お尋ねのメール内容 Sさん(愛知県) |
ゴーストのことについて、自分自身どうしても納得できないことがあり、それをどうしても解決したくて質問のメールをさせていただくことにしました。佐倉様はザリガニの販売をされてないそうですので関係ないと思いますが、せめて、情報だけでも教えて欲しいのです。 一昨年の秋のことです。私はあるネットショップでゴーストの稚ザリをペアで買いました。値段は少し高かったですが、落とすことなく成長し、自分で言うのも恥ずかしいのですが綺麗に育ち、繁殖も成功しました。今は、その子を育て上げまして、さらに次の代の子を採るために努力しているところです。 ところが昨年の暮れに、ネットショップではなく、実店舗のあるショップに行った時のことです。ザリガニに少し詳しい店員さんでしたので、そこで自分のゴーストの入手状況と飼育状況を話したところ、飼育方法は問題ないとして、「そのルートのゴーストは偽物で、本物のゴーストではない」ということを言われました。そして、どうせ飼うなら品質も全然違う、しっかりした本物の方が良いということで、100%確実に本物だというゴーストを勧められました。そのゴーストの値段は私が買ったものより少し高いくらいで、決して買えない値段ではなかったのですが、大切に育ててきた個体が”偽物”と言われたことが心に引っ掛かってしまって、結局買いませんでした。家に帰って、親個体と繁殖させた子の個体を穴が開くくらい一生懸命何度も見ましたが、私には違いがわかりませんでしたし、ひいき目かも知れませんが、私のところで繁殖させた子の方が綺麗な個体もいました。でも、やっぱり気持ちは晴れないのです。 もし私が買った個体が偽物なら、本物との違いをどうしても知りたいのです。本当にそれが偽物なら、もちろん今の個体も大切にしますが、それはそれで納得しますし、佐倉様の記事が、全部「白ヒゲ白化個体(ゴースト)」という書き方になっているのも、急に気になるようになりました。それは、そういう本物と偽物を区別するためなのかとも思い、どうしても質問に答えていただきたくてメールをさせていただきました。佐倉様にとっては取るに足らない話かも知れませんが、せっかく一生懸命育てた努力を台無しにされた気分です。このショップは、ゴーストの作出者のルートから、直接かどうかはわかりませんがちゃんと仕入れているので、本物で絶対間違いないと断言していたのですが、そういうのも商売上のウソなのでしょうか? どうか、この気持ちにお答え下さい。お願いします。 (お送りいただきましたメールには、それらの個体の写真も貼付されていましたが、ここでは割愛します) |
お答えさせていただきます |
とても熱のこもったメールを頂戴し、こちらとしてもストレートにお答えしたいところですが、このテの内容は私自身、ヤビーが大盛り上がりしていた時代に同じ問題で大論陣を張った結果、それで利益を上げていた売り手の方々と、それを買ってしまったキーパーの方々の双方から、散々ボロッカスに叩かれたという、実に痛い経験をしておりまして、それ以降はちょっとトラウマなんですよ・・・(苦笑)。でも、さすがに今はブームも下火ですし、そこまで叩かれないだろうことを祈りつつ、せっかくいただきました熱いお気持ちを少しでも収めていただけるよう、穏やかに話をすすめましょうねぇ(笑)。 さて、まず根本的な”本物・偽物”論ですが、こと「ゴースト」という一点で見る限り、そのショップの方のおっしゃっている方が正解だと私は思います。もちろん、そこでショップの方がおっしゃっていた流通経路が事実であれば・・・という話ですが。Sさんは私に「そのショップの人の言っている方が間違いです!」みたいな、胸がスカッとするドラスティックな回答を期待されていたかも知れませんし、そういう意味では予想外の回答でさぞやガッカリされるかも知れませんが、少なくとも砂川個人としては、そのように考えています。その上で、もう1つ考えることがあるとすれば「製品名と商品名は必ずしも一致しない」ということでしょうね。でも実は、この部分こそが一番大切で、そして今回の話の”肝”になる部分だと思います。生き物であるザリガニに”製品”という言葉を当てはめるのは、本来であれば適切ではありませんが、よりわかりやすくするために、ここではあえて”製品”という言葉を使わせていただきますね。 Sさんは、文房具のセロテープをお使いになったことがあると思います。誰でも知っていますし、誰でも使ったことのある有名で便利なテープですが、あれが”製品名”ではなく”商品名”だ・・・ということはご存知でしょうか? あのテープは、製品としては”セロハン(セロファン)テープ”と呼ばれる粘着テープですが、それを「セロテープ」として作り、売ることができるのは、「セロテープ」の商標を取っているニチバンというメーカーただ1社のみであり、それ以外のメーカーは、どんなに大手だろうと生産量が多かろうと、自社の商品を”セロテープ”と名乗ることはできません。