水という要素とは少々異なりますが、ストレス軽減のための遮光や水面上からの遮覆方法などについて述べられているものもあります。また、一部の現地情報などによって、水槽飼育などについても、意図的に濁水化させようという方法が提唱されているケースもあるようです。そうなれば「濁水にしないと、長期飼育は厳しいのではないか?」という極端な考え方まで導き出されることがあるかも知れません。
 しかし、実際に水槽で飼育することを考えた時に、このような自然の濁水環境を再現することは極めて難しく、また「濁水でなければ絶対にいけない」というわけではありません。少なくとも、ヤビーやアメザリで見る限り、清水(透明度の高い水)でもストレスのない飼育や繁殖が充分可能ですし、マロンなどの神経質な種であっても、レイアウト自体を工夫し、観察する側が充分配慮することで、濁水環境を用意するのと同等の効果はもたらすことができる・・・と考えてよいでしょう。
 確かに、何とかその環境に近づけてやりたいというキーパー側の配慮はわかるものの、自然下において「水が濁る」というのには、実に多彩で複雑な環境要因があるもので、極めて小規模で、かつ閉鎖的な水槽において、それを再現するのはかなり困難であると言わざるを得ません。また、人工的な飼育水への着色(濁水化)は、その方法上、個体にとってむしろ危険である場合もあり、場合によってはかなり重篤な障害を引き起こす原因にもなり得るものです。我々のレベルで無理なく作ることができる濁水の代表格は、やはりグリーン・ウォーターでしょうが、同じグリーン・ウォーターでも、池などで見られるものと水槽で作るものとは、環境が違うためか、飼育に使っていても、なぜかうまく行かないことが多いようです。また、メチレンブルーなどによる着色も、(白ザリなどを使ってみるとわかりますが)エラへの負担が避けられないため、お薦めできません。さらに、泥などによる自然濁水も、濾過システムへの負担を考えれば、実質上不可能です。
 「濁水の方がよい」という考え方は、水質面での問題というよりも、むしろ、鳥などといった陸上の外敵から姿を隠すため・・・というような環境的側面の非常に強いものであり、そうした可能性のない水槽飼育では、決して必要不可欠なものではないと考えてよいでしょう。もちろん、特定体色の個体作出を目指して飼育している場合、こういう要素も決して小さくない部分であり、こうした部分の細かい観察や工夫なども大切ですが、これだけで完成に持ち込むにはかなり無理がありますし、逆に、これが不充分であるがゆえに色が揚がりきれない個体がいるとすれば、それはまだまだ未完成である証拠でもあるわけです。
 なお、採集個体などの場合、最初の一定期間は、どうしても落ち着かない場合があります。そういう時には、光量をある程度抑えめにしたり、浮き系統の水草を入れてやる(養殖場では、発泡スチロール板を浮かせたりもします)と効果があります。



ビタミンAを強めに供給しても赤が上手く揚がらないが?


