生態に関する質問編

これからザリガニを飼育しようと思っている方、またはザリガニ飼育経験の比較的浅い方から多く寄せられる質問をまとめたコーナーです。できるだけ平易な内容でまとめたつもりですが、やむを得ず一部でザリ飼育用語などを用いる場合もございます。「深迷怪ザリガニ事典」なども御参照の上、御覧下さい。何でも聞くんじゃなくて、自分で調べることも大切ですぜ!

最終更新日 平成24年1月1日










ザリガニの体色はカメレオンのように変わる?


 体色の変化について、変幻自在な保護色が「売り」であるカメレオンとザリガニとを同等に扱うのはかなりの無理がありますが、ザリガニも、外的環境(水の色や底の色など)によって、多少なりとも色が変わることは知られています。「釣り上げた時には鮮やかな赤だったアメザリが、白いバケツで飼っているうちに薄い茶色に変わってしまった」・・・などというケースは、まさにそうした事例の典型でしょう。
 飼育でも、自分の好きな体色を出させるために、こういう性質を上手に活用するケースがあります。水槽周りや底砂・バックスクリーンの色を変えるばかりではなく、たとえばアメザリの場合、赤を綺麗に出すためには、水質を弱酸性の軟水にするという方法が知られています。また、多少の褐色水(ブラックウォーター気味の色)にすることでも、効果の出ることが知られています。流木のアクが溶けだした水などで飼った時などが典型的であり、これは水質面でも、前述のパターンに合致しています。となれば、アメザリの赤を出す場合に使う水は、ROシステムやイオン交換樹脂などを用い、化学的に作り出すよりも、流木やピート、広葉樹の枯れ葉など、多少色づくような形で作る方がよいということになりましょう。
 こういうような「外部環境の設定による色の出し方」は、アメザリだけでなく、オーストラリア産ザリガニのうち、養殖の盛んな種(ヤビーやレッドクロウ)でも、様々な方法が知られています。特に「ブルー」系は、食用以外にも、ペット用として出荷されているため、あえてこうした環境で飼育している養殖場もあるほどです。これらの形で色を出した個体は、餌質によるものとは違い、病的な変化ではありませんから、体力的にも強健で、繁殖にも使うことができます。しかし、これは、あくまでも「外環境に合わせた一時的な変化」であり、環境が変われば、また本来の色に戻ってしまう場合が多いといえます。ショップなどで並ぶ場合、こうした部分まではとてもわかりませんが、「飼育しているうちに体色がくすんでしまう」などというケースは、これが原因の一つとして考えることができましょう。また、「繁殖に使ったら、生まれてきた仔の色が、親とは全く違っていた」というケースでも、これが原因として考えられます。その個体の体色を評価することは決して悪いことではありませんが、それが永続的な性質のものであるかどうか・・・となると、少々厳しい部分もありそうです。
 従って、体色を自分の好みで固定させたいと思う場合は、こうした要因を「あくまでも補助的なもの」として捉えるべきで、根本的な固定のための方法は、やはり、目指す体色を持った個体同士の地道な累代繁殖以外になさそうです。



ザリガニは溺死する?


 これについては、最初に申し上げておきますが、ザリガニは、基本的に魚と同じ「水生生物」です。エラを始めとした呼吸器系統が異常を起こした場合などを除いて、魚が決して溺死しないのと同じように、ザリガニが溺死することは決してありません。
 ただ、時折「水深のある水槽などで飼育していたら死んでしまった。やっぱり陸地が必要なのか?」というメールをいただくことはあります。事実、そうした形で死ぬことは絶対にないか? となると、ないとは言い切れません。
 ならば、なぜそうなるのか・・・ということになるのですが、その真相は、ズバリ「酸欠」です。つまり、「溺れて死んだ」のではなく「水中の酸素がなくなって、酸素を取り入れられなくなって死んだ」のだ・・・ということになりましょう。魚も、エアレーションなしの環境では、長く生きて行くことができません。それと全く同じことで、ザリガニにもエアレーションが必要なのです。水位を下げ、エラを大気に触れさせる(この場合は、エラが完全に湿っていることが条件です)ことにより、とりあえず呼吸させることが可能で、多くの児童向け飼育書では、この方法が書かれていますが、一貫して申し上げております通り、これは、ザリガニ本来の呼吸方法ではありません。ザリガニは、水中の酸素を取り入れて呼吸している生き物なのです。
 学術的には、アメザリやヤビーといった強健種でも、溶存酸素量3ppm以下になると危険で、1ppm以下になると生きて行けないとされています。河川上流域に棲息する種や、水依存度の高い種などの場合、常に酸素飽和量の75%以上を維持しておかねばならないと苦しい種もいるほどです。飼育の段階では、わざわざ溶存酸素量を測定する必要もありませんが、エアレーションによって確実な送気をするか、上部濾過などといった酸欠を防げる濾過システムを採用し、個体を酸欠から守る必要はあると思います。



