やはり野におけ蓮華草
J・シピン内野手(大洋ホエールズ)




 それに対する賛否についてはさておき「日本プロ野球界の盟主であり象徴といえば?」と聞かれれば、大抵の人が「ジャイアンツだ!」と答えることでしょう。ドラフトで巨人に指名されなくて悔し泣きた選手は数多くいても、指名されて悔し泣きした選手など、聞いたことありませんから・・・。そういう意味では、この球団は、他球団の選手からでさえ憧れられるような球団なのでありましょう。
 その昔、川崎の野に、それはそれは美しい蓮華草が咲いておりました。少々ヒゲっぽい、そしてちょっとワイルドな猛々しい蓮華草ではございましたが、川崎の野には、それがまた余計見事に映えました。人々は、その猛々しい姿を見て「ライオン丸」と名付け、愛でました。蓮華草は、その愛に応え、川崎の野に、大きな大きな花を、何度も何度も咲かせました。
 何年か経つうちに、常々、その大きな花を見ていた東京の紳士が、どうしてもその蓮華草を欲しくなりました。紳士は、元よりお金持ちでありましたから、金に糸目をつけるはずもありません。川崎の人々が、その蓮華草の魅力をちょっと忘れかけたと思いきや、さっとお金を払って、その蓮華草を東京へ持ち帰ってしまったのです。
 紳士は、東京に持って帰ると、それはそれは綺麗で立派な花瓶を用意し、そこに蓮華草を挿しました。そして、広くて豪華な部屋に、同じ豪華な装飾物と一緒に飾りました。
 蓮華草は、確かに美しいものでした。しかし、きらびやかな調度品の中にあっては、少々不釣り合いでもありました。紳士は、周りに合わせようと、蓮華草のヒゲをすべて抜き、そして姿勢をグッと直しました。「これで、周りとピッタリ合った、美しい飾りになるぞ!」と・・・。
 しかし、蓮華草は、みるみるうちにその輝きを失い、急速にしぼんでいきました。川崎の野では大きく開いた花も、めったに開いて見せなくなりました。輝きを失った花など、ただの雑草に過ぎません。蓮華草は、まるで用済みのゴミのように捨てられ、忘れられて行きました。
「やはり野におけ蓮華草」・・・。大洋時代、あまりにも輝きすぎたがゆえに、巨人時代が余計哀れに見えたのは、私だけではないはずです。やはり彼にはヒゲと長髪! そして、オレンジと緑の鮮やかなユニフォームに、川崎球場のちょっと霞んだ空が必要だったのでありましょう。



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