その4:ニホンザリガニを知る、見る、感じる
(平成24年7月)



 最初は水槽を通して出会い、飼育という行為を通じて関係を深めて行ったザリガニも、好きになればなるほど、その興味はどこまでも深まって行くものですし、そこで湧き上がる様々な疑問を解決しないままで時を過ごすワケには行かなくなるものです。そうなった時に初めて気づくのが、自分や周囲の水槽という、極めて不自然であり、しかも歪曲された環境の中だけで起こる「事実」も、ショップやネットでまことしやかに語られる「真実」も、よくよく冷静に考えを深めて行けば、所詮は何の普遍性も法則性もない「机上の空論」なんだ・・・ということ。ザリガニは、そんな程度の知識や情報、そして極めて限られた経験だけですべてが理解でき、解決できるほど底の浅い生き物ではありませんものね。
 知れることはすべて知り、見れるものはすべて見、感じられるべきものはすべて感じ取りたい・・・。そして、そこまでストイックに突き詰めた上で芽生えてくるであろう疑問や課題の中から、初めて大きな「何か」が見えてくることもあるはずだ。そのためにも、まずは逃げず、まずは面倒臭がらず、そうした疑問や課題に正面からぶつかって学び、さらに、それを裏付けるために自ら外の世界へ出て行かなければならないのではないか・・・? そのような気持ちで乗り込むようになった「現場」への道・・・。そんな今年の遠征一発目は、棲息調査以外にも、ザリガニに関して興味深いイベントがあるとのことでお招きをいただき、ニチザリの故郷・北海道へと飛んできました。




 時は平成24年、いよいよ日本の空にもLCC(低価格航空会社)が就航することに・・・。しかも、東日本におけるハブ空港は、我らが千葉県の成田空港だ・・・というのですから、嬉しいではありませんか! 今までは、わざわざ遠方の羽田空港まで出向き、しかも片道ン万円を払って飛行機に乗っていた私たちにとっては、家の近くから乗れて、しかも抜群に低価格なLCCを使わない理由がありません。ただ、「安かろう悪かろう」「安物買いの銭失い」「安全性は大丈夫?」と、様々な評価や情報が飛び交っているのも、これまた事実! これはとにかく一度、自ら乗って体験してみるしかない・・・ということで、つい数日前に就航したばかりのジェットスターを利用して北海道入りすることにしました。
 今回搭乗するジェットスターのフリートは、LCCの世界ではお決まりのエアバスA320。基本、古典的なボーイング派のこの私、フライ・バイ・ワイヤ機と聞いただけで、ワケもなく抵抗感が芽生えてしまう・・・(苦笑)。ま、今となってはトリプルセブンだってデジタルFBWなんだから、こんな抵抗感を持つこと自体、間違っているのはよくわかっているんですけど・・・ね。




 コストダウンの方針は、空港における駐機体制にも徹底されています。1回の駐機料(空港の使用料)を少しでも下げるため、フリートは「沖留め」といって、ターミナルビルから離れた場所に駐機されています。当然、ボーディングブリッジを使ってビル内から歩いて搭乗することはできませんから、バスに乗ってフリートの側まで行き、タラップを使っての搭乗・・・。ちょっと面倒ではありますが、今の時代、逆に新鮮かも! 上の写真もそうですが、成田空港みたいな国際基幹空港で、こういう目線からフリートを眺めることができるなんて、まずないですもんね!
 実際の機内ですが、狭い狭いと言われていた機内も、精神的に追いつめられるほどの圧迫感はなく、それなりに快適な旅を楽しむことができました。さすがに長距離の国際線はキツいでしょうが、純粋な飛行時間がせいぜい1時間程度の成田-札幌線であれば、全く問題なかろう・・・と。これで片道10000円を大きく切る運賃であれば、充分に使いでがありそうです。ウ〜ム、これは合格! 今までより費用を抑えることで、もう1往復できそうだぞぉ(笑)。




