ゼオライトの長所と短所、そして「使う意味」とは?

 ゼオライトは、活性炭と並んで、いわゆる「吸着濾過」の雄ともいえる素材で、時と場合によっては、活性炭よりも優れた能力を発揮するスグレモノです。特に、アンモニア(厳密にはアンモニウムイオン)を手軽に吸着除去できるという点では、他の追随を許しません。アクアリストの間で、古くから「水槽の立ち上げ時にはゼオライトを使え」と言われるのは、こうした理由があるからです。しかし、一定以上の範囲を超えると、その吸着能力が落ちるどころか、それまで吸着したものを放出し始めてしまうという致命的性質を持っています。
 また、吸着される優先順位こそ違うものの、ゼオライトにはカルシウムイオンなどのミネラル分も吸着してしまう性質を持っているため、軟水を飲む魚の飼育や水草水槽などには好都合であるものの、ある程度の硬さを維持しておきたいザリガニにとっては、こうした特性が逆に不都合となってしまうのです。確かに「不足するミネラル分は餌で補えばよい」という考え方もありましょうが、鰓などのコンディションを上手に維持したり、脱皮後の立ち上げを順調にこなして行くためにも、飼育水には、やはりある程度の硬さを持たしておく方が安全であるといえましょう。
 素材として非常に有効であるにも関わらず、ことザリガニ飼育の世界において、ベテランのキーパーやプロのブリーダーの多くが常用濾材として用いたがらないのは、こうした理由があるのです。以前のパートで、濾材にゼオライトを使う・・・ということを書き、その情報を公開した段階で、多くのベテランキーパーの方から失笑されたり、他のネット掲示板やサイトなどにおいてご批判やお叱りを受けたのも、まさにこういう背景があったからなんですね。
 さて、「アンモニウムイオンの吸着」という、この濾材の特性から考えるのであれば、濾過槽の立ち上げという要素で見る限り、むしろ逆効果なのではないか・・・という見解があるのも事実です。水中のアンモニア分を増やすことで、一連の濾過バクテリアを発生させ、定着を促すことが濾過槽立ち上げの最大目的なのですから、その大元となるアンモニアを吸着してしまうことは、かえって立ち上げを遅らせ、濾過バクテリアを鈍らせてしまうことになる・・・というワケですね。確かに、理にかなった見解です。
 ただ、ザリガニに限らず、多くの観賞魚飼育経験者が口を揃えるように、無理な作用、不自然な環境変化で仕上げたものには、必ず何らかの脆さが残るものです。今回、濾過槽の立ち上げに、約3週間という長い時間を使ったのも、このゼオライトによるアンモニウムイオンの吸着分を差し引いた上で、濾過バクテリア立ち上がりが緩やかになることを考慮したためで、そういう点で考えれば、ゼオライトを用いないことで立ち上げ時間の短縮を目指すことは可能であるともいえます。しかし、本来の自然下環境においては、水槽内で起こるような劇的な水質の変化や含有成分の数値変動は起こらないのが普通です。そして、そうした状況で即席に作り上げた濾過システムが、長い飼育体制の中においては、逆に脆弱なものであることも間違いないことでしょう。
 聞きかじりの中途半端な知識で様々な上級テクや応用テクを駆使したがることも悪いことではないでしょうし、手軽さだけを追求するのも悪くないと思いますが、まずは基本に忠実に、そして、1つ1つの性質と長所、短所を熟知した上で、より自然に近い変化過程の中で、じっくりと「濾過槽を育てる」ことこそ、本当の意味での「上級テク」なのではないか・・・と思います。