イリアンジャヤ・ブルー

「超」精悍なスーパー・レッドクロウ???
ニューギニアの新星が、スレンダー至上系キーパーの心を奪う!



(撮影:JCC小川さん)

データファイル:「イリアンジャヤ・ブルー」
種 別
データ
  項  目  
        概    容        
英 名
不 詳
学 名
Cherax albertisii
成体の
平均的体長

20〜25センチ程度
性成熟期間
(繁殖が可能になるまでの期間)
24〜30ヶ月(2+程度から)
成体の
平均的体色

濃青緑色〜青緑褐色
自然棲息地
ニューギニア南部
フライ川西部中・下流域〜ディグル川水系一帯
人為移入地
ありません
購入時
データ
インボイス・ネーム
(商品名)

イリアンジャヤ・ブルー、パプアンブルー、
イリアンジャヤ・レインボー、レッドクロウsp.など

販売個体の状況
東南アジア(WC)系個体中心
成体主流(一部の便では若ザリの流通もあり)

輸入・流通量
不定期流通
流通量-少・流通頻度-時期的なムラ大

販売個体の状態
コンディション-まちまち
弱化個体-少

飼 育
設 備
データ
用意すべき水槽
(成体を単独飼育する場合)
60×45×45以上
温度調節装置
(関東地区を基準)
ヒーター - 必要なし
クーラー - 用意した方がよい

(セットしないことを推奨するものでありません)
送気・濾過装置
送気装置 - 複数種セットが必須
濾過装置 - 複数種セットが望ましい






本種は、キョーリン社長の神畑重三氏によるイリアンジャヤ探険記事によって、かなり以前からその存在が国内キーパーにも知られていましたが、実際にデビューしたのは比較的新しく、平成12(2000)年の、いわゆる「ニューギニア旋風」と呼ばれた時期にデビューしたのが初めてです。一見、レッドクロウによく似ていることもあり、(すでにレッドクロウ養殖が一般化している東南アジア便で入ってきたことも合わせて)最初は「新種のうちの1つはレッドクロウだって!」などという情報が流れるほどでした。しかし、厳密に見て行くと、第1胸脚の形状が全く異なるほか、額角の長さも同サイズのレッドクロウよりもさらに長く、また反対に腹節部分が同サイズのレッドクロウよりも少し小さめであるなど、ハッキリした違いが見て取れます。
本種の一番大きな特徴である第1胸脚については、レッドクロウと違って指節と前節双方に明るいオレンジ色が発色してくること、同じくレッドクロウと違って、成体になっても前節部の横幅がそれほど広くならず、どちらかというとパイプ型の形状になるなどといった差異が出てきます。もちろん、第1胸脚は、欠損や再生などによって、最も個体差の出やすい部分でもありますので「すべての個体に100%その条件が当てはめられる」とはいえませんが、こうしたトラブルさえなければ、見分けることは決して難しくありません。
本種の魅力である「鼻の高さ」ですが、これにはかなりの個体差があるようです。写真のように「超高」の個体もいれば、レッドクロウよりもずんぐりした感じの個体もいますので、すべての個体に当てはまる特徴ではないかも知れません。胸脚や触角など異なり、額角周辺の輪郭などは、成長に従って劇的に変化する性質のものではありませんので、本種の特徴であるスレンダー体形にあくまでもこだわる場合には、導入の段階からチェックし、選んでおいた方が得策です。
本種は、輸入時の情報や入ってくる個体などから推察してみると、全長20センチ程度、フルサイズは24〜5センチ程度まで至る中型種に区分されるはずです。マキシマム・サイズなどのデータはありませんが、ほぼレッドクロウと同等レベルであると考えてよいでしょう。長期飼育事例はあまり多くありませんが、稚ザリから成体までの成長スピードは決して遅くありません。2年程度で12〜3センチレベルまで充分育ってくれます。繁殖についても、持ち腹個体などの状況から、このサイズであれば充分可能であろうと思われます。
本種は、他のニューギニア系諸種と比べると、今一つオリジナリティーに欠けるためか、輸入頻度や量も極端に少ないのが実情です。一旦止まると、1〜2年平気で入ってこないこともあり、ごく稀に入ってきても、1〜2梱で終わり・・・という場合が多く、今後の動きもなかなか読めません。本気で本種と付き合って行こうと考える場合、最も大切なのは「個体の確保」ということになりましょう。日ごろから情報をどんどん集め、数少ないチャンスを漏らさずゲットする姿勢が必要です。





