その6:アメザリ白化個体を捕まえに行こう!
(平成27年2月)



 ”ゴースト”というセンセーショナルな名称とともに一世を風靡し、最近でこそ一時期の狂乱的なブームこそ去ったものの、今でも一定の人気を誇っている白ヒゲ白化個体。最近でも、魅惑的な名称を冠した様々な”改良品種”が登場し続けているようです。キーパーの間では、彼らが基本的に白ヒゲ個体の範疇にあり、そうした個体群が存在する棲息域の、さらにその一部の限られた場所でもって見ることができる・・・ということは、情報として一般化しつつありますが、そうした状況とは裏腹に、こうしたザリガニの価値を維持するため、そうした棲息現場やその捕獲状況については語りたがらない人も多く、そういうこともあってか、未だに「ゴーストは水槽下養殖でないと作ることはできない」という情報を鵜呑みにしてしまっている人も多いようです。

 そこで今回、平成27年2月に行なった個体の捕獲の様子を公開させていただくこととしました。ただ、この情報の公開に当たっては、この棲息場所を教えて下さった古くからお付き合いのあるトリコさんより「ここは”ソコソコ値段のつく水棲生物”(生物名は伏せます)の採れる場所のすぐ近くにあるため、場所そのものの画像や、場所が特定できるような情報の公開は控えて欲しい」とのご要望がありましたので、詳細な地点情報やその場を特定できる画像は匿す・・・ことで公開させていただくことをご了承下さい。本来なら、その場所そのものを公開できればベストなのでしょうが、ザリガニのみならず、ネット上でこうした情報が出た途端、その場所自体が壊滅的な状況になってしまう事例が頻発しているため、ご理解をいただければ幸いです。
 もちろん、それ以外の情報に関しましてはできるだけ細かく取り上げ、いつ、どんな場所でどのように白化個体を見つけるのか・・・? そして、それはどのようにして育つのか・・・ということをご覧いただければ嬉しいなぁ・・・と思います。なお、この記事は"Scissors" CrustaExplorer Japanグループページにて平成27年3月22日に発表した内容に加筆再構成をしたものです。




 さて、白化個体の棲息する場所ですが、上記の通りここでは詳細な地点を書けないため、「北関東にある大きな湖沼水系の某所」とさせていただきます。この場所周辺には、いくつか白ヒゲ棲息地が点在していますが、それぞれがまさに”散在”している状況で、各々の場所に、ある種の関連性や連続性があるようには見受けられません。左の写真は、その棲息地点を背にして撮ったもので、要するに「結果的にこういう場所に合流する」という感じです。その場所自体は、ここに流れ込んでいる小水路の上流部数十メートルという限られた範囲です。水深は1メートル弱、跨いで飛び越えられる程度の小水路で、水路上をソコソコ大きな木が覆っている状況です。
 「だったらこんな写真必要ネェだろ!」と思われるかも知れませんが、実はこれが非常に重要なんです・・・ねぇ。白化個体のように目立つ体色で、外敵から狙われやすい体色の個体が生き延びるためには、少なくとも「コイなどの大型魚が入り込めない」ことが必須条件の1つになります。また、それは鳥などの陸上生物でも同じで、こうした外敵が簡単にアプローチできる状況ですと、仮に生まれても生き延びたり代を繋ぐことはできません。この場所を含め、こうした棲息地のほとんどが「稚ザリの状況でしか捕まえることができない」ということは、こうした理由を強く示唆しています。
 さらに、いわゆる「業者採り(網やカゴ類でもって一気に大量に捕獲する採取方法)」であればまだしも、一般的な捕獲方法において考える限り、白化個体は基本的に冬場が捕獲のシーズンと考えるのが最も理に適っています。



