当ホームページの中でも、非常に高い評価をいただいているのがQ&Aコーナー。みなさんからお寄せいただいている御質問の中から、非常に興味深いものを3つのカテゴリーに分けて収録してあります。
 しかし、Yes・Noをハッキリとさせた上で御説明をすべきタイプの内容につきましては、同じQ&Aコーナーでも、どのカテゴリーで取り上げたらよいのか迷ってしまうことがありました。そこで、新たに4つめのカテゴリーを設定!
 このページでは、そういった内容の御質問を、「ウソ・ホント」という形で取り上げてみたいと思います。今後も、順次新項目を収録して行きますので、どうぞお気軽に御質問メールをお寄せ下さい。



ここには、こんな内容が収録されています


最終更新日 平成23年4月6日





田んぼでアメリカザリガニとニホンザリガニを捕まえた。



 非常に多く耳にする話ですが、まず100%ありえません。本来、ニホンザリガニというのは、湧水などがある清澄な河川上流域を主な生活のベースとする上、地域も北海道及び東北地方北部に限定されますから、基本的には「出会うはずのない」者同士なのです。アメリカザリガニの幼体をニホンザリガニと見間違うケースは、最も初歩的なミスの一つで、環境庁などがボランティアの手を借りて、動物の生息調査などをした時に、日本全国の河川や田んぼ、用水路から「ニホンザリガニが発見される」のは、未だによくある話です。
 これに付随して、「アメリカザリガニの国内定着が、ニホンザリガニを絶滅の危機に追いやった」という説も、信憑性に欠けるものですし、「近くの用水路で捕まえたニホンザリガニを飼っていたが、だんだん赤くなってきた」という話も、その個体が本当にニホンザリガニであれば、まず考えられないと言ってよいでしょう。




脚が一本とれただけでも死ぬことがある。



 ザリガニは、ケンカをしたりをしたり危険に遭遇したりすると、回避策として自分の脚を切り離すことがあります。これを「自切行為」といい、こういう形で欠損した部分は、脱皮を経ながら徐々に再生して行きます。
 しかし、実はこれにも決まりがあり、「自切面」と呼ばれる部分からでないと切り離すことができません。これは、血液(ザリガニの場合は透明で、「体液」と呼ばれます)の体外流出を防ぐためで、これが出てしまうと、ザリガニは生きて行けません。一見、むやみやたらに自切しているようにも思えますが、ザリガニは、どんな状況下においても「切り離すべきところ」から、きちんと切り離しているのです。ですから、「ウチの個体は、ケンカで一部分が欠けた脚を、自分でもう一回引き抜いてしまったけれど、どうしてか?」などというお尋ねをいただくケースは、そのほとんどが「血液の体外流出を防ぐため、適切な場所(自切面)から切り離し直している」ということになり、自然な行動だということになりましょう。
 「脚が一本とれただけも死ぬことがある」というのは、特に胸脚部深く、自切面より内側から欠損してしまった場合で、こうした場合は、残念ながら打つ手だてはありません。水槽に複数収容する場合は、こうした深刻なトラブルが発生しないよう、充分気をつける必要があります。また、「脱皮を促進させる」などという理由で、安易に胸脚を引き抜くことは、非常に危険であることを付け加えておきます。




青いニホンザリガニがいる。



 ニホンザリガニに限らず、BCP個体といって、体色が青くなってしまう個体は、多くの種類で確認されています。青色の出方は種類によって大きく違いますが、ザリガニ以外でも、サワガニやハナサキガニなどで同様の事例が報告されていますから、少なくともエビ・カニ・ヤドカリ類で見る限り、さほど珍しいことでもなさそうです。




1年間の脱皮回数は決まっている。



 種や環境によってもだいぶ異なりますが、通常、ザリガニの脱皮は初年度に7〜10回、以後、年1〜2回で推移して行くとされています。しかし、それはあくまでも「通常な成長に伴うレギュラーな脱皮ケース」でのことであり、欠損箇所が発生したり、棲息環境が急激に変化した場合などは、それに対応するための「イレギュラーな脱皮」が行われます。また、エビ類などは「産卵前脱皮」といって、繁殖活動に入る前に必ず脱皮する種がありますが、ザリガニでも、これによく似たケースで脱皮するメス個体が時々見られます。ですから、「年間ン回」という表記は、必ずしも絶対的なものではありません。




30度までなら、水温は高いほど良い。



 ザリガニは変温動物ですから、確かに水温が高いほど、動きは活発になるものです。成長についても、基本的には高水温下の方が早くなります。だからといって「高水温の方が良い」かというと、そうではありません。ザリガニにはザリガニなりの「成育ペース」があり、これを大幅に超えるペースで育ちますと、成体になった段階で何らかの歪みが出やすいからです。学術上の裏付けはありませんが、よくアメザリのキーパー間で語り合われることの中に、「丈夫な個体を採りたいなら秋仔がいい」という内容があります。これは、春に繁殖して夏を越す幼体よりも、秋に繁殖してじっくりと育つ幼体の方が、成体になってからのトラブルが少ないというもので、かなりのスピードで成長する幼体期の水温に関連する、非常に興味深い一説です。
水温については、個体についてのみならず、外部環境についても考えねばなりません。通常、水温が高くなると、バクテリアなどの活動も盛んになるとされ、残餌などの腐敗も早くなります。従って、水質の変化も、より激しくなるであろうことが推察されますから、そういった部分での負担も考えなければならないでしょう。基準水温は種によって異なりますが、やはり「そこそこ」のラインをキープする方が良いようです。




