「転ばぬ先の杖」といいますが、何事も前もって準備し、慎重に進めることが大切なのは、わかりきったことですね!
ザリガニ飼育とて、例外ではありません。あらゆるところで耳にする個体死亡例でも、やはり導入直後でのケースが圧倒的! そこで、このページでは、水槽セッティングを例にとりながら、ザリガニにとってよりベターな水槽環境について、考えて行きたいと思います。もちろん、すでに個体を導入し、飼育を続けているみなさんにも、このページは良いチェックの場になるはずです!
まず、使う水槽を考えよう!
ザリガニを飼育するために、このページを御覧になって下さるような方なら、まさか「たらいで飼ってます!」というケースはないだろうと思います(というより、昨今では、たらい自体、ほとんど売っていませんものね!)が、やはり、基本は水槽飼育であろうと思います。池などによる屋外飼育という点も考えられなくはありませんが、今回は水槽飼育を前提に話を進めさせていただきます。
さて、まず第一に考えねばならないのが「水槽の大きさ」ですが、中型種(アメザリ・ヤビーのライン)までなら、一般的な60センチ水槽で事足りるだろうと思います。45センチ水槽や30センチ水槽も使えなくはありませんが、繁殖まで考えると、中型種でもかなり手狭になりますから、これらの水槽は、幼体育成または隔離育成、さらにはミニザリなどといった小型種向けであると考えるべきだと思います。
一方、タンカイ/ウチダやレッドクロウなどといった中・大型種になりますと、やはり90センチ水槽は欲しいところです。これは、ペアリング時に「接触スペース」と「待避スペース」とを確保する観点から必要になるもので、水槽が狭いと、ペアリングを開始した際、互いのマッチングが悪い場合、どちらかが殺されてしまうことがあるから・・・と考えるべきでしょう。この点については後ほど触れますが、水槽内にはっきりとした性格を持ったエリアを作っておくことは、(特に繁殖を考えた場合)必要不可欠だと言えます。
マロンないしはユーアスタクス系諸種といった大型種を終生飼育しようとする場合、幼体ならともかくとしても、最終的に120センチ水槽くらいまでは覚悟しておかなければならないでしょう。実際、国内ではそのレベルまでの継続飼育に関する事例がありませんので、あるいはそれ以下の水槽でもうまく行くかも知れませんが、マロンの場合、現実の養殖現場ではオス1:メス複数のペアリングが基本とされていることや、ユーアスタクス系諸種の水質維持に対する要求度が高いなどという点から考えて、成体になると、90センチ水槽ではかなり厳しいような気がしてなりません。実際にマロンの大型個体を御覧になった方なら御理解いただけると思いますが、あの個体が3〜4匹水槽内にいて、なおかつ各々の個体に対して充分な待避スペースを設けるとなると、正直、120センチ水槽でさえ手狭な印象は拭えないだろうと考えています。
意外と気をつかわなくとも良いのが「水深」です。佐倉では使用していませんが、水深の浅いらんちゅうケースで難なくマロンを飼育しているメンバーもいますので、要は「幅と奥行き」ということになりましょう。
注水する前に、用意しておくもの
水槽が決まれば、いよいよセッティング開始です。注水して水を循環させ、生物濾過能力の定着を待つことになりますが、その前に準備しなければならないもの、そして準備しておくと良いものについて、いくつか挙げておきましょう。
濾過装置の選定
濾過装置については、「飼い方」の項目でも触れましたが、基本的には上部濾過または投入式濾過が良いのではないかと考えています。エーハイムに代表される外部式濾過も、その強力さを考えれば有効なのですが、ホースを設置する関係上、どうしても逃走経路ができてしまう部分が難点。これが完全に解消できれば、ベストな選択だといえましょう。ザリガニの場合、底面濾過は向かないと考えるのが一般的ですが、これは、正直申し上げて「個体次第」だと思います。「アクティブ・ボロワー」といわれる、ヤビーやアメザリなどといった「よく穴を掘るタイプ」の個体は必然的に厳しくなる傾向があるものの、マロンやレッドクロウなどの場合は、案外うまく行ってしまうことも少なくありません。特に30センチ水槽などで隔離飼育する際など、どうしても底面濾過にせざるを得ない場合がありますので、個体の動きをよく観察した上で使うようにすればよいでしょう。なお、こうした「穴掘り」は、きちんとした待避スペースをセットすることで、ある程度までは抑制できます。
