マロン(ブルーマロン)

あぁ、これぞ究極のメタリック・ブルー!
多くの人間を「虜」にし続ける外産ザリのエースだ



(撮影:佐倉ザリガニ研究所)

データファイル:「マロン」
種 別
データ
  項  目  
        概    容        
英 名
マロン
学 名
Cherax cainii
Cherax tenuimanus
成体の
平均的体長

30〜35センチ程度
性成熟期間
(繁殖が可能になるまでの期間)
24〜36ヶ月(3+程度から)
成体の
平均的体色

黒褐色〜明茶褐色
群青色・明青紫色

自然棲息地
オーストラリア南西岸地域
西オーストラリア州南沿岸部
人為移入地
オーストリア南部・北米・アフリカ・中近東・日本の一部
ただし、いずれも養殖のための移入で、その地域の河川などに棲息しているわけではありません。
従って、自然棲息地以外では、原則として養殖場の育成池などでしか見ることができません。

購入時
データ
インボイス・ネーム
(商品名)

マロン、ブルーマロン、ブラウンマロン、ブラックマロン
エレクトリックブルー、ネオンブルーなど

販売個体の状況
東南アジア(乗り換え・ブリード)系
ヨーロッパ(乗り換え)系個体中心
若ザリ主流(褐色個体は成体の方が多く流通)

輸入・流通量
通年流通
流通量-多・流通頻度-多

販売個体の状態
コンディション-良好
弱化個体-少

飼 育
設 備
データ
用意すべき水槽
(成体を単独飼育する場合)
75×45×45以上
温度調節装置
(関東地区を基準)
ヒーター - 必要なし
クーラー - 用意した方がよい

