お尋ねのメール内容 Kさん(大阪府) | ||
ストレートな質問になりますが、ぜひご意見と理由を聞きたいのは「佐倉ザリガニ研究所では、どうしてゼオライトの使用を否定しているのか?」ということです。確かに、ザリガニ飼育にゼオライトを使うべきかどうかは、私の周りでも意見が真っ二つに分かれています。ユーザーだけではなく、ショップやブリーダーの人たちの間でも言っていることは全然違います。プロでも意見が割れるのは、よっぽどのことだと思います。しかも、このことはザリガニ飼育だけに限ったことでなく、様々な魚種の飼育でも同じ状態のようです。 他の魚はともかく、ザリガニ飼育の場合、否定派のショップやユーザーは、そちらのホームページに書いてある内容を「使わない理由」の1つとして挙げることが多いですし、肯定派のショップやユーザーは、実際に大手メーカーから商品が出ている事実を証拠として「使うべき理由」にしている人が多いことに気がつきました。ちょっと失礼かも知れませんが、聞いた話を正直に言いますと、ある肯定派のブリーダーは、「佐倉ザリガニ研究所はあくまで素人だ。素人の発言とメーカーの発表と、どっちが信頼性が高いかなんてすぐわかる」と言っていまして、申し訳ないんですが、ちょっと納得してしまいました。「ウチではゼオライトを使ってみて、ザリガニはただの1匹もコンディションを落としていない。ザリガニよりも繊細なシュリンプだって、1匹も落ちていない。個体自体が答えを出してくれている」と自信満々でゼオライトの底砂を推薦するショップもありました。でも、ネットで調べてみても、やっぱり賛成と反対が半々のような気がします。私がお世話になっているショップでも、ゼオライトの使用は絶対に推奨できないということで,ゼオライトに関する商品を1つも取り揃えていませんでした。 そこで、そちら様ではどうしてゼオライトを否定するのか、その理由を教えて欲しいと思います。メーカーを敵に回してまで堂々と否定するというのは、やっぱり何かよほど大きな根拠があるのではないかと思います。賛成派も反対派も、どっちも科学的な専門用語を使って説明しているので、よけいにわかりません。私は、今のところ使用していないのですが、個人的な気持ちとしては、そういうところを全部わかった上で、自分の水槽で使うべきかを決めたいと思っております。ぜひ、使用を否定する詳しい理由をお聞かせ下さい。 お答えさせていただきます | 話題や意見が必要以上に大袈裟に・・・というか、どうしてもセンセーショナルな方向へと振られやすいのがネットの特徴なのかも知れませんが、確かに「佐倉はゼオライト使用を否定している」というような趣旨の声を聞いたことがありますし、正直なところ今までも同じようなニュアンスのお話を何回か耳にして参りました。ただ、勘違いしないでいただきたいのは、決して「全面的に否定している」のではない・・・ということです。単に、佐倉の水槽施設では現在までのところ恒常的な形では使用していないというだけで、ゼオライトの特性を充分に把握し、ザリガニにとってマイナスとなる状況の発生をきちんと排除できるのであれば、ザリガニを飼育する上で非常に有用な素材となることは間違いないことでしょう。実際、「1から始めるザリ水槽セッティング」の項目では、水槽を立ち上げる段階でのツールの1つで使っていますし・・・ね。ですから、使うことを真っ向から否定するつもりもありませんし、「間違っている」と申し上げるつもりもありません。その点だけはご理解下さいますと幸いです。その上で、あえて「積極的に使おうとは思わない理由」という形で、このゼオライトという物質について、少し具体的に考えてみることにしましょう。 | 底床材や濾材など、ゼオライトを用いた商品のパッケージを手に取り、そこで謳われている効能を読んでみると、圧倒的に多いのが「(特に猛毒のアンモニアを始めとした)有害物質と不快な匂いの吸着除去」という点です。よくある高性能濾材と違って価格帯が低く手頃な上に、飼う側のキーパーにとっても飼われる側の生き物たちにとっても、非常に有益なツールだ・・・ということになりますよね。もちろん、それ自体に”ウソ”はありません。それすらも「ウソである」と断じたとすれば、それこそメーカーを相手に徹底的な喧嘩をしないといけなくなりますもの・・・ね(苦笑)。条件さえきちんと整えば、ゼオライトは有害物質も不快な匂いもちゃんと吸着してくれるはずです。だからこそ、ゼオライト系商品は古くから存在していますし、使う側からも一定の信任を得て、それが”肯定派”という形になっているのだと思います。また、工業用などまで広く含めれば、天然モノであれば元々の取引価格も安価で、かつ安定した流通量を保っていますから、売る側からすれば簡単に商品化しやすい・・・というメリットもあり、最近では同じく素材単価の安い牡蠣ガラなどと並んで、ショップオリジナルの商品や、100円均一ショップの商品なども出回るようになりました。