 新千歳空港を降り立つと、まずは最初の目的地、札幌・円山動物園に向かいます。今回の北海道行きにおける1つめのメイン行事は、当日、この円山動物園で開催される「ザリガニ・サミット」に出席させていただくこと・・・。師であり、旧友でもある川井先生が代表を務める「ザリガニと身近な水辺を考える会」が円山動物園とタッグ組んで開催する、まさに「ザリガニのお祭り」です。空港から動物園へと直行し、意気揚々と会場へ・・・。入口の写真を撮らせていただこうとしたら、会の主要メンバーでいらっしゃる佐藤先生と三原さんがザリガニのオブジェを手に、ポーズをとって下さいました。





 さっそく会場、円山動物園・動物科学館ホールへ・・・。中ではすでに準備が始まっています。今回は、様々な地域でザリガニに関する様々な活動をされている方の発表を中心として進行するので、発表用パワーポイント・データの展開準備などが着々と進みます。参加者の中には、今までの活動の中で、何度かお目にかかっている方もいらっしゃるので、社会人の端くれとして、ここはきちんとご挨拶をしないと・・・ですね(笑)。





 座席後方には、ザリガニに関するポスター展示も・・・。このような「目で見て、読んで確かめる」ような展示も、ザリガニに関する興味を喚起して行くためには非常に大きいものです。実際、発表の前後や休憩時間などの際には、非常に多くの人たちがポスターの前に立っていました。





 川井先生や円山動物園の園長さんの簡単な挨拶が行なわれた後、さっそく、各発表者による研究発表が始まります。生態研究から環境保全、そして飼育や教育など、8名の発表者が様々なテーマで熱のこもった発表を行ないました。新たな情報や興味深いデータなども数多く公開され、メモを取る手も進みます。「ザリガニが好き」と口にはしながらも、実際には極めて偏った情報だけに終始してしまう悪しき傾向が高い我々にとって、様々な立場の様々な方による、多彩な角度からの偏りない情報や見解に触れることの大切さを痛感する瞬間でもあります。情報には、一切の貴賤も無駄もありませんし、区別する必要もありません。だって、立場こそ違え、話す人も聞く人も、みんな「ザリガニ馬鹿」なんですから・・・ね。
 開催予定時間があっという間に経過してしまい、質疑応答に関しては、後ほど熱く語り合うということで、イベントは一旦終了!




 イベント終了後、円山動物園側のご厚意により、日ごろは非公開となっている「ザリガニ飼育小屋」と、現在整備が進められている「動物園の森」の見学ツアーが実施されました。参加希望者が多かったため、急遽、2班態勢での見学ツアーに・・・。イベント参加者のみなさんの、ザリガニに対する興味の高さが窺われます。私は、参加者の一番最後尾からノンビリついて行ったため、当然ながら「2班」となりました(笑)。





 1班のみなさんがザリガニ飼育小屋の中の見学をしている間、我々2班は「動物園の森」を見学することになりました。エリアを歩く前に、まずは職員の方から動物園の森に関する概要や現状、そして今後の整備方針などについてレクチャーを受けます。鬱蒼とした森の中に射し込んでくる木漏れ陽が実に鮮やかでイイ感じ・・・。地元から参加されている人たちは、口々に「暑い暑い」とおっしゃっていましたが、蒸し暑さに関していえば、むしろ「本場」である関東地方から飛んで来たばかりの私からすれば、今日の札幌は、なんとまぁ・・・清々しい風の吹く爽やかな天気なのでしょう(笑)。