これらの要素から、投入式濾過がベストな選択・・・という考えに行き着くのですが、これは濾過能力の弱さが決定的な難点になっています。この点、上部濾過の場合、吸水口部分からの逃走さえ防御できれば、非常に有効であるはずです。揚水ポンプ周辺をしっかり目止めすること、吸水パイプを短めにセットすることなどといった工夫で、充分対応できますから・・・。
次に、濾過規模についてですが、もちろん強力であるに越したことはありません。よく「水が回り過ぎて・・・」とおっしゃる方がいますが、よほどの「洗濯機状態」でもない限りは問題ないでしょう。
ザリガニの場合、気をつけなければならないのが「濾過方式の構成」です。濾過は、一般的に「物理濾過方式」と「生物濾過方式」とに分けられ、双方がバランスよく機能することが望ましいとされています。しかし、ザリガニの喰い散らかし方は半端ではなく(これは、彼らの呼吸システムの関係上、仕方ないことですが、その散らかし方は「帝王・ピラニア」の比ではありません)、その点では「物理濾過方式に重点をおいたセッティング」が大切であるといえます。濾過マットやウールなどを頻繁に交換できるようなセットにしましょう。
底砂の選定
私の見る限り、「飼い手の独自性」が最もよく出る部分が「底砂」です。JCNでも、ベテランとされるメンバーそれぞれの「選択と配合」があり、一概に「これ」と決めつけるわけには行きませんが、今回は、最もスタンダードな選定基準について見て行きたいと思います。
まず、共通して言えるのが「角張ったタイプの素材は使わない」ということ。ユーアスタクス系諸種やニホンザリガニのような「上流域棲息」のタイプを除くと、ザリガニは基本的に「砂利底」のエリアには棲息しないものです。となると、究極の理想は「泥底」になりますが、水槽内に再現するには無理がありすぎます。そこで、次善の策として用いられるのが、いずれの素材を使うにせよ、0.5〜1号程度の大きさに抑えるということです。しかも、購入時によく形状を確かめ、できるだけ丸みのあるものを選ぶようにします。体色維持のために人工底砂を使う場合もありますが、その際も、この「大きさ・丸み」には気を配るようにして下さい。
次に、素材についてですが、天然底砂を使う場合、基本的には大磯砂、ケイ砂、そしてこれら2種のブレンドというパターンになりましょう。個体をどういう体色に仕上げて行くかによって、選択方法は違ってきましょうが、比較的水質に対する要求度の高いマロンの場合は、大磯砂とケイ砂とをブレンドして使う場合が多いようです。
流木の選定
ザリガニ飼育にとって流木というものは、シェルターにもなり餌にもなるという点で、非常に重宝なものです。現在、様々なタイプの流木がサイズ別に売られていますが、見栄えとは違った意味で「彼らが隠れやすいような、適度に複雑なレイアウト」のものを選ぶようにしましょう。これは、流木自体を「待避スペース」として使えるようにするためです(これについては後述します)。
素材については、色々な選択肢がありますが、「喰い」という点で最も評価が高いのは、「マングローブ・ルーツ」(マングローブの根)という素材。通常、流木というと「見栄え第一」ということで、素材まで吟味するケースは少ないのですが、流木を「食料」としても捉えなければならないザリガニ飼育にとっては、それなりに大切なポイントだといえましょう。なお、「サバンナ・ウッド」は、ほとんどかじらないようなので、形はどうあれ、パスした方が無難です。