ザリガニが口から泡を吹いているが。


 カニの泡吹きというのは、非常によく知られており、「さるかに合戦」にさえ登場する定番のシーンですが、もし、本当にザリガニでそうした現象が見られるのならば、かなり重篤な異常が発生しているか、かなり危険な状態であるかのいずれかであると考えるべきです。
 そもそも「カニの泡吹き」とは、本来水中でエラ呼吸しなければならないカニが、陸上生活に適応するために得た一つの「防御能力」です。しかもこの現象は、呼吸する上で必要な、エラを取り囲む水分(呼吸水)が不足気味になり、粘り気が出てきたために発生する一種の注意信号であり、カニ類を飼育しているキーパーは、自分の飼育個体にこういった状況が発生すると、何らかの形で個体に水分を供給するのが普通です。
 ザリガニの場合、カニと比較しても、こうした機能はほとんど発達していませんから、本来の環境では泡など吹くはずもありませんし、それでも吹いているとすれば、それだけ深刻な状況なのだということが推察されます。これは、ほとんど水のない水槽などで飼育した場合に発生するのでしょうから、一刻も早く水槽に水を入れ、エラに充分な水分を含ませる必要があります。
 なお、水槽に充分な水があって、その中を動き回っているザリガニ(特に大型個体)が、ごくまれに口のあたりから気泡を数粒出すことがありますが、これは通常の呼吸で発生した二酸化炭素ですので、何の心配もありません。水中にいる場合、エラは完全に水に浸かっており、水中に溶けている酸素を摂取しています。



「3つのグループ」とは?


 ザリガニは、分類上、大きく3つのグループ、アスタシダエ科・キャンバリダエ科・パラスタシダエ科に分かれます。これを日本式に読むと、アスタシダエ科=ザリガニ科、キャンバリダエ科=アメリカザリガニ科、パラスタシダエ科=ミナミザリガニ科ということになりましょう。アスタシダエ科のザリガニは、主にヨーロッパを生活の舞台とし、ノーブル・クレイフィッシュなどがその代表例にあたります。北アメリカ西岸が原産のウチダザリガニも、このグループに入ります。これに対して、キャンバリダエ科のザリガニは、「アメリカザリガニ科」という名の通りアメリカが主な生活の舞台。現在では最も大きなグループで、最大勢力を誇るアメリカザリガニが、これに含まれます。ただ、アメリカザリガニのイメージからは思いもつかないような地味な種類や、特殊な生活形態を持っている種類もあり、比較的バラエティーに富んだ種であるといえましょう。アスタシダエ科とキャンバリダエ科は、元々、1つのグループとされてきましたが、ホッブズ博士ら(Hobbs,hobbs.jrら)の研究により、現在では2グループに分けて考えるのが一般的です。
 一方、パラスタシダエ科のザリガニは、基本的に南半球が生活の舞台。ヤビーやマロンなどがこれにあたりますが、太平洋を遠く隔てた南米大陸に棲息するザリにも、このグループに属するものがいます。このグループは、かなり古い時代から前述の2グループと別れ、独自の進化を遂げてきたといわれています。その点で見ると、北半球のザリガニとは、交尾器の形状など、細かな点に大きな違いを見て取ることができますよね。
 さて、こういう分け方で見ると「ニホンザリガニはどうなるのか?」ということになります。素人目で見る限り、雰囲気的には限りなくアスタシダエ科っぽいのですが、現段階ではキャンバリダエ科に属することになっています。分類学上では、ニホンザリガニがウチダザリガニよりもアメザリに近いなんてにわかには信じられませんすが、これについては、そのうちもっと信じられないことが起こるかも知れませんよ(笑)。



