フロリダ・ブルー

ついに累代繁殖体制が実現した
根強い人気を保ち続ける元祖「エレクトリック・ブルー」



(撮影:JCC小川さん)

データファイル:「フロリダ・ブルー」
種 別
データ
  項  目  
        概    容        
英 名
フロリダ・ブルー
(ただし、実際の英語圏では「Blue crayfish」という呼称が一般的です)
学 名
Procambarus alleni  改良品種
成体の
平均的体長

13〜18センチ程度
性成熟期間
(繁殖が可能になるまでの期間)
12ヶ月(1+程度から)
成体の
平均的体色

薄水色〜青色、やや青紫色など
自然棲息地
改良品種のため、突然変異以外の自然棲息はありません
人為移入地
観賞用種のため、食用などのための人為移入はありません
購入時
データ
インボイス・ネーム
(商品名)

エレクトリック・ブルーロブスター、ネオンブルー・ロブスター、
アメザリsp、フロリダハマー、フロリダ・ブルーなど

販売個体の状況
東南アジア系・国産系個体中心
若ザリ主流

輸入・流通量
通年流通
流通量-多・流通頻度-多

販売個体の状態
コンディション-良好
弱化個体-増加傾向

飼 育
設 備
データ
用意すべき水槽
(成体を単独飼育する場合)
60×30×36以上
温度調節装置
(関東地区を基準)
ヒーター - 必要あり
クーラー - 必要なし