流木というと、必ずつきまとってくるのが「アク抜き」です。ただ、ザリガニの場合、そう神経質にならなくてもよいようです。これは、マロンの場合もそうでしたが、多少飼育水が色づく程度では、ほとんど影響らしきものは見られませんでしたから・・・。とりあえず1週間程度水につけ、一度煮沸する程度で充分でしょう。気をつかうのは決して悪くありませんが、「アク抜き剤」まで使用するのは、好ましくありません。
待避用グッズ
一般的に「隠れ家」と呼ばれる待避スペースには、植木鉢や塩ビ管などを使うことが多いようです。いずれもDIYショップなどで安価に入手できますので、サイズに合わせて活用できます。特に塩ビ管については、水に与える影響もきわめて少なく、サイズ(径)や形も多彩なので、まとめて買い置き、状況に応じて使い分けて行くとよいでしょう。
意外と面白いのが「すりガラスのコップ」。これは、ある女性キーパーの水槽を見て驚いたのですが、大きめのコップは見た目も涼しげで、なかなかいいアイデアだと思いました。
また、こうした待避用については、レンガやブロックを組み合わせて使うこともあり、これも一つの方法だと思いますが、いわゆる「コンクリート系」のブロックを水質にうるさい種に対して使う場合、1週間程度は水につけ、コンクリート特有のアクを抜いた方がよいと思います。
なお、稚ザリについては、さらに別の方法やグッズがあります。これについては、機会を改めて触れることにしましょう。
水質維持のために必要なもの
これについては、大分すると「換水時の調整剤グループ」「PSBなどに代表される水質維持剤グループ」ということになりましょう。
まず、換水時の調整剤についてですが、ザリガニの場合、特に重要なのが「重金属の除去」。その意味で、テトラ社の「アクアセイフ」は必需品だろうと思います。佐倉では井戸水を使っているので使用しませんが、水道水使用の場合は、塩素除去剤もあった方がよいはずです。熱帯魚を飼育する場合、一部の種では、塩素除去剤を使わない方がよいとされるものもあります。これは、除去剤(ハイポ)が塩素と反応した際、塩化ナトリウムになってしまうからですが、ザリガニの場合、平気で海水混和をさせるくらいですから、一向に問題ありません。
調整剤で気をつけた方がよいのは、いわゆる「pH上昇・下降」系統のもの。本来、これらは飼育生物に影響のないよう作られているのですが、何人かのメンバーから「これでコンディションを崩した」という話を聞いたことがありますので、もしかすると何か問題があるのかも知れません。よほどの急激な変化でなければ、基本的にはある程度の耐性を持っていますから、過度な薬剤依存は避けた方がよいでしょう。
一方、水質維持剤についてですが、おおむね好評なのが「麦飯石溶液」です。実際に投入してみると、あの白濁が、いかにもエラにダメージを与えそうで心配なのですが、佐倉で使ってみた結果、どの種も全く問題ありませんでした。換水間隔が多少開く時や水槽のセット直後などといった場面で、効果を発揮します。
反面、賛否両論なのがPSB。これは、純粋な意味ですと「バクテリア」ですので、薬剤のような「副作用」はないはずです。しかも、PSBは甲殻類幼生の餌としての効果が学術上認められており、ある意味「打ってつけ」なのかも知れません。
では、なぜ反対意見が出てしまうのかと申しますと、問題は、バクテリアの効力ではなく、投入方法なのです。最も一般的な投入方法である「電球ダム」方式では、どうしても、重りとしての「鉛玉」が必要になりますが、この「鉛玉」が問題なのです。佐倉では、現在までのところ、そうしたことによる深刻な問題は発生していませんが、「稚ザリが育たない」「脱皮後に突然死んだ」などといったことをいうメンバーもおり、多少敬遠気味であることは事実でしょう。PSBの場合、「効果あり」とされている「甲殻類幼生への好餌」という部分も、幼生期間を母親の腹節内で終え、親と同じ形で生まれてくる(直接発生)タイプのザリガニにとっては、直接的意味合いを持たないということになります。使う場合は、「水質維持」以上の期待はしない方がよいのではないでしょうか?
さぁ、水を入れるぞ!