こうしたことが、余計にゼオライト肯定派の方々の論拠を補強していることも間違いありません。 それでは、ザリガニの場合はどうなのか? そして、なぜ佐倉では積極的に使わないのか・・・? という点について考えてみたいと思います。ゼオライトと様々な化学物質との間には複雑な関係があるのですが、すべてを語ろうとすると大変なことになってしまう(苦笑)ので、ここでは敢えて最も取り沙汰されることの多いアンモニアを俎上に乗せてみることにしましょう。 観賞魚飼育において”超危険有毒物質”とされるアンモニアですが、当然ながらザリガニにとっても非常に危険な物質の1つです。一般的な観賞魚では0.1ppmを超えるレベルから何らかのストレスを与えるとされており、それは同じ鰓呼吸方式をとっているザリガニとて例外ではないことでしょう。アメリカザリガニなどは非常にタフで、かなり汚れた下水環境などでも平然と生き続けたりしていますが、それでもアメリカの養殖文献や研究データなどをチェックして行くと、アンモニアに関してはおおよそ2ppmまでに抑えておくよう推奨されていますから、その耐性はモツゴやコイ、フナなどと同等か、若干敏感なレベルにあると考えてよいでしょう。いずれにしても、含まれていないに越したことはありません。 こうした有害なアンモニアを、ザリガニの生存環境に全く悪影響を及ぼさない状態のままで、ゼオライトがガンガン吸着して除去してくれる・・・というのであれば、キーパーとしてもまさに願ったりかなったりなのですが、ここで1つ、決定的な問題点が浮上してくるのです。それが「ザリを飼う上で好ましいpHや硬度と、アンモニアの関係」です。 そもそもアンモニアという物質は、常温で一般的な気圧の環境においては気体で存在しますが、水にも溶け込みます。ただ、水中においては,その多くがイオン化してアンモニウムイオンへと変わり、こちらはアンモニアそのままで存在するよりもエラに対して毒性(ダメージ)が低くなるとされます。気をつけなければいけないのが、水中に含まれるアンモニウムとアンモニウムイオンとの比率で、平たく申し上げるなら「pHや水温の数値が上がるに連れて、アンモニアの比率も上がる」ということになります。水温の値によっても異なりますが、pHが7.0から8.0に上がると、水中に存在するアンモニアの量は90〜100倍程度激増すると言われています。 こうした現状を踏まえた上で、改めてザリの飼育を考えてみますと、基本的にザリ飼育においては、意図的にpHを下げるような方法は好ましくありません。もちろん、狙った体色を発現させたいなどの観点から、あえて低pHの方向に振った上で飼育を続けるというテクもなくはありませんが、本来であればこの方式は決して望ましいことではなく、実際、個体を健康に育てることが必須条件となるアメリカ本国での養殖データをチェックしてみても、許容基準pHは6.5〜8.5、推奨値は7.0〜8.5とされているのです(俄には信じ難いことですが、養殖の現場では、低pH状況の解消と硬度不足時における対応策として、農業用石灰石の投入についても事細かに指摘されているなど、ザリガニを健康に育成させるためのミネラル類の存在は、非常に大きな意味を持っているのです)。こうなると、必然的に水質は一定以上の硬度を保ち、かつアルカリ性寄りに持って行く必要がありますから、水中におけるアンモニアの含有比率は、一般的な熱帯魚やシュリンプなどの飼育環境と比較すると、より高くなりやすい状況にあるといえましょう。 そうなれば、よりゼオライトの役割が高くなりそうな気になるのですが、ゼオライトが吸着してくれるのは、基本的にはイオン化している比較的毒性の低いアンモニウムイオンであって、猛毒のアンモニア自体ではありません。もちろん、ゼオライトを投入することで軟水化され、pHが下がることによって,アンモニア自体の比率も下がって行くということから、アンモニウムイオンを吸着し続けることで、結果的にアンモニアの総量を下げることができる・・・という考えもありましょうが、硬度を下げ、さらに低pH方向へ振って行く・・・ということは、今度はザリガニの健康な育成という点で、あまり好ましくない事態を招いてしまいます。 あまりに掘り下げると高校化学の授業になってしまいそうなので控えますが、せっかく出てきましたのでカルシウムについても触れるのであれば、水中でイオン化されたカルシウムは、ゼオライトからすれば、これまた恰好の吸着(イオン交換)対象の1つです。