その1 : 潜入! アメザリ養殖場
(平成13年8月)

 ペットショップに行きますと、ペット用として、または大型魚の餌用として、多くのアメリカザリガニたちを目にすることができます。また、都市部にある気の利いたフランス料理店などに行きますと、時折「エクルビスのなんとかソース添えなんとか風」みたいな感じで、アメザリにバッタリご対面しちゃうことも・・。難しいザリたちの飼育に、日夜腐心している私たちキーパーからすれば、「なぁんだ、アメザリかぁ・・・」みたいな感じで、ほとんど気に留めることもないのですが、ふと考えてみると、これだけ多くのザリガニが、年間を通して売られているのもヘンな話ですよね。これには、いったいどんなカラクリが隠されているのでしょうか?



 今回、偶然見つけたのが、道端に立っていたこのド派手なノボリ・・・。埼玉県中・北部や茨城県東南部などと並び、首都圏向けの食用アメザリでは一、二を争う大生産地とされ、キーパーの間では「15センチオーバー」伝説が生き続けている印旛沼畔ですから、必ずや何かあるとは思っていたのですが、見渡す限りの水田が続く農道に、さり気なく立っていたのです。ビックリ仰天! そしてワクワク・ドキドキ! ザリ・キーパーとしては、それこそ見逃すわけには行かないハズ・・・ですよね!





 ノボリを目印に、脇道を進んで行くと、地置きの水槽や養殖池が見えてきます。管理の方にご挨拶をしてから、中をちょっと覗いてみると、いたいた! ものすごい数のザリ・ザリ・ザリ・・・。ハサミの大きさを見てもわかる通り、年齢的には3〜4歳、大きさにすれば12〜3センチ級の相当大きな個体がウジャウジャと水中を歩いています。その数ざっと3〜400匹。たかがアメザリでも、ここまで数が揃うと、それはそれで壮観・・・ですわなぁ。





 養殖池を眺めてみましょう。池は、いくつかに分けられ、アメザリの他にも、観賞用の淡水魚やエビ、食用のコイやフナなどが収容されていました。ここで個体を繁殖したりストックしたりして、年間通じて食用、あるいは観賞用として供給できる態勢をとっているそうです。これだけの広さがあれば、充分な量は管理できますもんね。
 ただ、最近は、印旛沼でも、アメザリはだんだん少なくなってきており、印旛沼産の個体だけでは、とても供給が追いつかない・・・とのこと(これは、漁協の方も同じようなことをおっしゃっていました)。また、印旛沼本沼でも、大型個体の姿は、めっきり減ってしまったそうです。そこで、需要に応えるために、埼玉産や福島産の個体も取り寄せ、出荷することも多い・・・とか。印旛沼大型ザリに心躍らされながら育った私にとっては、ちょっと寂しい話でしたね。





 出荷の近づいた個体は、池揚げされた後、このような形でストック用の水槽に移されます。特に食用の場合、こうした「ドロ吐き」が必要不可欠! 一見、無造作に放り込まれているだけであるようにも見えますが、落水とエアレーションで、しっかり管理されているところが、さすが「プロ」ですね。おまけに、ここで使われている水は100%井戸水! 深井戸から汲み上げられた綺麗で冷たい水が、個体のコンディションをしっかりキープしています。





 養殖場にある管理小屋の軒先を見てみると、積み上げられた黒いザルに、上から水がポタポタ流されているではありませんか! ン? ヘンだぞ? っていうことで、脇の階段をちょっとのぼり、上から覗いてみると、あ! アメザリだ!





 これが何と! 出荷直前のアメザリだったのです。すでにストック水槽から出され、サイズ別に区分けされています。水から完全に揚げられてしまっていることに不思議な感じを持たれる方もいらっしゃるかも知れませんが、ザリガニの場合、エラが湿っていさえすれば酸素を取り込むことができますから、ザルの中の温度が上がり過ぎない限り、こうした形でもしばらくの間はコンディションを落とすことなく生かすことができるのです(あくまでもアメザリのような強健種だからこそ・・・という部分もあるのですが)。この方法、日本に限らず、アメリカなどの食用養殖業者でも、実はこれとほとんど同じ出荷前管理、輸送管理がなされているんです。最近増えているくすんだ赤色ではなく、水深のある場所に棲息していた個体ならではの、鮮やかな赤色が魅力的ですよね。食べちゃうの、もったいない・・・なぁ(苦笑)。





 こうして管理され、準備されたザリたちが、食用として、そして観賞用として、出荷されて行くのです。ふと、「オーストラリアなんかに行けば、こうした形でヤビーやマロンを見れるのかなぁ・・・」なんて考えたりもしてしまいましたが、とんでもない! これだけ元気で、綺麗な個体を目にしますと、アメザリだって、決して捨てたもんじゃないなぁ・・・と思いました。日本のザリ・キーパーにとっちゃ、絶対に外せない「お約束」のような種ですもんね。もっともっと、その魅力が語られてもいいくらい・・・なのかも知れません。