 レクチャー後、さっそく森のエリアへ・・・。鮮やかな木々の間を流れるのは円山川です。ムードは満点ですが、残念なことに完全な三面護岸(涙)。これではザリガニだけでなく、ここで生きてきた様々な生物にとって非常に厳しい環境ですね。その昔、この地域ではいくらでも見られたニチザリが、今では壊滅的な状態になっているのも、この川の状態を見れば、まさに頷けるというものです。
 幸い、護岸自体はかなり古くなっているようですし、職員の方々も、将来的な目標として、護岸改修の必要が出てきた時期での抜本的な工法改編に向けた検討と、より生物の棲息に沿った再整備への取り組みを挙げていらっしゃいました。元はといえば、人間の都合によって行なわれたこのような護岸工事ですし、それはそれで仕方ない部分もありましょうが、今や、機能を損なわない状態での棲息環境向上を狙った改修もあちこちでトライされていますから、これは、本当に大切なことです。そう遠くない将来、この円山川本流で生命を輝かせるニチザリの姿を見れる日が来ることを祈りたいものですね!




 一方、現在、急ピッチで進められているのが、今の円山川の側崖エリア、円山川の旧流道跡に整備されているビオトープです。この日も、地元のテレビ局の取材クルーがその周辺の整備の様子を撮影に来ていました。職員の方の話では、環境的にはニチザリの生存に障害が出ない状況であるとの調査結果を得ていることから、このエリアの整備が終了し次第、同地域内のごく一部分の沢に辛うじて生き残っているニチザリを飼育小屋で繁殖させた上で、ここに戻そうと予定されているそうです。これは本当に素晴らしいことですね!
 動物園の森は、現在、職員の皆様方を中心に、こうやって懸命な整備活動が続けられています。しかし、前途は決して楽なものばかりとは限りません。一見、豊かな自然が残っているように見えるこの森も、ちょっと細かくチェックすると、外来植物があっちにも、こっちにも・・・。動物も植物も、どちらも非常に大きな問題と課題を抱えていることがわかります。



 森の見学を終え、ザリガニ飼育小屋に戻ってくると、中ではまだ1班のみなさんが見学の最中でした。どなたも真剣な表情で、説明に耳を傾けています。そこで、しばらくの間、小屋の外で待つことに・・・。
 それにしても、みんな、スキなのねぇ・・・。でもアタシ、そんな気持ち、わかる気がするのヨン(笑)。




 外で待っている間、入口の脇に掲出されている手作りポスターを熟読させていただきます。ニチザリの基本的な説明に加えて、国内棲息の3種(ニチザリ、アメザリ、ウチダ)に関してもキッチリ取り上げられていて、ザリガニに関する知識があまりない人でも、しっかりと現状把握ができるようになっています。職員の方々の、ニチザリに賭ける「想い」がヒシヒシと伝わるポスターですね。





 1班のみなさんの見学が終了すると、いよいよ飼育小屋へ・・・。まず、小屋の概要について説明が始まります。ガイド役は、このプロジェクトを背負う円山動物園の吉田淳一氏。参加者一同、まさに真剣な表情で、吉田さんの説明に耳を傾けています。





 説明を耳にしながら、水槽セッティングの方に目を向けてみましょう。

 ここでのストック体制は、基本的には大きな水回りによるセパレーター・セッティングで、必要充分な水量を確保しつつ、逃走防止の観点からの蓋閉じ&低水位のシステムを採用しています。全体で一貫した水回しのため、水位を下げても水質の触れ幅はさほど大きくならないという利点があるといえましょう。ここに、各地区ごとの個体が収容されており、特に、この動物園の森で発見された貴重な個体についても、きちんと系統保存されています。ニチザリについて興味がある方ならご理解いただけるとおもいますが、まさにここで今、管理されている個体こそが「北半球に棲息するすべてのザリガニの起源」なワケですから、その使命も重大・・・なんですよね! 頭が下がります。