ショップによって、ザリガニの名前が違うが。


 だいぶ改善されてきたとはいえ、様々な理由によって、観賞魚業界におけるザリガニの呼称は現在も統一しきれていないのが現状です。詳しい理由については触れませんが、非常に紛らわしいのも事実でしょう。たいていは、「〜ロブスター」という名前で売られていますが、通常「ロブスター」という名称は海産ザリガニないしはイセエビなどに対して用いられるものですから、ザリガニを指すものとしては適当な名称でありません。それでもここ数年でだいぶ統一されてきましたし、「〜シュリンプ」という名称で扱われることがほとんどなくなった分、よくなってきたのではないでしょうか?
ただ、品種名の統一に歩調を合わせるかのように、一部の種の中には、体形や体色などという一部の要素でもって、様々なブランド的名称を付けて販売される場合があり、特に初心者キーパーの場合は、そういう部分に踊らされてしまうこともあるようです。もちろん、それぞれに相応の意味を持って名付けられているわけですから、そういう部分は尊重すべきであろうと思いますが、体形にしても体色にしても、極めて不確実かつ不特定な要素を持ったものであるのは間違いないので、長年、ザリガニと向かい合ってきたベテラン・キーパーの中には、そうした部分を価値化することに対して疑問の声が挙がっているのも事実です。購入にあたっては、名前だけで判断することなく、よく個体を観察してから決めた方がよいでしょう。きらびやかで魅惑的な名称に左右されず、自分の目で、自分の価値観で個体を選ぶことが最も大切です。



アメザリの学名は、どう表記すべき?


 アメリカザリガニの学名については、以前、一部の観賞魚雑誌で「Procambarus clarki」種と表記されたため、現在でも時折この綴りを見受けることがあります。しかし、実際には、世界中のほとんどすべての文献で「Procambarus clarkii」という綴りが採用されており、こちらを使用することが妥当であろうと思われます(当ホームページでもclarkiiということで表記を統一しております)。
 たかだか「i」の1文字が入るか入らないかだけの違いかも知れませんが、現実問題として、学術界では非常に大きな問題であり、1文字の着脱でも、決して許される問題ではありません。なぜかというと、学名というのは、1つの種に対して1つを割り振るということが厳格に決められているからです。ですから、1文字でも違えば、それは「別種」ということになってしまうわけです。
 ザリガニの学名については、他の熱帯魚と同じく、種分類研究の動向という影響もあって、ちょくちょく変わってしまったり、複数の名前が併用されていたりするケースが少なくありません。最近のマロンのケースもそうですし、今後も、こうした動きはかなり頻繁に発生してくることでしょう。飼育する側からすれば、単純明快な方が有り難いことは言うまでもありませんが、学術面でも、未だ新種が記載され続けているくらいですから、多少の違いが発生してしまうのは仕方ない部分もありましょう。
 学名に関する混乱は、表記だけではなく、読み方についても頻繁に発生しています。たとえば、「ヤビーは、チェラックス属ですか? それともケラクス属ですか?」という質問などですね!
 こういう場合、属名を示す「Procambarus」は、キーパー間ですと圧倒的に「プロキャンバルス」と読まれていますが、一部雑誌では、わざわざ「プロカンバルス」という読みが採用されますし、先ほどの質問の例でいえば、ヤビーが振り分けられている属名「Cherax」は、「チェラックス」と読む人も「ケラクス」と読む人もいます。
 これらの事例も、どちらが正しい・・・ということはありませんし、JCCでも、学者の先生が多く使われ、古くからメンバー間で読み合っている方を採用しているに過ぎないのです。学名とは、元々がラテン語による表記ですから、綴りが正確であればよい・・・と言ってもよいでしょうし、結局は同じものを英語読みするかローマ字読みするか・・・というだけの違いなので、いちいち目くじらを立てるような性質のものではありません。ザリガニに限らず、広く熱帯魚の例を見ても、こうした事例は、後発のショップや団体、メディアなどが、自らのオリジナリティーを際立たせるために意識して読み換えてみせることが多いので、キーパー側としては、必要以上に過敏になる必要もないでしょう。そういう意味で考えれば、一部ショップに見られる「こういうように読まなければならない」という指導は、少々的外れである・・・ともいえます。


冬場の脱皮は異常?