ひと通りの準備を終えたら、いよいよ「注水」です。注水の方法は、「レイアウトを壊さない程度」であれば、それこそどんなパターンでもよいと思います。水草水槽を作るわけでもありませんから、「センチ刻みのレイアウト設計」も必要ありませんし・・・。ただ、この「レイアウト」。ザリガニにとっては、ちょっと違った意味で重要なものだということは、意外と知られていないようです。そこで、今回は、ここにもちょっと触れておきましょう。
ザリガニ飼育水槽にとっての「レイアウト」が、他の水槽のそれと最も大きく違うのは、それが「観賞する側のため」ではなく「ザリガニ自身のため」であるということです。つまり、見栄えどうこうではなく、住みやすさを追求すべきだということ・・・。これは、行動範囲が水槽の底層に限られ、なおかつテリトリー意識の非常に強いザリガニにとっては、非常に大きなポイントであるであるといえます。
この際、考えるポイントは「行動(接触)スペース」と「待避スペース」という明確な違いを、水槽内に作り上げることでしょう。まず「行動(接触)スペース」は、実際に捕食したり、個体同士が生殖活動時に接触できるようなスペースを指します。通常飼育の場合は、脱皮もここで行われます。となると、ある程度視界が広くとれ、なおかつ極端な凹凸がないようにしなければなりません。基本的には、底砂のみで構成し、あとは何もないというようなパターンでよいと思います。広さの最低基準としては、充分な交尾または脱皮ができるくらい・・・とすべきでしょうか?
一方、「待避スペース」ですが、こちらはあくまでも「安心して隠れられる」スペースですから、流木や塩ビ管、ブロックなどで複雑な凹凸を組んでやります。重要なのは「広さ」よりも「複雑さ」であり、一度潜り込んでしまうと、ぱっと見た感じでは、どこにいるかわからない・・・くらいでちょうどよいでしょう。観賞する側としては、多少面白味に欠ける部分ではありますが、ストレスなく個体を飼育するためには仕方ないと考えるべきかも知れません。
なお、このスペースについては「最後の仕上げを個体に任せる」ことが重要です。こちらでいくら凝ったレイアウトを施しても、実際にそこでクラス個体が気に入らねば意味がありません。ある程度までのセッティングをしたら、あとは個体が自分の住みやすいように改良するでしょうから、組む段階で、そうした余地を残すことも重要でしょう。ベテランになると、あらかじめ彼らが喜びそうな形状の流木を1〜2本沈め、あとは彼らに任すというパターンをとっているようです。
また、せっかく待避スペースを作ったのに、彼らがそれを使わず、行動スペースでボーッとしている・・・というケースがあります。これは単独飼育などの場合に多いのですが、個体コンディションに異常がないのであれば、無理してレイアウトを変える必要はありません。さらには、複数飼育をしている場合、盛んに行動スペースに顔を出す個体と、めったに顔を出さない個体とに分かれる傾向があります。これは、個体の「性格」にもよりますし、水槽内の「序列」にも関係してくる問題ですが、どの個体にも餌が充分に行き届き、脱皮が順調にできているようなら、心配する必要はないでしょう。
水は、こうして作ろう
大まかなセッティングを終え、注水も完了。となれば、次は「水作り」です。水作りには、各熱帯魚ごとに、それぞれのやり方があり、互いに微妙な違いがあったりしますが、ザリガニの場合、さほど神経質にならなくともよいだろうと思います。かといって、全然気にしなくてもよいわけでは、もちろんありません。特にアメザリやヤビーでしたら、その強靭な適応能力に頼って「いきなりドボン」でも、何とかなってしまうものですから、よけい無神経になってしまいがちですが、必要最低限、やっておいた方がよいだろうと思われる部分を触れたいと思います。