 一方、水槽の下に目を向けてみることにしましょう。ここでのメインは、やはり大きなクーラー。たとえ北海道であったとしても、人工的な環境で個体を維持して行くためには、クーラーを欠くワケには行きません。しかも、水容量に対してかなり余裕を持った出力のセッティングであることが見て取れます。
 また、奥にはこれまた超大容量の濾過システムが稼働中・・・。飼育というと、時折「俺はこれだけの設備で、これだけのことができた」・・・などという、いわば「設備を削る形で腕をひけらかす」ような無意味な自慢のシーンに出くわすことがありますが、こういう施設のこうした設備を見ていると、そんな自慢の愚かさが痛感されますね。スポーツの世界でも、ビジネスの世界でも、そして生き物飼育の世界でも、結局、王道を極めるためには、基礎をきちんと突き詰め、それを確実に機能させて行くしかないのです。




 概要や飼育設備に関する説明が終わると、いよいよ本日の主役であるニホンザリガニが登場! 吉田さんが実際に個体を手に取って、それを参加者に見せながら、その細かな特徴や魅力などを細かく説明して行きます。こんな小さな生き物であるニチザリに、参加者のみなさんの熱い視線が注がれる瞬間!




 説明のために、水槽から取り出された個体をジィーッと見ていると・・・。





 「ホラ、これがニホンザリガニだよ。よぉく見てごらん! 小さいけど、ボクと同じくらいの年齢なんだよ」という感じで、目の前に・・・。
 生き物を題材にした教育活動にとって、まさにこれこそが、最も大切であり、最も効果の高い方法であることを、私たちは忘れてはいけません。そして、まさに生き物と人々との間を取り持つ最前線に立ち、日夜努力されている動物園の職員だからこそ、吉田さんは、この「瞳の輝き」を見逃さないのです。こうした動きや、これにちゃんと気づく「人間としての心配り」を、私たちはきちんと学ばないといけませんね。

 円山動物園でのイベントは、これにて終了! 夜は、近くの居酒屋にて、今回のベントの懇親会が開かれました。発表者や参加メンバーのみなさんとの楽しい酒席に大盛り上がり! もちろん、それぞれの立場からの「熱きザリガニ談義」が繰り広げられたことは申し上げるまでもありません(笑)。



 さて、翌朝・・・。今日は一日、棲息調査です。朝6時半にはホテルの部屋を出てロビーへ・・・。7時前にはホテルを後にしました。今回は、札幌市街から中山峠を越え、洞爺湖から室蘭方面の調査空白区を攻めて行きます。毎度のことながら朝早くからヤル気満々! テンションも最高潮なワケでして・・・(笑)。




 さっそく、それらしい場所に踏み入ってみましょう。山の斜面から水が湧き出る絶好の環境です。水の状態も、周囲の状態も問題なさそうだし、探す指先にも力が入る・・・。脳味噌からアドレナリンが洪水のように分泌されているのがハッキリ過ぎるほど自覚できる瞬間でもあるワケで(苦笑)。





 ホイ! 今年最初のご対面! 

 2〜3歳の若い個体ですね。思わず表情がほころぶ瞬間・・・! この時の喜びと感動が忘れられなくて、わざわざ飛行機乗ってまで、毎回、北海道にやってくるんですけど(苦笑)。




 それからすぐに、今度はこんな堂々としたお兄ちゃんも登場! 稚ザリから成体まで、各サイズが満遍なく確認できるということは、この棲息地の個体たちが順調に代を重ねていることを意味するワケです。大きい個体が見つかるのは嬉しいですが、大きい個体だけしかいないというのは、逆に不自然でもあるんですね・・・。


 そして、抱卵個体もめでたく登場! 卵をよぉく見てみると、一部は発眼が始まっています。これなら、あと数週間もすれば、お母さんの腹節は可愛い稚ザリたちで賑やかになることでしょう。

 それにしても、この卵の数が、ニチザリの「現実」・・・。何百個単位で卵を抱えるアメザリやウチダなどと違って、これだけ大変な思いを経て産み落とされる新しい生命も、この程度の数が精一杯なのです。一旦ダメージを食らうと、なかなか個体数が回復しないのもご理解いただけることでしょう。




