ザリガニ飼育に最も好適な底床素材は?

 今回は、オーソドックスな大磯砂を使って水槽を立ち上げることとしましたが、日ごろ、多くの方々より寄せられるご質問の中には「ザリガニ飼育に最も適している底床素材は何か・・・?」という内容のものが少なからずございます。せっかくの機会ですので、今回は少し、その点にも触れてみましょう。

 ザリガニを飼育する上で「どのようなテーマ、どのような要素を重視するか?」という違いは、その飼育システムや使用素材の選定にも大きく影響するものです。たとえば「個体のコンディション面で多少リスクを負ってでも体色を思い通りにさせたい」とか「あくまでも水槽全体を美しく見せたい」というのは、その典型でしょう。底床の選択が、自ら描いた目標や条件によって変化するのは当然のことで、前者であれば、あえて心持ち酸性よりの軟水系水環境が維持できる、どちらかといえばレッドビーシュリンプ系に近い底砂を採用することもありますし、後者であれば、好みの色のグラスサンド系素材などを使う場合もあります。場合によっては、勇気を出してソイル系に手を出さざるを得なくなることもあるかも知れません。もちろん、これらそれぞれには、当然、それを補わねばならない課題も出てくるわけですが、それぞれの選択によって起こり得る様々な課題や問題点をきちんと予測・理解し、なおかつ、それに対するリカバーが事前にきちんとなされている状況である限り、重篤な問題にはならないのが普通です。

 しかし、あくまで個体を健康に成長させ、順調な飼育や繁殖などを第一に考えるのであれば、やはり、そこそこ硬めの水を維持でき、急激なpH低下などを起こしにくく、それでいて、汚れを除去しやすい(汚れがたまりにくい)底床環境を目指す方が安全です。そうなれば、当然、選択する素材も、そういう諸条件を基準に考え、決めて行くことが大切でしょう。
 そこで、今回、ネット初公開になるかとは思いますが、古くはアメザリ白色個体、そして、ヤビー、レッドクロウ、クーナック、マロン、フロリダブルーなどといった、その時その時の流行種、そして、現在でも、多くの色ザリなどを生産し、問屋へ出荷しているブリーダーさんの多くが、長年使用してきた超定番の底床素材である硅砂(珪砂)ブレンドを紹介しましょう。
 ブレンドといっても、その中身は非常にシンプルなもので、ごく一般的な大磯砂に、硅砂(珪砂)をブレンドしたものです。飼う種類や大きさなどによっても配合は若干異なりますが、概ね7厘〜1分の大磯砂と、3号程度(粗目)の硅砂を7:3〜5:5程度の比率でブレンドするのが一般的です。気をつけなければいけないのが「粒の大きさ」で、同じ中目でも、大磯砂の中目と硅砂の中目とでは、大きさが全く異なります。従って、表示だけを見て購入すると、大磯砂に比べて硅砂の粒があまりに小さい・・・という状態になることがありますので、ブレンドに初めてチャレンジする方は、表示を過信せず、必ず双方の粒の大きさを確かめて揃えるようにしましょう。これは、換水時に汚れを吸い出しやすくするためで、右上の写真のように、互いの粒の大きさが、ある程度揃った状態にさせることが重要です。