鶏卵の殻は餌になる。



 ザリガニの食性の広さには定評(?)がありますが、他のジャンルの生き物を飼育しているキーパーからは、「えっ?」っと言われてしまうようなものを平気で食べたりします。その代表格が流木だったりして、プレコのキーパー以外からは、全く相手にしてもらえないのですが、そのプレコ・キーパーからも「冷笑」をかってしまうのが「卵の殻」だといえましょう。卵の殻の主成分はカルシウムで、甲殻形成上、非常に有効なものですから、決して「不条理な餌」ではないのですが、やはり、見ていて「おいしそう」ではありません。
 個体によっては 受けつけない場合もあり、それはそれで構わないのですが、1カ月に1〜2度、適当な大きさ(3〜4センチ四方くらい)に砕いて与えると、ホジホジとかじってくれます。これを与えるようになってから、脱皮後の立ち直り(甲殻の硬化)が順調になったというキーパーもいますから、それはそれで有効な餌だといえましょう。なお、与える際には、充分に洗い、黄身・白身成分やワックスなどは完全に落とすようにします。また、白卵・赤卵とある時、どちらが有効かという問題もありますが、特に大きな違いは見られないように思えます(もちろん、データなんて取っていませんから、完全な「勘」ですが・・・)。ヨード卵「光」が、やっぱり一番よかったりして・・・。




水深1メートルを越えるところに、ザリガニは住まない。



 環境にもよりますが、基本的には相当の深さでも生きて行けると考えた方がいいと思います。児童向け書籍などで「浅瀬にしか住まない」とされることが多いのは、用水溜池などといった溶存酸素量が恒常的に低い止水域などにおけるアメザリの事例しか考えていない場合でのことで、同じアメザリでも、充分な酸素量があれば、かなり深いところにも住みますし、その方が安全ですので、理に叶っているといえましょう。どの種でも、稚ザリは全般的に浅瀬を好む傾向がありますが、成長するに従って深場に移動し、アメザリでも大型個体になると、水深数メートルの場所に仕掛けた網で捕らえられます。タンカイ/ウチダなどの場合、水深数十メートルの湖底から出てくることもザラです。
 ですから、「水深1メートル」というのは、あくまでも「低酸素止水域」を前提に考えられたものであるといえましょう。本来なら、これ自体が「不自然な環境下の事例」なので、これをもって「ザリガニは・・・」ということにはならないはずなのですが、確かに、こうした状況であれば、直接呼吸のしづらい深場には住まない・・・と考えるのが自然です。
 なお、ニホンザリガニやユーアスタクス系諸種など、渓流棲のザリガニについては、元々の環境が「水深のないところ」ですので、全く別の理由で「深いところには住まない」と考えることができます。




アメリカ産のオーストラリア・ザリガニは存在する。



 極めて抽象的で、また誤解も多い部分なのですが、基本的には、アメリカからオーストラリア原産のザリガニが送られてくることはありますし、ヨーロッパから送られてくるケースもよくあります。もちろん、これらの場合、アメリカ便のケースですと、あくまでも「アメリカから送られてくる」「アメリカで生産されている」ということであり、「アメリカに棲息している」というわけではありません。ザリガニは、決してメジャーなジャンルではありませんから、こうした部分からの「誤った情報」が発生しやすく、注意は必要でしょう。
 さて、こうした入り方には、大きく、2つの動きを考えることができます。一つは、単なる「経由」といわれるもので、観賞魚界では広く行われているケースです。つまり、原産地(オーストラリア)から直接日本に送られるのではなく、アメリカなどといった第三国の輸出業者や観賞魚問屋を経て日本に届く・・・というものですね。こうした場合、一般には「今回の個体はロンドン便で入った」とか「アメリカ便で来た個体」という言い方をしますが、この便名=棲息地名か・・・となると、かなり苦しい場合があります。
 次に挙げられるのが、養殖個体の「乗り換え」というものです。この「養殖」は、食用の場合もありますし、観賞用の場合もありますが、いずれにせよ、原産国以外の第三国で、業者などの手によりブリードされた個体が入ってくるというパターンです。現に、ドイツのストック場では、本来アメリカ産であるはずのフロリダ・ブルーがブリードされていた記録がありますし、アメリカ(南部や中米諸国)では、食用としてのレッドクロウ生産が商業ベースで行われています。そうした意味から考えれば、「ドイツ生まれのフロリダ・ブルー」や「アメリカ生まれのレッドクロウ」という存在は、決してウソではない・・・ということになりましょう。
 なお、極めて変則的な例として挙げられるのは、「食用輸出個体のすりかわり」というパターンです。オーストラリアから「食用」として輸出されたザリガニの一部が、第三国でいつの間にか「観賞用」に変わり、その国から日本に入ってくるというものです。オーストラリアは、食材として多くのザリガニをヨーロッパに輸出しているため、こうしたことも起こってしまうのでしょう。
 数年前の一時期、レッドクロウが「クイーンズランド・マロン」という名前で、ヨーロッパから日本に入ってきたことがありました。この時は、「ン? 新種のマロンか?」と、マニア間で騒然となったことがありましたが、この「クイーンズランド・マロン」というネーミングは、オーストラリアの食用養殖業者が、レッドクロウの商品価値を高めるためにつけた「食用レッドクロウのための名前」でして、観賞魚業界でつけられた名前ではありませんし、その後、現地のマロン業者の方からクレームが出たため、この名前は使われなくなっています。もちろん、こうした名前で輸入されることもなくなりました。食用個体がすりかわって輸入された一つの典型例といえるでしょう。




