大阪球場の「絵になる男」
香川 伸行捕手(南海ホークス)




 関西の球場に出掛けて驚いたことの一つに「自軍選手へのヤジ」というものがありました。試合中、ちょっとでも納得の行かないプレーがあれば、敵味方関係なく強烈なヤジが飛び交う・・・という独特な光景は、ヤジを敵軍選手にしか飛ばす風習のない関東の一野球ファンにとって、意外であり驚きでした。
 そんな関西での南海戦で、ひときわ観客からのヤジを浴びまくっていたのが、この香川捕手。浪商時代は、あの牛島投手とバッテリーを組み、その体格から「ドカベン」の異名を欲しいままにした彼ですが、その愛すべきキャラクターこそが、大阪のファンには格好の「標的」となったのです。走られてはヤジられ、空振りしてはヤジられ、挙げ句の果ては、ヒットを打っても一塁に止まったといってヤジられる・・・。そんなの、当時のホークスを代表する走り屋であった山口裕二でさえ無理なのに、香川のプレーだという、ただそれだけのことで、ヤジは最高潮に達するのです。
「おいコラァ〜、ドカぁ〜、そこで止まるからブタだ言われんじゃぁ〜。2塁に走らんかぁ、ボケェ〜」
これには、香川選手も1塁コーチも、苦笑いせざるを得ません。
 それなら、香川選手はそんなにもファンに嫌われていたのか・・・? といえば、とんでもない! 大阪球場最終試合後のセレモニーで、ファンが香川選手に送った声援は、あの門田選手に匹敵するほどの大きなものでした。大阪流の「キツいエール」は、誰もに愛された香川選手だからこそのものだったのでしょう。
「コラァ〜、ドカぁ〜、おんどりゃよぉ〜打たんのぉ〜!」
いつもの大阪球場に、いつものように響く香川選手へのヤジ・・・。門田選手のホームラン同様、大阪球場には欠くことのできない風景だったのでしょう。大阪球場の風景にまでなった愛すべき「息子」のプレーと、その一挙手一投足に送られる、暖かくてちょっとキツいヤジ・・・。香川選手は、普通とは違った意味で「絵になる男」だったのだと思います。



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