そういう意味では、ニチバン以外のメーカーが作ったセロハンテープは、すべて”偽物”セロテープなのです。そう!世の中の多くの人は、今も「偽物のセロテープ」を使い、それを”セロテープ”だと思い、そして、それに何の不満もないワケですよ・・・ね。下手をすれば、いや、下手をしなくても「製品名はセロテープではなくセロハンテープなんだ」ということを知らない人の方が多い・・・ハズ。ニチバンの社員の方からすれば必ずしも嬉しくない話でしょうし、並々ならぬ努力をして、そして”本物”というプライドを心に持ちつつセロテープを世に出されているのは想像に難くありませんが、それでも世の人々からは「全部ひっくるめてセロテープだと認識されている」ということは、厳然たる事実なのです。一見、ザリガニとはまったく関係のない話をしていると思われるかも知れませんが、実はこれこそがこの問題の本質なのではないでしょうか? 私自身、白化個体に関しては平成8年の時点で情報を聞いて現物を見に行っていますし、当該ページでも書かせていただきました通り、その年の春には実際の捕獲記録が残っています。さらにはその前の平成1〜2年の段階で同系統の個体が出ており、その中の一部は(ちょっと色が違う個体をチョイスされてしまったことが今となっては逆に残念ですが)雑誌で取り上げられています。その後の経過については当該ページをご覧いただくとして、ともかくその中の特定の個体群の個体を契機に交配維持が進められ、それに対し”ゴースト”という名前が冠され、一気にブレイクした・・・ということになるワケです。まさに「セロテープとセロハンテープ」の例えに等しい話です。 こうしたザリガニを「ゴースト」と呼ぶ限り、少なくともそのザリガニについては、その発見または作出に携わった方の見解がすべて正解だ・・・ということになりましょうし、そこに本物や偽物という価値基準が出てきても決して不思議ではありません。そして、広く観賞魚界を眺めれば、そんな「やれ本物だ偽物だ」という話はザリガニに限ったことではなく、ディスカスにせよグッピーにせよアロワナにせよ、いくらでもある話なのではないでしょうか? 佐倉サイトでこの個体を取り上げる際、最初の段階から一貫して「ゴースト」ではなく「白化個体」という言葉をすべて冒頭に置く形で表記しているのも、実は当初からこの問題が考慮されていたためなのです。砂川個人として、別に「ゴースト」そのものを否定するつもりはありませんし、それが作出の結果生まれたものだとするならば、そうした努力を払われた方には心から敬意を表したいと思います。ただ、大切なのは、そうした「”本物”ゴースト」を含め、白ヒゲ個体群の中において白化が強く発現する個体または個体群全体をどう捉えるかであり、その本質がどういうものであるか・・・をより広く、より深く知り、極めて行きたいという、それだけのことではないかと思うのです。 実際、今までも多くの方から「ゴースト」に関する情報をいただいたり議論をしたりしましたし、佐倉サイトにおける白化個体に関する説明は、ゴーストの基準から見ても誤りであるというご指摘をいただいたこともあります。しかし、私自身、そうした方々が主張されている内容とは明らかに違う例を何度も見ましたし、そういう個体群もこの目で見てきました。実際、私を含め”ゴースト旋風”が起こるよりも遥か以前から、こうした個体や個体群の存在を知り、見てきたブリーダーやトリコさんたちから見れば、こうした形で語られる「ゴーストが本物のゴーストであるための条件や定義」というのは、あくまでそうした個体が出現し得る様々な特性の中の1つなのだ・・・というふうに考えています。「ゴースト」という名前は、少なくともザリ・キーパーの間では非常に有名ですが、実際に様々な個体や棲息地、そしてその棲息状況を見て歩いた結論として、「白ヒゲ白化個体」という大きな括りの、その中の1つが「ゴースト」と呼ばれるものなのだ・・・という考え方が最も自然で、理にかなっているのではないでしょうか。「ゴースト」の作出に携わった方々からすれば、自らの手法や過程こそが最も大切な”真実”ですが、それはあくまで白ヒゲ白化個体の中における、自ら作り上げた「ゴースト」というザリガニに対してのみであり、そうした条件や定義が、あちこちで発見されたり作出されたりしている同じ体色の白化個体すべてに適用されるべき”真実”であるとは断言できないのです。そこが「商品名と製品名」の違いなのです。これは、決して混同すべきものではありません。それぞれに全く異なる、しかし根本的な価値基準があるワケですから・・・。 もちろん、商標を持つニチバンの社員からすれば、何がどうあったとしても「セロテープ」こそが本物であり、他のいかなるセロハンテープとも一緒にされたくないはずです。