脱皮が近づいたら、餌抜きをすべきだ。



 ザリガニは、脱皮が近づくと、外殻のカルシウム分を活用させるため、胃の中に「胃石」というカルシウム結晶を作ります。この「胃石」は、古い外殻のカルシウム分を溶かして作られるもので、脱皮後、新しい外殻に再供給して活用するという、非常に優れたシステムです。海水棲エビ類などのように、水中の溶存カルシウム分に頼ることができない淡水棲ならではの「生活の知恵」といえましょう。
 さて、こうした「胃石」ができる関係で、脱皮が近づくと、どの個体も、食欲が落ちる傾向があります。自分の飼育個体を熟知しているベテランキーパーの中には、こうした部分からも素早く脱皮の兆候を察知してしまう人もいますが、この傾向は、個体によっても大きな差が見られますので、すべてのケースにおいて「食欲減退」=「脱皮の前兆」という形で捉えるには、多少の無理があると思います。
 脱皮は、ザリガニの一生の中でも、最も多くのエネルギーを必要とする瞬間の一つです。ですから、万全の栄養供給態勢で送り出してやるべきで、そういう意味では「個体が食べられる限りは食べさせてやる」くらいの心構えで充分だと思います。となると、気をつけるべきポイントは、「餌量抑制」ではなく、「万全な残餌処理」だということになりましょう。




植物質の餌だけ与えれば、共食いがなくなる。



 これは、以前より「真説」として様々な形で流れている情報の一つですが、実際に飼育してみますとわかる通り、残念ながら、すべての個体にそれが当てはまるわけではありません。確かに、独り歩き開始直後から隔離飼育し、植物質の餌だけで育てますと、比較的大人しい性格の個体になる傾向はあるようです。しかし、ザリガニが成長し、生命を維持して行くためには、やはり動物質の餌があった方がよいわけで、特に脱皮や繁殖などには、その傾向が顕著に現れます。もちろん、植物質の餌だけでも、何とか生き延びて行くことは可能ですが、そこに動物質の餌があれば、たいていの個体は手を出す・・・と考えてよいでしょう。佐倉でも、一時期餌質による比較飼育実験をやったことがありますが、生まれて以来、全く動物質の餌を与えていなかった個体でも、同居の際に相手を食べてしまったケースは何度もありました。
 この「植物質食=穏和な性格」という考え方には、人間における「食文化と国民性」というケースが、かなり色濃く反映されているだろうことが容易に推察されますが、あくまでも「傾向」として捉えておくべきレベルのものだろうと思われます。共食いの有無についても、個体自体にかなりの差が見られるものですし、動物質のみで飼育している個体でも、極めて穏和な性格を持った個体は、いくらでもいるものですから・・・。
 このような形で、偏った栄養供給を長期間継続させますと、個体によっては、かなり重篤な障害が発生することもあります。ザリガニの健全な成長を主眼に飼育するのであれば、「共食いさせたくないから・・・」というようなレベルで餌質を偏らせることは、決して望ましいものではないと思います。共食いを防ぐのであれば、「隔離」以外の方法はないと考えるべきでしょう。




脱皮で小さくなってしまうことがある。



 脱皮は、個体の成育にとって非常に重要なものであり、個体がその大きさを増すためには唯一の手段です。事実、個体が最も成長する1年目には、どの種もだいたい10回前後は脱皮するといわれており、1カ月の間に複数回・・・ということも、決して珍しいことではありません。
 ただ、「脱皮をすることで、個体は必ず一回り大きくなる」のか? というと、必ずしもそうだとは言い切れないのが実状です。確かに、圧倒的な確率で個体は大きくなりますし、そのために、新しい外殻は軟らかいままで用意されているのです。しかし、かなり長期間か飼い込んだ老成個体や、欠損箇所の多い個体などの場合ですと、脱皮後、逆に一回り小さくなってしまうことがあり、キーパーたちを驚かすことがあります。
 これは、脱皮(新外殻形成)に対して充分な栄養が供給されない場合や、根本的な新陳代謝能力の衰えなどが原因であろうと推定されますが、脱皮直後の外殻硬化が順調に進まなかったため・・・という説もあり、一概には特定できません。ただ、外殻がうまく硬化してくれれば、その後は特に問題なく飼育することができますので、キーパー側からすれば、特に心配するほどのものでもないと思います。