 さて、それでは実際に網を入れてみましょう。当然ですが、こんな寒い時期ですから、成体はほとんど自ら巣穴を掘って潜り込んでおり、網入れをしたところで、採れるのはこうした秋生まれの稚ザリたちが中心です。サイズ的にいうと2センチ前後のものが主流であり、せいぜい3〜4センチが最大・・・といったところですね。では、なぜそんな時期がベストシーズンなのでしょうか?
 白化個体は、(当たり前の話ですが)自然下では非常に目立つ存在です。ハッキリ言ってしまえば「自然下で生き延びるのは非常に困難」な状況ですらあるのです。その場所に棲息する個体のうち、一定数の個体にその資質があり、そのうちのさらに一部がその資質を発現させます。しかし、実際にはそうした個体の大半が成長の過程で補食されてしまうなどしますから、みなさんが水槽で眺めて楽しむような成体のサイズまで育つのは、少なくとも自然下においては限りなくゼロに近い・・・といってよいでしょう。もちろん、そうした個体が限りなく少ない状態であったとしても、その棲息地においてそうした資質自体は受け継がれて行きますから、その場所においては毎年一定数の個体は発生するはずですが、みなさんがイメージするような「あのゴーストがウジャウジャいて、網を入れればガンガン採れる」などということは、かなり現実から乖離した話なのです。冬場での採取がメインになる・・・というのも、言うなれば「成長過程で個体数が減耗してしまう前に採る」という考え方によるものです。





 ガサガサしてはカウントして記録・・・を繰り返すこと約1時間、ようやく1匹目が揚がってきました。いやぁ、何度やっても嬉しい瞬間! 網の中に、白っぽい稚ザリがいるのが見えるでしょうか?




 せっかくですので、拡大してもう1枚!(笑) 稚ザリの段階から、かなりハッキリとその違いが出ていることが見て取れます。ただ、裏を返せば、稚ザリの段階からこれだけ目立ってしまう分、外敵にも狙われやすいことを意味しますから、これくらいの段階で採っておかないと、その場所での数はさらに少なくなってしまうというワケですね。「冬場こそがシーズン」という意味合いも、きっとご理解いただけるだろうと思います。「ゴーストを捕獲した」なんて話を聞きますと、まるで川の中から「ショップやネットなどで見るような、あのゴースト」が揚がってきた・・・なんてイメージを思い浮かべてしまうもので、だからこそ「そんなことはあり得ない!絶対に作り話だ!」なんて話も出てきてしまうのでしょうが、現実には、そんな捕獲事例自体、滅多にあることではありませんし、私自身、白化個体の捕獲はソコソコ経験しているものの、亜成体以上のサイズで白化個体を捕獲した経験自体、10回ないのが実情なのです。





 白化個体の捕獲をある程度経験されているベテランキーパーの中には「白化個体はノーマル個体と比べて成長が遅い」と力説する方もいらっしゃいます。確かに、この個体は一緒に揚がってくる個体と比較しても小さい感じがしますね。
 ただ、これを「白化個体がもつ資質上の原因」だと断じてしまうのには、少々無理があるようにも思います。それは、実際にそうでないケースも私自身数多く経験していることもありますし、状況を考えれば「元々、白化個体は成長が遅い」というよりも「目立つ体色をしている分、一般的な体色の個体と比べて身を隠す必要性が高く、捕食を含めて活動が制限されているため」という考えの方が自然だといえるでしょう。これは、この写真におけるこの個体の腸管が如実に物語っています。
 なお、話の本筋から離れる話ですので細かくは触れませんが、ネット上などでよくある「ヤラセ捕獲話」の真偽を一発で見抜く手段が、この腸管・・・なのです。私も過去には、こういうことによる判別法すら知らない人たちから、そりゃあずいぶんと叩かれました(苦笑)が、こういうところまで深く理解して下さっている方からは、その信憑性をキチンと理解していただくことができ、とても嬉しく思いました。ザリガニのことを深く見極めて行けば行くほど、いろいろなものが見えてきますし、様々な要素から的確な判断などができるようになってくるのもおもしろいところですよね。