そうした考え方の善し悪しは別として、自分たちが心血注いで作り上げたもの以外のすべてを”偽物”と思いたくなるのは人情というものでしょう。ただ、現実には”本物”に勝るとも劣らない”偽物”だって確実に存在するはずで、それを全部ひっくるめて「セロテープ」として語ろうとするからおかしくなるのだ・・・と。だから佐倉サイトは、そこの部分を踏まえた上で最初から全部を「セロハンテープ」として扱っている・・・という感じなのです。 せっかくなので、もう1つ、ザリガニでの事例を挙げてみましょう。それは、同じアメザリの桃色個体のうち”サクラ”と呼ばれるものです。もちろん”佐倉”ではありませんよ(苦笑)。 このザリガニは、当該ページにも記してあります通り、現在は日本ウパルパ協会の理事長であり、「アクアライフ」誌でウーパーの連載を担当している渡部久氏が、平成11年に「青色個体の色褪せ」という、当時のブリーダーが等しく抱えていた悩みから、その発想を逆転させる形で、約5年間もの月日を掛けて地道に固定し、作出したものです。彼とはもはや四半世紀を超える、それこそ”腐れ縁”(苦笑)ともいうべき古い付き合いなので、私自身、当時の彼の苦吟や作出の過程、そして、ほぼ納得の行くレベルまで達した段階で、初めてその個体に”サクラ”と命名したところまでを全部この目で見てきました。ですから、”サクラ”として何が本物か・・・となれば、それは彼の作出方法で100%間違いありません。それで行けば、彼が作出した個体か、彼の作出方法と同じ方法で作ったもの以外は、すべて”偽物”だ・・・ということになりますよね。 でも、その後、こうした個体が有名になって行くに連れ、”サクラ”の名前は一人歩きをするようになりますし、中には、ベタ赤×白色の交配によって生まれた個体や、偶然捕獲された薄桃色の個体にまで、”サクラ”の名前がつけられ、流通するようになります。歴史の浅いブリーダーの中には、渡部氏の存在すら知らぬまま、たまたま自分の作った個体に、オリジナルとして”サクラ”という名前をつけてしまった人だっているはずです。先ほどの基準でいえば「偽物が大手を振って歩く」状態・・・ですね。もし、ここで彼が「いや、最初にサクラを作ったのは俺だ! 俺が作ったもの以外はすべて偽物だ」などと主張し始めたとすれば、彼が一番最初に作出し、世に問うたことは間違いのない事実ですから、それはそれで通ったに違いありません。しかし、そういう点で彼は豪放磊落と言うべきか暢気と言うべきか、それともただのお人好しなアホと言うべき(苦笑)か、そういうことには関心すら示しませんでした。確かにサクラは間違いなく彼の手によって世に出されたものではありますが、結局のところ彼の興味やこだわりは、自分の作り出す個体に対する”品質”という、その一点に対してのみであり、自分の付けた名前などには何の頓着もなかったワケです。ま、そういうところが彼の変人らしさでありプロ・ブリーダーとしての矜持であり、同じ変人である私が長く付き合える最大の理由でもあるのでしょう・・・けど(笑)。 私が佐倉サイト上で、あの色の個体を「サクラ」ではなく「桃色個体」という名称で一貫して取り上げたのも、最初の作出者である渡部氏に対して敬意を払わないからではなく、あくまで彼の個体に対するスタンスと同様、そうした体色の個体全体としての特徴・・・という部分から取り上げたからですし、白化個体の時と同様、”サクラ”を「桃色個体という大きな括りの中の1つ」である・・・と結論付けたためです。あのページを公開してから、すでにかなりの時間が経っていますし、もちろん公開前に本人にもキチンと内容を確認してもらいましたが、今の今に至るまで、一度たりとも渡部氏本人から「あの内容はおかしい!偽物だ!」などと言われたことはありません。これはまさに、作出者である彼自身が「商品名と製品名」という趣旨の本質と、その価値基準の違いをご理解いただけている証左でもあるのです。 「商品名と製品名」ということの意味をご理解いただけましたでしょうか? そういう意味で、Sさんの個体は、少なくとも商品名としてのブランド論議という観点だけで話をするのであれば、やっぱり「偽ゴースト」なのかも知れません。しかし、それはあくまでもそうした「ゴーストという商品名としての価値基準」としての話であり、少なくとも”製品”的な価値観で見る限り、間違いなく優秀な白ヒゲ白化個体であるはずです。そして、それは「本物ゴースト」に決して劣るものではないとも思います。「ゴースト」の名称や価値を貶めるつもりはまったくありませんし、それに携わる方にも飼育される方にも充分な敬意を払った上で、Sさんを含めた各々のキーパーが、ご自分の軸足をどちらに置いてザリガニと向き合われるか・・・ということを決められればよろしいかと私は思います。 |