ハサミが大きく、赤い方がオスである。



 児童向け書籍などを見ていますと、「ハサミの大きい方がオス」「ハサミ(前節と指節)に隙間のできる方がオス」さらには「赤みの強い方がオス」・・・などと、実に多彩な性判別方法が載っていますが、少なくとも今挙げた3つの方法については、残念ながら極めて不正確な判別方法であるといえます。
 確かに、多くの個体を見ていますと、そのような傾向があるのは間違いなく、全くもって「的外れ」だとは言えません。しかし、特にハサミ脚(第1胸脚)については、個体差による形状変化も見られますし、老成個体ともなりますと、メスでも相当大きなハサミを持つものがいるものです。また、欠損後再生したケースなどでは、オスでも、かなり小さなハサミを持った個体になってしまいます。体色に至っては、もはや申し上げるまでもありません。
 人間でも、限りなくボーイッシュな女の子がいたかと思えば、いわゆる「ロンゲ」のお兄ちゃんもいるわけです。もし、それを「髪の毛が長ければ女、短ければ男」という基準で分けてしまったら、どうなってしまうでしょうか? 相当の混乱は避けられないはずですよね!
 性判別は、やはり生殖器ないしは生殖関連器官の状況によって決めるのが最も正確であり、なおかつ合理的だといえましょう。ザリガニの場合、種や属・科ごとに、微妙な形状の相違はあるものですが、現在日本で飼育されているザリガニであれば、基本的に産卵口の有無でもって、たいていのケースの判別は可能であろうと考えています。





餌の嗜好性は、季節によって変化することがある。



 ザリガニの場合、その食性は非常に広く、アメザリなどにもなりますと、それこそ「喰えるものなら何でも」的な要素を見せてくれますが、実際に何年も飼育を続けていますと、どうやら「季節」によって、嗜好性に変化が出ているようです。これについて記してある学術文献はないのですが、キーパー間での情報を総合すると、特に顕著な変化が見られるのは、繁殖期前のメスと、冬眠直前のオス・メスで、それぞれ植物質の餌に対する反応が鈍り、動物質の餌に対する反応が高くなる・・・といわれています。なるほど、繁殖期前のメスならば、卵形成のための動物性蛋白質補給・・・という点で説明がつきそうですが、冬眠前のケースについては、今一つ理由がつかみきれないのが現状でしょう。「冬眠期間中の蛋白質補給」と言い切るのも不自然ですし、すべての個体にそうした現象が見られるか・・・となると、そうとも言い切れませんから・・・。
 いずれにしても、個体ごとに、その時その時の餌に対する反応を見極め、調整してやることが必要でしょうし、個体の大きさに合わせた一本調子の投餌量ではなく、残餌量と相談しながら餌量を変化させる方法をとるべきだと思います。
 ただ、中には、充分な餌量を得ている環境から、多少「わがまま」になっている個体もいて、この場合は、餌の選り好みがかなり露骨になる傾向があります。これをズルズルと引っ張りますと、餌を与える側にも負担が掛かりますし、個体の栄養面でも好ましくありません。従って、こうした場合には、共食いなどに気をつけながら、思い切って「餌抜き」をするとよいでしょう。単独飼育をしていて、なおかつ衰弱していない個体であれば、1週間程度の餌抜きではビクともしません。





アメリカザリガニは、昭和5年に初めて輸入された。



 アメリカザリガニが、「食用ガエル(ウシガエル)」の餌として日本に持ち込まれたのは、あまりにも有名な話です。当時、新たな食用資源として導入された食用ガエルの生産が、なかなか軌道に乗らず、「現地の食性に近づけよう」という、いわば「食用ガエル生産の切り札」として、アメリカ南部より200匹のアメザリが船に乗せられて太平洋を渡り、神奈川県の大船に持ち込まれました。当時はかなり厳しい輸送事情であったためか、日本に着いた時には、たった20数匹しか生き残っていなかったそうです。
 さて、ここまでの話は、どこでも語られているのですが、問題は「それがいつのことか?」ということでしょう。子ども向け書籍や、一部雑誌でのザリガニ記事などを見ると、「昭和2年説」と「昭和5年説」があり、どちらかというと後者の方が一般的です。ところが、実際のところは「昭和2年」が正確であったようなのです。
 では、なぜ、こうした問題が発生したかと申しますと、ある有名な論文の中で「アメザリは昭和5年に持ち込まれた」と書かれてあるからで、昭和5年説は、すべてこの論文から引用されているからです。この論文、筆者が実際に輸入に携わった方から聞き取り調査をした上で書かれたものなのですが、問題は、その時、証言した本人が当時の年である「昭和2年」を、うっかり「昭和5年」と言い間違えてしまったことなのです。当然、論文には「昭和5年」と記されますから、そこから「昭和5年説」が生まれ、それが未だに引用され続けている・・・というのが真相のようです。これについては、その後の調査で、証言した人も実際は昭和2年であったことを認めており、それを知っている学者の論文には、当然ながら「昭和2年」と記されています。
 私も大学時代に近代史の研究をしていたため、教授からは「都合のいい文献だけを盲信せず、常に比較検討してから引用するように!」と厳しく指導されましたが、やはり文献の引用には、こうした危険性が切り離せないもののようです。かといって、証言下さる内容を片っ端から疑ってかかるようでは、研究など進むはずもありませんし・・・。
 学術研究の難しさを象徴するような事例だといえましょう。