 ザリガニにとっては、冬は、夏と同じく厳しい季節ですが、こんな時期のまっただ中に突然脱皮などをされてしまうと、キーパーとしても驚きを隠せないのが普通でしょう。
ただ、これについては、飼育されている水槽の環境条件によって異常であるとも正常であるともいうことができると思います。その条件とは「水温」のことであり、たとえ冬場であっても、加温飼育あるいは自然下よりも暖かい場所で飼育していれば、外はどうあれ、水槽内は季節的に「冬」ではないわけですから、何かの拍子に脱皮してしまうことも少なくありません。特に、購入してきて自宅水槽に導入したり、あるいは水槽チェンジで全く違う環境の水槽に収容したりした場合などは、真冬でも関係なく脱いでしまうことがあります。もちろん、これは、季節の変化に伴う脱皮ではなく、環境の大きな変化に伴う脱皮ですから、こういう水温下などで脱皮をした場合であれば、特に問題があるとは思えません。
 しかし、水温が低い状態(いわゆる1ケタ水温など)では、個体はほぼ完全な越冬モードに入っているわけで、個体自体に脱皮をするだけの体力的余裕もなく、また、必要性もないはずです。従って、この状態でわざわざ脱皮するということは、その個体自体に、そういったハンデキャップをおしてでも脱皮しなければならない、何か重大な問題が発生している可能性があると考えることができましょう。重大な欠損箇所が発生したり、秋脱皮が不完全で春まで待てない場合など、その原因には様々なものがありますので、一概に「これ」と原因を特定することはできませんが、いずれの場合であれ、こうした場合は、放置すると危険な場合もあるので、確認された時点で、とりあえず水温を18〜20度程度まで引き上げ、餌を与えて様子を見てみましょう。もちろん、急激な上昇や高水温水槽への急な移し替えは大変危険です。また、複数飼育の場合、他の個体とそのまま同居させるのも好ましくありません。できるだけ速やかに単独飼育へ切り替えるとともに、水温上昇はゆっくりと、1日〜2日程度かけて少しずつ引き上げて行きます。
 実際に飼育してみるとわかりますが、脱皮自体、非常に多くのエネルギーを必要とする反面、低温下での摂餌能力は大きく下がっているはずです。栄養が不足した状態での脱皮は、脱皮不全はもとより、甲殻不硬化などの問題が発生しやすくなりますので、個体管理はもちろん、その後の個体コンディション回復が非常に難しくなります。思い切って冬眠状態を打ち切って下さい。水温を上げた段階で安定できる状況ならば、早めの冬眠打ち切りによる大きな障害はないだろうといわれています。
 また、稚ザリの場合は、成体と比較して脱皮頻度が高いので、冬場の無加温状態でも平気で脱皮してしまう元気な個体が時折見られます。それはそれで構わないことですし、当然、異常ではありませんが、特に生まれて間もない秋仔の場合、体力を考えても、基本的には加温(軽めの15度程度で充分)をして冬越しさせた方が無難でしょう。
 なお、加温状態であれば問題ないはずの脱皮ですが、厳密な意味でいえば、こういった脱皮ですらも、決して望ましいものではありません。個体の成育自体には全く問題なくても、成体の場合、通常の脱皮は、あくまでも「春や秋」なのです。従って、この時期に脱皮するということは、明らかに「体内時計」がずれてしまっていることを意味しますから、春になってから、いざ繁殖させようと思った時にうまくかからなかったり、あるいは見切り産卵をしてしまうなどといった問題も発生する可能性が否定できません(うまく行くケースも、もちろんありますが・・・)。種に関わらず、長期間飼育に成功しているキーパー諸氏は、一様に「季節感覚正常化」の重要性を語るもので、個体を長生きさせるためには、やはり棲息地に準じた「季節設定」が必要だ・・・といわれています。水槽飼育ですと、水温の安定などという面で、なかなか難しい場合もありますが、こうした部分はできるだけ考慮してやりたいものです。


脱皮したのに、胸脚が再生しないのはどうして?