(セットしないことを推奨するものでありません)
送気・濾過装置
送気装置 - 複数種セットが望ましい
濾過装置 - 複数種セットが望ましい






一般的には「エレクトリック・ブルーロブスター」=「ブルーマロン」という認識が普通ですが、この名前で日本に初めて紹介されたのは、ブルーマロンではなく本種です。当時は、互いの明確な見分けができる人間がいなかったため、ブルーマロンと混同して扱われることも多く、別種(というより「別のザリガニ」)として扱われるようになったのは、2種が揃い踏みしてから半年以上も経ってからのことでした。その後インボイスは、しばらくの間「ネオンブルー・ロブスター」があてがわれ、ブルーマロン(エレクトリックブルー・ロブスター)と区別されるようになります。
現在、本種は「ハマー」と呼ばれるケースが多く聞かれますが、これは当初からそうだったわけではなく、当時「日本ザリガニ友の会」の会長であった西村志郎氏が、本種とエレクトリックブルー(ブルーマロン)との違いをいち早く見抜き、あちこち調べまわる中で、洋雑誌の記事からハマー氏の内容を見つけて公表したことに始まります。この呼び方は中京〜西日本地区のショップで徐々に浸透し始め、少しずつ定着して行きましたが、関東地区では、かなり後まで「ネオンブルー」の呼び方が残りました。このため、一部キーパーやショップなどの間では、ネオンブルーとハマーとを別種扱いするような混乱もあったようです。輸入ルートは、デビュー後しばらくの間はヨーロッパ便だけでしたが、大手業者さんがアメリカからの便を開拓すると、徐々にこのルートが主流になりました。しかし、その後しばらく輸入が止まった状態が続き、再開後は現在にいたるまで、東南アジア便が欧米便を凌駕した状態が続いています。
さて、その「ハマー」についてですが、日本に初めて紹介されたのは、西村氏の追跡調査や輸入ルートなどによって、フロリダ在住のブリーダー、ハマー氏が作出した改良個体(右の写真が、その当時の輸入個体です)であることがわかっています。ハマー氏は、自ら発表した雑誌記事の中で、その個体をProcambarus paeninnsulausとしていますから、本種の学名も、長い間Procambarus paeninnsulausが使われてきました。 しかし、輸入再開後の個体が、デビュー当時の個体とは違っているのではないか・・・という声が多くのキーパーより寄せられたため、JCCでは再度徹底的な情報収集と研究を行ない、本種は分類学上、Procambarus alleniとして考えるのが最も適切なのではないか・・・という結論にいたりました。それ以降、かなり長い間「2種併記」という形で表記して参りましたが、平成14年、専門家による同定作業をお願いしましたところ、少なくとも日本で流通している個体は、ほぼすべてがProcambarus alleniであることがわかりました。JCCでも、こうした背景から、「世界のザリガニ飼育図鑑」第2版より、本種の学名をProcambarus alleniのみに統一させた次第です。
現在、デビュー当時の個体は(標本も含めて)1個体も残存していないため、当時の個体が現在のものと別種なのか、あるいはハマー氏のミスなのかは検証のしようがありません。しかし、長年の努力によって改良種を完成させたハマー氏に敬意を表し、一連の状況から総合的に判断すると、現在のザリガニを「ハマー」と称するには、少々無理があるのも事実です。当時の個体であればまだしも、現在の個体すべて(特に東南アジアルートの個体など)が、ハマー氏の改良作業によって生まれた個体を源流にしているかどうかの確認が取れないからです。実際、輸入中断前後で、ほとんど変わらない部分も数多くありますが、明らかに違っているというような部分も少なからず存在しています。
従って、厳密には本種を「フロリダ・ハマー」と称するよりも「フロリダ・ブルー」とした方が無難であろうと考えられます。佐倉ザリガニ研究所並びに関連書籍などにおいて、本種の称号を、あえて「フロリダ・ブルー」にしているのは、こうした理由によります。
輸入中断前後の個体差についてもう少し触れてみましょう。たとえばハサミの場合、前者(中断前の個体)では、ほぼ100%パイプ状の細長い形状でしたが、後者(再開後の個体)には、幅のある形状の個体も出てきています。体色については、前者でもデビュー直後のヨーロッパ便個体には全く赤系の色が混じっていませんでしたが、アメリカ便以降は、現在と同じく、心持ちやわらかい紫色が甲殻下部に見られる個体も混じるようになりました。ハサミにしても体色にしても、細かな差異を見つけては、何とか別種の理由付けとして使いたがる方々もいらっしゃるようですが、現状で見る限り、別種であるという「明確な証拠」にはなり得ないのが実状です。ハマー氏の種同定が誤りであったとすれば、フロリダ・ブルーは最初からProcambarus alleniであった」ということで簡単に決着がつきますが、もし、そうでなかったとすると、ハマー氏の手によるものであるかどうかは別に、もう1つ別の形での改良作業が行なわれていたことを意味します。ちなみに、原種ベースで見た場合、両種の違いを見分けるのは、比較的容易です(これが「ハマー氏は種同定を誤っていなかった」と考える最も大きな根拠であるとされています)。
本種は、長いことメス個体がプロテクトされた状態が続いていました。しかし、伝説の「Mスペシャル」個体、そして、矢尾井氏による丹念なチェック作業などが効を奏し、2000年終わりごろには、JCC内部でも一定の繁殖ベースに乗せるキーパーが出てきました。2002年になって大ブレークが起こり、メス1匹ン万円・・・という大争奪戦が起こりましたが、元々強健な種であるということもあり、現在ではかなり安定した状況になってきています。2002年後半からは、国産の個体もかなり数多く見られるようになりました。
なお、一部に「カメルーンはハマーの原種であり、カメルーンのメスと交配させれば上手く行く」という説を唱える方がいらっしゃいますが、いわゆる「カメルーン」「アフリカ・ブルー」「ヨーロッパ」と呼ばれるグループについては、輸入当時からかなり扱いが曖昧であり、同名異種また異名同種の個体が多く見られることから、相応の注意が必要です。実際、JCC内部でも「カメルーン」のメスで仔を採った事例は多くあり、掛け戻して成功した事例もありましたが、F2の段階で終わってしまった事例はそれ以上に多くあります。こういうことを考えると、「カメルーン=Procambarus alleni」という考え方は、かなり危険であることが御理解いただけると思います。
本種は、その形状などから、(特に初心者に)アメザリ青個体と見間違えられるケースがあるようです。しかし、第1胸脚の形状や、前節の(特に裏面で)体色の乗り方が全く異なることなどから、ある程度経験を積むことで、容易に見分けられるようになります。青い体色は、アメザリと違って10センチ超でも褪せることはほとんどありません。