 硅砂は、元々、花崗岩などといった、石英を非常に多く含む岩石を粉砕したもので、様々な地域で産出されていますが、中でも、山梨県、愛知県、岐阜県などの中部地方で多く産出されています。心持ちアルカリ性寄りに水質を維持させるという特性を持っており、ひと昔前までは、底砂素材の「超定番」の一角を担っていました。ちょっとしたショップに行けば、大磯砂、サンゴ砂とともに、必ずお目に掛かれたものだったのです。しかし、ソイル系やグラス系、セラミック系や麦飯石系など、底床商品のバリエーションが徐々に増え出してきたころから、まさしく「一人負け」の状態で、一気に取り扱いショップが減ってしまったという「悲劇の素材」でもあります。現実問題として、様々な「機能性素材」がもてはやされる傾向が高まったことや、硅砂を使って仕上がる水質を好む魚種が、全般的に減少してしまったという背景もあるかも知れませんね。
 ただ、ザリガニ飼育においては、水中のカルシウム分などに影響を及ぼさず、サンゴ砂のような溶け落ちの心配もなく、それでいて応分の粒径をもっていて汚れを吸い出しやすいという点では、非常に有効な素材です。素材自体の色が若干明るいため、体色面での心配を挙げる方もいらっしゃいますが、それはブレンド比率を調整するによって多少なりとも補うことができますので、決定的なマイナス要素にまではなり得ないといってよいでしょう。一般的な成体飼育でも効果を発揮しますが、特に稚ザリ〜亜成体期における育成水槽では、他の素材構成と比較して劇的な違いがあります。
 水槽を立ち上げるたびにそれぞれの素材を購入し、ブレンドして使うのも1つの方法ですが、ある程度の本数を抱えている場合には、それぞれ大袋で購入し、あらかじめブレンドして、右上の写真のようにストックしておくといでしょう。規模の大きいホームセンターの園芸・資材売り場などに行くと、硅砂とほぼ同じ素材のものが「矢作石」という名前で販売されていることがあります。園芸用であったり、資材用であったりするので、値段もかなり割安ですし、大量に用意するという場合には好都合かも知れません。しかし、元々、使用目的が異なることもあり、粒の大きさや洗浄度合いなど、基本的な品質の部分で問題が出るケースもあります。もし、園芸・資材ルートで手に入れる場合には、こういう点に充分注意が必要でしょう。また、念のため、硅砂は一度高温のお湯などで洗浄してから使うことをオススメします。

 よく「この種の棲息する国の水は弱酸性だから、飼育水も弱酸性の方がよい。従って、ソイルの飼育がベスト」という説明を耳にすることもあります。確かに、1つの側面では理に適った説明です。しかし、元々、水槽という、自然環境とは全く異なる状況下で飼育する以上、それだけの断片的情報で判断し、何から何まで決めつけてしまうのは安直過ぎる一面があることも否定できません。「東南アジアで養殖されている湖産アフリカンシクリッドは、元々の棲息水質である弱アルカリ性の水よりも中性ラインに近いの水の方が調子よく飼育できることもある」という現実が、それを何より証明しています。確かに、棲息地の情報は非常に大切なものですし、それを全く考慮しないことは好ましくありませんが、そうしたネット情報、文献情報などを踏まえた上で、様々な調整を繰り返しながら、よりよい環境を考えて行くことも大切なことでしょう。一般的に「弱酸性でないと飼育できない」とされる種類であっても、これらの素材構成を上手に調整して行くことで、長期飼育や累代繁殖を順調にこなしているケースはいくらでもある話です。

 ネット初公開といっても、この硅砂ブレンドが知れ渡り、広く定着したのは15年以上も前の話ですし、専業系の方やザリに造詣の深いショップなどとお付き合いのある方であれば、誰でも普通に知っている内容の話ですので、今さら「初公開」という言葉を使って紹介するのは、少々気恥ずかしく、また申し訳ない思いもあるのですが、今までの長い歴史の中で、プロだけでなく、ベテランキーパーを始め多くの方々が様々な視点から独自の素材構成にチャレンジし、たとえばソイル系だったりセラミック系だったり、その時々の「旬な新素材」に飛びついていても、しばらく時間が経つと、どういうワケか結局いつもこの素材構成に立ち戻ってしまっている・・・という現状を考えれば、ザリ飼育の場合におけるこの素材構成は、それなりに的を射たものなのであろう・・・と考え、公開することにした次第です。佐倉でも、月刊「アクアライフ」95年2月号で初めて飼育セッティングを公開した時に、よりよい方法の1つとして当時のブリーダーさん何人かに教えていただいて以来、ずっとメインで使い、実績を残しているものです。次の水槽を立ち上げる際には、ぜひ、こうした情報を参考にしながら、ザリガニにとって「より住みやすい」環境作りを目指して下さい。