深迷怪ザリガニ事典・は行

はいごうしりょう(配合飼料)
人間が人工的に作り出した餌のこと。観賞魚の業界では「利便性」と「万全の栄養供給」という2つの面から、多くのメーカーが様々な魚種のための飼料を開発し、発売している。どのえさも、栄養面ではピカイチなのだが、嗜好性では天然飼料に遠く及ばないのが実情。これは、観賞魚界のみならず、養殖現場でも同じ傾向であるようなので、まさしく「配合飼料に課された宿命」なのかも知れない。「使えねぇ餌だ! 全然喰わねぇ!」といって投げ出してしまうキーパーは、飼育魚種を問わず多いようだが、ザリガニの場合、基本的にはローテーション給餌を行うので、与え方を工夫することで、栄養面とコスト面とを見事に両立させているキーパーも多く見られる。
「ザリガニの餌」というもの自体は、多くのショップで目にし、購入することができるが、大半の製品が、学校教育現場などに向けた「飼育教材」用として開発されたものである。ザリガニ飼育関連商品は、メジャー魚種のそれと比較すると売れる量が極端に少ないため、いわゆる長期飼育のための「専用飼料」として本格的に開発・研究され、発売されているのは、日本淡水開発の「CF Star」しかないというお寒い状況である。多くのメーカーからガンガン出てくれれば、価格的にも、もっと手軽になるんだけど・・・なぁ(苦笑)。


はさみ(ハサミ=第1胸脚)
観賞の際に最も重視されるという、第1胸脚のこと。甜脚(かんきゃく)とも呼ばれる。実際に餌を摂取する際には、むしろ第2胸脚や口周りの顎脚を頻繁に使うので、欠損しても直ちに大きな障害が発生することはない。これが欠損していたりすると、商品価値としてはグッと低いものになってしまうが、ある程度成長しきった成体でもなければ、脱皮を繰り返す中で再生してくるので、さほど気にする必要はない。実際に同じ種類の個体を数多く飼育しているとわかることだが、意外と個体差の激しい部分でもある。


はじをおそれず(恥を恐れず)
言葉は悪いが、ズバリ、理想的なJCCメンバーの基本姿勢。ザリガニという飼育ジャンルは、他魚種のそれと比較すると恐ろしいくらいに未開拓なので、多少の間違いを恐れていては向上が見られない。となると、往々にして「大勘違いな見解」を打ち出してしまうことも多いのだが、ザリの明日を拓くJCCメンバーとして、とにかく「失敗」を恐れずに突き進む・・・という姿勢が必要。恥を恐れていては、何も先には進まないのである。現在、機関誌にガンガン投稿している面々は、多かれ少なかれ一度は「大ウソ見解」を出し、それを乗り越えてきている・・・ハズ。


ぱらすたしだえか(パラスタシダエ科)
ザリガニ分類上の1科で、日本語で訳すと「ミナミザリガニ科」ということになる。主にオーストラリア・ニュージーランドなど、南半球のザリガニがこれに属し、形態にも違いが大きいことから、ザリガニの科グループ3つのうちでも、古くから独立して分類されてきた。観賞用ザリガニのヒーローであるブルーマロンを始めとして、ヤビー・レッドクロウなど、キーパーたちが「この道に入り込むきっかけ」になった種が多く、見た目も派手なものが多い。多くのキーパーの憧れであるトゲザリ(ユーアスタクス系)も、このグループに含まれる。誰もが一度は手を染めるグループだが、経験を積むに従い、その派手さに飽きがくるのか、徐々に「我が道」へと回帰して行くキーパーが多いので、「このグループ一本」と言い切るキーパーは、意外と少ない


はるこ(春仔)
アメリカザリガニ(または広義のキャンバリダエ科)飼育の現場において、主に5〜7月ごろに孵化する稚ザリ、あるいはその繁殖活動自体を指す通称。原棲息地におけるアメリカザリガニの繁殖は主として夏から秋に行なわれるため、時期的に見れば基本生態から乖離する現象だが、日本国内においては自然棲息下の個体であってもこの時期に繁殖活動を行ない、稚ザリをリリースさせる個体が少なからず確認されているため、必ずしも「自然の摂理に反した意図的繁殖」であるとは断じ難い部分もある。飼育下においては春先に加温して脱皮などを促したり性成熟を早めるなどの策を講じ、意図的にこうした時期の繁殖を狙うケースもあるが、経験が浅いキーパーの場合、オスのフォーム違いなどで繁殖自体が最初からつまづくこともあるので注意が必要だ。年2回産卵などといった目的でもない限り、基本的には秋仔を得るための繁殖活動の方が容易であるとも言える。
稚ザリに関しては、越冬に入る前までの間に応分の成長が見込めるため、翌年の繁殖に向けた個体作りには有利だが、夏場の高水温環境下における共食いや大量斃死などによる個体数減耗が起こりやすいというデメリットもある。