本種がProcambarus alleniであるという前提で話を進めますと、基本的には「心持ち高い水温レンジのアメリカザリガニ」という感覚が最も適切だといえましょう。高温レンジといっても、レッドクロウほど気をつかう必要はないですし、よほどの寒冷地でなければ、屋内飼育で1ケタ前半にまで水温が下がることはありませんから、基本的に無加温で飼育できると考えて差し支えありません。「フロリダ」という名称から考えを巡らせた結果、必要以上の高温飼育を行なうキーパーさんもいるようですが、とりあえず死にはしないものの、繁殖などで思わぬトラブルを招く危険がありますので、注意が必要です。高温の場合、30度代前半までは難なくクリアできるはずですが、春先から夏場の導入など、個体が水槽に充分馴染む前に高温状態へ移ってしまったりすると、一気にコンディションを崩してしまう場合があります。このためにわざわざクーラーを導入する必要まではありませんが、設置場所を工夫したり、ファンや濡れタオルを用いるなどして、30度まで行かない温度をキープしてやる方が安全です。
現在日本で出回っている個体は、国産・外産の違い、または輸入ルートの違いなどを問わず、基本的にはすべてブリード物であり、特定種などに見られるWC個体と比較すると、生まれながらにして水槽という環境に順応しやすい個体が多いようです。しかし、その分、急激な環境変化や自然下で起こるような過酷な環境には耐えられない場合も多く見られますので、外産ザリ飼育の「基本」だけは踏み外さないように注意して下さい。アメザリと同じくらい強健であるといっても、タライで長期間飼育できる・・・というわけではありません。
本種は、一時期「生餌しか食べないし、他種より偏食傾向が高い」という説が唱えられていましたが、もちろん、そんなことはありません。基本的に広い食性を持っていますし、配合飼料だけで長期飼育や繁殖などを手掛けているキーパーさんも数多くいらっしゃいます。当然、動物性飼料に対する反応は悪くありませんが、反応の良し悪しに左右されず、バランスよい投餌を心掛けましょう。投餌の点で「フロリダ・ブルーは、これを絶対にやらなければならない」または「やってはいけない」というのはありません。他のザリガニと同様、基本を押さえておけば失敗は少ないでしょう。
その反面、本種ならではの注意点があるとすれば、それは「脱皮」の段階であろうと思われます。本種は、成長すると第1胸脚の、特に前節部が細長くなる個体が増える傾向にあります。そのためかどうかは断言できませんが、脱皮失敗でも他種と比較して「ハサミが脱ぎきれずに失敗した」という事例が多く聞かれます。脱皮の際、一般的には頭胸甲と腹節の接合部から抜け出た後、そのままの勢いでハサミなどを脱ぎきりますので、根本的に、広い水槽を用意するのがベストであることは間違いありませんが、特に成体の場合、水槽内にある程度広めの脱皮可能スペースを用意するようにしましょう。また、同じ理由で、第1胸脚部にバーンスポットができてしまった場合、そのリスクは当然他種よりも上がってしまいます。日常の管理には注意しましょう。
繁殖については、実際に事例を集めてみると、さほど困難ではなかった・・・というのが正直なところではないでしょうか? 「アメザリよりも抱卵期間が長い」という主張をされる方もいらっしゃいますが、温度が違えば抱卵日数にも多少の前後が出るのが普通ですので、時間的な違いがあるかどうかという点については、もう少し丹念にデータアップする必要があるでしょう。本種はキャンバリダエ科に属するため、繁殖はサイクリック・ディモーフィズムにのっとっています。年間を通じて水温が一定のまま育てますと、何らかのきっかけでフォームが崩れたり、ずれたりする危険性がありますので、ある程度は季節感覚を持たせた方が万全です。「血を濃くしないよう別々のショップから個体を購入してペア組みさせたのに、全然かかってくれない」・・・というご相談も少なくありませんが、アメザリの白個体や青個体などのケースと同じく、その大半はフォームの不一致に起因するものと思われます。繁殖をさせたい場合、現有個体のペアリングが上手く行かない時には、やみくもにペアチェンジをするだけでなく、とりあえずひと冬越させてみて、もう一度トライしてみましょう。今まで上手く行かなかったペアでも、こういう工夫で仔が採れることは、よくある話です。