 通常、触角や胸脚など、何らかの理由で欠損箇所が出てしまったザリは、脱皮を経ることでその箇所を少しずつ再生させて行きます。ですから、通常の触角・胸脚欠損なら、脱皮を経ることで、間違いなく再生するということになります。
 しかし、実際に飼育して行くと、きちんと脱皮をしたにも関わらず、欠損箇所が全く再生しないというケースに出くわすことがあります。また、再生の兆候が見えていたにも関わらず、脱皮後に見てみると、再びなくなってしまった・・・というケースもあるようです。一般的な飼育書などでは「取れてしまった腕は、2〜3回の脱皮で元通りになりますよ!」なんて書いてあるものですから、一向に再生の兆しがない欠損箇所を見て、どうにも納得が行かない方も少なくないことでしょう。
 もちろん、触角や胸脚などを欠損した場合、基本的には脱皮を経て再生して行くのが大原則ですし、再生の初期段階(いわゆる「カリフラワー」段階)を除き、脱皮というチャンス以外で欠損部が大きく回復することはありません。しかし、こうした再生作業には膨大なエネルギーと時間を要するため、脱皮作業自体に大変なエネルギーを要する大型個体になると、なかなか欠損箇所の再生にまでエネルギーを振り分けられないのではないかと考えております。特に第1胸脚などの場合、徐々にとは言っても、個体によっては全長の3分の1近い容量の肉体や甲殻を作り出さなければならず、胸脚自体の必要性を加味しても、再生を最優先しなければならない理由は見つかりません。実際、こうした欠損箇所の不再生現象は、一般的に大型の老成個体ほど多く報告されており、逆に生後1年未満の亜成体(いわゆる育ち盛り世代)では、特殊な原因がある場合を除くと事例数は極めて少ないのが特徴です。生物学的な解明は充分になされていませんが、こうした傾向から踏まえると、この現象が老成個体に片寄る理由は、脱皮頻度が低い上に、脱皮自体に多くの栄養を必要とするほか、個体自体の持つ再生能力が衰えてしまっているために、再生機能が充分に働ききれないためではないかと考えています。脱皮でも、周囲への警戒などから「脱ぎ急ぎ」をした場合、稀にカリフラワー部分がそのまま取れてしまうこともあり、こうなると、再生は一からやり直し・・・ということになります。
もちろん、大型個体や老成個体でも再生するケースは普通にありますし、カリフラワーも脱皮後には、きちんとした胸脚として機能するようになります。ですからキーパーとしては、基本的に脱皮前の充分な栄養供給と、静かな脱皮環境の整備などに全力を尽くすことに主眼をおくとよいでしょう。カリフラワー発生期には、あえて高蛋白系の強い餌ローテーションや、貝肉などの組み込みで効果をあげているキーパーもいます。100%とまでは行かなくとも、様々な事例を参考にしながら、粘り強く再生を促して行くようにするのがベストだと思われます。


ザリガニはなぜ臭いの?


 これは、日本の一般的なザリガニ飼育において最も多い「誤解」の1つであり、特に、ザリガニを飼い始める方の増える春から夏にかけて多く寄せられる質問ですが、ザリガニの名誉のためにハッキリと申し上げさせていただくなら、答えは「No!」 ザリガニは臭くありません。もちろん、私たちがザリガニに対して、ある種の「ひいき目」で見ているわけでも、あるいは我慢しているのでもありません。また、生き物である以上、全くの「無臭」ではありません。しかし、ザリガニ自身「臭いから、飼うのをやめなさい」といわれるほどの臭い、つまり、人間を含めた他の生物が不快感を持つほどの臭いは発しませんし、スカンクなどのような発臭物質を分泌したりするような器官も能力もありません。つまり、ザリガニ水槽から出てくるという臭いは、ザリガニ自身に起因するわけではないのです。
 では、一般的に言われる「臭い」の源は何なのか・・・ということになるのでしょうが、その犯人は、ズバリ「水槽の中の水」なのです。
 従来の「背中が水に隠れる程度の量」による飼い方では、元々水量が充分ではない上に、エアレーションなどによる水流がない分だけ水が澱みやすく、かなりのスピードで水の傷みが進行して行きます。また、投入後水中で放置された餌も腐敗が進みますし、しかもその餌が、児童書にあるような「パン屑や魚の切り身、そしてゆで卵」という状態では、これらを含んだ水が腐って臭いを発しない方がおかしいといえましょう。
 悪化するに従って臭いを発するようになるのは、飼育水だけでなく用水路や下水道でも同じことで、これがザリガニのコンディション悪化に拍車をかけ、最後はザリガニが死んでしまい、腐ってしまうことによる強烈な臭いへと行き着くわけです。
 このように、ザリガニ飼育に関する「臭い」の責任は、ザリガニ自身ではなく、キーパーの管理体制に起因するのだということを、(ザリガニの名誉のためにも)強く申し上げておきます。佐倉でも、常時30本強、多い時期には100本近い水槽が稼動しますが、「臭い」で家族から非難されたことは一度もありませんし、JCCのメンバーからも、こういう「苦情事例」は聞いたことがありません。もし本当に臭いが発生するのであれば、一般家庭で何十本も水槽を回しているキーパーなどの場合、たちまち地域的な社会問題になってしまうことでしょう(苦笑)。たっぷりの水で充分なエアレーションを施し、残餌は早めに取り除いて定期的な換水を心掛ければ、決して眉をしかめるような臭いは発生しないものです。
 なお、これに関連して、年に何回かは「かなり臭いの強いドブ川でザリガニを釣ってきましたが、そういう水で飼った方が長生きするのですか?」というような逆パターンの質問がきます。たぶん「ザリガニは臭い」という印象があるので「臭い水を用意しなければダメなんだろうか・・・」というような疑問に結び付くと思うのですが、基本的には「そうした必要はない」という回答となるでしょう。濁水環境の可否など、細かい要素まで考えた場合には、いくつか再検討すべきポイントもありますが、ザリガニだって「本当は汚い水よりも綺麗な水の方がよい」わけで、決して、そうした環境をわざわざ選んで棲息してるわけではないのです。せっかく縁あって我が家に来てくれたザリガニですから、綺麗ないい水で、気持ちよく暮らしてもらいましょう。


ザリガニは好んで地上を歩くの?