産卵したら、メス親には餌抜きをすべきだ。



 繁殖期間中、多くのメス親は、一時的にせよ食欲の鈍ることが多く、中にはほとんど「絶食」に近い個体もあります。当然、日ごろのペースで投餌しますと、少なからず残餌が出てしまいますが、水質に敏感な卵からすれば、これが「致命傷」になるケースは充分考えられることでしょう。当ホームページの「繁殖講座」でも、この問題には触れていますが、一部のショップなどでは、(特にレッドクロウの場合など)水質悪化を恐れるあまり「絶食させるように」という指示をしているところもあるそうです。
 しかし、実際に数多くの繁殖を手掛けてみるとわかることなのですが、これについてはレッドクロウ・ヤビーなどといった種を問わず、個体ごとの「食欲鈍化状況」には、かなり大きな差があるものです。実際、そのような指示を出されるレッドクロウの場合でも、ほとんど餌を口にしなくなる個体から、全くといっていいほど餌喰いの落ちない個体まで様々であり、中には、空腹のあまりヒーターのコードをかじり始める個体までおりました。
 従って「餌抜きをするかどうか?」という点は、あくまでもそれぞれの種や、その個体の「食欲」に応じて決めるべきものであり、すべての個体に適応すべきものではない・・・ということになりましょう。もちろん、残餌を多く出すのはいけないことですし、残餌を取り除くために水槽内に網を入れ、個体を刺激することも望ましくはありません。そこで、「最も良い方法は何か?」ということになりましょうが、佐倉では、産卵を確認したら、多少投餌の間隔をあけ、量を調整しながら様子を見るというパターンをとっています。その段階で個体が餌にがっつくようであれば投餌量を増やし、それでも残餌が出るようであれば、さらにその間隔をあける・・・というようにします。これで、その個体の「鈍化状況」を把握しておけば、無駄な水質の悪化も未然に防げるというわけです。
 なお、これは学術的な裏打ちのないことなのですが、経験上、この鈍化状況は、各個体ごとに見ると、ほとんど変化がないように思われます。最初の繁殖で、絶食に近い行動をとったメス個体は、その後の繁殖でも同じような動きをとるケースが多く、そういう意味では、各個体の特性を知っておくと便利だといえましょう。

なお、アメザリに関しては、抱卵期間の短さや、その時期における行動データなどの研究結果から、最近では「絶食させた方がよい」という見解が出ており、佐倉でも平成20年ごろより、すべてその方式を採用しています。





調子が悪い場合は、水に塩を混ぜると良い。



 この方法は、熱帯魚や金魚などの飼育でよく行われるもので、事実、相応の効果は出る方法ですが、これを、即ザリガニに応用できるか?・・・となると、かなり疑わしいものがあります。
 そもそもザリガニにとって塩分(塩化ナトリウム成分)とは、どちらかというと「有害成分」であり、養殖文献などを見ても「塩化ナトリウム耐性」について、その基準値を提示して注意を促しているものがいくつもあります。これは、基本的には熱帯魚などでも同じことが言えるのですが、ザリガニと魚は基本的な体の作りが全く違う上に、種によっては水質の変化に対して非常に脆いものもいますので、魚と同じ効果を期待するには、かなり無理があるのではないかと思います。もちろん、こうした方法をザリガニに対してとった場合に、「実際に効果があるかどうか?」「害があるとすれば、どれくらいの量から、どういう形で発生するのか?」などという具体的な点については、まだまだわからない部分も多く、もしかしたら将来的には「有効な方法」として、広くキーパーより支持を得るようになるかも知れませんが、少なくとも現段階では、積極的にとるべき方法ではないと考えるべきだろうと思います。
 なお、その科学的メカニズムは未だ解明されていないのですが、経験を積んだキーパーの間では「海水混和」という手段が広く行われています。これも、よくよく考えれば「塩分の投入」という点で、今回の問題と同義であるように思われるかも知れません。しかし、基本的には「海水を混和させることで、塩分(塩化ナトリウム)以外の何らかの物質が、良い効果をもたらしている」という考え方が主流であり、こうしたキーパー諸氏も「塩だけを投入する」ということは、まずあり得ないのが普通です。