 アメザリのベタ赤個体や白ヒゲ個体を飼育しているキーパーさんから時折寄せられる質問です。確かに、赤い体色であれ青い体色であれ、個体の体色を構成する上でいわゆる「カロテノイド成分」は必要不可避であり、そのためにビタミンAを含む餌を与えることは、本当に大切なことです。意図的にこの成分を除いた餌を与え続けることで、ある種の「発現異常」状態を作り、個体を青から白色へと変化させる実験は、ザリガニ自由研究の世界では、半ば「定番」ともいえるものでしょう。こうした情報が行き渡っているからこそ「与えなければ色が落ちるのだから、きちんと与えれば色は揚がる」という発想が出てくるのも、無理からぬことです。確かに、こうした実験で色を抜いた個体にビタミンAを含む餌を与えてみれば、ものの半日も経たずに色は出てきますし、継続して与えれば、遅くても数日〜数週間で、体色は完全に元へ戻ります。
 しかし、こうした作業によって「失われていた色が戻る」ということはあったとしても、その個体が持つと思われる、ある種の「資質」的なものや、様々な内的、外的要因によって形成された「その個体が持つ本来の色」を越えて、赤や青などの色を発現させることは難しいと考えた方がよいでしょう。このことは、「色抜き実験」が世に知られる前、たとえば、相模川ふれあい科学館などでの展示発表などの前段階から、すでに多くのキーパーや学芸員などの手によって比較実験が行なわれており、ビタミンA自体は「色を揚げる」という性質のものではなく「不足すると、色落ちという形で体色に影響を及ぼす」という性質のものとして考えるべきことを意味しています。一時期「黄金ザリガニ」というものが話題を呼び、これ自体、白個体に色素入りの餌を食べさせることでの「着色」であることはすでによく知られた話ですが、個体にとってのビタミンAが、そういうような役割を持ったものでないことは、きちんと理解しておきたいものです。
 実際、様々な種類の様々な個体を飼育し、繁殖作業を丹念に繰り返して行くと理解できることですが、個体の体色というものは、ある特定の原因だけで決定づけられるほど、単純なものではないと考えてよいでしょう。確かに、個体ごとの資質のようなものも存在するでしょうが、それが、あたかもサラブレッドのように遺伝して行くわけでもなく、また、飼い方や環境によっても大きく左右されてしまいます。ある環境では非常に望ましい体色だったのに、あるいは代々ずっといい色をしていたのに、キーパーが変わって収容している水槽を変えた途端にダメになった・・・なんて話は、非常によく耳にすることです。
 このような意味で、よりよい体色の個体作りを目指すのであれば、あくまでも現在自分が飼育している環境下において、様々な要素から総合的に検討し、その環境において選択して行くことが一番大切だと思います。餌自体も、確かに大切な要素の1つであることは間違いないでしょうが、その要素だけで体色の問題が簡単に解決するほど、問題は単純でないようです。
 なお、一部で「青色揚げの餌を与えると青くなる」という情報があり、たとえばディスカスやアロワナ向けのホルモン系色揚げ飼料を併用するとよい・・・という話を聞きますが、ザリガニの青色は、ホルモン系色揚げ剤によって揚がってくるものではありませんので、この点は充分な注意が必要です。



個体をより巨大化させるためには広い水槽がいい?
それとも単独飼育の方がいい?


 特定外来生物規制法による指定以降、飼育を続けるキーパーさんの興味は、「種類」から「大きさ」に少しずつ移って来ているようで、寄せられる質問の内容も、いわゆる「大きくするにはどうしたら?」というようなものが増えてきました。その中でも、餌や個体の捕獲状況と並んで質問が多いのが、こうした「環境」に関する質問です。ネットなどで公開されている様々な情報などを整理すると、「広い水槽で飼育すべき」という説と、「単独飼育で飼うべき」という説とに二分されているようですね。
 確かに、これら2つの要素は、それなりに重要なものであると思います。脱皮に障害が起きないよう、充分なスペースを確保する・・・という観点からいえば、広い水槽で飼うことは非常に望ましいですし、脱皮時のトラブルを避けるという点では、単独飼育による安全確保は非常に大きいことです。しかし、本来であれば、この2点は全く観点のことなる要素であり、比較してどちらかを優先させたり、優位性を持たせたりするものではないと考えた方がよいでしょう。より大きく、形の綺麗な個体を健康な状態で作出させたいと考えるのであれば、むしろ、こうした要素のどれが効果的かを考えて行くのではなく、個体のサイズアップが図られる唯一の機会である「脱皮」という行為を、いかに安全に、順調にこなせる環境を作れるか?という部分を総合的に考えるべきだと思います。
 種類によっても異なりますが、ザリガニは、孵化後最初の1年間で優に10回以上、そして、成体になって後は、通常年に1〜2回の脱皮を、決められた季節にこなして行きます。一般的なアメザリであれば、成体になってからですと春と秋、越冬の前後に1度ずつ脱いで行くと考えればよいでしょう。だとすれば、単に「広い」「静か」という要素だけでなく、季節変化をきちんと認識させることも重要でしょうし、同じ広さの水槽であっても、脱皮しやすい環境を作ってあげられるかどうかでも、結果は大きく異なってきます。こうした部分を総合的に見極めた上で、1つ1つの要素を掘り下げて行かなければ、幾ら時間を掛けたとしても、納得行く結果は見出しづらいのではないかと想います。
 なお、一部に「巨大化血統」なるキャッチコピーもあるようですが、種としての一般的な体長の差異以外で考えれば、少なくとも現段階で、特別に大きさの点や成長の点で優位性を持つような血統や特性を持っている個体群というものは一切確認されていません。また、一部には、ある種の強制脱皮的手法を弄して個体を巨大化させるテクニックを重んじる話を聞きますが、個体への負担を考えると、むしろ非常に高リスクで危険な方法だと思います。本当によい個体を作出したいのであれば、手間だけではなく、時間も存分に掛けてやる必要はあると考えるべきでしょう。