ヤビー

丈夫で飼いやすく、しかも奥が深くて魅力的!
外産ザリガニ飼育の「超基本種」は、ベテランの心も離さない!



(撮影:佐倉ザリガニ研究所)

データファイル:「ヤビー」
種 別
データ
  項  目  
        概    容        
英 名
ヤビー
学 名
Cherax desutructor
Cherax albidus
その他、近似種が多く、何種類かは日本に来ている可能性があります
成体の
平均的体長

15〜18センチ程度
性成熟期間
(繁殖が可能になるまでの期間)
12ヶ月(1+程度から)
成体の
平均的体色

濃緑褐色・青褐色(モルティー・ブルー)
その他、棲息域によってかなり大きな違いが見られます

自然棲息地
オーストラリア東南岸地域
ニューサウスウェールズ州沿岸部・内陸部ダーリング川水系
ビクトリア州全域・南オーストラリア州沿岸部

人為移入地
オーストラリア西南岸地域・南岸島嶼部・東北岸地域
西オーストラリア州パース周辺、タスマニア島
クイーンズランド州南部 など

購入時
データ
インボイス・ネーム
(商品名)

ヤビー、ブルーヤビー、ブルーロブスター、
ネオンブルー・ロブスターなど、

販売個体の状況
国内繁殖個体中心
体色改良個体・若ザリ主流

輸入・流通量
通年流通
流通量-多・流通頻度-時期的なムラあり

販売個体の状態
コンディション-良好
弱化個体-多

飼 育
設 備
データ
用意すべき水槽
(成体を単独飼育する場合)
60×30×36以上
温度調節装置
(関東地区を基準)
ヒーター - 必要なし
クーラー - 必要なし

(セットしないことを推奨するものでありません)
送気・濾過装置
送気装置 - 複数種セットが望ましい
濾過装置 - 複数種セットが望ましい






オーストラリアのみならず、パラスタシダエ科全体で見ても最も広い棲息エリアを持ち、短期間で大きく成長することから、養殖面でもダントツの生産量を誇る種です。「ヤビー」という名前も、元々は現地の先住民族、アボリジニが、ザリガニに対して付けた名前「ヤッピィ」を語源に持っているといわれ、そういう意味でも、まさにオーストラリアでの「代表選手」のようなザリガニだといえます。現地では、牧場の潅漑用溜め池や市街地の側溝のような、かなり過酷な環境のところでも生きており、日本におけるアメリカザリガニと同様のイメージで捉えてよいでしょう。実際、オーストラリア国内においても、タスマニア島などで本種の移入によって在来動植物への影響が出始めており、今後の状況が懸念されているほどです。
本種は(改良個体でなく自然下棲息個体でも)非常に多彩な体色バリエーションを持っていることが知られており、かつ、体形が酷似した近似種が多いことでも有名です。一般的に「ヤビー」と称されるものだけでも、Cherax desutructor種とCherax albidus種の2種があるとされており、その他、水系などごとに区分されている何種類かを別種とするか同種とするかなど、研究者によって、その判断は様々です。仮に現段階において2種説を支持する場合ですと、互いの基本棲息域は、一般的にdesutructor種はニューサウスウェールズ州の南州境以北及び内陸部一帯、albidus種はビクトリア州の一部から南オーストラリア州、西オーストラリア州一帯・・・ということになりましょうか? これら2種については、腹節や額角などの形状や、ハサミの部分などに違いがあるほか、体色面でもalbidus種の方が若干薄目の明るい体色であるということが説明されています。しかし、これらは同時に、各個体ごとの体形差が最も現れやすい部分でもあり、誤った判断をしてしまいやすい部分でもありましょう。見る側が「別種であって欲しい」という希望的な観測で見て行くと、いくらでも別種に見えてしまうポイントではありますが、本来、こうした事項に関する判断は、1〜2匹の形状でもって判断を下すものではありません。しっかりした現地データに基づき、適切な条件で集めた数百匹単位の個体群レベルのデータ集積及び分析作業を行った結果、初めて明らかになるものですので、事実上、日本では判定できないと考えた方がよいでしょう。安易な判断は、大きな誤解を生む危険性があります。
生物学的には、このような問題を持っている本種ですが、2種説で考えますと、輸入されてくる一連の経緯から考えて、日本で多く目にするのは、実際に食用の養殖生産がなされているCherax desutructor種を源流とする個体が中心だということになりましょう。ただ、数年前までは、クーナックと同じルートで、独特の体形をした西オーストラリア系と思われるヤビーも目にすることができましたし、実際に西オーストラリアのダム湖でヤビーの収穫に立ち会った方が、あるショップの個体を見て、「これはalbidus種である」と断言されたことがありましたので、これらの状況から判断すれば、少なくとも一時期、Cherax albidus種とされる個体が日本に来ていた可能性はあったはずです。また、albidus種以外にも、プライベート便などで、過去に何度か、それ以外の種であると思われる個体が来ていました。いずれにせよ、これらの種分類については、未だ学術界でも諸説ありますので、現段階での確定的判断は大変難しく、今後の動向が注目されるところです。
詳しい飼育方法については、下の項目で触れますが、本種は非常に成長が早く、また、簡単に飼育・繁殖ができるため、古くから「国内ブリード」の個体が多く販売されていました。しかし最近では、ザリガニ飼育人口が増えてきたためか、白ザリ同様、素人ブリーダーによる無計画な繁殖個体がショップなどに持ち込まれるようになり、これに伴う弱化個体の発生事例が急増しています。買い取るショップ側には決して悪意などあるはずがないのですが、個体の状況から弱化の兆候を見極めるためには、長年にわたる累代繁殖経験と、そこでの変化傾向の観察が必要ですので、すべてのショップでこうした個体の販売を防止するのは至難の業であるといえましょう。こうした動きと、キーパーのニーズに対応してか、最近では、輸入国名を冠した「海外モノ」個体や、繁殖血統などを明示した個体なども目にするようになりました。弱化個体を避けるという点では、非常にありがたいことですが、数年前、某地方都市のショップにおいて、どこのルートでもヤビーの輸入が全くなかったにも関わらず、なぜか「ヨーロッパ・ブリード」と銘打ったヤビーが売られ、話題になるなど、多少不可解なことがあったのも実情です。非常に安価で入手できる種ではありますが、これらの要素を考えると、多少値段的には高くても、実績があり、信頼できるショップから購入する方がよいでしょう。