片バサミの個体は自切しにくい。



 ザリガニは、特別な事情や身の危険などが迫った場合、自切といって、脱離節(自切面)から胸脚を切り離して退避するという行為が知られていますが、古くから、キーパーの間では(特に第1胸脚の場合)「片方が取れていれば、もう片方は取れにくい」という説があり、導入直後から混育が避けられないケースや、導入後の早め脱皮を狙いたい場合などには、あえて完品個体を見送り、片バサミの個体を選ぶという選り抜きテクもありました。最近では「飼育は基本的に単独が望ましい」という情報も広く浸透し、無理な混育なども減ってきましたので、こういうテクを必要とするようなケースも少なくなりましたが、未だに、この説自体については信じられていないことも多いようです。
 確かにこの説、一見何の根拠もなさそうで怪しげではありますが、実はザリガニにこのような傾向があることは、すでに実験によって証明され、国内外で論文発表までなされている「事実」なのです。JCC結成後、たびたび行なっていた勉強会でも取り上げられた論文ですので、すでにお読みになっている方も多いとは思いますが、日本国内における発表事例では、平成5(1993)年に発表された論文があります。これによると、条件を揃えた電気刺激による自切実験において、予め決められた電気量及び方法による人為的刺激を与えた場合の自切発生の割合は、両バサミの実験対象区が約80%だったのに対し、片バサミの実験対象区はわずか20%にしか至りませんでした。飢餓状態でも結果は同じく、飢餓期間2ヶ月による実験データでは、両バサミ30%、片バサミ10%と、歴然とした違いを見せています。この論文は、飢餓状態におけるザリガニの自切と心機能に関する調査を主目的とした論文ですが、ザリガニの状態に関わらず、両バサミと片バサミとで、ここまでハッキリと違いが出ているのは興味深いところです。
 もちろん、これは、あくまでも「傾向」であって、原則として、こうした個体の自切がゼロになることを意味するものではありませんし、必ず少なくなるという絶対条件を導くものでもありません。また、この説を逆手にとって考えれば、特に片バサミ個体の場合、何らかの要因で残存しているハサミの状態が悪化したとしても、おいそれと「切り離してクリア」みたいなワケには行きづらい・・・と読み替えることもできます。「自切しにくい」という1つの傾向があることは間違いありませんが、その傾向は、場合によってプラスにもマイナスにも働くものです。私たちは、この点を充分に理解して、常に「マイナスに作用させない」環境作りをしておく工夫が必要だといえましょう。





脱皮は平坦な場所でないとすることができない。



 ザリガニは、脱皮が近づくと水槽内で平坦な場所を探す行動をとったり、自分の決めた場所周辺をブルドージングして平坦に均す行動をとったりすることが知られており、こうした行動でもって、個体が脱皮寸前であることに気付くキーパーも多いようです。そのため「順調に脱皮をさせるため、水槽内に平坦な場所を設ける」のは、長い間キーパーの常識とされてきました。
 しかし「平坦な場所がないと個体は絶対に脱皮しない」か・・・というと、決してそうではありません。そして、右の写真が、まさにその事例を捉えたものです。穴あき流木の頂上部、平坦というにはあまりに程遠い場所で、器用に脱いだ体長3センチ弱の青の稚ザリが、必死に流木にしがみついている様子が見て取れますね。
 もちろん、どんなザリガニであっても、障害物のない平坦な場所で脱皮をすることが最良であることは疑う余地もなく、飼育に当たっては、こうした場所を確実に設けてあげることが必要不可欠ですが、自然環境と比較すると異様としか言いようのない超高密度環境である稚ザリ水槽などにおいては、平坦な場所で脱皮して他個体の標的になるよりも、こうした場所で素早く脱ぎ、脱皮直後の集中攻撃を回避しようという策をとる個体が出てくることも少なくありません。中には、水中に漂う稚ザリ用ネットなどの上で脱いでしまうアクロバティックな個体も出てくることがあり、キーパーも驚かされることがあります。
 ここまで説明すると「なら、別に無理して平坦部を作る必要などないのでは?」というお考えも出てきそうですが、襲撃の有無という問題は別として、こうした場所で脱皮すること自体のリスクは、平坦部でのそれと比較して限りなく高く、特に離脱時にある程度の力を必要とする成体などの場合、脱皮自体を我慢してしまうことも充分以上に考えられますので「だから、不必要」と考えるのは、決して望ましいことではありません。むしろ、こうしたシーンを目にした場合「個体が平坦部での脱皮をあきらめざるを得ないほど、この水槽の収容密度は高くなってしまっているのだ」という判断につなげて行く方がよいでしょう。特に、連続的な選り抜きを予定している水槽の場合、こうしたサインを見落とすことが、大きな個体数減耗につながることになります。「なぜ、こういうことが起こったのか?」ということをきちんと考え、適切な判断と対処をして行くことが、飼育技術の向上には欠かせません。