 この場所では、10分間の調査でこれだけの個体が確認できました。個体は、大きさ(CL)や性別、状況などを記録し、写真撮影をした後、元の場所に戻されます。またいつの日にか、この場所で、さらに多くの仲間たちと一緒に再会できることを祈って・・・。




 個体を戻した後、次の棲息地に移動する前に、再度、その地点の細かな状況を記録して行きます。その場所で確認できた個体自体のデータはもちろんのことですが、それ以外にも、棲息地の環境、水や底質などの詳密な状況、そして周囲の植生などに至るまで、様々な要素や項目を確認し、そして丹念に記録して行かねばなりません。
 さて、今回ご一緒させていただいたのは、ニチザリ研究界のトップランナーである北海道稚内水試の川井唯史先生と北海道大学大学院の田中一典さん。本来なら、私などはすっかり恐縮して末席を静々とついて行かなければならない立場のハズなんですが、例によって偉そうに「同志」ヅラして先頭切って歩く始末・・・。毎度のことながら、ホント、我ながらこの無礼ぶりにも困ったモンだわなぁ・・・(苦笑)。





 遠くから眺めてみて「これなら、環境的に問題なさそう」・・・と感じて近づいて行っても、突然、このように開発工事が入っていて、棲息地が丸ごと吹っ飛んでいることも、実際には少なくないのです。人間から見れば「ほんのちょっとした工事」でも、彼らにとっては致命傷になることは多いもので、毎年、棲息地単位で個体が減っているのは、こういう理由もあるのです。薮漕ぎして近づいて行った先に、こんな風景が広がっていたりすると、そりゃあもう、ゲンナリしちゃうワケでして・・・。




 広い広い北海道ですから、基本的に移動は車で・・・ということになりますが、それによってある程度は自由度や機能性が高まるにしても、当然ながら棲息地はすべて道沿いにあるワケではありません。「ここ!」と目ぼしをつけたら車を停め、道具一式を持ってこのような場所へと「薮漕ぎ」に立ち向かって行くのです。さすがにクマと鉢合わせになったことはありませんが、エゾシカやキタキツネの類に出くわすことは日常茶飯事・・・。棲息調査に出掛ける砂川が、毎回、どういうワケか「なんちゃってアウトドア野郎」みたいな出で立ちをしている理由もご理解いただけるのではないか・・・と。ま、この薮漕ぎも、ニチザリに出会う感動を経験するための、ちょっとした「前菜」みたいなもんなんですけどね。



 このように、薮漕ぎの格闘を経て、やっとこさ辿り着いたようなポイントでも、必ずニチザリたちに出会えるとは限りません。この場所も、遠くから眺めた時のイメージは最高だったのですが、結局、探すだけ探して1匹も見つかりませんでした。現場に到着した時は非常に澄んだ水の流れでしたが、ちょっと足を踏み入れたら、あっという間に水が赤濁しました。まさに、火山灰土質らしい環境です。



 ニチザリに出会うことも大切ですが、「出会うことができなかった」ということも、実は本当に貴重な情報なのです。「会えなかったから、ハイ、おしまい!」ではなく、出会えないなら出会えないなりに、きちんとその場所の状況を確認し、記録して行くのです。水は? 土は? 草は・・・? 時にはこうやって、火山灰で形成された粘土質らしい側面の土の状況までもきちんと見ておく必要もあるのです。




 そんなこんなで一喜一憂と丹念な記録とを繰り返しながら、棲息調査は続いて行きます。それでも、2回続けて空振りに終わると、何とか次こそは彼らの姿に会いたいと思うもの・・・(笑)。さぁ! また「イイ感じ」の場所を発見しましたよ!