ニューギニア、イリアンジャヤ・・・という言葉を耳にしますと、燦々と太陽光が降り注ぎ、南方系の密林が生い茂る蒸し暑い世界をイメージしがちですが、ザリガニは基本的に、バリバリの熱帯にはほとんど棲息していません。本種が棲息する地区も、どちらかといえば朝夕の気温は涼しく、暑さもそれほど厳しいところではないのが普通です。また、河川もそこそこの流れはあり、全くの澱みというイメージとは少し違います。こういう場所で生きていることを考えた場合、まず我々が最も留意しなければならないのは、やはり充分な酸素供給である・・・ということになりましょう。湿梱状態での輸送に弱かったという情報も、これを裏打ちするのに充分な説得力があります。他種よりも心持ち強め、あるいは1つ多めの送気セッティングなどといった配慮は、しておいた方がよいと思われます。
飼育自体は、本種の棲息地環境から類推しても、一度馴らしてしまえば決して難しいものではないはずです。また、導入直後の突然死や導入1カ月以内の衰弱死事例も他のニューギニア系諸種ほど聞かれませんから、まずはしっかりと環境に馴染ませることが、長期飼育への近道ではないでしょうか。
ただ、水温については少し注意が必要です。他のニューギニア系諸種より強いとはいえ、いわゆる「熱帯」のイメージ水温をセッティングすると、かなりの個体がグッタリしてしまいます。レッドクロウよりも赤道寄りに棲息する本種ではありますが、基本的にはレッドクロウよりも一段低めの23〜28度程度を1つの目安にセットしましょう。下限温度の方は、レッドクロウに準じます。水質は、取り立てて硬めにする必要もありませんが、時折聞かれる「この地域のザリガニは弱酸性の軟水でないと育たない」という説は、その方の飼育経験のみで語られたもののようで、あまり説得力を持ちません。実際、多少硬めの水でも順調に飼育を進めている方もいらっしゃいますし、繁殖をしている個体もいますので、少なくとも「軟らかくなくてはダメ」ということだけはなさそうです。要は「個体の調子に合わせて水質をセッティングしてやることが望ましい」ということに落ち着きましょうか?
餌に関しても、特に偏食傾向が高い個体が多いというような情報は入ってきていません。導入時の投餌タイミングを誤らず、しっかりとした間隔でローテーションを組んであげれば、たいていの餌は大丈夫でしょう。偏食や拒食の多くは、病気やコンディションの悪化などといったケースを除けば、基本的には「与え過ぎ」に起因するものです。
水質の変化を少しでも穏やかにするよう、水槽はできるだけ45〜60センチ以上のものを用意しましょう。水槽内に特徴を持ったスペースを複数設けるのであれば、長期飼育を目指す場合、単独飼育でも60×45×45水槽を最低ラインとして考えておいた方がよいと思います。繁殖を視野に入れた飼育をする場合、75〜90センチ以上の水槽を用いる方がよいでしょう。
繁殖は、基本的にレッドクロウと同等で問題ありません。ただ、何度か繁殖を経験されたベテラン・キーパーの中には、低酸素耐性の極端な弱さを指摘する方もいらっしゃいますので、水が躍らない範囲で、しっかりと送気しておいた方がよいでしょう。抱卵中や稚ザリ期などについては、特別な温度上昇などの措置は不要です。25〜27度ラインで無理なく育ててあげましょう。