サイズの異なる個体同士なら多頭飼育も安全。



 これも、まるで「飼育の裏テク」でもあるかのように語られることの多い説ですが、あくまでも「見掛け上、安泰のように見える」だけの飼育方法であり、厳密にいえば、何ら問題点を解消できていない状態であるといえます。アフリカンシクリッドなどでも「喧嘩を避けるために超高密度で飼育する」という考え方があり、最適環境ではないにせよ、応分の成果はあるようですが、遊泳性の高い魚と爬行性の高い甲殻類の場合では、同じ「エリア」といっても、どちらかといえば立体的なエリア領域と平面的なエリア領域という点で既に違いがあると考えてよいですし、これらを全く同条件でひとくくりに考えるのには無理があります。
 すでに申し上げるまでもなく、ザリガニは、その大半の種が、何らかの生存テリトリーを持って生活している生物です。一定以上の水域内で、問題ない範囲内の棲息個体数で暮らして行く限りにおいては、さほど深刻なトラブルは起きませんが、水槽という人工的な、しかも極めて限られた逃げ場のない環境に、自然下とは比較にならないほどの高密度で個体を収容した場合、エリア確保のための縄張り争いは起きない方が不自然だといえましょう。
 同種間の縄張り争いにおける個体同士の優劣には、先住権や性差などという要素も考えられますが、互いの個体サイズも非常に大きく影響してきます。一般的に、個体サイズの格差が小さければ小さいほど、そこでの争いは激しくなりやすく、サイズ格差が大きくなるに連れて、小さい方の個体が回避行動をとるため、争いの頻度や、その度合いは小さなものとなって行きます。そうした表面的現象をもとに「あえてサイズをバラつかせれば安全」という考え方が生まれてきたのでしょう。
 ただ、それは、それぞれの個体の安全性が充分に担保された上での「平穏」ではありません。小さい方の個体が常に回避し、いわば「常に遠慮した」上での平穏なのです。この場合、優勢にある個体に関しては大きな問題は起こらないものの、常に周囲の個体を意識した活動を強いることは間違いなく、劣勢側の個体に至っては、存分な生活スペースはほとんど確保されていないと考えるのが適当です。この結果、餌の摂取や脱皮など、生存の根幹に関わる活動に制限が加わる可能性も否定できません。いきおい、脱皮ミスなども起こりやすく、小さい個体にとっては極めて厳しい環境であろうと思います。これなら、最初から収容しない方がよいわけです。
 とかく、水槽飼育を続けていると「最小限の設備で最大限の個体数を」という意識に陥りがちですが、飼育は、きちんとした環境を準備できることが必要最低限の条件です。特にザリガニの場合、それぞれの個体が生存、成長にあたって必要充分な生活エリアを確保することが大切だといえましょう。「飼う」ことと「飼える」こととは、全く異なることなのです。





意図的に欠損個体を選ぶ方がよい場合もある。



 「欠損個体」というと、あたかも傷物のB級品であり、(特にショップやネット販売上では)価値が低く、値段を下げて売り払うべきものである・・・という認識を受けがちなものです。購入する側のキーパーの中にも、ともすると、こうした個体を必要以上に忌み嫌って購入個体選びをしている方がいらっしゃるのが実情ではないでしょうか? 「欠損個体=クレームの対象」という捉え方をしているケースも少なからず耳にします。
 確かに、個体の見栄えという点では多少見劣りする部分もあり、実用面でも、成体オスの第1、第3、第5胸脚やメスの第3〜5胸脚など、繁殖を順調にこなすためには欠損が不都合になる危険性がないとはいえません。また、脱皮位置がイレギュラー箇所であった場合などの場合、必ずしもすべて再生するとは限りませんし、欠損が眼柄部付近であったりすると、仮に再生した場合でも「異形再生」といって、元の形状とは全く異なる状況になってしまうことも、これまたないとはいえません。そういう点だけで見れば「欠損箇所は、成長に従い再生してきますので全く問題ありません」という説明が、100%完璧にその通りだとは言い切れない部分があるのも事実でしょう。実際、「欠損個体をつかまされて、本当に痛い目に遭った」・・・などという愚痴を耳にすることもゼロではないのです。
 しかし、個体選びにあたって「欠損個体をとにかく避ける」という方針が絶対に正しいか・・・といえば、必ずしもそうではありません。確かに、欠損にはレギュラーもイレギュラーもありませんが、生命の維持に関し重篤な欠損でなく、通常の欠損面でもって欠損している個体の場合、特に稚ザリ〜亜成体期においては、この欠損が好都合に働く場合もあるのです。特に、脱皮促進という面では、欠損箇所のある個体の方が、ない個体よりも脱皮頻度が上がる傾向にあり、早めに自らの水槽に馴らして成長させたい場合や、とにかく早い段階で一度脱皮させてしまいたい場合、あるいは単独飼育環境で存分に成長させたい場合などは、むしろ、こうした個体の方が好都合であることもあります。また、一部のカラーバリエーション個体では、欠損後に見られる特定の状況が、その個体の資質チェックに欠かせない見極めポイントとなる場合もあり、意図的に欠損個体ばかりを選り抜いてチェックする・・・という技法も知られています。いずれにせよ、相応の環境と技法、目的次第では、むしろ欠損個体の方が歓迎されているという一面がありますし、必要以上に欠損個体を忌避したり「欠損個体=ダメな個体」という決めつけは、あまり有意義ではない一面もあるのです。