 石をどけて、水が湧出している付近の場所を丹念に探って行くと、ハイ、発見! 結構イイ感じに育ったオス個体です。大きさから見ると、たぶん7〜8歳程度といったところでしょうか・・・。




 すると、続いて再び、結構いいサイズのオス個体が出てきました。ニチザリにしては充分な大きさですね。元気にハサミを振り上げ、威嚇ポーズをとるあたりがカワイイ(笑)。

 このように、きちんと棲息しているところには、それなりの数が確認できるのも1つの現状ではあります。そのため、こうした風景を日常的に目にしているような人にとっては「ニチザリが絶滅の危機に瀕している」と言われても、今ひとつピンと来ないそうです。いなる時には、一瞬に、しかも一気に消えてしまうニチザリだからこそ、こういう恵まれた環境の棲息地を1ヶ所でも多く残さないといけませんね。


 ここでも抱卵個体が出てきました! 緯度的に見ても、また、標高の面などから見ても、こちらは先ほど発眼卵を抱いた個体を見つけた場所と大きな差はほとんどないのですが、こちらは(これ以外にここで見つかった抱卵個体を含めて)全く発眼しておらず、黒光りする卵のままでした。それにしても、ニチザリの卵はホントに美しいねぇ・・・。




 ここの水温を計測してみると14.3度でした。ま、心持ち低いですが、他の場所と比べて劇的に違うというほどの差ではなく、明らかに想定範囲内の温度差です。ニチザリというと、とにかく水温の面ばかりが話題にのぼるもので、「綺麗な水をとにかく低水温で」みたいな話に終始されがちですが、こういう場所に来れば、いかにそれが不充分なことであるかが痛感されるというものです。人間だって、気温だけで健康状態を判断されたら、たまったもんじゃありませんものね!

 彼らの生活は、様々な条件や背景の上に成り立っており、実際にこういう場に出掛けることで、その一部分にでも考えが及ぶことは、とても幸せなことだと思います。そして、彼らと向き合う以上、こうした部分をきちんと考えねばならない・・・ということが実感されますね。



 朝7時前にスタートした棲息調査も、結局、当初予定していたプランの半分もこなせないまま、日暮れが近づき、タイムオーバー・・・。私の調査はまたの機会に・・・ということで、田中さんにわざわざ新千歳空港まで送っていただきました。
 出発までのゆったりしたひと時を、飛行機を眺めながら過ごします。そうそう! 何度も行かれている方ならご存知のことと思いますが、新千歳空港のターミナルビルも、ずいぶんおしゃれになっていますよぉ! 初めての方は、ぜひターミナルでの時間もとっておくとよいでしょう。
 出発前、ボーッとエプロンを眺めていたら、目の前に駐機していたのは、関西空港を拠点に運行しているLCC、ピーチ・アビレーションのフリートでした。ジェットスターと同じA320で、しかも後で知ったことなんですが、関西-札幌線も、成田からとほぼ同じ6000円程度なんだそうで・・・。こりゃあスゴい! これなら関西在住の方とも、一緒に棲息地巡りができそうですね。世の中、ホントに便利になりました。そして、ジェットスターのフリートが新千歳に着陸・・・。ホントに30分間ちょっとで、我々を乗せて成田空港へ・・・。こうして、今回の北海道行きは無事に終了しました。




 絶滅が危惧される在来種であるニホンザリガニ・・・。法的に彼らを守るものは未だ整備されておらず、彼らの未来は、私たち人間の「モラル」に委ねられているといっても過言ではありません。「法律さえ破っていなければ」・・・というスタンスが、彼らをどれだけ傷つけ、痛めつけ、そして生命を脅かしてきたかを、私たちは今、本当に真剣に考えるべき時に来ているように思います。人権が、人格を持った人間に対してのみ保証されるべきものであるのとおなじように、権利も、義務とモラルを十二分に堅持し得る人間にこそ与えられるべきものではないのか・・・と、彼らの質素で無骨な生きざまが語っているように思えてならないのです。

 本当にニホンザリガニという生き物が好きだからこそ、彼らの明るい未来が、ありとあらゆる障害を乗り越え、すべてに優先して実現され行くことを心から祈りたい・・・。そう、思います。