海水魚や海水の無脊椎飼育などをされている方が一貫してゼオライトを使用しないのは、こうしたカルシウムを含めた有用ミネラル分を吸着してしまうという理由によるものですが、ザリガニの場合も、海水魚飼育ほどでないにせよ、この素材を使用することによって様々なデメリットが発生する危険性があり、なおかつ、そうした機能を別の手段で解決できる方法がある・・・ということで、結果的に「無理して積極的に使用するほどのものではない」という見解に至ったと考えるべきではないでしょうか? ご指摘の通り、私はザリガニについてまだまだ知らないことばかりの素人でございますが、ゼオライトの商品開発に関しては、今から15年近く前に一度接点がございました。たまたま知り合いが某メーカーの商品担当をしていたご縁で、開発に関するミーティングにお招きいただいたのですが、当初から「ゼオライトをザリ飼育に」という流れ自体には素直に賛成できなかったものの、他の生き物との抱き合わせの形で製品化すること自体はすでに決定事項だ・・・とのことでしたので、こちらからは「他の素材もブレンドし,ゼオライトに対し過度に依存しない方がよい」ということと「交換周期を明記し、半永続的に使うものではないことをしっかりと周知すべき」という考えを申し上げさせたいただきました。これ以上細かく書くと差し障りがありますので控えますが、発売に際して、そうした部分に関しても配慮いただけたことは非常にありがたいことだったと思っています。 ちなみに、ザリガニ飼育におけるこうしたゼオライト使用の賛否については古くから議論されてきたことですが、以前から様々な方々のこうしたご意見を拝聴していて非常に興味深く思ったのは、ゼオライト系商品に対して肯定的な見解を示す方は、どういうワケか元シュリンプ、あるいはシュリンプキーパーから転向してきた方に多い傾向がある・・・ということです。これは、ソイル材を使用することに対する賛否についてもほぼ同じ傾向が見られ、最初のころはイマイチその理由がわからなかった(苦笑)のですが、そうした方々からさらに詳しくご意見をお聞きした上でよくよくその内容を吟味してみますと、現在の飼育対象種は非常に強健で、多少タフな環境であっても障害が目に見えにくいアメザリ主体であることや、元々シュリンプ飼育において弱酸性気味のセッティングが評価され、なおかつpH値が低いことにより、アンモニアに起因すると思われる障害とはほとんど無縁であったことなどが、こうした肯定意識に繋がっていることがわかりました。その昔、クーナックやギルギー、そしてマロンなど、ただただひたすら硬度調整に苦心しながら飼育を続けていたキーパーの方々からすれば、こうした状況は信じられない・・・という声を今でも時折耳にしますが、まさに「時代も変われば意識も変わる」ってところなのかも知れませんし、実際に飼育していて、そうしたことによる失敗や致命的なダメージを負ってしまったというような経験がなければ、ゼオライトの持つマイナス面も気になりませんし、そうした部分に対して過敏に心配する必要もなくなりますもの・・・ね。非常におもしろい傾向だと思います。 今から思い返せば、「1から始めるザリ水槽セッティング」のコーナーで、濾材ボックスの1つにゼオライトを入れた記事をアップした時、(特に、古くからザリガニ飼育を続けていらっしゃる方々の間から)「ついにお前も頭がおかしくなったか!」と一斉に非難の声が上がった(苦笑)のですが、確かに、硬水地域に棲息するザリを飼育した経験をお持ちの方であれば、これは明らかに「頭がおかしくなった」セッティングに他なりません。ただ、もう一度じっくりとあの記事を読み返していただければご理解いただけます通り、水槽立ち上げの初期というタイミングに絞って考えれば、ゼオライトは応分の存在価値を持つものです。あえて水中に存在するアンモニア総量を低く維持することで、濾過層全体における濾過バクテリアの立ち上がりを緩やかにし、それでもってこうしたバクテリアの環境をより安定的なものにする・・・というのは、ザリガニに限らず、濾過システム作りの”常識”ですものね。そして、サンゴ砂を投入するタイミングについても、あえてゼオライトを取り出した後にする・・・というのも、まさに「ザリ飼育ならではの工夫」なのです。何も考えてないようで、一応はちゃんと細かく考えていたんですけど・・・ねぇ(笑)。 いずれにしても、ゼオライトに関しては、決してその価値や使用を否定するワケではないにせよ、少なくともザリ飼育に関しては、マイナスの影響が起こり得る可能性がゼロではないという点から、「何もわざわざ無理して使う必要もないんじゃないかなぁ?」っていうのが、ザリの硬度で散々苦労してきたキーパーたちの”偽らざる真情”ってところなのかも知れません。ゼオライトの使用に関しては、肯定派も否定派も、それぞれ自分の主張に有利な科学的データを持ち出しながら自説を展開している部分もありますので、つい、どちらにすべきか迷ってしまうこともあろうかとは思いますが、こうした部分を踏まえた上で使うべきか否かをご判断されればよろしいかと思います。 |