まず、通常の熱帯魚の場合、注水後、水温の安定を待って「パイロット・フィッシュ」と呼ばれる水質変化に強い魚を入れ、濾過バクテリアの発生と定着を待つのが一般的で、これらの魚には、赤ヒレやメダカなどなどを使うことが多いようです。もちろん、ザリガニの場合もそれらの魚で構いませんが、パイロットフィッシュとしての役割を終えたら「生き餌」として再利用できるという点で、底層棲のドジョウを使うのも一つの方法といえましょう。
新品の水槽セットを使用する場合、通常、注水後24〜48時間でバクテリア発生に伴う飼育水の白濁が起こり、これが収まってから3〜4日で立ち上げ完了ということになりますが、ザリガニの場合、白濁の解消が一つの目安となりましょう。飼育水の白濁は、「もらい砂」を行なうことで短縮させることができますが、これは、非常に効果的です。「もらい砂」とは、すでに同種の魚(ザリガニ)を収容している水槽から、濾過バクテリアが定着している濾過材または底砂を少量取り出し、立ち上げようとする水槽に投入する方法で、アメザリやヤビーならともかく、水にうるさいマロンやユーアスタクス系諸種を飼育する場合は、バクテリアの面以外でも、よい影響はあるようです。ザリ・フリークの間では、これと似た意味での「もらい流木」というものがあり、こちらも、新品導入よりは効果があるとされています。
いわゆる「もらいモノ」をする時、気をつけなければいけないのが「水槽のコンディションに関係なく、他種を収容している水槽からは、絶対に持ち込まない」ということです。これは、ザリガニかび病の持ち込みを防ぐという観点によります。確かに、この病気については「免疫保持種と免疫非保持種とを混育しても問題は出なかった」という事例が多くありますが、だからといって「絶対に安全」というわけではありませんから、万全を期すに越したことはありません。
これでOK? 個体導入時期を見極める基準
前述の通り、水槽の立ち上げ完了目安は「飼育水の白濁解消にある」としました。もちろん、そこから数日間水を回した方がよいには決まっていますし、亜硝酸濃度という点では、多少危険な時期でもありますが、ザリガニの場合、よほど水質にうるさい種(マロンやユーアスタクス系諸種など)でなければ、難なくクリアできてしまう場合が多いようです(飼い手の杜撰さもありましょうが、佐倉のマロンなどは、試験紙が真っ赤でも、平気な顔をして餌を食べていたりするもんですから・・・)。しかも、ザリガニ飼育では、超低濃度であるとはいえ、「海水混和」が日常的に行われますから、濾過バクテリアの定着ばかりに気をとられるのは、あまり好ましいことではありません。もちろん、濾過バクテリアは必要な存在ですし、なくてもいいというわけではないのですが、基本的な水質維持は「換水」にあると考えた方がよいでしょう。
むしろ、気をつけなければならないのは、前述した「重金属」の中和で、特に新品セットでの場合は注意が必要です。これで個体がダメージを負った場合のキツさは、亜硝酸障害の比ではありません。ですから、個体導入前に、アクアセイフないしは麦飯石溶液などを投入し、水を調えておくことが重要でしょう。麦飯石溶液は、これ以外にも様々な効力がありますし、ユーアスタクス系諸種を除けば投入による障害も特に確認されていませんから、先ほど述べました通り、意外と役立つアイテムかも知れません。これが完了すれば、いよいよ個体導入です。
日々のメンテナンス、ここには気をつけて!