(セットしないことを推奨するものでありません)
送気・濾過装置
送気装置 - 複数種セットが必須
濾過装置 - 複数種セットが望ましい






平成3(1991)年秋ごろから翌年夏ごろにかけて、青体色個体(ブルーマロン)が断続的に輸入され始めるようになり、平成5(1993)年初頭に大ブレイク! 日本の観賞魚界に「エレクトリック・ブルーロブスター旋風」を巻き起こした立役者となったのが本種です。実は、日本で初めて「エレクトリック・ブルーロブスター」というインボイスを名乗ったのは、本種でなくフロリダ・ブルー(Procambarus alleni)なのですが、その後の爆発的な人気によって「エレクトリック・ブルー=ブルーマロン」という構図ができあがってしまいました。当時、全く別のルートでほぼ同時に輸入され始めたこともあってか、話題になってからしばらくの間、何軒かの業者さんやショップの御主人さんが、それぞれ「日本に初めてブルーマロンを紹介したのは我々である」と主張する・・・という珍現象があったくらいです。
本種は、西オーストラリア南部に棲息している大型種で、最大で全長38.5センチという記録を持っています。ザリガニの全長は、あくまでも頭胸甲部と腹節及び尾扇までの長さを指しますので、ハサミを目一杯前に伸ばした大きさで考えますと、トータルで60〜70センチ近い大きさになることを意味しますから、いかに大きくなるザリガニであるかは容易に御理解いただけることでしょう。本種はタスマニア・オオザリガニ(Astacopsis gouldi)に次ぐ大きさを誇り、ほぼ同じサイズまで成長するといわれるマーレー・クレイフィッシュ(Euastacus armatus)とともに「世界三大ザリガニ」の一角を担っています。当然、寿命も長く、性成熟までに3年かかるほか、現地でも環境さえ完全に整えば10年以上生きる個体はザラにいるものです。水槽という閉鎖的な環境ではなかなか難しいことですが、10年という長いスパンでの飼育を考え、目指して行けるという点では、非常に貴重な種であるといえましょう。ちなみに、販売時「Lサイズ」と呼ばれる20センチ程度の個体はだいたい3〜4歳、同じく「XLサイズ」と呼ばれる25センチ超の個体は、だいたい4〜5歳程度であろうと思われます。どちらかというと緩やかに成長してゆくのは、大型種ならではの特徴といったところでしょうか?
本種は、大型化する上に可食部も多く肉質も美味なことから、養殖種としても、まさに「超一流ブランド」と言っても過言ではないくらい高い評価を得ており、流通価格もヤビーやレッドクロウとは比較になりません。現にオーストラリアでは、80年代半ばごろ、レッドクロウ養殖家との間で「クイーンズランド・マロン」呼称差し止め問題が起こったほどで、それだけ高い価値を持ったザリガニであるといえましょう。
観賞魚業界において、本種は「原種」または「ブラウン」と呼ばれる褐色の個体と、いわゆる「ブルーマロン」と呼ばれる群青色個体の2パターンが知られていますが、青個体の発生は決して珍しいものでなく、現地でもごく普通の養殖場などで目にすることができます。褐色の個体でも、脱皮の前後などには、一時的に強い青色を発現させるものもおり、そういう意味から考えれば、本種における青体色はかなり一般的なものであると考えてよいでしょう。なお、観賞魚界では絶大な人気を誇る青個体ですが、食用として調理する場合、青個体は茹で上がりの色があまりよくない(エビ類特有の鮮やかな赤橙色が出にくい)ため、皮肉にも食用養殖の分野では「B級品」とされているのが面白いところです。中には、青個体を最初から観賞用として別に出荷している養殖場もあるようですし、食用分野で最も高い評価を得るのは、一般的に「ブラックマロン」と称される濃褐色の個体になります。
本種は、そのハサミの形状からも類推できるように、ヤビーやクーナックなどと比較すると掘穴性が低く、棲息域も恒常的に水流のあるエリアに限られています。また、高水温や低酸素、水質の悪化に弱いため、現地でも水が悪化したり涸れたりすると、あっという間に姿を消してしまうとされています。飼育でも、こういう要素をいかにクリアするかが成否に大きく影響してくるといってよいでしょう。現地でも、このような状況から自然棲息域は年々狭まる傾向にあるため、自然棲息個体の捕獲に関しては、時期と量とを完全に指定したライセンス制が採られ、厳重に管理されています。
なお、ヤビーやクーナックなどと比べて貧弱であるとされるハサミの形状も、オスの成体になると、それなりに湾曲した、厚みのある迫力あるものとなります。ボディーの大きさと比較するとさすがに小さいので、ヤビーほど感じませんが、丁寧に飼い込んだ老成個体のハサミは、なかなか素晴らしいといえましょう。