 これは、特に春の終わりから夏の終わりごろまでに多く寄せられる質問で、実際、地域によっては、特に雨上がりの翌夜など、多くのザリガニが道路を歩いている・・・という情報も何件かいただきました。また、水場より100メートル以上離れているところで見つかったが・・・という情報が寄せられたこともあるほどです。
 まず、可能か不可能か・・・? という点ですが、これは、ザリガニの体構造、特に呼吸器の構造を見る限り基本的には可能です。ザリガニの鰓は、水中に溶けている酸素を取り込む形を基本としていますが、鰓の表面が湿った状態であれば、空気中の酸素を取り込むことも可能だからです。従って、こういう事例が出てくること自体に関しては、決しておかしなことでも不思議なことでもありません。実際、夏場など、水中の溶存酸素量が少なくなる時期には、ザリガニが水面近くまで上がってきて体を横倒しにし、鰓を水上に出して空気中の酸素を摂取しているシーンはよく見受けられます。
 しかし、こうした現象自体が、ザリガニにとって好ましいことであるか? あるいは日常的なものであるか・・・? となると、答えは別です。確かに、鰓自体は、そうした状況に対して多少なりとも耐え得る構造になってはいますが、あくまでも水中での生活を基本としており、水からの酸素摂取を基本とした作りになっているからです。
 動きが決して機敏ではないザリガニにとって、陸上はおろか、水面近い場所というのは、極めて危険性の高いエリアです。また、鳥や小動物をはじめとした外敵も、水中に較べると非常に多く、また、それと比較して餌などが多いわけでもないため、ザリガニが水上に上がってくる積極的な理由というものは、何もありません。テレビなどでも有名なオーストラリア・クリスマス島のレッドクラブ(アカガニ)のように、森林を日常生活の場とし、繁殖時だけ大挙して移動する・・・というものでもないのです。鰓自体の基本構造は同じでも、ザリガニと陸棲カニ類とでは、鰓の陸上適応度合いが全く異なるものです。
 こうしたことから、このようなケースの場合、ザリガニにとって何らかの望ましくない状況が発生したため、その棲息する場所から移動せざるを得ない状況に迫られたというふうに考えるのが自然でしょう。少なくとも「好んで歩き回る」というのは、多少首をかしげざるを得ません。
 移動せざるを得ない理由ですが、毎年、特定の場所で数多く発生することや、こうした現象が数多く発生する時期的な部分などから推察すると、高水温や渇水などに伴い、酸素量や水質自体など、水そのものに何らかの問題が発生している可能性は低くありません。また、繁殖期などとの兼ね合いから見ると、一時的な棲息密度の急騰なども、条件としては入れておかしくないはずです。まだ、考えられる可能性としてはいくつかありますが、いずれにしても、何らかのやむを得ない理由が発生し、仕方なく出歩いている・・・と見るのが妥当でしょう。
 なお、こうした事例ですが、すべてのザリガニに対して、同じ状況が当てはまるわけではありません。ひと口にザリガニといっても、種類によって、こうした酸素摂取能力には格差があり、それが一般的に「水依存度」という括りで語られることが多いようです。現に、ミナミザリガニ科は、生物学的分類の他に、こうした依存度合いによって、大きく3つのグループに括る方式が広く知られておりますし、飼育においても、そういう状況を知っておくかどうかが、結果に大きく影響してくるといえます。


脱皮したのに大きくならない。なぜ?