ばんざい(バンザイ)
飼育下において、個体が水槽ガラス側面に寄って立ち上がり、上によじ登ろうとする様子を示すキーパー間の俗称。もちろん、その時の姿勢がこの言葉の語源で、特に導入直後には多く見られるとされる。一般的には「水中の溶存酸素量が少ないので、空気中の酸素を求めて水面に上がろうとしているのだ」と説明されることが多いが、原因は決してそれだけではなく、水質・水温、同居個体などを含めた水槽内の環境に問題があって、個体がそれを避けるために逃げ出そうとしている場合の方が多いと考えてよいだろう。導入してからしばらく経っても、個体がこういう行動をやめなかったりした場合、まず送気状況をチェックすることは悪くないことだが、それ以外にも様々な原因を想定して、チェック・調整してみる必要がある。また、それまで全くそういう素振りを見せていなかった個体が、何かを境にして頻繁にこういう行動を見せるようになる場合もあるが、そういう時には、その直前の変化要因が、その個体にとって問題があった可能性が高いと判断できることが多い。何もないのに突然そんなことを始めた時には、大きな地震が起こる前触れかも(実は、かなり信憑性の高い事例報告もあるモンだから・・・苦笑)。いずれにしても、個体の様子や状況を知るために、キーパーが絶対見逃してはならない「サイン」の1つであることは間違いなかろう。


はんしょくふぉーむ(繁殖フォーム)

・・・「性的二形成」の項を御参照下さい。


ぴーえすびー(ピーエスビー:PSB)

観賞魚用として発売された嫌気性光合成細菌の総称。1980年代半ばから1990年代前半ごろ、観賞魚飼育での濾過に効果があるということで一大ブレイクするも、徐々に下火となり、現在では扱うショップも少なくなって来ているものだが、ザリ用の「栄養源」として、一部のキーパーからは現在でも支持されている。これは、一部メーカーの広告で「稚エビの栄養補給には実績がある」とされたことに端を発したもので、事実、孵化直後(幼生期)には相応の効果があるようだが、これは、あくまでも水中を浮遊している「変態前」の幼生状態に対しての話であり、直接発生の形態(幼生の状態では生まれない)をとるザリの場合、水中に浮遊する菌体を捕まえて摂取するのは無理と言わざるを得ないので、供給する際には、あらかじめ餌に浸してから与えるなどといった作業が必要となろう。独特の腐敗臭がザリの食欲増進に効果を及ぼすと主張するキーパーもいるが、栄養面も含め、果たして特筆すべき劇的な効果があるのかどうかは疑問が残る。


ひく(引く)
・・・「選り抜き」の項を御参照下さい。


びせん(尾扇)
読んで字のごとく、尾の先端に広がるうちわ状の部分。通常は5枚で構成され、強力な水かき機能を持つ。何らかの緊急事態が発生した時には、この部分を強く掻いて後ろ向きに泳ぐことができる。遊泳性のエビ類ほど頻繁に使うわけではないが、必要な部分ではある。メス個体の場合、抱卵時の卵保護に大きな役割を担うので、これが欠損していない個体を使うのが普通。


ひょうじゅんわめい(標準和名)
種に対する日本式の呼び名のうち、一定の基準に基づき、学名1種につき1つになるよう調整して割り振られた和名のこと。状況により、複数の和名がつけられている生物も存在しているが、そのような場合であっても、標準和名は1種類のみということになる。基本的には研究者同士または学術団体などによって慣用的に用いられ、定着して行くことが多く、必ずしも利用頻度には比例していないこともある。また、学名とは異なり、必ずしもすべての生物に対して与えられなければいけない性質のものではない。
なお、標準和名のみならず、生物の名前を分類学の観点から表記する場合、日本語が語源の名前であっても必ずカタカナで表記することがルールとなっている。蟹は「カニ」と表記するし、蝦は「エビ」と書かなければならない。これで考えると、日本原産のザリガニであるニチザリは、意味上から考えれば「日本蝲蛄」と書いた方が自然かもしれないが、あえて「ニホンザリガニ」と表記するのが正解だ。人間も、分類学上の観点から表記する場合「ヒト」という書き方が正しいことになる。


ふうせんこたい(フーセン個体)
様々な方法によって、稚ザリに対し好ましくない育成がなされた際に発生してしまう症状を抱えているヤビー成体を指すキーパー間の俗称。古くは10年近く前に一部のヨーロッパ・ルートで入ってきていた個体に共通して見られた現象で、脱皮前後の突然死や、導入後1〜2ヶ月経った後での(明らかに導入などの環境変化に伴う疲労死とは異なる期間を経た上での)衰弱死、さらには体力があるはずの成体における突然の自殺など、特有の症状が見られる。体形がアンバランスであったり、各箇所に特有の極端な成長格差が見られたりする外観的特徴があり、その後、当時のキーパーの情報交換や比較飼育実験によって、稚ザリからの育成ミスによって引き起こされることが突き止められた。また、その当時から青系個体または青系個体作出の過程で育成方法を誤った場合に多発する傾向があることも知られている。その後、輸入ルートの変更や問題点などの解明に伴い、しばらく見受けられなかったが、平成15年春ごろより、一部の国産成体に全く同じ現象が出始め、再びこの用語が使われるようになってきている。当時から、動詞化されたり擬態語化されたりして「膨らんでる」「パンパン」「ブクブク」などと表現されることも少なくなかった。輸入ルートの体型的特徴などと説明されることも多いが、養殖(食用)乗り換えにせよワイルドの転用にせよ、現実的にも理論的にも説明のつかない体型をしているので、体型的特徴として定義付けるのはかなり苦しいのも事実。症状が出てしまってからでは手の施しようがないが、育て方さえ誤らなければ、よほどの特殊事情がない限り避けられる問題であることを考えると、要は「自分の個体くらい、面倒臭がらずにチビからしっかり自分で育てましょ!」ということになろうか・・・。