飼育・繁殖は最も容易な部類に入り、ごく一般的な観賞魚飼育セットがあれば、飼育を始められます。適応水質・水温については、アメザリと同程度で問題なく、よほど特殊な水質の地域以外、特に水質調整などをしなくても飼育することが可能です(カルキや重金属などの有害成分は除去して下さい)。要は「極端な暑さや寒さ、そして温度変化や水質変化を避け、できるだけ広いスペースでゆったりと飼育する」ということになりましょうか。非常に強靭な体力と適応能力を持った種であることに違いはありませんが、文献によっては、34度前後のラインを境にして成長が停止したり、斃死したりするなどということを指摘しているものもありますから、過信は禁物です。
水槽は、1+までの個体で、しかも単独飼育であれば、30センチ水槽でもやって行けなくはありません。しかし、体長が10センチを越えるようになるとハサミも急激に巨大化するようになってくるので、脱皮スペースまで無理なく確保するためには、やはり60センチ水槽を用意したいところです。繁殖を狙う場合には、同居個体各々の退避スペースや、稚ザリなどの育成・退避スペースまで考えねばなりませんから、正直なところ60×30×36ですと手狭気味です。佐倉でも、万全な繁殖や血統維持を狙ったペアを繁殖させる場合、ほぼ間違いなく90センチまたは120センチの水槽を用いるくらいですし、スペース面での余裕は成否を大きく左右しますから、初心者の場合は、特に充分な配慮をしておくべきではないかと思います。
本種は、水質や水温、周囲の環境などを上手に調整してやることで、個体の体色に多少なりとも影響を与えることができることが以前から知られており、特に濃青色個体には、非常に高い人気があるようです。こうした技術や血統の選別作業を駆使し、好みの体色個体を数多く作出しているベテラン・キーパーさんも多くおり、こうした工夫にあれこれと頭を悩ます作業も、非常に楽しいものです。最近では、ショップなどでも様々な体色の個体が売られるようになりましたが、購入する段階の体色は、環境の変化や脱皮などによってガラリと変わってしまうことが少なくありませんし、中には本来の体色でなく、弱化や何らかの障害などによって薄化した体色の個体が売られていることもあるようです。ザリガニの生態を考えれば、こうした変化が起きるのは当たり前のことなのですから、これでもってショップに文句を言うのは論外であり、体色を重視して飼育したい場合、ショップにおける購入時の体色は、あくまでも「目安」として考え、自分で累代繁殖をしながら少しずつ作り上げて行く方がよいでしょう。なお、軟水飼育法での色揚げは、特にヤビーの場合、甲殻の硬化不全を起こす可能性もあるので、避けた方が無難です。
繁殖は、基本的に春から夏にかけてですが、環境を整えてやることで、通年の繁殖が可能です。ただし、連続繁殖はメス個体への負担が大きいので、できることなら避けた方が無難です。また、成体は強健でも、卵や稚ザリは水質や水温・酸素量などの悪化に弱く、コロッと全滅することも少なくありません。こういう場面では、多少の水質ケアは必要不可欠でしょう。性成熟は、1+で差し支えないことになっていますが、2+以上個体の方がデータ面では良いようですので、初めて繁殖にチャレンジする場合は、こうした個体を用いることをお薦めします。他の大型種ほどではありませんが、1:1ペアの場合、メスに負担が掛かる場合がありますので、できればメスを複数用意した方が失敗しづらくなるものです。また、状況的に弱化を起こしやすいことが考えられるため、ペアで購入した個体は、そのまま繁殖に使わない方がベターでしょう。
なお、前項で触れた「2種または複数種」説が生物学的に正解であるとした場合、すべて環境が揃っても、繁殖が上手く行かない、または累代繁殖ができない・・・という可能性はあり、実際、それを窺わされる事例がいくつか報告されています。何度トライしても、ペアリングがどうしても上手く行かない場合は、無理にこだわらず、1〜2シーズンで早めに見切ってペアチェンジをした方がいいかも知れません。