本種への人気が定着し、コンスタントな輸入が実現したことで、本種に対する認知度も上がり、輸入開始当初に比べれば、ストック段階での管理技術も大きく向上してきました。そのため、販売段階におけるコンディションのバラつきはだいぶ少なくなってきたといえます。しかし、長いこと販売水槽でストックされていたりした個体の中には、コンディション面でかなり厳しい状況になっている個体も目にしなくはありません。そういう意味で、本種を購入する場合、少々値段は高くても、しっかりした知識やストック技術を持ったショップで選んだ方がよいでしょう。最近は、ディスカウント系大型量販店などでも目にするようになりましたが、状態が落ちた個体を立て直すには、相応の経験と技術とを必要としますので、よほどのベテラン・キーパー以外ですと「安物買いの銭失い」になる危険性があります。
飼育自体は、一度馴らしてしまえば決して難しいものではありませんが、やはり、他種と比べるとセンシティブな部分はあり、注意が必要です。許容範囲を越える水質悪化や有害物質の混入はもちろんですが、仮に許容範囲内であっても、急激な水温・水質変化などには非常に弱いので、こういう部分には充分気をつかうべきでしょう。
本種は、比較的冷涼で清澄な水域に住んでいますので、水温も低めに抑えた方が安全です。一般的に18〜25度程度の範囲内に設定しておくのがベストです。多くの文献で24〜25度をベストの温度帯として提唱していますが、27度ラインに達すると一気にコンディションを落とし、養殖現場における一般的致死温度である31.5度に近づくと、かなりの頻度で死んで行きますから、北海道など一部の地域を除いては、やはりクーラーの準備が不可欠でしょう。
一方、本種の場合、低温に対する耐性が強いことには違いありませんが、1ケタ水温が長期間続くと体力が大きく消耗するという説もあり、必ずしも「低ければよい」というわけではありません。実際、12度を下回ると成長が止まるというデータがありますし、越冬期間が長い年は、春の立て直しに時間が掛かるものです。
本種は、低酸素状態に対する耐性が極めて低いので、充分な送気によって、飽和量いっぱいいっぱいまで酸素を溶かしてやるくらいの気持ちで臨んでちょうどよいでしょう。文献などで提唱されている「溶存酸素量5〜6ppm以上」を常時保つには、それなりにしっかりした送気システムが必要になります。
適正pHは7.0〜8.5とされていますが、極端な軟水でなければ、直ちに体調を崩すことはありません。仮に軟らかい地水の地域にお住まいの場合でも、徐々に硬くして行くことで充分対応できます。むしろ、慌てて強い換水をしたり、添加剤を大量に投入したりして、飼育水の水質を急変させる方が、遥かに危険です。なお、本種の養殖が盛んな地域には、海に近い場所も多いため、塩分に関しては「8 ppt以内に抑えた方がよい」というデータが発表されています。様々な効果をもたらす海水混和も、適正量以内で抑えるようにしないと、逆効果になる危険性があります。
餌に関しては、比較的選り好みせず食べてくれる個体が多いようですので、ごく一般的なローテーション投餌で問題ありません。脱皮前・繁殖前などは、多少構成や比率を変えると効果的です。ただ、食用乗り換えの成体などの中には、強烈な偏食傾向を見せる個体がいますので、単独飼育であれば、多少の餌抜きなどで対応しましょう。長く飼う個体なので、こちら側が用意する餌に馴れさせることも大切です。
本種は、アメリカザリガニやヤビーなどと比較すると成長が緩やかですが、水質の変化を少しでも穏やかにするよう、たとえ稚ザリであっても、水槽は60センチのものを用意したいところです。ただ、このサイズの水槽も、問題なく飼育できるのは2-程度の個体までですし、仮に繁殖まで考えなくとも、長期飼育を目指す場合には60×45×45水槽を最低ラインとして考えておいた方がよいと思います。繁殖を視野に入れた飼育をする場合、ほぼ間違いなく90センチまたは120センチ以上の水槽を用いることになりましょう。
本種の場合、飼育密度が高いと、脱皮を我慢してしまう事例が以前より報告されており、こうした原因に端を発する斃死事例が大変多くあります。通常種であればセパレータで仕切るだけで大丈夫なケースでも、本種では警戒してしまって脱皮したがらない個体も少なからずいますので、あらかじめ予備水槽を用意しておき、脱皮が近づいた個体が出た時には、速やかに予備水槽へ隔離するか、同居個体を取り除くかした方が万全でしょう。この際、予備水槽には、飼育水槽の水を100%使うようにします。
繁殖は、春から夏にかけてが行われるのが普通で、基本的に年1回となります。「早ければ2+の個体でも用いることができる」とする文献もいくつかありますが、実際には3+以上、できれば充分に栄養をつけた4+以上の個体の方がデータ面では良いようです。抱卵は、ヤビーやレッドクロウよりも遥かに長く、3カ月抱いたままでいることも少なくありません。状況が変化せずにイライラしがちですが、こういう場合は、あれこれ手を加えるよりも、メス親に任せるようにしましょう。下手な干渉は絶対に避けるべきです。
また、本種は、極めて温和であるとする考え方もあるようですが、実際の飼育事例では、そうとも言えないケースも多く、文献でもペア性比を1:3から1:5に設定するよう指示しているものを多く見受けます。また、必ずしも共食いだけが原因ではありませんが、稚ザリの減耗比率が、他種と比べて非常に高いのが実情ですので、「温和だから」という過信は禁物です。
すでに、熱心なキーパーの手によって何例かの繁殖事例が報告されていますが、稚ザリの残存率向上だけでなく、水温・水質の調整や繁殖への持ち込み方、神経質になるメスへの対応方法など、まだまだ工夫を重ねなければならない要素も多く、今後の展開が注目されるところです。