 春や秋、脱皮のシーズンになると、決まって寄せられる質問です。ザリガニは、基本的に脱皮という機会を通じて段階的に成長(体長が大きくなる)しますので、脱皮前と後とで体長がほとんど変わっていないと、やはり心配になるものです。
 これには、大きく分けて2つの要因が考えられます。脱皮後に使われる新しい外殻自体の問題(内的要因)と、脱皮後の個体を取り巻く環境に関する問題(外的要因)です。
 まず、脱皮についてのシステムから考えてみましょう。意外と誰も不思議に思わないのですが、新しい殻は、現在の殻の内側に作られるにも関わらず、その殻が前の殻よりも大きい・・・という点。当たり前のように見えて、実は当たり前ではなく、そして、このシステム自体を冷静に見つめ直さないと、こうした問題は解決しません。
 もちろん、小さいものの内側に大きなものは作れませんから、新しい外殻は、いわば「未完成」の状態でデビューしてくることになります。内側で新しく形成された外殻は、あたかも「しぼんだ風船」のようになっており、脱皮後、ザリガニは大量に水分を飲んで外殻自体を膨らますと同時に、前もって胃の中に貯め込んでおいたカルシウム分を急速に外殻へ沈着させ、殻の硬度を上げて行くわけです。種類や個体、そして状況にもよりますが、脱皮後2〜5日程度の時間が必要となります。
 この際、新しい外殻自体が充分な大きさでなかった場合などは、当然、脱皮自体が順調に行ったとしても、個体はさほど大きくなりません。原因としては、たとえば脱皮前の栄養供給が充分でないとか、個体にとって負担になるほどの水温変化があったとか、さらには、血統の弱化などといった先天的な障害なども考えられます。しかし、こうした場合、むしろ脱皮自体が成功し得ないケースに至ることが多く、統計的なデータこそありませんが、こうした内的要因をすべてのケースの主要因として考えるのは、現実的でありません。
 となると、多くのこうした事例において主要因として捉えるべき要素は、圧倒的に外的要因、つまり脱皮後、新しい外殻を充分に膨らませる環境が、何らかの理由で阻害されてしまったということになるのではないかと思います。飼育下における事例としてみれば、たとえば「収容個体数が多く、落ち着いた環境が確保できなかった」「水質や水温など、急激な環境変化が起こった」「脱皮直後にかなり強いストレスが掛かった」などの点が考えられます。事実、体色に関する実験を行なった際、脱皮直後に棒などで個体を追い回すなど、意図的に負荷を与えてみた個体の中には、大きさがほとんど変わらない個体が見られました。意図する、しないは別として、こうした原因が少なからず関連していることは、まず間違いないといってもよいでしょう。
 対処法としては、とりあえず起こってしまった場合は仕方ないとしても、脱皮前後の個体や、それが想定される時期などについては、意識して静かな環境を作り、こうした外的阻害要因の発生を可能な限り防ぐことに尽きると思います。脱皮という行為自体は、キーパーにとって非常に興味深い「ショー」であり、真剣に飼育して来たキーパーだけが見ることのできる、ある種の特権でもありましょうが。あえて「見逃す」ことも必要でしょう。誰しも、着替えというのは見られたくないのかも知れませんね。


釣れてくるザリガニが片バサミばかり。どうして?


 ザリガニの片バサミ(第1胸脚のどちらか、あるいは双方が欠損している個体)が起こる理由には実に様々なものがあり、また、そうした状況だけを見て一概に理由を絞り込むことはできませんが、水質や環境などまで含めた人為的理由を完全に排除した上で考えた場合、最も一般的な見解として挙げられるのが棲息密度に関係する部分だといえるでしょう。こうした質問について詳しく状況を聞き出すと、その多くで「そこは、他の場所よりも本当によく釣れるんだけど」・・・という言葉が出てくることも、実に特徴的です。
 ザリガニの欠損は、本来の棲息環境において考える限り、そうそう頻繁に起こるものではありません。飼育の世界でしかザリガニに接していない場合ですと、欠損はごく普通にあることでしょうし、「あとは丁寧に飼い込んで行けば、よほど大きな個体でない限り、いずれ再生するから・・・」的な対処方法のみの話で終わってしまうことがほとんどです。しかし、自然下において、個体がこうしたダメージを受けるケースというのは極めて稀であり、当然、そうした個体の数も飼育下のそれとは圧倒的に異なります。これが、自然下と飼育下との棲息密度の違いです。
 テリトリー意識の強いザリガニは、本来、それぞれの個体が然るべきテリトリーを持ち、その範囲内で棲息域を形成しています。従って、そのエリアの広さと棲息個体数には(条件の違いによっても多少異なりますが)ある程度の相関関係がある・・・と考えても不思議ではありません。要は、そういうバランスが何らかの理由で崩れ、個体数が許容量範囲を上回り始めてくると、そのテリトリー争いの発生頻度が上がり、結果として欠損が起こりやすくなるという考え方です。実際の棲息調査においても、こうした比率(欠損率)は、その棲息域における棲息密度を推察する上での、大きな判断材料の1つとして用いられます。
 もちろん「釣れてくる個体が片バサミばかり」・・・という状況には、何らかの偶然的要素も含まれているでしょうし、「欠損率100%」などという環境は、基本的にはあり得ないことです。しかし、あくまで傾向として捉えて行くならば、その場所の棲息密度がある一定以上に高い状態であるのではないか・・・という可能性は捨てきれません。
 同じような質問が相次ぎ、千葉県内と東京都内で、そうだとされる現場ポイントへ実際に赴き、状況を確認したことがありました。実際に個体を見る限り「心持ち多めかなぁ?」程度の感じではありましたが、環境として共通していた点は、それがいずれも夏〜初秋に報告されていることと、棲息エリア全体が人為的に整備された環境にあり、なおかつその最下流部に位置すると思われることでした。これだけのポイントだけで即断するには少々強引な部分もありますが、水路下流の調整池や親水公園下端の溜池などの場合、棲息エリア自体が非常に人工的な環境であることもあり、梅雨や台風などによる一時的な大雨によって水量が急激に増えると、エリア内の個体が一時的に下流部へ流され、その地点の個体密度が一時的に急上昇することが考えられます。その結果、過度なテリトリー争いが起こり、こうした欠損が起こる割合も高まる可能性があるように思われます。「よく釣れるんだけど」という言葉も、そういう背景があることを示唆しているように思えてなりません。


