究極の「晴れオトコ」
クロマティ外野手(読売ジャイアンツ)




 どちらかというと「不言実行」「沈黙は金なり」を尊ぶ日本人は、感情をあらわにしたり、大げさなアクションを好まない傾向にあります。だから、プロ野球の世界でも、派手にガッツポーズを決めたり、ヒーローインタビューでヘラヘラしたりすると、もう大変! その日のプロ野球ニュースに居並ぶ老評論家たちは、これまた予想通りの「苦い顔」になってしまうわけです。今では、その流れもだいぶ変わり、こうした選手たちが、そうしたアクションだけで嫌われることはなくなりました(当時、散々叩かれた中畑や加藤博一が評論家になってますものね・・・)が、ひと昔までは、やはり「野球たるもの、黙々と、粛々と勝負するもの」というのが常識だったのです
。  そんな中、「球界の紳士たる」球団に登場したのが、このベースボール・キッズ! 肌の色とは正反対の明るさは、後楽園球場の外野ド真ん中に、いつも陣取っていました。老評論家がしかめっ面をしそうなバッティング・フォームに、烈火のごとく怒り出しそうなバブル・ガム・・・。全試合・全国中継が基本の巨人戦でも、試合の途中でも、プゥワーッとふくらましてしまうモンですから、放送席の「オジサン連中」も、いいコメントをしようはずがありません。そして、お茶の間の「老野球ファン」たちも、果たして同じような目で、彼を見ていたのでありました。「張本の方が、まだよかった」と・・・。
 しかし、子どもたちにとって、それは少し違いました。キョロッとした目に、きらっと光る白い歯・・・。時々膨らむフーセンは格好良かったし、腰が折れそうな姿勢から繰り出すホームランや、1塁を回ったあたりで必ずやってくれる、ちょっと前かがみなガッツポーズは、とてつもなく「爽快」なものだったのです。そして、あのバンザイ・・・。
 後楽園球場のライトスタンドは、どんなに試合が長引いても、巨人が勝っている限り、彼が一発打っている限り、観客は帰ろうとしませんでした。そりゃあそうですよ、彼と一緒に、バンザイしたいですもの・・・。東京の夜空にこだまする「バンザイ、バンザイ」は、巨人ファンにとっては最高に嬉しく、アンチ巨人の観客にとっては最高に悔しい「定番セレモニー」だったのです。
 あれから10余年。後楽園球場の跡地には立派なホテルが建ち、巨人ナインも全く違った「紳士たち」になりました。でも、あれほど観客を沸かせ、そして晴れ晴れとさせてくれた選手がいるかというと、ちょっと首をかしげてしまいます。評論家がどうコキ下ろそうが、彼は、やっぱり巨人の「太陽」であり、観客にとって、最高の「晴れオトコ」だったのだと思います。
 だって、あの時ですら、観客はいつも歌っていましたもんね、「お前がう〜た〜なきゃ〜、明日は雨ぇ〜、クロマティ〜」って・・・。



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