お尋ねのメール内容 Tさん(東京都) |
素朴な疑問で申し訳ないんですが、ザリガニの呼吸方法について、どうしてもよくわからないところがあってメールをしました。 ザリガニがエラ呼吸の生き物であることはいろいろ調べてわかりました。そして、酸素を取り入れるための水を腹の脇から吸って前の方へ出していることもわかりました。でも、どうしてもわからないのが、その水を吸ったり吐いたりするためのシステムが、一体どこにあるのか・・・ということです。 魚の場合、たとえばエラ蓋がある種類なら、それが水流を作るエンジンのような役割をしていますし、サメのような種類なら、自分で泳ぐことで自動的に水が身体の中を通過できます。でも、ザリガニの場合、エラ蓋みたいなものはありませんし、いつも泳いでいるわけでもないので、身体の中を通過する水の流れをどうやって作っているのかがわからないのです。何かそういう機能を持った器官が体内に内蔵されているのか、それとも、自らの力では流れを作らないまま、たとえば川上に向かって後ろ向きになるなどして、漂っている水だけで呼吸をしているのか、そうした部分がハッキリわかりません。どうか、教えて下さい。 |
お答えさせていただきます |
非常に興味深いお尋ねをありがとうございます。メールを拝見しまして、私も「確かにそうだよなぁ!」と思いました。エラ蓋もなければ遊泳によって強制的に水を取り入れているワケでもない・・・。「漂っている水で呼吸」ということもお考えになっていらっしゃいますが、それではあまりに非効率的であり、また酸欠リスクも常に伴いますから、これは現実的でないし・・・。確かに、疑問に思われることも無理からぬことでしょう。ザリガニのうち、一部の強健な種などに関しては、エラさえ濡れた状態であれば、大気中から直接酸素を取り入れることができます。でも、それはあくまでも副次的な呼吸方法であり、魚と同じく、あくまで「水中に溶けている酸素をエラから吸収する」というのが本質ですから、効率的かつ安全に酸素を取り入れるためには、身体の中にキチンとした水の流れを作り出さなければいけないことは申し上げるまでもありません。 さて、そうした水流を作り出す機能を持つ器官の正体ですが、体内に設置されたモーターやポンプなどのようなものではなく、口(大顎)の周囲にある顎舟葉(がくしゅうよう)と呼ばれるものになります。ザリガニを真正面から観察していると、口の周りに小さなヒゲのようなものが生えていて、それがユラユラ揺れている様子が観察できると思いますが、このヒゲこそが顎舟葉であり、これを細かく動かすことによって体内の水を外へ排出するという、いわばポンプのような役割を果たしているのです。 ザリガニが餌を噛み砕いて体内に取り込む「口」は、顎脚とも呼ばれるように「脚」が変化して形成されているのはご存知の通りですが、この顎舟葉も、厳密には脚が変化したものです。非常に小さい”脚”ではありますが、これはとても重要なもので、喧嘩などでこれを全部逸失してしまうような事態が起こると、ザリガニの酸素確保はかなり厳しい状況になってしまいます。かなり昔の話になりますが、第二次ザリガニブームのころ、あるショップの店主が、輸入されてきた個体の顎舟葉を寄生虫と勘違いし、1個体ずつピンセットで丁寧に抜いた結果、入荷した個体を自ら全滅させてしまった・・・という、笑うに笑えないエピソードがあるほどです。 ですから、パッと見た感じは、ただ水に漂って揺れているだけのように見えるこの”ヒゲ”ですが、実はザリガニ自身が自らの呼吸を確保すべく、意図的に動かしているものだったのですね。もちろん、心臓などの器官とは違って常時動かしているワケではなく、呼吸の頻度やその必要に応じて動かしているものですので、それでもって個体の状況や水中の酸素状況を推し量ることもできます。いつ見ても、ずっとこれを大きく動かし続けていたりする場合には、その個体のエラに関する異常や水中の溶存酸素量不足などについてもチェックしてみる必要があるでしょう。 なお、すでにご存知とは思いますが、エラ自体に関しては胸脚と密接な繋がりを持っています。個体はじっと静止しているにも関わらず、第2〜第4胸脚などだけをせっせと前後にユラユラさせているシーンを目にした経験をお持ちの方も少なくないと思いますが、あれは「脚を揺らしている」のではなく「体内のエラを揺らしている」と考えるのが普通です。従って、個体がこうした行動を頻繁にとっている場合も、何らかの要因によってその個体が充分に酸素を接種できていないのだ・・・ということに気づく必要がありましょう。酸素は、餌などと違って過不足が目に見えなくい要素でもありますので、個体の様々な行動からしっかりと状況を読み取ることが大切です。 |