ザリガニ飼育には底砂が絶対に必要。



 これも、ほぼ定期的にお尋ねがある内容で、実際、そうした説明をした上で、極端に細かい粒径の素材や、高価な底床材を薦めるショップもある・・・という話を耳にします。ただ、結論から先に言えば、底砂(底床材)は「必須アイテム」ではありませんし、底砂がないとザリガニが絶対に生きて行けない・・・ということも「絶対に」ありません。
 底砂が「絶対に必要」であるという説が支持される最も大きな理由は、何といっても「脱皮後に必要だから」・・・というものでしょう。その説明は、概ねこのような感じであろうと思います。

 ザリガニは脱皮をする際に、平衡感覚を探知するために必要な平衡石も脱ぎ捨ててしまうため、脱皮後、あたかも砂浴びをしているような動作をしながら、平衡石を補給している。そのため、ザリガニ飼育の際には、底砂がないと平衡石を供給できないことになる。よって、底砂がないとザリガニを健康に飼育することはできない。
(さらに、これに付随して)こうした理由から、ザリガニ飼育にとっては、目の細かい底砂の方が適している。田砂系などは、特に好ましい。


 この説明は、ある意味、正解ではあります。確かにザリガニは、左右の第1触角基節後ろに「平衡胞」と呼ばれる非常に発達した平衡感覚器を持っています。平衡胞の内部には、非常に細かい感覚毛が生えており、身体が傾くと、平衡胞内部にある平衡石が感覚毛を刺激し、一種の電気信号の状態で、それを脳に伝えます。ザリガニは脱皮の際、その体構造上、平衡石を脱ぎ捨てざるを得ず、当然、脱皮後は新たに平衡石を調達しなければなりません(なお、脱皮の際には、平衡石を脱ぎ捨てるのみならず、平衡胞自体も新たに作り替えられます)。脱皮後によく見られる「砂浴び」的な動作は、確かに、平衡石を取り込もうとしている動作であることも間違いないといわれています。
 しかし、実際に取り込まれているのは、私たちが一般的に考えているような「底砂」のサイズの粒ではありません。実際に解剖して取り出してみると、アメリカザリガニ程度の大きさのザリガニであれば、その粒の大きさは、通常μm(ミクロン)単位で計るべきであろう、極めて小さなものなのです。しかも、実際に大きさを調べてみると、左右の大きさや重さなどが異なっているケースも日常的なものであり、いずれにしても、私たちの考えている「底砂」とは大きくイメージの異なるものであることがわかります。もし、それに適合した粒径の砂を「底床材」として用意するとすれば、底床はあっという間に泥状のものになり、汚れの除去、腐敗防止などの点で非常に大きな問題が起こってしまうことでしょう。これは、水槽飼育という点では、極めて非現実的かつ無理のある状況です。
 なおかつ、ザリガニの場合、脱皮後、もし平衡石として適切な粒が調達できなかったとしても、自らの分泌物によって結石化した粒を平衡石として用いることができるため、平衡感覚が不完全になる状態は、ごく一時的なものであることが知られており、また、片方の平衡胞が欠損したりしても、時間が経てば情報を自ら修正し、平衡感覚を正確に察知できるようになるといわれています。これらのことから考えて、少なくとも平衡感覚を察知し、健康に活動するための理由として、底砂の存在が必要不可欠であるという考えは成り立ちません。実際、底砂を敷かない場合でも、ザリガニが生きて行くことは充分に可能なのです。
 もちろん、水槽という極めて特殊な環境下にあって、たとえば底面と胸脚との過度な摩擦を避けたり、より活動しやすい底環境を用意する・・・という点で、底砂を敷く意義自体は充分にあります。従って、底砂については「生きて行く上で必要不可欠というべきほどの要素ではないけれども、水槽飼育という特殊環境下においては、あった方が有利な場合も多い」というような考え方が、より現実的な考え方なのかも知れません。
 ただ、その本質的な意味や理由を取り違えてしまい、イメージだけで判断してしまった結果、必要以上に細かい底床材を用いて底床環境を悪化させたりしてしまうことは、ザリガニを健康に育てるという点で、本末転倒だといえましょう。これらのことを総合的に考えれば、底床環境を常に良好に保つためにも、換水などの段階できちんと汚れを除去できる粒径、材質であることは非常に大切です。