 さて、白化個体といえば「稚ザリの段階から白くなければおかしい」という説を未だに信じていらっしゃる方が少なからず見受けられます。確かに、上の個体でもわかる通り、自然下でも多くの個体は稚ザリの段階からそうした色をしていますが、じゃあ「必ず白い」か・・・といえば、決してそうではありません。ここが、水槽飼育からしか情報を得ていない人の最も陥りやすいところではないかと思います。
 白化個体の解説ページでも取り上げましたが、これは茨城県内の棲息地で、ほぼ同じような季節の段階で捕獲した稚ザリの写真です。「ただの白ヒゲ」と思われるかも知れませんが、胸脚部の色が乗っていないので、持ち帰って育ててみたところ、約1年で、いわゆる”ゴースト”の体色に育ってきました。つまり、こうした褪色資質に関しては、成長のどの過程において大きく発現してくるかどうかは定まっていない・・・と考えるべきですし、逆に、そういう状況だからこそ、その棲息地の中において白化の資質が受け継がれて行くのだ・・・ということになるハズです。その点で考えれば、少なくともこの場所にいる個体に関しては、たとえ外見上は何ら変化の感じられないノーマル体色の個体であっても、そういった資質を持った個体は少なからず存在している可能性はあるでしょうし、丹念に繁殖を繰り返して行けば、その中から白ヒゲ個体や白化個体が出てくることも充分に考えられるハズです。





 1匹目が揚がってから、さらに30分・・・。やっと2匹目が揚がってきました(笑)。体色的にはこちらも白っぽいですが、この個体は先ほどの個体と比べると、全体に斑点状の模様がうっすらと出ていますね。
 上の項目でも触れました通り、こういう状況から見ても「白化個体の稚ザリは必ず白い」または「稚ザリの段階から白いことが白化個体であることの条件」という考え方が、いかに現実と乖離しているかがご理解いただけるはずです。褪色という資質であることは間違いないにせよ、それがどれくらいの時期に、どれくらいのレベルで発現してくるのかということは、むしろ「一定していない」という捉え方をしておくべきではないかと思えてなりません。




 結局この日は、水温12度の中、約2時間の網入れを行ない、メモした分だけで473匹の個体(亜成体83を含む)を捕まえ、うち2匹がパッと見から判別ができる白化個体でした。せっかくなのでノーマル個体に餌用メダカも一緒に入れて撮影を・・・1枚(苦笑)。1匹目と2匹目が、体色的に全く異なっていることが、この写真からも見ることができます。そして、ノーマル個体のすぐ上に写っている若干薄めの体色の個体・・・。揚がってきた瞬間、直感的にピンと来たもので、実はこの個体が、この後”大化け”をすることになるのですが、それはまた機会を改め、別の項目で取り上げることにしましょう。当然、ピンと来るのにはいくつかの理由があるのですが、そこにまで踏み込んでしまうと、この記事自体が限りなく膨らんでしまいますので、そこはご容赦を・・・。





 記録を終えればそのまま放してきてしまってもよいのですが、アメザリの場合は持ち帰っても問題のない種ですので、ここでは持ち帰りについて考えてみましょう。今回は、白い個体2匹と薄めの色の個体を1匹、持ち帰ることにしました。
 なお、いくら問題ないといっても、当初予定していた数以上の個体を持ち帰るのは避けるべきだと思います。特にこうした特徴ある個体を探しに行った際などは、つい目移りしてしまって予定数以上の個体を持ち帰りたくなることもあるでしょうが、共食いなどで減耗させてしまうようでは意味がありません。
 アメザリは基本的に強健ですから、酸欠にさえ気をつけておけば、よほど高温や粗悪な状況でもない限り途中で死ぬことなどはあり得ませんが、稚ザリの場合、成体と比較するとその場の水に対する依存度が高いため、急激な環境変化や水温・水質変化などは危険な場合もあります。持ち帰り前提で採取に出掛ける場合には、前もって充分にこなれた水による水槽セットを準備しておくことが肝要だといえましょう。もし、そうした水作りに自信のない場合は、灯油用のポリ缶などを用意しておき、その場の水を汲んで持ち帰り、こなれた水と混ぜて使うなどの方法も一考です。なお、水槽導入後の脱皮トラブルや共食いを避けるため、万全を期すのであれば、30cm程度の小さな水槽で構わないので、持ち帰る予定の個体数分くらいは水槽を立ち上げておくことをオススメします。
 帰宅後は、できるだけ早い段階で水槽に放し、充分に落ち着かせた上で、まずは1回脱皮させることに全力を注ぐようにしましょう。急激な水質や水温の変化でショックを起こすことのないよう、こなれた水がない場合には、水合わせを行なうことも悪い方法ではありません。