突然、その場所で全く釣れなくなった。これって異常?


 こうした内容の質問は、特に秋の初めごろになると決まって寄せられるものの1つです。「つい1週間前まで大きなザリガニがバリバリ釣れた近所の溜め池で、突然、パッタリと釣れなくなってしまった。周囲の景色や様子を見る限り、特に大きな環境変化が起こったとか、そういう原因も見当たらず、全然何も変わっていないのに、網でガサガサやって小さいザリガニがやっと採れるくらいの状況に激変している。一体どうして、こんな急激な変化が起こってしまったのか?」・・・みたいな感じでしょうか。
 もちろん、これだけの情報で100%確定的な判断はできませんが、棲息している個体群に重篤なダメージを与えるような環境障害や、いわゆる「穫り尽くし」などといった人為的影響を除いて考えれば、最も大きな理由は棲息地の水温低下に関係しているものと考えるのが妥当ではないかと思います。特に「小さい個体は辛うじて捕獲できるが、大きな個体が全然採れない」という状況が、それを示唆しています。
 ザリガニ(特に、日本でこうした話題の対象になるアメリカザリガニ)は、自ら巣穴を掘れるようになると、外部の環境に応じて、その巣穴を実に上手に活用します。単に外敵から身を守るだけではなく、暑さや寒さを防いだり、充分な居場所を確保できるなど、彼らにとっては非常に快適な空間であるといえましょう。必然的に、大きくなればなるほど巣穴への依存度も高くなってくるワケです。
 これについて、年間を通じて常に棲息地へ出向き、現場の環境に接している多くの採り子さんの意見を集めてみると、一日の最高気温が25℃を越えるか越えないかで、アメザリの採れ方は大きく変わるというような声が非常に多く聞かれます。もちろん、全員が「25℃」という数値を示しているわけではなく、人によって上下5℃くらいの差はありますが、食用またはペット用の大型個体に関しては、注文の受付開始と終了のタイミングを、この数値的ポイントに置いている・・・と豪語する採り子さんも、正直、1人や2人ではありません。
 もちろん、これはすべて、採り子さんの「カン」に基づくものであり、「25℃」なり「27℃」なりという具体的な数値も、科学的なデータに基づくものではありませんが、彼らが、外気温または水温を始めとした何らかの季節的変化によって特定の行動を起こし、その結果が、たまたま秋の段階においては「突然釣れなくなった」という事象になって表れているという部分に関しては、ほぼ間違いないであろうと考えられます。
 なお、回答の一番最初で除外してしまいましたが、もちろん、たとえば酸欠であったり、残留農薬や化学的汚水の流入であったりというような理由でザリガニが突然、しかも一気に姿を消すことも、それはそれで決して珍しいことではありません。しかし、もしそれが理由であれば、稚ザリだけが残ることはなく、むしろ耐性が低く、巣穴などに退避できない稚ザリから先に影響を受けて死滅すると考えるのが自然ですので、稚ザリが捕獲できている状態であれば、こうした理由については考えなくてもよいと思われます。