個体を導入し、無事定着してくれれば、キーパー側も「まずはひと安心」です。あとは、コンディションの維持に努めながら飼育を続けて行くのですが、最後に、ここで気をつけるべきポイントをいくつか挙げておきましょう。
底砂はきれいに! でも、むやみにならさない
ザリガニの場合、換水時に最も留意しなければならないのが「底砂」です。喰い散らかしがひどい上に流木までかじるザリガニは、底砂をかなり汚します。しかも、常に彼らはそこに接して生きているので、底砂の状態が悪くなると、その影響をダイレクトに受けてしまうわけです。ですから、換水は「単に水を換える」というより、「底砂の汚れを除去する」くらいの感覚でいた方がよいでしょう。その面で、除去ホースは必需品です。
ただ、この時に気をつけなければならないのが「底砂を不必要にならさない」ということ。彼らは行動スペースであれ待避スペースであれ、自分の気に入ったように「造成」してしまいます。時には、待避スペースの入口を、自ら塞いでしまうことさえあるのです。こうなると、見栄えの悪さも手伝ってか、ついついこちらも「再造成」したくなってしまうのですが、これは、決して好ましいことではありません。というのも、元々「底層の形を自ら作る」というのは、彼らの持って生まれた習性ですし、入口を塞いでしまうのも、彼らがそこを「自分のスペース」として認識しているからなのです。ですから、これをむやみにならしてしまいますと、彼らにとってのストレス要因になるばかりでなく、せっかく作った待避スペースに寄りつかなくなる危険性があります。また、「ここまで掘られてしまうと、底面濾過能力が落ちてしまう」という場合ならば、それは「その個体自体が底面濾過システムに適応しない」ということですから、濾過システム自体を変更するのが常道です。
意外と有効な「流木ゴシゴシ!」
前述の通り、ザリガニは流木をかじります。その「好み加減」は個体によって差がありますが、好きな個体になると、瞬く間に「テカテカ」になり、半年から1年で食べきってしまうことさえあります。
流木を使う際に気をつけるのは、表面を常に綺麗にしておくことでしょう。一般的に、藻や細かいゴミなどが付着していると、どうも嫌なようで、かじり方も鈍くなる場合が多いようです。よく「うちの個体は、全然流木をかじりません」というので見せていただくと、塵まみれで寄りつきそうにない流木だった・・・などというケースも、少なからずありました。
流木は、投入時にきちんと洗っておくことは当然ですが、投入後も、数カ月に一度は取り出してやり、タワシなどでゴシゴシ洗ってやるとよいでしょう。喰い・・・ならぬ「かじり」が全然違ってきます。長期外出などを含め、いざという時に、流木は非常に役立つ「耐久食」ですので、日ごろから「喜んでかじることができる」状態にしておくことが大切です。
海水混和の際に気をつけるポイント
海水混和については、あくまで民間のキーパーたちが、その経験に基づいて編み出した飼育技法です。ですから、「これくらいの混和が望ましい」という学術的裏付けもなく、混和量や方法も、キーパーによって差があるのは当然です。ただ、気をつけなければいけないという点で共通しているのが、「鮮度を保つ」ことと「混和量を一定させる」ということでしょう。
まず、「鮮度」についてですが、常に新鮮かつ清澄な海水を入手できる環境でなければ、海水をダイレクトに使うことは避けるべきです。月に1度、海釣りなどに出掛けた時に汲みおいた水をチビチビと・・・というパターンはお薦めできません。海水が劣化することはもちろん、現実に「海水中の何が効力を発揮しているかが突き止められていない」という問題がある以上、安定していない海水の使用は、かえってマイナスになる危険性があるからです。その点、安心できるのが人工海水で、鮮度の心配もない上に量も自由自在ですから、こちらの使用が主となるのではないでしょうか?
次に「混和量の一定」についてですが、自分なりに「規定量」を決めておき、換水時には、その量に見合った分だけ再投入すればよいと思います。ここらが常に目分量ですと、知らず知らずのうちに飼育水の塩分濃度が上がってしまうこともあり、決して好ましいことではありません。
ちなみに、佐倉の場合では、120センチ水槽でコップ10杯(単位が「cc」でなく「コップ」であるところが、非常に怪しげなのですが・・・)を規定量とし、1/4換水でコップ2杯半、1/2換水でコップ5杯・・・というように調整しています。
おわりに
以上、それぞれの項目について、触れてみました。ザリガニ飼育は、まだまだ「未開の分野」です。従って、今回取り上げた技法や手段は、必ずしも「完成された正しい方法」ではありません。ですから、これからも「新しい方法」や「禁じ手」が次々とわかってくることでしょう。ただ、これには「地道な飼育継続」がどうしても必要です。様々な方法での飼育を基に、みなさんで、よりよい飼育方法を見つけて行こうではありませんか。
