レッドクロウ

シブ好み系ザリとは言わせない!
日本の観賞魚事情にベストマッチした最強の虹色野郎だ



(撮影:JCC小川さん)

データファイル:「レッドクロウ」
種 別
データ
  項  目  
        概    容        
英 名
レッドクロウ
学 名
Cherax quadricarinatus
成体の
平均的体長

20〜25センチ程度
性成熟期間
(繁殖が可能になるまでの期間)
12ヶ月(1+程度から)
成体の
平均的体色

褐色〜濃青褐色
自然棲息地
オーストラリア東北岸地域
ニューサウスウェールズ州北端部・クィーンズランド州沿岸部
ノーザン・テリトリー東部

人為移入地
東南アジア地域・中米地域
インドネシア・タイ・シンガポール・香港
中国南部・台湾・メキシコの一部 など

購入時
データ
インボイス・ネーム
(商品名)

コノンデール、カリマンタンブルー、黒ザリsp、ブルーロブスター、
レインボーブルー、オージーブルーなど

販売個体の状況
東南アジア系個体中心
若ザリ主流

輸入・流通量
通年流通
流通量-多・流通頻度-多

販売個体の状態
コンディション-良好
弱化個体-少

飼 育
設 備
データ
用意すべき水槽
(成体を単独飼育する場合)
60×30×36以上
温度調節装置
(関東地区を基準)
ヒーター - 必要あり
クーラー - 必要なし

(セットしないことを推奨するものでありません)
送気・濾過装置
送気装置 - 複数種セットが望ましい
濾過装置 - 複数種セットが望ましい






本種は、グラデーション状の微妙なカラーリングと、鼻高でスレンダーなボディーラインが非常に魅力的な種類で、マロンのような派手さこそありませんが、古くから熱心なキーパーを持つ人気種です。
マロン・ヤビーと並んで、オーストラリアの「三大養殖種」の一種とされますが、この三種の中では最も歴史が浅く、本格的な養殖事業が始まったのは、1980年代半ばごろだといわれています。しかし、温暖な棲息環境に適するという性質からか、その後は急激に養殖地域を広げ、中米や東南アジアでの養殖もかなり積極的に行われるようになり、現在に至っています。現在、日本国内で流通する個体の大半は、こうした地域の個体の流れを汲んでいるものです。マロンやユーアスタクス系大型種ほどではありませんが、パラスタシダエ科の中では比較的大きくなるグループに入り、また、成長が早く、1+から繁殖に使えるなど、寒冷地に向かないこと以外、養殖に適した条件を満たしているのも、この現象の大きな理由であるといえましょう。一般的な熱帯魚飼育セットで再現できる飼育環境が、レッドクロウの最も過ごしやすい環境と一致する・・・という点で、本種は「日本の観賞魚事情に最も適したザリガニである」といえるかも知れません。
本種は、体色の個体格差が極めて大きいのが特徴で、同じ親からでも、マロンに近い濃青色からウチダを思わせる濃褐色まで、実に様々な体色の個体が出てくることも珍しくありません。また、成長段階における体色変化も大きく、生後1年間で、体色は全く違ったものになると考えて差し支えないくらいです。一般的に、幼体時の青色は成長に従ってくすみがちになりますので、そのことを嘆くキーパーさんも多いのですが、成体の持つ独特のブルーグリーンと、そのグラデーション模様は、レッドクロウならではの大きな魅力といえましょう。3+を越えるくらいからは、ハサミもどっしりとした感じになってきますし、第2触角も非常に長く伸びてきますので、老成個体の美しさは、他種の追随を許しません。東南アジアからの大量輸入により、かなり簡単に入手・飼育できるようになった本種ですが、その反面、かなり粗雑な扱いを受けるようになっているのも事実です。本種は、しっかりと飼い込んでこそ、その魅力を堪能できる種類であるといえましょう。
本種は、他種と異なり、大半が輸入個体ですので、国内での無計画なブリーディングによって弱化した個体はほとんど見られません。従って、白アメザリやヤビーなどと異なり、個体の矮小化、内婚による弱化や奇形発生などを憂慮せずに繁殖を楽しめるのは、大きなプラスポイントだと思います。





輸入開始当初は非常にセンシティブな状況でしたが、その後、安定供給されるようになって以降の個体は非常に丈夫で強健です。飼育・繁殖は最も容易な部類に入り、ごく一般的な観賞魚(熱帯魚)飼育セットがあれば、飼育を始められます。適応水質・水温については、アメザリと同程度で問題なく、よほど特殊な水質の地域以外、特に水質調整などをしなくても飼育することが可能です(カルキや重金属などの有害成分は除去して下さい)。ただ、冬場の水温低下だけは注意が必要で、15度程度を下回ることがないようにしましょう。文献上で提唱されている下限温度は14度で、養殖現場などでは12度でのストックを見たことがありますが、いずれもかなり危険な状況でしたので、閉鎖的な水槽飼育環境では、ヒーターなどで加温し、冬場でもここまで温度が下がらないような配慮が必要です。反面、夏の暑さには比較的耐性がありますので、酸素が充分供給されていて水が傷んでおらず、個体のコンディションが悪くなっていなければ、33度程度まで上がっていても全く問題ありません。水質にもかなりの適応能力があり、急激な変化でなければ、かなりの広さに対応できます(現地では、pH9.0前後の水系でも平然と棲息しています)。
なお、本種は「穏健種」であるとされるケースが多く見られ、このことは、養殖現場において「収容比率が他種よりも若干高めでよいとされている」という点に立脚しているものと思われますが、それをもって「多めに飼育しても大丈夫」ということには絶対になりません。事実、喧嘩や共食いなどによる死亡事例は出ていますし、詳密な数値データこそ取っていませんが、そうした事例が、他種と比べて傾向的に少ないとも思えません。レッドクロウを何年も飼育している熱心なキーパーほど、この「性格穏和」説に対して首をかしげる人が多いのも、厳然たる事実です。そういう意味でも、レッドクロウは、他種同様、広いスペースでゆったりと飼育することが基本となりましょう。通常の60センチ水槽では、3+くらいになりますと、単独飼育でも手狭に感じるくらいです。
繁殖は、基本的に春から夏にかけてですが、環境を整えてやることで、通年の繁殖が可能です。ただし、連続繁殖はメス個体への負担が大きいので、できることなら避けた方が無難です。また、成体は強健でも、卵や稚ザリは水質や水温・酸素量などの悪化に弱く、コロッと全滅することも少なくありません。こういう場面では、多少の水質ケアは必要不可欠でしょう。本種は、他種に比べて抱卵期間が長く、また、元々の水温が高いこともあって、水温を上げることでの抱卵期間短縮というテクニックも、他種ほど効果がないというのが実情です。25度前後のラインですと、独り歩きの開始まで2カ月近くかかることもザラですので、この間の水質維持が、繁殖の成否を分ける大きなポイントとなりましょうか?
性成熟は、1+で差し支えないことになっていますが、2+以上個体の方がデータ面では良いようです。本種は、他種と比べて孵化直後の減耗比率が高いという説もあるようですが、現段階でそれを裏付ける学術上のデータはありません。当然、一括飼育であれば多少の共食いは避けられませんが、1センチ以上に育ってくれれば、共食い以外のトラブルはだいぶ少なくなるはずです。