 最初に揚げた個体を一度脱皮させて、落ち着かせた状態の写真です。採取して水槽に収容してから、ほぼ3週間程度経過した状態です。全体的に白色であることは間違いありませんが、やはり白ヒゲ白化個体らしい斑紋が出始めてきていることがわかりますね。
 なお、この斑紋の出方ですが、水槽下で繁殖した個体と同様、自然下の個体でもかなり大きな個体差が見られますし、その出る位置や濃さなどにも違いが見られるのが普通です。こうした部分の違いを細分化して区分したがるのが、ザリ・キーパーのみならず、アクアリスト全般に見受けられる”悪いクセ”なのですが、実際には「かなりの違いと発現の広さを持つ」という点で共通している・・・と考えるのが妥当なのだろうと思います。




 一方、2番目に揚げた個体は、一度脱皮させた後、このような感じになりました。写真がポンコツで申し訳ない(苦笑)のですが、上の個体と比較して、斑紋の大きさがまったく違うのはご理解いただけると思います。ほとんど”マーブル”に近い雰囲気ですよね。
 上の項目でも少し触れましたが、いわゆる”ゴースト”好きの方の中には、こうした稚ザリ段階での体色差をもって、ある種の区分をしたがる方がいらっしゃるようです。もちろん、それもそれで1つの楽しみ方ではあろうかと思いますが、今回のケースをご覧いただいてもおわかりの通り、同じ場所から同じ時期に採った個体であっても、これだけの差が出てくるものですし、しかもそうした違いが、果たして成体に至るまで”違い”のままであり続けるか・・・という部分には、大きな疑問があるといってよいでしょう。ましてや、それが子に受け継がれるのか・・・・という部分まで考えれば、なおのことだと思います。もちろん、楽しみ方は自由ですから、こうした価値の決定もそれぞれだと思いますが、同じ”違い”を楽しむのであれば、そうしたカテゴライズ的な部分ではなく、大きな括りの中における”個体差”としての楽しみ方なぁのかぁ・・・と思えてなりません。





 以上、ザッとですが白化個体の捕獲などについて触れてみました。ネット内に氾濫している情報や自分の水槽の中だけで起こっている情報にも、興味深いものはたくさんありますが、実際に自らの足で探し回ったり調べ歩いたりすることによって、そうしたものだけではない様々な事実もいろいろと見えてくるものです。そして、そうした形で得られた情報の中には、今までの経験や思い込みを根底から引っくり返すような興味深い内容のものもあったりしますから、本当にたまりません・・・よね!(笑)
 さぁ!あなたも一度、自分の足と頭を使ったチャレンジに取り組んでみませんか? ネットとショップと自分の水槽だけに頼るのではなく、自ら調べ、自ら歩き、自ら動いて課題を克服して行くのも意義あることです。特別な個体は、ネットやショップの向こうにいるだけとは限りません。もしかしたらあなたの家の周りに「ちょっと違う何か」を持ったアメザリたちが潜んでいるかも知れませんから・・・。白化個体でなくても、白ヒゲだったり青個体、黒個体だったりしてもおもしろいですし、とにかく「新たな発見」に出くわすことは、ホントに楽しいものなんですよ。