ふくし(腹肢)
「遊泳肢」ともいい、泳力の高いエビなどは、ここを前後に揺らすことで泳ぎ回るが、ザリガニの場合、この役目は尾扇が行うので、日常活動に大きく影響することは少ない。ただし、繁殖時、メスはこの部分に卵を付着させて抱える上に、揺らしながら卵に酸素を供給するため、この部分の善し悪しは、繁殖の成否に大きな影響を及ぼすものである。輸入段階での過密ストックなどにより、個体によってはかなりの欠損が見られる場合も少なくない。成体を導入しての繁殖が上手く行かなかった事例の原因には、こうした細かい部分にあることも多いので、繁殖のために成体のメスを購入しようという場合には、必ずチェックしなければならない部分だといえよう。


ふじょうせいしりょう(浮上性飼料)
投入後、水面にとどまる餌のこと。水面近くで生活したり、この付近で摂餌活動をする生物にとっては非常に有利であり、昨今の専用餌ブームにより、わざわざこういう性質に加工して製造・販売されているものも多い。これらの中には、ザリガニにとって非常に嗜好性が高かったり、あるいは有用な成分を含む餌もあるが、投入前に水に浸して沈むようにしたり、あるいは砕いて他の餌に混ぜたり・・・と、それなりの工夫をしなければいけないので、常に底床部を生活の場とするザリガニにとっては、最も不都合な餌だということになろう。最近は、こうした手間を必要としない餌も増えてきているので、キーパーも、よほどのこだわりがなければ使わなくなってきているのが実情だ。


ぷらいべーとびん(プライベート便)
ザリガニの輸入経路のうち、大手輸入業者の手によるもの以外の輸入個体、または輸入経路の総称。新種や珍種が入り込んでくることが多いので、キーパーにとってはかなり魅力的ではあるが、輸入量が少なかったり、一度きりしか輸入されなかったりなどの理由で、その後は定着しないことが多い。「幻の」などという定冠詞が着くザリは、たいていこのルートで輸入されたものである。


ぷらす・まいなす(プラス・マイナス、+-)
個体の年齢について話す際、数字の後に続けて使う。あえて訳をすると「以上」「以下」みたいな感じになるが、それぞれ前後半年くらいのスパンで使うため、「1+」と表記した場合は、生後1年から1年半まで・・・といった感じであろうか? 一般的にはマイナスよりもプラスの方が多く使われ、繁殖可能年齢や寿命などでも用いられる場合が多い。

(用例)「このマロン、2-なんだけど、繁殖使えるかなぁ?」「絶対無理だとはいえないけど、どうかなぁ? マロンの場合、2+でもギリギリっていうし、普通は3+を使うからねぇ・・・」


ぶるどーじんぐ(ブルドージング)
個体が両側の第1胸脚で底砂を均す(ならす)ような動作。キーパー間では「整地する」と称されることが多い。この動作は「自分が行動・生活しやすいように底床環境を変える」または「餌を探す」という2つの原因が考えられている。前者の場合、水槽導入直後や脱皮・繁殖活動前などになると頻繁に見られるようになるが、それ以外の期間であれば(投餌状況にもよるが)後者の可能性が高い。経験を積んだベテラン・キーパーの中には、越冬明けの食欲状況を、この動作で見極めてしまうという猛者もいる。基本的には、マロンなどよりもヤビーやアメザリなどで多く観察でき、この動作中の第2・第3胸脚の動きをじっくり観察することで、その理由が前者か後者かを判断できる(ハズ)。


ほしる(☆る)
自分が飼育していた個体が死ぬこと。「死んで星になる」という言葉からの転用か? 広く観賞魚業界には、こうしたことを「落ちる」と表現するが、JCCボードで誰ともなく使い始め、すっかり定着してきた。全く使わないキーパーもいるが、ま、人それぞれということで・・・。

(用例)「昨日、俺のマロンが☆しちゃったよ。2年も生きてたのに。」


ぽっくりびょう(ポックリ病)
主に初秋から中秋にかけて、それまで元気だった個体が死ぬ現象で、キーパーからはバーンスポット以上に恐れられている。時期が限られていることから「秋のポックリ病」と呼ばれることも多い。経過としては、急速に食欲が落ちて動きが鈍り、1週間程度で死ぬというパターンが普通だが、中には、本当に突然落ちてしまうケースもある。原因はハッキリしないが、クーラーを入れた低温飼育個体には発生しにくいことから、夏の過酷な高水温飼育環境によって疲労が蓄積し、秋の水温不安定状態に耐えられなくなったためではないか・・・という見方が一般的。



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